争いの序曲【PRELUDE】・第二話
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■シリーズシナリオ
担当:みそか
対応レベル:7〜11lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 79 C
参加人数:9人
サポート参加人数:2人
冒険期間:03月18日〜03月27日
リプレイ公開日:2005年03月28日
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●オープニング
<クロウレイ地方・ザーランド>
「正体不明の武装した集団が山賊退治に赴いた冒険者達に攻撃を加えました。さらには、その武装集団は我が領の村を一つ占拠し、その後も居坐り続けているとの報も入っています。領地の平和を望む者として、断じてその蛮行を許すわけにはいきません。即座に正規兵を派遣し‥‥」
「ちょっ、ちょっと待ってくれレクア殿。正規兵を派遣するのはもちろん構わん。だが落ちついて欲しい。ここは様子見という手も‥‥」
有無を言わさぬ厳しい口調で会議を進めるザーランド事実上の最高権力者、ザーラル・レクアに恐れおののくザーランドの有力者達。まだ証拠は掴めていないとはいえ、冒険者を襲った武装集団がベガンプの正規兵であることは疑う余地もない。
下手に刺激をすれば、それはすぐさま戦争への火種となってしまう。
「様子見? とても領地の安寧を願う者の発言とは思いかねますがウェイン殿」
「い、いや‥‥しかしですな。正規兵は‥‥‥‥そう、武装集団程度、私の私兵で何とかいたしましょう。なぁに、私の私兵は精鋭揃い。その姿を見ただけで、どこの馬の骨かも分からぬような敵は恐れおののきましょうぞ!」
誰が聞いても苦し紛れの口から出任せの言葉を話すウェインと呼ばれた男。だが、ザーラルは口元を僅かにほころばせると、信じられない一言を会議場に轟かせた。
「皆さん、ここはウェイン殿にお任せいたしましょうではありませんか。ウェイン殿に強力な私兵がいたとは初めて伺いましたが、それほどまでに自信がおありなら大丈夫でしょう。よろしくお願いいたしますよ、ウェイン殿。‥‥責任は重大ですが」
会議はザーラルに押し切られる形で閉幕を迎えた。
<冒険者ギルド>
「ザーランドとベガンプの境界近くにあるザーランド領の村が、正体不明の賊に占拠された。賊は凡そ二十五名。正規兵並の武器を持ち、また訓練を受けている模様。そこでこの度ザーランドは、領土の誇り高き男こと私ウェインの指揮のもと討伐隊を結成することを決意した。諸君らには名誉にも私の私兵となり、その賊を退治して欲しい。詳しくは追って私本人の口から話す‥‥だとよ。悪い事はいわねぇからやめておけ。冒険者は貴族の駒じゃねぇ。こんな厄介事に首を突っ込む必要はないぜ」
ギルド職員は大きな溜息を吐くと、依頼書を冒険者に見せるのであった。
「‥‥と、いうわけで賊退治において諸君らの指揮をとらせていただくウェインだ。よろしく頼む。今回、諸君らは一時的にではあるが誉れ高き我が私兵となり、賊退治に赴くことになる。目的は一つ! 話し合い、あるいは武力によって敵をザーランド領から追い出し、村を我等の手で統治することである。諸君らにはその作戦において前半部の根幹である部分、つまり『敵を暫くは帰ってこられないように痛めつけ、かつザーランド領から追い出す』までを担ってもらう。だがもちろん、このウェイン無用な争いは好まぬ。奴らと話し合い、奴らが黙ってザーランド領から引くのであれば、寛容の精神をもって奴らの罪を許す所存である! 交渉にはもちろん、諸君らの指揮をとるこのウェインが臨もう。‥‥だぁが、万が一、仮に万が一このウェインが体調不良で倒れた場合は諸君らに全てのことを任せようと思う。これは非常に重大な任務であるぞ! こころしてかかって欲しい!!」
駿馬でザーランドからキャメロットにやってきたウェインは、依頼に興味があってギルドにやってきた冒険者達を目の前に、長々と口上を述べる。まとめれば何てことはない、要するに冒険者に賊を追い出し、『本当の私兵』が来るまで村を守って欲しいということなのだ。
「以上だ、質問はないよな!? よろしい、それでは依頼出立当日にお会いしよう」
‥‥そして、当然のように彼は依頼当日謎の野党の集団に襲われ、激戦の末撃退したがその傷は深く指揮官の役割を辞退したのであった。
<クロウレイ地方・村>
「ロイド隊長よ、いつまで俺達はここにいればいいんだ。ここは明らかにザーランド領だろ? いつまでもこんなところにいたら正直死ぬぜ?」
「あと一ヶ月だ。敵の出方を待ち、対処を決める。それまではいかなる邪魔者が現れようとも、全力でそれを排除する。‥‥そういう御達しだ。気乗りはしないが命令なんだよカズ。大きな声では言えないが、正直情けないね。ベガンプの兵士であることも隠して村を占拠‥‥やってることは山賊と一緒じゃないか」
ロイドと呼ばれた金髪の男は苛立ちを隠すように爪を噛むと、椅子にもたれかかった。
●リプレイ本文
<詰め所近く>
「フィルト・ロードワード(ea0337)だ。ザーランドの有力者、ウェイン様からの書状を携えてきた。そちらの代表者のところまでご案内願いたい」
シュナイアス・ハーミル(ea1131)を携え村の入り口に堂々とやって来たフィルトは、見張り役の一人に案内を願う。慌てた表情で村の奥へと走っていく案内役。
「フィルト、交渉は外でやるのがいいんじゃないのか?」
「使者として来ている以上、それなりの手順は踏まねばならぬさ。それに交渉をするのに外というわけにもいくまい」
小声で耳打ちをするフィルト。冒険者であろうとも現在はウェインの私兵なのだ。それに‥‥
「俺はカズ、ここの副隊長だ。‥‥案内しよう」
先ほどよりは大柄な男が彼らの前に現れ、村の奥へと誘導する。
彼らの姿が小さくなるにつれて、村から離れた場所に‥‥ザーランド軍を示す旗が徐々にその姿を現していった。
<詰め所>
「人払いもすんだことだし、そろそろ君たちの持っている書状を読んでいただけないかな。‥‥まさか書状とかは全部嘘で、この僕を殺しにきたわけじゃないんだろ?」
机に両手を置いたまま微笑みかけるロイドの言葉を受けて、フィルトは書状を読み上げる。この村がザーランド領であること、即座の明け渡しを求めること、さもなくばウェインの私兵が来襲すること‥‥
「以上だ。どこでもお偉いさんは現場の事を考えないものだ」
書状を全て読み上げたとき、フィルトの口調が急に軟化する。そしておもむろにチェス盤を取り出すと、駒を置いていく。
「なるほど、あなたの考えはわかりました。それならば一局お相手いたしましょう」
‥‥戦争をひき起こしかねない交渉中に、奇妙なチェスの勝負が開始された。
「不利な状況でこの村に留まるのには理由があるのだろう。理不尽な命令が出ているのではないか?」
「理不尽さ加減ではそちらも同じだと思いますがね。あなた達『冒険者』がいかに修羅場を潜り抜けているといっても、今回ばかりは相手が悪いでしょう。‥‥そちらこそどのような理由があるので?」
こちらの考えを全て見透かしているような相手の言葉に、フィルトの駒を持つ手が僅かに固まる。
「俺達は本隊が到着する前に敵を排除するように命じられている。もっとも、その本隊とやらがいつ到着するかわからないんだがな。そこで提案がある。この村の近くに仲間が旗を掲げて待機している。遠目から見れば軍隊に見えなくもないだろう。三時間後には数が揃うはずだ。四倍の兵士に囲まれたとなれば撤退の理由にはなるだろう」
「つまり僕に一芝居打てというわけですか。確かに大きな声では言えませんが一芝居打つことにこちらはやぶさかではありません。‥‥ですが、四倍の兵士に囲まれたからとはいって、撤退するわけにはいかないのですよ。我々がどうして村の中に溶け込むように布陣を張っているかお分かりですか?」
ロイドの言葉で全てを察し、思わず剣の柄に手をかけるシュナイアス。片手でそれを制するフィルト。
「確かにチェスとは戦いに似ています。ですが私たちとあなた達との立場の違いは明白です。あなた達がチェスに興じる打ち手ならば、私達は命じるままに囮も引き受ける駒なのです。兵士(ポーン)が取られても騎士(ルーク)を取れるのなら、兵士は進んで敵陣の中に進まねばならないのです」
「‥‥敵陣の中に突っ込む兵士となり、お前はそれで満足なのか?」
盤の上でめまぐるしく動く駒。兵士の多くは何か大規模な作戦のために囮となり、打ち手の気分一つであっさりと犠牲になっていく。
「不満ですよ。ですが、チェスの通り兵士は退くことができないのです。ただ前に進み‥‥戦果を上げて奇跡の生還を成し遂げなければね」
「退く気はないということか。不足ならここで俺がお前と一騎打ちをして‥‥」
盤上で、みるみる内に不利な情勢に追い込まれるフィール。彼は王(キング)を前線に進め、相手の攻撃を誘発する。
「既に一騎打ちで決着がつく段階ではないのですよ」
だが、それに応じぬロイド。絡め取るように、ゆっくりと確実に勝利をもぎ取ろうとする。
「最初から‥‥無理だったというのか」
「‥‥あるいは、あなた方が我が領の村を占拠――住むだけでもしてくれたのなら、兵士は別の盤に移ることもできたのでしょうけどね。‥‥‥‥今となっては遅い話です。――――チェックメイト、勝負ありました。どうぞ御引取り下さい」
チェス‥‥そして交渉の敗北に、拳を握り締めるフィルト。そして勝利したはずのロイドも‥‥その表情は悲壮感に満ちていた。
この瞬間、交渉は両社敗北という結果をもって終わったのだ。
<村近郊>
「すまない‥‥交渉は失敗した」
うなだれるフィルト。相手は交渉に訪れた彼らを丁重に村の外まで案内すると、一礼をして再び村の中に消えていった。
「村の中を少しだけ見て回りましたけど‥‥隙のない警備だと思います。二十五名という情報ですが、実際にはもっといるかもしれません」
ライラック・ラウドラーク(ea0123)が製作した旗が風に揺られる中、偵察してきた村の中の様子を語るアシュレー・ウォルサム(ea0244)。巡回の頻度、効率性も山賊のそれとは違い、隙がないように感じられた。
「どうする、まだ罠をつくっとくか? 相手が攻めてくれば‥‥」
「‥‥いや、相手の指揮官は馬鹿じゃない。こっちの陣地に突っ込むなんてことはしないだろう」
ライラックからの質問を、先程フィルトの横で見ていたチェスを思い浮かべながら遮るシュナイアス。無理に突進すれば手痛い打撃を受ける‥‥それが理解できていないほど愚かな指揮官とはとても思えない。
「それで、結局どうするのだ! このまま引き下がるわけではあるまい!」
「‥‥当たり前だ‥‥‥‥」
手詰まりとなった状況に、次なる一手を求めるリュウガ・ダグラス(ea2578)。‥‥彼の言葉に反応したのは、搾り出すように低い声を出す空魔玲璽(ea0187)であった。
「既に報酬が出る保証無し。不名誉も知らん。村や村人の損傷以外気に掛けん。俺は行く」
「待ってください空魔さん! 私がいきます。ナイトとして一騎打ちを‥‥」
今にも村に突進しようとする玲璽を止めるシン・バルナック(ea1450)。旗の一つを掴み、自らが一騎打ちすることを提案する。
「フィルトのが断られて、どうしてお前のものを受けるんだ。‥‥こっちの誘いに乗らないなら、無理矢理にでも引きずり出すまでだ!」
「空魔さん! ‥‥ック!!」
シンの制止を振り切り、村へと単身突進していく玲璽。シンはギリリと噛み締め、旗を片手に玲璽の後を追う!
「お兄ちゃん!! 早く止めないと!」
「無理だよ、止めようがない。それに、もうああするしか手の打ちようがないしな。‥‥どうする、アシュレー」
「もちろんいくさ。貴族にとっては不名誉でも、冒険者にとって仲間を見捨てる事ほど不名誉な事はない!」
チカ・ニシムラ(ea1128)の悲痛な叫びも虚しく、玲璽の後を追って村へと走るロット・グレナム(ea0923)とアシュレー。もう戦いが始まったのか、村からは叫び声が聞こえてくる。
「どうする!? あたしたちも‥‥」
「行くな!! 正面から戦って勝てる相手なら最初からそうしている。こうなったら‥‥あいつらが敵をここに誘き出してくれるのを待つしかない」
ライラックを一喝するシュナイアス。このまま全員で突撃しては前回の二の舞以下でしかない。多少非情であろうとも、ここは仲間を信じて待つしかない。
「‥‥でも、お兄ちゃん達が‥‥‥‥」
「とても五体満足のまま誘き出せるとは思えんぞ!」
「その時は‥‥‥‥負け戦をしなければならないな」
チカとリュウガの声が響く中、フィルトの頭の中では慌しくチェスの駒が動き回る。負けを覚悟してでも、四つの駒を助け出すために必要な駒‥‥‥‥それは‥‥
<詰め所>
「ロイド隊長! 正体不明の奴ら突っ込んできたぞ! 一人は一騎打ちを要求している」
「‥‥来たか。どうやら冒険者を甘く見ていたようだね」
目を閉じたまま、カズの報告を受けるロイド。
「早く指揮をとってくれ。相手は少人数だ、全員であたればあっという間にケリがつく!」
「いや、一騎打ちを望むのなら受けよう。冒険者と正面から戦い、命を落とすことは余りにも愚かだ!」
剣を手にとるロイド。詰め所から出た彼が狙いを定めたのは‥‥数多くの兵士に囲まれようとも尚、闘志を燃やし続ける玲璽であった。
<村>
「親玉が出てきたか‥‥!」
「チェックをかけられたとあっては刃を取らざるを得ない。このロイド・ウオール、一人の男として貴殿に決闘を申し込もう。なんびとたりとも手出しは無用です」
村を駆け回っていた玲璽の側面から攻撃を仕掛けるロイド。玲璽は手に握り締めた砂を浴びせようとするが、攻撃を受け止めた際の衝撃で、砂は既に掌から零れ落ちていた。
「俺は狂拳のクリムゾン。そっちが誘いに乗るなら‥‥受ける!!」
砂埃をあげながら大地を踏みしめ、相手の攻撃を回避する玲璽。
「なるほど。実力に見合ったいい二つ名だ。‥‥それならば、この僕は狂犬のクリムゾンを倒した男として呼ばれよう!」
「吼えるな! お前を倒して‥‥全て終わらせる!!」
刃を持った二人は、互いに距離を測り合った。
「ここは冒険者がしゃしゃり出てくる場所じゃねぇんだよ! お前達は何様のつもりだ? お前たちに世界を変えられるほどの力があるのか? ねぇだろう!? 俺だって‥‥この俺だってこんな場所にいなきゃいけえねぇんだからよ!!」
「命を奪えば断ち切るだけの争いに、どうして参加するのです! ザーランドとベガンプの戦いが、どういう結末を生むかぐらいあなたにもわかっているでしょう!」
別の場所ではシンと副隊長であるカズの戦いが行われていた。とにかく全力で、巨大な斧を振り落とすという明確なスタイルの敵に、苦戦を強いられるシン。
「誓いの指輪の加護を‥‥ガッァ!」
何を思ったか、強烈なカズの一撃を正面から体に受けるシン。ミシミシと骨が砕ける音が彼の耳に届き、大きく弾き飛ばされる。勝利を確信し、一旦距離を置くカズ。
「アアアアアァァアア!」
だが、シンは何と両足を踏ん張り大地に踏みとどまると、そのまま一気にカズへと駆けていく。予期せぬ行動に、死に体となったカズ。敵の脚に突き立てられるシンの剣!
「‥‥どうして‥‥狙わなかったアァ!!」
胸を避け、脚に刺さった一撃は致命傷となり得なかった。シンは頭にカズの拳を受け、その場に倒れ‥‥意識を失った。勝利を貰った形となったカズは、部下にある程度までシンを治療するよう命じるのであった。
「こい‥‥つ‥‥」
「そろそろ終わりにしますか? あなたが僕に勝てるとは到底思えない。退くべきところで退くことも戦士の素質‥‥‥‥聞けませんか」
またもロイドをすりぬける玲璽の一撃。信じられないと彼自身呆然とする中、鈍い衝撃が彼にはしる。
「‥‥ッ、聞ける‥‥ものか。このまま‥‥一矢報いられずどうして帰れる!!」
起き上がり、再び繰り出される玲璽の拳。
だがそれはロイドに掠ることすらなく、ただ空気を裂いていく。戦いの最中に溜息をつき、玲璽へ刃を向ける敵。
「この瞬間を!! ‥‥お‥‥ぉ‥‥」
「チェックメイト。‥‥一騎打ちの約束です。治療の後、どうかお引取りを」
カウンターを狙った玲璽に襲い掛かったのは、先程とは比べ物にならぬほど強烈な一撃。既に傷だらけだった玲璽はその一撃を受けきることができず‥‥意識を根こそぎもっていかれた。
‥‥冒険者達には、ただキャメロットに帰還するしか選択肢は残されていなかった。
ザーランド有力者会議に正規軍派遣の議案があがったのは、ウェイン敗走の情報が入り、すぐのことであった。