未来への縮図【第三話】

■シリーズシナリオ


担当:みそか

対応レベル:9〜15lv

難易度:易しい

成功報酬:7 G 56 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月18日〜11月27日

リプレイ公開日:2005年11月30日

●オープニング

 ジーフリドは戦いの中で二倍にも及ぶベガンプ軍と最後まで勇敢に戦い、命を落とした。
 ザーランドの実質的最高権力者であるザーラル・レクアは盟友であるジーフリドの危機を知ってすぐさま『剣皇』クラックへと援軍の指示を出したがそれは不幸なことに間一髪間に合わなかったのだ。
 友の死を知り、悲しむレクアはジーフリドへの哀悼の意を表明すると同時に、友の命を奪いあまつさえ民間人のいる町の破壊すらいとわないベガンプへ復讐の怒りを燃やした。
 驚くべきスピードでクラックの部隊は増強され、ザーランドに好意的な領主のもとへと派遣される。‥‥目的は決まっている。ベガンプへと報復を行うために!!

<クロウレイ地方・ザーランド>
「既にベガンプはコイルやアーノルドを始めとする周辺領主との争いで力を削がれつつあります。もう少し時間を見れば、クラックと燕との二方面作戦とでベガンプを陥落させることも可能でありましょう」
「成る程。これで全ての歴史に終止符を打つことが可能なんだね」
 配下からの報告にレクアは満足げに微笑む。ベガンプとの過去‥‥それを清算する方法は大きく分けて三つあった。一つ、かつてのようにベガンプと手を取り合い、二大領として仲間意識を深め合うこと。‥‥だがこれは、手を取り合うという大前提から既に不可能なことであったのだ。手を取り合ったところで過激派の発言が止まるわけではないし、いつ相手に寝首をかかれるかという恐怖の中で奇妙なバランスを保ち続けなければならない。
 二つ目はベガンプを完全に征服し、ザーランドの下部組織としての位置付けを徹底することである。だが、レクアの歴史観から言えば――――かつての二つの領の間がそうであったように――――征服の恨みが解消されることはほとんど不可能にも思える。虐げられた人々はその積年の恨みを、それこそ何千年でも保持し続け、じっと土の中で――これは比喩ではなく――再起の時を図っているのだ。
 そうなると、彼がとるべき選択肢は残る一つになる。それは‥‥
「レクア様、アグラヴェイン様がお越しになられました」
「おお、そうか。あとで挨拶に向かおう。まずは長旅の疲れをとっていただくのだ。くれぐれも丁重にお願いするよ」

<町>
 廃墟と化していた町はめまぐるしい速度で復興していっていた。ザーランドからの支援のもとに馬車はめまぐるしい台数が行き交い、物資を運んでいる。危険を察知して町から脱出していた住民たちも皆我が家へと帰還し、そう遠くないであろう復興への道筋を想像する。
 というのも、今の復興のスピードはかつての比ではなく、町を見渡したところで数日前まではあれほど散乱していた戦死者の死骸を見ることすらできず、かつて骸があった場所には住居の土台が出来上がり、骸はジーフリドの石像の設置予定地へ埋葬されている。
 戦いを忘れることはできなくても、忘れようと努力することはできる。特に他の町へと避難し、戦いを眼前に捉えていないのであれば‥‥‥‥それは尚更のことであろう。

<貧民街・地下>
 ‥‥何かを保存したり、隠したりするのに地下ほど優れている場所はない。
 気温は一年を通してさほど変わることもないし、何より人の目から大切なものを‥‥計画を、隠すことができるからだ。
「‥‥本当に、そんなことができるだか?」
「ああ、もちろんだとも。ユー達もうんざりしていないかい? この領主の意向で貧しい者の首が飛ぶ現状に。今は復興しているが、それもいつまで続くかわかったものではない。そう、自分達で、自分たちだけで、この街に残った者『だけ』で統治を行わない限りね」
 頻繁に行き交う馬車の中に一台くらい別のものを積んだものを混ぜたところで気付かれはしない。そう、それが‥‥‥‥例え武器を満載した馬車であろうとも。
「ここだけではない。他の幾つかの町や村にも手を回してある。君達が一斉に蜂起すれば、ザーランドとはいえ対処することはできないのだよ」
「‥‥それはわかった。‥‥だが、あんたはなんでこんなことをしてくれるのか?」
 震えながら目の前屈強な男の説明を聞く住民。当然と言えば当然、しかし核心に限りなく近い質問を受けて、屈強な男は‥‥‥‥
「なぁに。ミーもザーランドに恨みを持っているだけの話だよ」
 微笑みながら、その質問の内容をはぐらかしたのであった。

<冒険者ギルド>
 諸君たちに前回行ってもらった街では急速に復興が進んでいる。
 こちらとしても戦いに巻き込んでしまった謝罪の意から、できるだけ早急に復興を行いたいのだが、いかんせん人手が足りなくて困っている。そこで諸君らには街に赴いてもらい、復興作業の手伝いや戦いにおいて疲れきった住民の心のケアをお願いしたい。
 よろしくお願いする。

●今回の参加者

 ea0285 サラ・ディアーナ(28歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea0353 パトリアンナ・ケイジ(51歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea1003 名無野 如月(38歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1501 シュナ・アキリ(30歳・♀・レンジャー・人間・インドゥーラ国)
 ea2578 リュウガ・ダグラス(29歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3982 レイリー・ロンド(29歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea5352 デュノン・ヴォルフガリオ(28歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

●序幕
「ふうぅうう!!!」
 ‥‥リ・ル(ea3888)は、顔を真っ赤にしながら石材を持ち上げ、自分の頭の高さほどもある石材の上へとドシンと置く。接着剤となる粘土がぐにゃりと広がり、小刻みな揺れが彼の身体に伝わった。
「リルさん! ここは粘土が乾くまで少し待たなければならないようです。このあたりで昼食にしましょう!」
「‥‥ああ、もうそんな時間か」
 リュウガ・ダグラス(ea2578)に促され、作業を中断して流れ出た汗を拭うリル。もう雪が舞う季節であるが、重労働で高揚した彼らの体からは湯気が湧き出していた。
「いい汗かいてるねぇお二人さん。その調子で一週間頼むよ」
 名無野如月(ea1003)から差し出された水を飲み干すと、デュノン・ヴォルフガリオ(ea5352)が焼いたパンに噛り付くリルとリュウガ。
「一週間もこればっかりやっていたら腰にガタがくるって。如月も少しは代わってくれよ」
「ちょっと勘弁だな。私はどちらかというと男を働かせる方が身に合ってる」
 リルに舌を見せながら悪戯っぽい微笑を見せる如月。何か別の人間を思い出したのかリュウガは深い溜息を吐き、リルは彼の肩を2、3回軽く叩いてみせた。
「HAHAHA!! 落ち込んじゃいけないよリュウガの旦那。あたしでよければいつでもウェルカムってね」
「‥‥‥‥‥‥遠慮しておく!」
 頭を下げていたリュウガの隣に座り、何故か片言のイギリス語で話し掛けるパトリアンナ・ケイジ(ea0353)。彼の気を紛らわせるための冗談であることは容易に想像できたが、万が一の可能性を考えてリュウガはいつものように語尾を強める。
「なにやら賑やかですね。リルさん、なんとか兵士を説得してこちらにもほんの少しだけですが物資をまわしてもらえるようにしておきましたよ。‥‥パトリアンナさんもお疲れ様です」
「ご苦労様だねレイリーの旦那。なぁに、こっちは心配ないとして幸せな旦那には関係のないような話をしていたのさ」
 このままではパンを焼くこともままならないと、富裕層編重であった物資の流れを変えるべく交渉に赴いていたレイリー・ロンド(ea3982)と、主に兵士達の動向を探っていたパトリアンナ。
 やや不満が残るレイリーの表情と、顔面をくしゃくしゃにするパトリアンナとを見比べれば、察しの良いものであれば成果の違いは容易に想像することができる。
「二人ともお疲れ様だな。食事をとったらまたよろしく頼む」
「ええ。苦しい状況ですが、裏切りがない分前に比べればよっぽど気が楽ですからね」
 リルからのねぎらいの言葉に、苦笑いを浮かべながら水を飲み干すレイリー。物資の流れに偏りはあるが、敵や味方から攻められない分前よりは比べ物にならないほど状況は優れているといっても差し支えない。
 過去の反省から警戒を強めていた冒険者達であったが、ここにきてようやくほんの少しだけ肩の力を抜くことができる。
「時間が空いているわけではないが、これから休憩代わりに治療にあたっている方のところへ行ってきますよ! デュノンからパンをもらってくる!」
 作業と巡回の繰り返しから少しは解放されるかと立ち上がり、ひたすらパンを焼いているデュノンのもとへと歩いていくリュウガ。残る冒険者達は彼の後姿を見送りながら手を振り、残り少なくなったパンに噛り付きながら心の中に残る一抹の不安をかき消そうとしていた。

<旧冒険者詰め所>
 活気に溢れる場所もあるが、たった一週間程度で消えるはずもない傷跡も残るべきところには残っている。特に人の傷‥‥それが肉体的なものであれ、精神的なものであれ。
「‥‥これで傷口は塞がりました。しばらく痛むかもしれませんが、少したてば慣れますし、痛みもなくなりますよ」
 腐りかけていた傷口を切り捨て、リカバーと包帯とで可能な限りの治療を施すサラ・ディアーナ(ea0285)。激痛に顔をゆがめる患者が見たものは血塗れた彼女の微笑であったが、それでもその笑顔はケンイチ・ヤマモト(ea0760)が奏でる音楽と相まって一度は生きることすら諦めていたその患者に再び希望の光を灯す。
「誰だ? ‥‥って、リュウガかよ。ポーションでも持ってきてくれたのか?」
「それはレイリーさんがなんとかしてくれるはずだ。もう少しだけ待ってほしい! だが、ポーションではないが少しだけいいものを持ってきたぞ!」
 町に到着した当初、自暴自棄となって暴れる病人や伝染病を恐れて病人を闇討ちしようとしていた者がいたため、見張りをしつつ、内と外の両方を守ることとなったシュナ・アキリ(ea1501)。
 建築資材よりも確実に足りていない傷薬の要求にリュウガは目を伏せるが、ほんの少しだけ口元を緩ませて彼女へパンを差し出した。シュナは『ボキボキ』と首を鳴らすと、差し出されたパンに噛り付き、そっと彼に耳打ちする。
「どうやら何人かがザーランドの屯所を襲おうとしているらしい。サラが説得しているけど、一応そっちでも注意してくれよ」
 目を見開いたリュウガだが、表情まで変えることはない。食べるものさえままならないこの状況なのだ。まともな武器など持っているはずもないし、騒ぎ立てたところで状況を悪化させることにしかならない。
「‥‥大丈夫ですよ皆さん。もう少しだけたてば、私達がなんとかしてみせますから」
 苦しむ患者や貧民へと届くサラの声。計画が練られたわけではない、まして成功するはずもない反乱。‥‥‥‥それが瓦解し、奏でられる音楽へと吸い込まれていくのに、さして時間はかからなかった。

●幕間其の一
 奴らに世話になったことは間違いない。
 だが、それとこれとで話は別だ。やつらがザーランドに反旗を翻すつもりがないというのなら‥‥自分達の土地を手に入れるために‥‥‥‥同時に、奴らを叩かなければならない!
「他の村からの援軍も来た。全員武器さ持ったな? 臆病者には構ってらんねぇ。一気に屯所、それから詰め所へ進んで、奴らを片付けるんだぁ!!」
 小さく、しかし夜中に響き渡る声。慣れぬ武器を持っているせいか、大半の者は武器を‥‥人を殺せる力を手に入れたことに怯えを隠し切れない。予定の半分にも満たないこの町の参加者も、それが影響しているのか‥‥。
「そこまでです皆さん。今ならまだ間に合います。武器を置いて、家に‥‥大切な人が待つ場所へ帰ってください」
『!!!!』
 目の前に立ち塞がった冒険者の一行。そして響いたクレリックの‥‥自分達の血によって汚れた服を身に纏ったクレリックの声に、住民達はただ立ち尽くすことしかできなかった。

●幕間其の二
「ハハ! 我らに酒の差し入れとは気がきているな。だが、物資の配分とこれとは無関係だぞ」
「はい。それはもちろんですよ。昼間は私も無理を言ってすいませんでした。これはそのせめてもの謝罪の気持ちです」
 突然レイリーから差し出された酒樽に、町を警護するザーランド兵は舌鼓を打つ。どうせもう少しすればここも戦場になるかもしれないのだ。息を抜ける時に抜いていたほうがいいに決まっている。
「‥‥私を甘く見るなよ。そんなうまい話があるわけがあるまい? 何が望みだ? 言ってみろ」
「はは、これはかなわない。‥‥いや、実はちょっと俺達も裏町の方でも飲み会をするんだが、奴らは品が悪いから騒ぐことになるかもしれないんで‥‥どうか、お目こぼしをお願いしたいのだが」
「なんだ、そんなことか。構わん! 冒険者とて依頼中に息抜きくらい必要であろう!」
 酒に任せて笑い飛ばすザーランド兵。そう、騒ぎは少しで収まるはずだ。‥‥‥‥最悪の事態さえ起こらなければ。
 レイリーとデュノンは祈るように天井を眺めると、次はどうやって言いくるめようかと思考を張り巡らせるのであった。

●本幕
<街路>
「馬鹿なことはやめるんだね。あんたらが誰にそそのかされたのか知らないけど、命ってものはもう少し大切にするもんだよ!」
「今ならまだ間に合う。武器を捨ててこの場から去れ!」
 槍を構えるパトリアンナと如月。患者から漏れた情報は、冒険者達の間へと瞬く間に広がった。武器を見れば分かる背後の存在に振り回されないためにも‥‥例え犠牲を払ったとしてでもここから先に進ませるわけにはいかない!
「恐れる‥‥ことはねぇ! こいつらはたったの五人だぁ!」
 声を隠すための音色が両陣の間に大音響で流れる中、住民は震えながらも刃を振り上げる。武器さえ‥‥力さえ持てば、自分達は強者に虐げられることはない!!
「リオン、どこかに隠れていろ。これから‥‥少しばかり厄介な相手と戦ってくる!」
 刃を鞘から抜くことなく、ずぶの素人と向き合うリュウガ。自らの恐怖心をかき消すために繰り出された直線的な敵の一撃は‥‥‥‥歴戦の冒険者である彼らに命中するはずもなかった。
 したたかに打ち付けられた剣は、刀は、槍は、魔法は‥‥‥‥勇気ある数名の襲撃者から、あっという間に意識を刈り取っていった。

<町近郊>
「失敗のようですね。奴らがここまで馬鹿だとは思っても見ませんでした。運がよければ、一週間くらいは自分達の領がもてたかもしれないのに‥‥ねぇ、ユーたちも残念だとは思いませんか?」
「鬱陶しいな‥‥煩わしいよお前等。あたしはてめぇ見たいな奴は大嫌いだね!」
「残念? 何が残念だって言うんだ!! 弱者同士を戦わせて、何が面白い!?」
 騒ぎの起きぬ町を正面と背とに、睨み合うギルと冒険者二名!
 情報漏洩により根城を突き止められたにも関わらず、ギルの表情は曇るどころか輝きすらまして見える。
「OH! 別に面白いわけじゃないですよ。ただ、仕事なんですから仕方ないですよ。それに関しては、そちらも同じだと思いますがNE!!」
 返答代わりに馬上から槍を突き出すギル! シュナが投擲したダーツは致命傷とはならず、その一撃はリルの右肩肉を巨大な肉片へと変貌させる。
「HAHAHA! 恐れは理性を超越する。恨みは命をも凌駕する! ミーがたきつければ、暴動を再起させることなど‥‥少なくとも『ザーランド兵に殲滅させる』ことなど容易!」
「一つだけ分かったことがある。‥‥てめぇはこの世界にいらねぇ。ここで死ぬべき人間だあァァアア!!」
 激昂と共にリルの両足が大地を蹴りつけ、褐色の身体を宙へと浮き上がらせる! 言うことを聞かない右腕の武器は捨て、左手の日本刀を前面へ押し出す!!
「HAHA! 笑わせるな素人の冒険者ァ! 右腕一本失って、この『俺』に向かってこようなんて呆れを通り越して腹が立つんだヨォ!!」
「オオオォオオオアアアア!!」
 突き出されたギルの槍はリーチの差を生かしてリルの左腕に突き刺さり、日本刀を大地へと落下させる。全身にはしる激痛にリルは絶叫し、ギルは一気に止めを刺そうと槍をリルの体から引き抜く!
「これで‥‥ぃ!!」
「アアアァアアァアア!!!!」
 絶叫は怒号へと変貌を遂げ、捨てられたはずの太い右腕がギルの顔面へとめりこむ! 顔面をおさえることなく、リルを弾き飛ばすギル! 弾き飛ばされる前に両腕を突き出し、抱きつくようにして馬上から敵を引きずり下ろすリル!
「チクショゥが! チクショウ、チクショウゥウウ! 賞金首を、ナメルナ素人ガァア!!!」
「へへ‥‥てめぇに武器なんて使う必要は‥‥っ!」
 偶然鮮血が目に入り、罵声を浴びせながら目を擦るギルと、両腕の機能を失い次なる一撃が放てないリル。ギルは強引に組み付きを外すと、落下した槍を拾おうと駆け出し‥‥これまでの人生で味わったこともないような激痛と怒りとに任せて、左手に握った槍一本でシュナを大きく弾き飛ばす!!
「どう‥‥だ!? 見えた‥‥か真っ赤な町が!? ‥‥もっとも、片方の目はもぅみえねぇんだ‥‥ろうけどなぁ!!」
 脇腹の骨が折れたのか、苦しげに叫ぶシュナ。ギルの左目に突き刺さっていたナイフが眼球を携えてボトリと落ち、その持ち主であった彼は‥‥‥‥絶叫しながらも馬に乗り、逃走していった。

「‥‥さすがに‥‥騒ぎすぎたか? 軍が来るぜ。‥‥ああ、そういえば‥‥あいつ‥‥賞金首だったんなら‥‥目を落とした‥‥だけでも‥‥金が‥‥」
「だめだ。貧民の暴動が明るみになるし、戦争も起きる。あんなやつはこの世にいないほうがいいし‥‥事実いないんだ」
「おぃ。それじゃ、この傷はよ‥‥なんて‥‥言い訳‥‥」
 騒ぎを聞きつけてにわかに聞こえるザーランド軍の声。自らの傍らで苦しげに呟くシュナからの質問に、リルは彼女の髪を優しく撫でながら‥‥小さく‥‥呟いた。
「なぁに、ちょっとばかり派手な‥‥痴話喧嘩だよ」