【導きの章】聖都オレリアナ・動乱〜試練編

■シリーズシナリオ


担当:深空月さゆる

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月04日〜03月11日

リプレイ公開日:2009年03月13日

●オープニング

●標的
『デルタダート・ジーク』
 そう記された紙が、暗闇の中燃え上がる。それに火を放ったのは、半透明の羽を生やした、銀の長い髪、黒いドレス姿の妖精だった。それはひらりひらりと舞い踊り、落下していった。
 金髪縦ロール、丈の短い黒ドレスをまとう娘もまた妖精の傍にいる。不機嫌そうな表情で睨んでいる。何枚もテーブルの上に散らばる札、その中の一枚を。
 鈍い音がした。鎖鎌を放ち、テーブルにつき立てたのだ。
 そこはあの方達と、手を打っておきましたわ――と妖精が告げた。
 刃物で切り裂かれたその札には、掠れた文字で――書かれていた。
 聖都オレリアナ、と。


●奪われた宝
 その場にいた精霊は、消える直前になって――。自分や仲間を殺し、宝を奪い神聖な山を荒らしそうとしている『犯人』が誰で在るのかに――気づいてしまった。
 けれど、どうやって伝える事ができるだろう。精霊は葛藤した。山にいる他の仲間達は憤るだろう。守護者らが無残に殺され、その相手が人間だと知ったら。でも違う。伝えたい言葉がある、でもどうやって。身を引き裂かれるような痛みの中、少女の姿をした精霊を深い悲しみが襲った。
 永い時をかけて築いてきた絆が、絶たれようとしていることが、わかったのだ。
 ―――崩壊の時が確実に、近づいてきていた。 


●王都にて
 占い師ロゼ・ブラッファルド、そして相棒クインとコロナドラゴンのパピィが、イムレウス子爵領の怪異を止める為に行動を始めて暫く過ぎた。
 先日彼女と縁のある貴族ジーク家の当主、デルタダートの暮らす町で羽に髑髏の模様を持つ蠅の大軍が疫病を広めるという事件があり。彼の恋人がそれらを町に放った首謀者と疑われ、窮地に立たされていたが。冒険者らの助力もあり、無実であることが証明された。
 そして彼等は今現在、王都メイディアへと戻ってきている。冒険者らの助力を受けていない時に、二人が子爵領にいれば、魔物の襲撃を受ける可能性が高い。その為、知人のウィザードが彼女らをメイディアの屋敷――マチルダ・カーレンハート邸へと呼び戻したのだ。

「例の、ルーの姿で悪さしてやがった魔物が、蠅を使い魔にしていた。ってことは何かを隠れ蓑に、あの子爵領にいるカオスの奴等はこれからも事件を起こすんじゃねぇの? 何かに罪を着せて、自分達が暗躍する為によ」
 壁に背を預けて考えを口にする黒髪の若者、クイン。タロットカードを整えてロゼが考え込む。
「そうだね。その可能性は高いと思う」
 扉がこんこん、と音を立てる。どうぞ、とロゼは声をかけた。ひょこ、と顔を出したのは波打つ赤い髪の緑のメイド服を着た娘。彼女らの友人でこの屋敷の主人、マチルダの弟子のミーア・エルランジェだ。
「失礼します〜。子爵領に潜入調査中の、エドワンドさん達から、シフール便が届きましたよ」
 彼女はそのシフール便――巻物をロゼへと手渡した。礼を言い、それを紐解き。ロゼは、二人に見えるよう広げて見せた。

 イムレウス子爵領にはティトル侯爵領との間に、横たわる山脈がある。そこには霊峰と呼ばれる場所があり、特にウィザード達の修練の地として知られているのだという。
 エドワンド・ブラッファルド。ロゼの義父は弟子のラスと共に。今【聖都オレリアナ】へと向かっていた。
 オレリアナで起きている怪異に関しては、簡潔にまとめると。以下のように書かれていた。

 聖都は人口数千人。そこで盗み、恐喝、傷害事件が多発していること。グレムリーらしき子鬼が多数街に入り込み、人の心を荒ませている可能性が高いこと。霊峰にある陽の祭壇、風の祠が破壊され、宝物が盗まれたらしく山の精霊達が荒らぶり街に降りて来て人を傷つけ始めている――ということを。
 その後、街では名の知れたウィザードや戦士達が、ほぼ同時期に次々変死を遂げたこと。人心は乱れ聖都の名が地に落ちようとしていると。
 街に姿を見せている者達の名も挙げられていた。鎌鼬、風神・雷神、烏天狗―――

「烏天狗ぅ? なんだよ、そいつは」
「霊峰を護る守護者だって・・・・」
「初めて聞いた。お前らは?」
 ロゼとミーアは揃って首を傾げる。
「ただ、子爵領の聖地には、土着の高位の精霊がいるって聴いた事があるかな」

 街に現れ出した彼らが求めているのは、宝物、そして罪人を差し出すこと。しかし犯人はいまだ見つかってはおらず、変死との関連があるかどうかも、明らかになっていない。祠と祭壇を破壊された彼らの怒りは凄まじく、それだけで済むかどうか怪しい事。さらに言うならば、街に広がる荒廃は傍目から見ても明らかで、堕落した精神を持つ人間は、彼らに見切りをつけられる可能性も高い。
 イムレウスの中で人と精霊を繋ぐ要の一つ。そこで戦でも起きよう物なら結果はおのずと予想がつく。子爵領に巣食うカオスの魔物を相手に共に、あの地にいる人々と精霊が共に闘う道が最悪、絶たれかねない。

「なんて書いてあんだよ?」
「エドとラス君が犯人を突き止め、宝物を取り戻し変死事件についても調べるって。それを山の精霊達に返す役目を、私達が。ただ返すだけでなく、あの都の人達と精霊の仲立ちとしてしろって書いてある」
「仲立ちって簡単に言うな、あいつ。エド達が犯人を見つけてお宝を取り戻せるなら。その後はこいつとスフィンクスが居れば、そこにいる精霊達と話はつけやすいんじゃないか?」
『きゃう?』
「でもね、クイン。精霊の怒りを収めるだけではきっとダメなの」
「‥‥どういう事だよ?」
「聖都の守りを固める為には、精霊達の協力が必要なの。住人皆が魔物と戦える訳じゃない。それだけ大きな街を護る為には、人の手だけではきっと難しいよ。・・・・ともかく、私達は霊峰の主に会いに行かなければならない。試練の道を通って」
「試練、ですか?」
「そう。中腹にある風の祠、さらにその先の陽の祭壇へ辿り着く間で、そこを訪れた者達は力を試される。ガーディアン達が行く手を塞ぎ、それを突破出来た者だけが主に逢う事が出来る――そう、エドが書いてきてる」
「エドの奴・・・・、何でそんなに詳しいんだよ」
「たぶん、お母さんと一緒に行ったことがあるの。お母さんは陽の精霊魔法の使い手だった。エドはお母さんが結婚する前、近衛騎士として仕えていたから、知ってるんだよ」


【成功条件】
●宝物を山の守護者、精霊達に返す。
●今後聖地が魔物の介入を受けないよう、霊峰の主に願い約束を取り付ける。
●山の中腹にある【風の祠】〜その先にある【陽の祭壇】、その間に現れる守護者達に力を試される。それに勝利する。

●今回の参加者

 ea1842 アマツ・オオトリ(31歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea9907 エイジス・レーヴァティン(33歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4199 ルエラ・ファールヴァルト(29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 ec4629 クロード・ラインラント(35歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec5159 村雨 紫狼(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文


 永い夜が明けて、ロゼとクイン達、そしてその試練に同行する5人の冒険者達が山へ繋がる門を今、潜った。都で起きている事が明らかになり、関与していた魔物が既に姿を消している現状。説得できる保障はない。それでも。
「頑張って精霊さんの誤解をとかないとね」
 エイジス・レーヴァティン(ea9907)が言う通り。努力を放棄するのは早すぎる、というのが皆の一致した考えだった。
 風の祠までの山道――一本道なので迂回することはできない。途中、ゼリー状の生物が身を隠しながらも近寄ってきたが、仲間の体力温存の為エイジスがその武器で率先して牽制し、退ける。大蟻もまたその長い足で器用に山の斜面を歩き近寄ってきたが、殺害はせず自ら引く程度のダメージを与え撃退していった。



「鎌鼬は、俺と紫狼と、ちびドラだったな」
「おぅよ! よーし、チーム・ヘタレーズ出撃ィ!! 」
 と村雨紫狼(ec5159)が言えば。
「いや、俺ヘタレじゃねぇし」
『僕も違うもん』
 冷静に突っ込むクインと、空中に浮かびながら鼻をぷひぷひ鳴らす子ドラが。ノリ悪ぃなっ! と叫ぶ紫狼。
 風の祠の名を冠するだけあって。その周囲一帯は、吹き荒れる強風のせいで、物悲しげな音を立てている。その後ろにある門の前に皆が立ち。

「試練に臨みます。―――見届け役たる精霊よ、この門を潜る許可を」
 ロゼは、少々口調を改めてそれを願う。
『人間の娘、今都の民と我々の間に何が起きているか知らぬ訳ではあるまい』
 響いたそれは――地を這うような、低い低い男性の声だった。
「知っています」
『風の祠を破壊し、陽の祭壇より宝物を奪う――、あれ程の力量の者どもが我欲に走るなど愚かなこと。夕刻――我ら山の精霊らが駆けつけるまでに強奪して獣を駆り逃亡した。計画的な手腕、真不愉快きわまり無き事。そうであろう?』
「貴方がたが憤るのは、・・・・仕方ないと思っています」
『ふむ。それでも尚進むと申すか、何故』
 憤り、嘲り、声からそれを読み取ったのか。
 ロゼが毅然と告げる。
「全ては、試練の終わりに」
『――通れ』
 
 ――試練開始の許可が下りた。



 仲間達の激励を受けて進み出た三人。近づいてくる旋風。舞い上がる砂埃の中、鎌鼬が凄まじい勢いで向かってくる。クインが植物で作られた大弓を構える。クインは直情的な性格に見えて冷静さも持つ。こういった戦場で集中力を途切れさせず戦えるのは射手として秀でた才だ。
「護る為に強くなれ――か、あのおっさん、簡単に言いやがる」
 引き絞り――放つ! 鎌鼬の体に突き刺さる銀の矢。動きを止め蹲る精霊。しかし他の傍らの二つの旋風は止まらない。紫狼とクインに、三日月状の真空の刃が向かう! 
 魔法防御効果のある防具で身を護っていても、効果の全てを防ぐ事など叶わず、その刃は肉を切り裂き二人の体から血が流れる。翻弄されている彼らを嘲るよう、笑い声が響き、再び刃が撃ち込まれる。
「いってーよ! て。わ、笑ってやがる〜〜。ムカつく! この鼬もどき」
「・・・・足を止めなきゃ話になんねぇな。ちびドラ、やるぞ!」
『いいよー!』
 鼻を膨らませ体を丸める。力を溜めているのだ。
「紫狼、その後はお前の見せ場だ。きめろよ?」
 直後吐き出された熱風の息。子供とはいえ威力は十分、一匹のトッドローリィが地に落ちるが、まだ戦う意思を見せて牙をむく。余波で熱気に包まれる中、紫狼が鎌鼬に斬りかかる!
「ふーん、高速何とかってのは使えねぇわけか」
 術の高速詠唱が使用できるなら、今まさに連続で打ち込まれている筈である。魔法抜きで向かってくる、牙と爪のみを武器とした鎌鼬であれば紫狼は互角以上に渡り合える。獰猛な様子で飛びかかってきた攻撃をすんでで避け、その胴へ武器を振りおろす。
「わりぃな、負けられねえんだ!」
 確かな手ごたえ、地にゴロゴロと転がった鎌鼬の輪郭がブレる。紫狼をジッと見た後、よろめきながらも大きく後方へ飛びのき、道を開けた。クインとちびドラもまた、時を同じくして残りの二匹退けた所だった。
 しかし、奥から三体の旋風が近づいてくる。
「げ、休む暇なしかよ!」
 紫狼が慌てて回復薬を取り出し。クインは傷を押えて鎌鼬を睨み、子ドラも嫌がる様子を見せる。さらに鎌鼬だけでなく、烏天狗の姿も確認できた。
 一体のペガサスが戦闘を終えたばかりの、彼らの前に舞い降りる。そしてその傍らに駆け寄る女騎士の凛とした声が響く。
「次は、我々がお相手致そう! ・・・・お前達は少し休んでいろ」
 アマツ・オオトリ(ea1842)とルエラ・ファールヴァルト(eb4199)が仲間を庇い立つ。傷ついた紫狼らに駆け寄る仲間達。素早く治療を開始するクロード・ラインラント(ec4629)。

「クイン、カッコ良かったよ! 紫狼さんもちびドラも皆凄かった」
「ロゼ、大げさ。煩いしって、抱きつくな! 痛い!」
「へっへへ〜〜、どんなもんよ。よーこたんもふーかたんも、応援ありがとうなー」
 しがみ付いてきた風精と陽精を撫でて。
 その背に乗っていた鎧騎士ルエラは、確認する。

「精霊の助力を借ります。よろしいですか」
 どこからともなく、是、と声が返ってきた。
 選手交代――である。



 ルエラは、ランプを擦る。現れたジニールに、短く命じる。
「風魔法から私達を守れ」
 その後、真空の刃は彼女らを傷つける事はなかった。ジニールが鉄壁の護りを見せているからだ。向かってくる守護者、息の合った連携にもひるまず。アマツは、居合い抜き――ポイントアタックとシュライクの合成技を繰り出し、ルエラもまた巧みに攻撃を仕掛けていく。ことごとく風魔法が封じられ彼らから感じられるのは苛立ちだ。それ以上に、明らかに各上の精霊を味方につける二人の騎士の登場に、鎌鼬も怯みがちだ。武人として歴戦を潜りぬけてきた二人相手にそれは致命的なものとなった。

 上空より舞い降りる五体の翼ある天狗の姿―――
「我らが助太刀する――連戦となるが構わぬな、人間よ」
「望むところ」
「構わぬ。元よりそのつもりだ――そちらに合わせ、こちらも手勢を増やそう。よろしいな?」
 異論はない様子だ。治療を終え、では。とクロードは立ちあがる。傍らの娘もまた。
「ロゼ。気をつけろよ」
「うん!」

 大槍を構え、羽毛に覆われた両翼で空に留まる天狗に合わせて、ルエラもペガサスと共に空へと向かう。それに伴い二体の烏天狗が飛翔していく――。

 *
 傍らの獅子の体を持つ厳めしい顔つきの半人半獣を見上げ、エイジスは願う。
「スフィンクス、いざとなったら皆を護ってね。頼むよ」
「何故だ?」
「え。なぜって、確か、手伝いはしてくれるって話だったよね?」
「そうではない。エイジス、貴様はこの中で最も強いだろう。何ゆえ吾輩に頼む。そもそも、最初の鎌鼬からジニールまで貴様なら切り抜けられたかもしれんぞ」
「僕一人で勝っても、仕方ないんだ」
 例え、力量的には鎌鼬も、烏天狗を凌いでいたとしても。
 何やら、心に決めているものがある様子の、その答えに。
「――よかろう。必要とあらば助力する」
「頼むよ」
「エイジスさん、スフィンクスも、喋ってねぇで。ほらっ、始まるぞ!」
「はーい!」
 揃って応援を始めた彼らを見てスフィンクスは一度、微かな笑みを浮かべた。

 *

 相手は飛行能力のある烏天狗、まずは上空より引きずり降ろさねばならない。前衛はアマツが務める。上空で静止していた天狗が、アマツ目掛けて滑空してくる!
 槍を後方に飛んで避ける。次に接近し大きく槍を振るった時身を屈めて避け、立ちあがり様刀で腹部を裂く!
 もう一匹はクロードとロゼに狙いを定めたらしい。主戦力はアマツ、援護を二人が行う予定が、簡単にそう運ばせては貰えないらしい状況だ。
 クロードが詠唱を終えた術、解き放たれた銀の矢は相手の翼を射抜く。速度を落としよろめきながらも動きは止まらない。カウンターで放たれたオーラショットをくらい、クロードは後方へ押しやられる。残るのはロゼ。怯んだら負けとばかりに、ぎゅっと守護者を見据え手を伸ばす。
 烏天狗の胸元で強烈な光が炸裂する。高速詠唱のサンレーザーだ。蛇行しながらも突っ込んてきた相手を、慌てて避ける。相手が態勢を整え攻撃を仕掛けてくる前に、その目前へと、駆け付けたクロードのムーンフィールドが完成。烏天狗が打ち出すオーラショットから、自分達の身を護る。
「あの騎士と連携を分断されるな。傍に行け」
 降り立ったスフィンクスが烏天狗に一度だけ光を解き放つ。太い光の帯はロゼとクロードに天狗を近づけない。
「はい!」
 クロードとロゼがアマツの傍へと駆け寄る。得意とする魔法でアマツの援護を行い、手傷を負いながらも一体一体確実にその刀で切り伏せていった。

 *

 ポイントアタックでルエラに手傷を負わせようとする二体。
 速度は二体の烏天狗よりペガサスの方が早い。何度か撃ち合い、互いに手傷を負わせながら感じ取ったのは、武人としての力量はルエラが上で在ること。ただし相手は槍だけでなく、オーラ魔法も使う。ルエラが一体の攻撃を防いでいる間、別方向にいたもう一体が薄紅色の光に包まれ、オーラショットを打ちだす。衝撃に、態勢を崩したところで槍の先端がルエラの体にめり込んだ。ぐ、とくぐもった呻き声が漏れる。

「その精霊に、代わりに戦わせればよかろうに」
「そして高みの見物と、すればよかろうに」

 挑発には答えず、烏天狗らへとペガサスを駆り距離を詰める。ガード・カウンターアタック・スマッシュを合成し、技を決める。落下していく一体の烏天狗。腹部の深手はそのままに、ルエラは接近してきたもう一体の烏天狗に剣を一閃する。目を剥き、体を曲げせき込む相手に、
「セクティオ!」
 チャージングとポイントアタックを叩きこむ。
 地上に降り―――。

「ジニールには・・・・風の魔法の護りとなるよう指示しただけ。それ以上の事は命じていないません。するつもりもありませんでした」
 ルエラの決意が意味すること。烏天狗達は読み取ったのだろう。

 試練の道を塞いでいた、烏天狗達は五体とも退けた。
 そして彼等は、その道を通る者へ、先に進むよう命じた。



 植物も疎らな、その山道を通り、山を登っていく。
 現れた淡い紫色の長い髪を靡かせて空を飛び回る、乙女の姿をした風神は――上空より、挑戦者であるエイジスに――ウィンドスラッシュを次々打ち込む。武器を構え真空の刃に抗しながらも、さすがに簡単に降りてきてくれないか、とエイジスは呟く。奥に控えるのは厳めしい男の姿をした――同様の精霊だ。

「このまま防戦一方でも仕方あるまい」
「うーん、まいったね」
 苦笑するエイジスに。
「ルエラとあの獣は連戦を終えたばかり。乗れ。騎獣の真似事をしてやろう」
 名乗り出る陽精。彼の人としての上半身には鷲の翼がある。
「ありがとう!」
 彼の背に飛び乗り、その鬣を掴む。飛翔していく――その先で待つ戦いの為、剣を構えた。飛行速度はスフィンクスはジニールに上回る。スマッシュEXを幾度も繰り出し守護者達にダメージを与えていく。風神より、男のなりをしたジニールの方が強い。至近距離でライトニングサンダーボルト、真空の刃を打ち込まれたが手傷を負いながらもそれ以上の力で攻撃を加えていく。
 ――後方よりエイジスの身に危険が迫った時は、スフィンクスが助力し光線を放ち牽制を行った。エイジスは狂化は起こしていない。真剣勝負ではあっても、その戦いに殺意は互いに持ちえないものだから。
 かつて苦戦した精霊に、一歩も引けを取らなかったどころか見事な勝利を掴んだ。何か感慨があったのだろう。小さく息をつく。
「勝負あった、でいいかな?」
 輪郭が歪み、地に落ち膝をついている風神の乙女は。まだ、と呟くが。傍の男に諫められている。
「進むがよい」
 その声は『風の祠』で彼らが聴いた声に他ならなかった。
 決着はつき、仲間達はその先へ進む資格を得た。



 風の祠から陽の祭壇まで、距離にしてそれ程長い距離ではない。標高が上がり風がさらに冷たさを増し植物が一層減って、どこか荒涼とした様相を、呈してはいたが。
 かくして辿り着いた【陽の祭壇】、破壊された一部のその建造物と、石像。
 祭壇の後ろには既に霊鳥がいた。皆を待ち構えていた、目を疑う程の巨大な鳥。

「聖都で取り戻した宝です。お返し致します」
 その祭壇に並べる。
「―――」
 聖地を穢した者達への怒り故の沈黙か。ロゼは――事の顛末を話した。

「貴方がたの嘆き、お察しします。それでも、今お話した通り彼等は魔物に唆されただけ。望んで聖地を穢した訳ではありません」
「私は鎧騎士のルエラ。私は実際に聖都で見てきました。これは魔物が人と貴方がた精霊との仲を裂こうと仕組んだ罠です」
「そんな事で、長いこと培ってきた信用を短い間で失ってほしくはありません」
 とクロードが。アマツもまたはっきりと意見をする。
「宝も、全て回収しきれなかったが・・・・人を見限るには早いぞ、精霊よ」


 沈黙の後――。
 相手が――笑う気配がした。



「先だって、ひとがこの聖地を荒らした時、なぜ傍観したかわかるか? 小さき者よ」
 霊鳥は穏やかともいえる口調で、問いかけてきた。

「ひとの心も、想いも、風のように様変わりするもの。変化は止められぬものなのか、と思うた。我は傍観するもの。力持つものがひとの世に介入し過ぎると、均衡が崩れる。ひとが自ら戦うすべを見失う。それは望む所ではない。滅びの道を行くならばそれもやむなし。だが、――そなた達は、ひとの心に、望みがあるという」
 ふくり、と霊鳥は微かな笑い声を洩らす。

「我は思う。ひとは愚かだ。だから魔物につけ入れられる」
「でもそうやって人と精霊が仲違いしたままじゃ、魔物達の思う壺だよ。 これからの戦いは、精霊だけの力でも、人だけの力でも勝つことは出来ない。 僕は実際に地獄の様子を見てきた。魔物達が勝利したら、この世界もきっとあんな風になってしまう。 僕はこの世界を守りたい。だからお願いだ。どうか一緒に戦って欲しい!」
 エイジスが願い。皆も同様の想いを込めて、極彩色の羽を持つ、霊鳥を見上げる。相手は答えた。

 
 愚かでいとしい種族の子らよ。 
 ―――願い、聞き届けたり。

 と。

 霊鳥の約束を得て、聖都は子爵領に巣食う魔物の介入を防ぐ為、精霊らが都人を守護する約束を取り付けた。傷ついた守護者達はクロードが率先して治療に当たる事を申し出、実行した。わけ隔てなく命を大切にする姿勢を崩さない姿に何か思うところがあったのか――人と精霊の友愛の印として、烏天狗からある品が贈られた。そして、主に一礼し。戦士の後を追う風の乙女の姿もあった。

 彼等は、イムレウス子爵領に巣食う闇を裂く、光の矢となるか。
 見届けよう、と囁いた霊鳥の声は、風に紛れた。