『流転の章』 終焉に向かう島 −1−
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■シリーズシナリオ
担当:深空月さゆる
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月22日〜04月28日
リプレイ公開日:2009年05月02日
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●オープニング
●幻夢
『忘却は罪よ』
誰かが、私に手をかける。
忘れてしまう事は許さない、と闇の中。ゆっくりと首に指が絡みつき。締め上げられる。
酷く痛むのは首か、それとも。
指の一本一本に力がこもる。
『思い出しなさい、早く、早く――』
悪夢に魘され飛び起き、寝室を出ると。そこは既に火の海だった。
ぱらぱらと舞う火の粉、燃え上っていたのは物か、ひとか。
少女に耳に届くのは、聞き覚えのある声。
夢の中の、声。
『早く――』
あまりの惨状に、声の相手に恐怖し。悲鳴をあげて、その場を離れる。
ドレスに火が燃え移る事を恐れて屋敷の中を、逃げ惑う。
凝った闇が手を伸ばす。
助けて、誰か、助けて!
建物から飛び出すと、そこは本来は花で溢れていた庭。
花も草も樹も――火は燃え広がり。何かが燃える嫌な臭い。
嘔吐の予感に、庭に力なく蹲る。
その体を、誰かが押さえつけてくる。
ポタポタと雨が落ちてくる。
けれど、それは――。
火が消える事を望んで。
消えない炎を嘆いて。
『あ、なた、誰?』
ああ―――。
泣いている。誰かの涙だ。
●終焉に向かう地――カゼッタ島にて――
長雨――天候不良の噂は、耳にしていた。
それに始まり、精霊達が人を襲う被害が続出、海も周知の通り荒れ続けていた為――、島人らはその中に閉じ込められていた。
「せめて、・・・・すぐにでも、このオーブで天候を回復できればいいのに」
『オリハルクの輝石』、陽のオーブにはその力が宿る。
「言ったろ、この悪天候が魔物の仕業なら、目立つのは不味い」
居場所を特定されたら、危険が迫る。冒険者達にもくれぐれも慎重に行動するように言われている。ぎゅと杖を握りロゼはそれでも諦められないのか、暫く空を見つめていた。
港町ではセイレーンの奇しき歌声に通ずる物がある――ある笛の音が響き。
住人には虚脱――衰弱する者も増え続けている。
その港町を含め、近隣の村では眠りに落ちたまま目覚めない――昏睡状態が続く者もまた続出していることが、明らかになった。
働き手を失った家族、両親が死に孤児になった子供、続く悪天候は畑を荒らし、この状況が続けば備蓄されている食糧もまた削られていく事だろう。
物取りに襲われ、その都度クインがロゼを護り、竜の子もまた威嚇の為飛び出した事も一度や二度ではない。
治安の急激な悪化は、聖都オレリアナと似通っている。だがこの島に居るだけで、身体の芯が冷えていくような薄ら寒さは何なのか。
「人の魂を奪うものと、人を昏睡させるもの―――別の魔物の仕業かしら」
「どうだろうな。デスハートン、だっけか。魔物お得意の盗みの技は。ったく趣味悪ぃよ。どうすれば、あいつら元通りになる? 方法は」
「・・・・あの術は、その元凶の魔物から魂を奪い返し、本人に返さなくちゃいけないの。昏睡したまま目覚めないっていうのは・・・・前にそんな魔物がいるって聞いた事があるような」
『いんけんなやつらー。ん、・・・・ロゼ??』
ふらりと揺れた体を支えて。
「ロゼ? お前」
『クイン、ロゼの様子が変だ!』
「・・・・ごめん、大丈夫だよ、少し疲れただけ」
彼女をひたと見据えて、クインが命じる。
「――宿屋に戻るぞ。そんで、寝とけ」
「え?」
『ロゼ、無理しすぎだよ。ホラ』
二人は、ロゼを宿屋に引っ張っていった。
*
寝台に押し込んで。すぐ傍で買ってきた果物を器用にむいていくクイン。
「えと、・・・・いつの間に?」
「盗んでねぇからな。ちゃんと払ったって。ダートのとこみたいに、髑髏蠅が伝染病を媒介してる訳じゃねえのが、まだ救いだな」
差しだされた果実を数口食べて。命じられるまま布団に潜りこみ。すまなそうに言う。
「ごめん、・・・・こんなことしてる場合じゃないのに」
「あーもー、焦るなって。いいから休めっての」
『ついててあげるから、眠りなよ』
そう諭すちびドラに、淡く微笑って。
「ありがと。最近、ちょっと変な夢を続けて見て・・・・あまり眠れてないから、疲れが溜まっただけだと思う」
「変な夢?」
「13年前の事件の事。火の中で逃げ回ってる私を、誰かが殺そうと追いかけてくるの・・・・」
竜の子は、ヘイゼル色の目を見開く。
「・・・・俺達が付いてっから、少し眠れ」
ありがと、と顔を和ませ。ロゼはすぅと眠りに落ちていった――。
*
『ロゼ、可哀そうだね』
「・・・・あぁ」
『―――でもね。いざという時は、父上も兄上も助力してくれる。大丈夫だよ」
浮遊する子ドラは、普段の陽気さをひそめて。しっかりと、告げる。
それをまじまじと見た後、苦笑して。
「コロナドラゴン、あのバカでかい体で暴れられたら、子爵も宮殿もひとたまりもないわな」
『クイン。僕は本気で言ってるんだぞ』
「嘘だ。助かる」
眠るロゼを見る目は、真剣で――。
*
夜。
低く、妖しい旋律が耳に届いた。
灯りが揺らめく。
体に異変が生じ。
「なんだ・・・・?」
ふわふわ浮いていた竜の子がぽてん、と寝台に落ちる。
ぐう、ぐうと寝息を立て始めた。
「!?」
強烈な睡魔が襲う。
指輪の中で蝶が羽ばたく。
瞬時にナイフを掴み、手に突き立てようとする。
「あら、案外賢い」
眠っては―――いけない!
それを叩き落とすのは、鞭のようにしなった細い女の手。
「じゃあ、死のっか」
背後から喉に鎌の刃が。
「お前のすべき事は一つ。目的を忘れるな」
低く良く通る男の声が、聴こえ。
直後、クインの意識は途切れた。
*
その深夜―――。
椅子を蹴飛ばされて。目が覚める。
あれは――夢?
「!」
見慣れた半人半獣の男が、部屋の内にいた。
「スフィンクス・・・・?」
「急ぎ荷物を纏めろ。発つぞ」
険しい声で陽霊は告げる。
『ん〜・・・・?』
竜の子を揺さぶった後。ロゼを起こそうとするが。彼女はぐったりとしたまま。
長い睫毛はぴくりとも動かず、覚醒の気配を見せない。
半人半獣は手をかざし、ロゼの額に手を触れる。
「夢魔か。やられたな」
陽精が渋面で吐き捨てた。
強烈な眠りに引き摺られる時、何か聴こえなかったか。
「貴様はまんまと術に落ち、眠らされたか? 竜の若子までも。情けない」
陽霊の厳しい叱責に、ようやく覚醒し、クインは青褪める。ちびドラもぐっと言葉を詰まらせた。
「あの笛の音・・・・!!」
「夢魔の眠りならしかるべき冒険者の助力あれば、目覚めさせる事が可能だろう。だが、それだけで済んでいれば良いが」
「!」
「退治よりこの娘を目覚めさせるのが先決。――乗れ。ここにこれ以上、お前達だけで長居をするのは危険だ」
「――くそ!」
力なく寝台に横たわるロゼを、スフィンクスが抱き上げる。宿代をテーブルに置いて、クインは荷物を引っ掴み、その背に乗った。竜の子も続く。
「ひとまずオレリアナへ向かう。この島で起きている事はお前達の手には余る。冒険者達を呼ぶのだな」
わかってる、とクインは苛立たしげに吐き捨てた。
それは自分自身への怒りに、相違なかった。
●リプレイ本文
●眠り姫
死が迫るロゼを救う為、冒険者達はイムレウス子爵領、聖都へと向かった。アマツ・オオトリ(ea1842)だけが、先に首都へ。――必要な船の手配に名乗りを上げた彼女は。ロゼの治療を仲間達が行っている間、一足先にかの地にて【交渉】を行う。
アマツへはロゼの義父から資金が渡されただけでなく、ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)からも交渉に必要な金が渡された。エドが、ルエラに丁重に礼を。
「これは赤の聖水という。使うと良い」
ミーアは丁重に礼を言い、アマツよりそれを受け取った。
彼女はマチルダ邸から借りてきたグリフォンを駆り、すぐに聖都を発った。
*
島で起きている出来事と、ロゼを結びつけ考えるのは。ごく自然な流れ。
だが。
宿屋の裏庭で。ロゼを敷いた麻布に横たえ、エイジス・レーヴァティン(ea9907)が聖なる釘を彼女の周囲に打ちつけ簡易結界を作る。夢魔が憑依しているならば、叩きだす必要があり、その結果戦闘になる可能性がある為だ。ミーアもアマツより預かったアイテムで、結界を作る。
仲間達が身構える中。ルエラはペガサスにレジストデビルを使用させた。
だが――。
「効果が、ない?」
ルエラが呟く。主人の動揺が伝わったのか、ペガサスが低く嘶いた。
「‥‥神聖魔法とやらで、動き回る屍を作り出す術法があっただろう。【白】のほうに、その効果を打ち消す術法が。名までは覚えておらぬが」
陽精の話に、雀尾煉淡(ec0844)が思案する。【黒】と【白】に分かれる神聖魔法の使い手として、名を思い出すのは難しくなかった。
「クリエイトハンド? デビルハンドの効果を打ち消す魔法が、ありますが」
「名は知らぬ。しかし、その術法他に使い道があり、通常の夢魔ならばそれで叩き出せる筈」
レジストデビルは、既に憑依されている者に対して効果は望めない。
「な、それが使えなかったらロゼは!」
「鎮まれ、紫狼。魔物の気配があり、島を騒がせている夢魔の仕業かと想った。だが。他の可能性もまったくない訳ではない」
「――ニュートラルマジックを試してみます」
煉淡が詠唱する術は、魔法が絡む眠り、マジックアイテムによるものなら。解除可能だ。
直後。
ロゼから。
硝子が勢いよく割れる、それに相似した音がした。
「ロゼ!」
皆が駆け寄る。現れる覚醒の兆し。
煉淡は密かに息をつく。最悪の事態は、脱した。
「大丈夫ですか? 私達が解りますか?」
クロード・ラインラント(ec4629)が声をかけ、回復薬を使用する。クインが彼女を抱き起こし用意しておいた水を飲ませようとするが、咳きこむ。
「わ、悪い。――ロゼ?」
額に手を当てて、硬く、眼を瞑る。
「ロゼちゃん?」
案じるエイジスや、皆の声に応える気配もない。
再び薬を使用しても、効果は無い。
「(まるで砂に水を撒いているような感覚ですね)」
触れる事を断った上で。クロードはロゼを診る。
「脈が弱い、熱が多少ある――だが他に、大きな異常ではありません。これは」
「確認します」
煉淡がリヴェールマジックのスクロールを使用した。
魔法の反応がある。改めてニュートラルマジックを。効果は無かった。
「後はデスハートンしか、――考えられません」
「‥‥迷惑‥‥かけて、ごめんなさい‥‥」
「バカ野郎! 第一声がそれかよ!」
クインが怒鳴りつける。
どれ程――どれ程、心配したか。
ごめん、ともう一度呟いて。
「魔物が、‥‥あの、男が、来て」
「旋律を奏でる者?」
クロードの問いに、頷いて。
「申し訳ないが、ロゼはここで俺達が預かる」
エドのその申し出を、皆は了承した。弟子のラスも残る。案じる彼らに。
「心配すんなって! ミーアたんも、二人と一緒にロゼを頼むぜ」
「‥‥はい!」
村雨紫狼(ec5159)の陽精と風精もまた、護衛の為残る。
「危険を承知で頼む事を、許して欲しい。どうか――娘を救ってくれ。この通りだ」
●交渉
「金は確かに。では交渉成立な。だが危なかったぜ」
「?」
「俺達は首都を離れる。馬鹿な同業者がな、この間の事をどこかで吹聴した。他の仲間達が何かの間違いだって、口裏を合わせて庇ってくれてるが、‥‥上に引っ張られるのも、時間の問題ってやつでな。それまでにここを離れる算段だったのさ」
待機を命じられている中で出航したと知られれば、マズイとは思っていたよ、と。皮肉な調子で、男は笑う。
アマツが来たことで、酒場がざわついた訳がわかった。
「‥‥っ。申し訳ない」
「なんの」
「何故、此度も引き受けてくれる?」
「だって、困ってんだろ?」
「‥‥しかし!」
「ま、俺にもあんた達を見ていて、色々思うところがあったって事だ」
俺んとこの船乗り達も、あんた達になら協力は惜しまねえよ、と続けた。
そう語る男の目には決意があった。
「ありがとう‥‥心より感謝致す」
●島へ
首都にて合流した面々。状況を報告しあい、オルドの船へ。
「前も言ったような気がするが。そっちの白い馬は人に危害を加えないならそのままでいいってことよ。ただ」
そう煉淡に言い。ペガサス以外の――冒険者らがミーアの師匠より借りているグリフォンは、彼らの騎獣ではない。念の為に檻に入れる事になった。
*
昏睡の末の死、デスハートンの被害。
天候不良は一月以上。それと町で確認される、楽の音と。
クロードが中心になって、船内にて。改めてクイン達に島の状況を確認した。他の船員に舵取りは一時的に任せ、オルドも同席している。
先程クロードは船員の皆が雨で体温が奪われないよう、と進言したが。海の男は頑丈だから大丈夫だ、豪快に笑われた。冒険者達は極力船内にいるよう、命じられたが。
旋律を奏でる者。その男の技は、月魔法スリープ、相手の姿を変化させるトランスフォーム、また今回の一件から。デスハートンが確認済みだ。
「里で。あの男、術は瞬時に発動していました」
「高速なんとかか、厄介だなぁ〜。あいつの部下っぽい、首に縄かけた、青白い顔の変な奴らもいんのかな?」
「どうでしょうか。‥‥猫の姿をしていた、というのは」
「それは、あの里で僕達が倒した戦士風の魔物の周りで、うろちょろしてたやつかな? あいつを倒したら、いつのまにか猫もいなくなってたけど」
「そう、ですか。‥‥鎌を持った女性も、気になりますね。後ろから襲われたとか。クインさん、聞覚えのある声でしたか?」
「‥‥いや」
「しかし。途中何も出ねぇといいが」
渋面で唸る。
皆の不思議そうな様子に。
「――なぁ。なぜ今も、定期船が休止になってると思う?」
「精霊さん達がまだ暴れているとかって、言ってるのかな?」
「いや、海蛇様とあの海の魔女は、子爵様率いる海軍が、倒したんだとよ。首都は一時期その話で持ちきりだった」
これは、聞いていた者皆が凍りつく。
「そんな」
「酒場では、アマツさんには言えなかったがな。俺は、それが嘘だって知ってるからよ。正直――ゾッとしたぜ。定期便の欠航が続くのは、他の理由があるからだ」
一早く我を取り戻したエイジスが、確認する。
「それは?」
「魔物がな、島から出てくるんだと。翼の生えた鬼が船を追っかけてきて、人を殺すんだとか。今は島に近づくのは禁忌だ。あの島では他にもとんでもねえ魔物が居るんじゃねえかって――皆噂してるぜ」
噂がどこまで本当か知らねえけどよ、とオルドは皮肉げに言う。
「あの。私達に13年前事件の際の、海が静まった時と。島の様子を教えてくださいませんか」
「ん。ああ。その時もな、島では多数魔物の姿が見られたらしい。海も風も、精霊も荒れた。だが、ある日突然魔物は消えた。理由はわからんが、やがて海の荒れも暴風も収まり、船の行き来も再開された。災厄の元凶と言われた、島の統治を任されていたディオルグ家がなくなり、民の在り方は変わったが。‥‥俺の知ってるのは、これくらいだ」
「‥‥そうですか。ありがとうございました」
「あと、受け取った代金は帰りも込みだ。――なんだ、揃ってんな驚いた顔をして? 俺達は港で待機してる。‥‥ちょっくら、知り合いが無事かどうか、確かめたいんでな」
●襲撃
「こっからは、一筋縄ではいきそうにないね。注意は幾らしてもし過ぎってことはなさそうだね」
エイジスの発言は尤もだ。オルド達と別れ港町に降り立つ。
昼を過ぎたばかりだというのに夕刻さながらの薄暗さだ。港町は小雨が降り続いている。アマツは松明を使用して道行を照らし、仲間達は情報収集を開始した。魔物探査の術は持たない。地道な作業になった。紫狼は双眼鏡で不審な物が現れないか確認したが、魔物の姿はない。
はっきりとした目撃証言は少なく。笛の音が聞こえる晩の、その翌朝には例の症状を見せる者が多発する、と皆が口を揃えて言う。レジストデビルが、すでに取り憑いた夢魔に対して効力を発揮しないのは、聖都の一件で明らかだ。しかし煉淡の魔法解除の術も、昏睡する者達に効果は、なかった。導き出される答えは一つ。ロゼにかかっていた昏睡の魔法とは異なり、港町に蔓延する眠り病は、陽精が口にした夢魔によるもの。
せめて、と。情報収集をする傍ら、体調不良を訴える者達をポーション等で癒しながら。礼金を押し付けるように渡してくる者達が、どれ程切実に恐怖と戦っているか――皆は知った。
けれど。邪法による衰弱に関しては、治療薬も回復魔法も効果は期待できない。
この港町の者達を、本当の意味で救う事は出来ない。その結論に、皆ゾッとした。
*
「おやおや、困ってるみたい」
金髪に黒ドレスの人形じみた少女が、嘲笑う。
黒塗りの大きな横笛に口を当てる男に、流し眼を送る。
それより溢れ出る、奇しき音。
集まってくる鬼に蝙蝠の翼が生えた者。
ある建物の屋根からひらり、と魔物は飛び降りる。
*
「何か、聴こえる」
家から飛び出して。クロードが即座にレジストメンタルの詠唱を開始する。
ルエラもペガサスに命じ、レジストデビルを付与。アマツもオーラ魔法を自らに付与した後、ソロモンの護符を燃やす。直径10メートルに魔物の行動を制限する結界が生まれた。自身だけでなく仲間の身も護る一助となるだろう。
冒険者らの元に向かう少女、その後を鬼達が追う。
前衛、エイジス、ルエラ、アマツ。中衛、紫狼、クイン、チビドラ。後衛、クロードと煉淡。
家の内から多数の魔物の姿を見。住人達は悲鳴をあげ、慌てて窓や扉を閉めた。
上空よりひらりと着地し。
「港町の奴らなんてどうでもいいじゃん」
長い鎖鎌を振り回し、構え。嘲る娘に。紫狼は驚く。
「お前、あん時のゴスロリ!」
「子爵様からのご命令よん☆ サァ誰から首を刎ねて‥‥」
その移動力を生かしエイジスが一気に接近、口上を遮り三連続でスマッシュを叩きこむ!
「ッ!!」
苦悶に顔を歪めながら、反撃。即座にアイスコフィンが発動する! 一瞬の隙に、後方に飛びずさる。
「‥‥クッ!」
飛来してきた下級の魔物が、少女をとり囲む。
煉淡が、すぐに水術を解除。だが、エイジスは既に狂化を起こしている。
アマツが彼の狂化には気を配っていたが、敵を殲滅するまで彼は止まらない。
翼ある鬼が、エイジスに群がる!
その間ルエラとアマツが、接近する。
「そなたの顔、忘れておらぬ。魔剣に運命を狂わされた親子の仇、取らせてもらうぞ!」
「忘れたわァ、そんなもの!」
飛来してくる魔物に、紫狼、クイン、チビドラらが応戦。アマツの結界の効果か、奴らの動きが鈍い。後衛には一歩も近づけないという気概故に、煉淡とクロードに下級カオスの攻撃は向かわない。次々同胞を葬る紫狼達に怒気を漲らせ、向かっていく。
煉淡とクロードは得意とする魔法で、援護する。
前衛の彼女達は、その技で魔物を一気に劣勢に追い込む!
「ルケーレ!」
回復の隙を与えない。得意とするCOの合成技を再度繰り出そうとした、その時!
「情けないな、過去を覗く者よ!」
少女の前に金髪長身の男が唐突に姿を現し、ルエラの攻撃を結界らしきもので、阻む。煉淡のブラックホーリー、そして僅かに遅れ放たれたクロードのムーンアローは、男の手前で遮断される。
「ロゼの魂はどこだ!」
クインから放たれた魔力の籠った矢を防ぎ。
にぃ、と男は笑う。
「我が手の内。ふむ。敬意を表し、この旋律を奏でる者がお相手しよう」
男は舞うような優雅な動作で。
ドドド!!!
手を翳し立て続けに術を放つ!
エイジス、ルエラ、煉淡は黒炎の攻撃をくらい、接近を阻止。別の術がアマツとクインにかかるが、辛うじて抵抗が成功する。しかし同様の術をくらい紫狼、クロードはそれぞれ縮んだ。
鼠に、子犬へと。
――トランスフォーム!
「トドメを刺せ」
嬉々として鼠と子犬を鎖鎌で切り裂いた、娘。
赤く濡れた鎌がぶん、と振られ、パシッと手に収まる。魔物達の哄笑が響く。
「!」
次々打ち込まれる炎を纏わりつかせたまま、その素早さを生かしてエイジスが男に接近し、一撃を加える。受けた左腕を斬り裂く!
「成程。半端者とはいえ――中々、やる」
爛爛と光る目に薄く笑いかけ、飛翔。即座にペガサスで飛翔するルエラ。
「アンタの相手は、アタシ!」
ルエラは執拗な鎖鎌の攻撃を受け流し、旋律を奏でる者を追う!
男より放たれた術に、ルエラの体が歪む。変化の術。必死に抵抗を試みるが。即座に黒炎と水弾を叩きこまれてルエラは空中からペガサスごと墜落する。
「これが、ロゼ・ブラッファルドの魂」
男の左手に握られる、白い球。
「返せ!」
クインは怒鳴る。
「貴様らを少々侮っていたようだ。こちらも改めて体制を整え、挑ませてもらおう」
エイジスは殺気を漲らせているが、空に居る相手には攻撃を仕掛けられない。
「ロゼさんを待つと言っていた‥‥それなのに殺そうとするのですか」
煉淡の魔法により元の姿を取り戻した仲間達。クロードが、回復薬で治療を行い苦しげに問う。紫狼の方が重傷だ。クインが慌てて治療を行う。
「うっわ。生きてたの。マトはやっぱりもっと大きい方がいいなァ」
上空から、娘は嫌そうに呟く。
「ふむ。待っていたさ。けれど、――そうだな。貴様らが招待に応じ、我らを楽しませてくれるなら、疑問に答えてやっても良い。謀反人の烙印を押されたディオルグ家――あの娘の縁の地で待つ」
旋律を奏でる者にしなだれかかり、少女は釘をさす。
「言っとくけど、選択権はないわよ? ‥‥ロゼちゃんを救いたいならねェ?」
キャハハ、と少女は笑う。魔物達は、忽然と姿を消した。
●招待
奴らの持ちかけた宴への招待は――あまりに、危険なもの。
「あいつらが待ってたのは、俺らだ。ロゼに味方する俺らを、あいつの傍から排除しようとしている――そんな所だろう。今度は今回以上に、厄介かも。それでも一緒に行ってくれるか?」
クインは挑むように真っ直ぐに――、冒険者らを見上げた。