【流転の章】 終焉に向かう島 ―2―

■シリーズシナリオ


担当:深空月さゆる

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月10日〜05月16日

リプレイ公開日:2009年05月17日

●オープニング

 イムレウス子爵領、カゼッタ島の港町にて。状況打破の為に情報収集と、一人でも多くの町人を救えれば、と行動していた冒険者達の前に二体の人型の高位の魔物が現れ、激戦を繰り広げてから、そう時間は過ぎていない。
 互いに痛み分け、魔物はデスハートンで奪ったロゼの魂を示した上で、島のとある場所にて待つと告げた上で、――消えた。
 援軍を連れてくる事が、予想される。
 日時を告げた上で、クインは冒険者達に頼んだ。
『もし一緒に来てくれるのなら、この宿屋に来てほしい。部屋はばあさんに言って、判るようにしとくから』
 と――。

 *
 
 宿屋にて。保存食を平らげ、これ、あんまり美味しくないよね、と評するのはコロナドラゴンのパピィだ。
「‥‥お前、この状況でよく食えるな‥‥」
『僕達がくらーくなってれば、みんな助かるの? クインも食べなよ。お前まで倒れても、めんどーみきれないからね』
 こ憎たらしい。
「‥‥くそっ」
 宿といえ食事が出てくる訳ではない。この島の食糧難は――深刻だという事は解る。クインも文句を言うつもりはない。 
 やがて、クインがボソリといった。
「‥‥しかし。ロゼって、秘密主義だよな」
『(もしゃもしゃ)何さ、クイン。突然』
「あいつの生まれ故郷が、この島だってのは判るし。そのディオルグってのが、あいつの姓で。育った家だって事は判ったけど。あいつの子供の頃の事は、俺ら何にも知らねーよなーって」
 カゼッタ島の統治を任されていた大貴族の娘がロゼだ。13年前の事件で謀反の罪を着せられた両親、家名は地に落ち、火の海になった屋敷で、殆どの者が死に絶えたと聞く。確認されている生き残りは、ロゼと弟のみ。しかし弟は所在が不明だ。
『ほんといきなりだねー』
「お前も見た、あの露出が多い高飛車な女。過去を覗く者とかいう。あいつの事は、エドワンドから聞いてる。たぶん例の髑髏蠅を撒いてた女と、同一の魔物。‥‥その名前のまんま、人の過去を覗くらしいぜ。ラスが、因縁のある邪なる妖精のことを、言い当てられたって言ってたしな」
『だから〜?』
 不審そうなチビドラを、軽く睨んで。
「ロゼも、視られたのかもしれねえって思っただけだよ」
『‥‥? 考えすぎじゃない。単に、ロゼがその事を話さないのは、クインが身分の差っての、気にしちゃうからじゃないの。痛いっ殴るなよっ』
 クインの首の後ろで一くくりにしてる長い黒髪を、ぐいぐい爪でひっかけ引っ張る。二人でジタバタとひとしきり暴れ。パピィと呼ばれる物の中でも、現在小さい部類に属するその竜は。やる事は幼稚だが、結構力が強いので容赦がない。爪も、痛い。
「いッてーよっ、禿げたらどうする、馬鹿竜がっ」

 ジタバタジタバタ。

『クイン、取ってぇー』
 哀れっぽい声に、コメカミをひくつかせながらも。
 数分後。身体や翼に絡みついた髪を取っていってやることに。
 ‥‥虚しい。
 こんな事をしている、場合ではないのに。不毛である。

「あいつら、強ぇよなー‥‥高位の魔物に引けを取らなかった」
『別に、ひとりでがんばれって言ってる訳じゃないしさ。元気だしなよ。助けてくれる誰かがいるなら、頼ってさ。それが当たり前っておもっちゃ、ダメだけどね?』
「‥‥わーかってるよ」
『それに、ひととコロナドラゴンの絆が結ばれてるし。本当に。僕の父上達もいざとなったら、助けてくれるから』
 鼻息荒くチビドラが主張する。
「‥‥どうやって?」
『色々あるよ。ブレスとか。あいつらなんか、いっぺんにじゅわっと』
 子ドラは大真面目だ。先日は、励ます為に言ってくれてるのかと思ったが。人と竜の思考回路の違いだろうか。何かがズレているような気が、しないでもない。
「いや、マジで島が壊滅するから‥‥(汗) ありがたく、気持ちだけ」
 今日は約束の日。約束の正午まで――あと少し。

 
『――来たかな』
 扉の前で足音が途絶える。
 好意に甘えるばかりではなく、感謝の気持ちを忘れないなら。共に闘う心があるのなら。差しのべられた手は、遠慮なく取ってもいいのだろうか。今だに冒険者達に力を借りる事を、彼らを危険に巻きこむ事を申し訳なく感じるクインは、そんなことを考える。

 竜の子が鼻をひくつかせ。きゅ、と嬉しげに鳴き。出迎えるべく。パタパタと飛翔していった。

●今回の参加者

 ea0167 巴 渓(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1842 アマツ・オオトリ(31歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea9907 エイジス・レーヴァティン(33歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb3776 クロック・ランベリー(42歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb4199 ルエラ・ファールヴァルト(29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 ec0844 雀尾 煉淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec5159 村雨 紫狼(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec5570 ソペリエ・メハイエ(38歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

●孤島の内にて
 ―――たかが人間如きに後れを取るなんて、ね。
 そんな人間にやられかけた間抜けもいるし、と言葉は続く。反論しようとした女を制し、男が警告する。
 ――‥‥――よ。奴らを甘く見るな。足元をすくわれるぞ。
 ――自信家のお前にしては、気弱な事だね。と、その人物はくく、と喉を鳴らす。お前達と一緒にしないでほしいな。
 さぁ――遊びの始まりだ、と。稚くも冷やかな声が響いた。


●交渉
「‥‥全部話すのが条件だ。あの嬢ちゃんを助ける為にというが、あの子は一体何者だ?」
 アマツ・オオトリ(ea1842)と、ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)が船を出してもらえるよう粘り強く交渉を試みた時、オルドは熟考の末に言った。二人は迷い、クインが口を開く。
「あいつは、13年前、冤罪の末殺されたディオルグ家の、生き残りだ。子爵領の怪異を鎮める為旅をしていて。奴らに魂を奪われた」
「その痴れ者共は、ディオルグ家の跡地にいる」
「一刻も早く奴らを倒さなくては。それがロゼさんと島の人達を救う唯一の方法なんです」
 虚言ではない。三人の言葉は真実の重みがあった。
 オルドは厳つい顔を歪め、やがて額を押え深く息を吐き。呟いた。
「こいつは恐れ入った―――成程な」


●別行動
「貴方がたは魔物退治に行ってください。私は町の住民達の憑依状態の解除と回復及び、町にいる魔物退治を引き受けます」
 新聖騎士のソペリエ・メハイエ(ec5570)は、仲間達に告げた。
 実はこの時点で既に、彼等は港で、翼ある魔物達と一悶着あった。しかし、皆の力を持ってすれば撃退は容易かった。
 アマツは島の住人を楯にしてくる事も警戒していたが、その様子はない。
「ディオルグ家の情報収集は危ないかもと思っていたけど、それ以前の問題だ。これは―――酷いね」
 エイジス・レーヴァティン(ea9907)が顔を曇ら港町を見つめた。騎士のクロック・ランベリー(eb3776)もまた、苦々しく思ったのか。
「皆、家の中で。息を潜めているんだな」
 まるで廃墟だ、という言葉を飲み込む。
「一人で大丈夫か?」
「はい」
 クインの問いに。ソペリエは決意をこめて頷いた。
 道中、彼女は今までの経緯を仲間達に聴いた。そして一層決意を固めたのだろう。
「絶対に、死ぬなよ」
 仲間達も、同様の言葉をかける。ソペリエは頷く。
 ―――その様子を遠くから窺っていた魔物が、そこから離れ密やかに飛翔していった。


●協力者
「ご助力、心から感謝します」
 舵を取るオルドに、ルエラが言う。雨に濡れる事など、構っていられない。魔物の警戒の為、全員甲板へと出ている。
「ごめんな、あんた達の生活を乱したい訳じゃねぇけど」
 そう言うのは、村雨紫狼(ec5159)だ。
「気にすんな、しっかりお代は頂いたしな」
 ルエラとアマツ、そしてクインの三人合わせて100G。それ以上はオルドは受け取らなかった。
「オルド殿。危険ならば我らを残して、引き返してくれて構わない」
「ええ。本当に途中までで構いません」
「ああ。‥‥だが、ぎりぎりまでは送ってくからな」
 クインは地図を差し出し、子爵領沿岸部の、ある一つの点を指さした。
「俺があんた達に出来る事は限られているけど。この町に住むジーク家の当主を訪ねてくれ。丘の上の大きな屋敷だ。俺達の事を、事情を話せば、その貴族があんた達を助けてくれる」
 以前、ロゼの遠縁にあたるその男性と、その恋人の窮地を皆で救った。その際に彼は約束してくれたのだ。困った事があったら、必ず力になると。
 オルドは頷いた。


「無事戻ってこいよ――お前ら」
 騎獣らを檻から出し。海上に現れた魔物に向かって、得意とする武器を手に飛翔していく彼らに。オルドは心からと思える声音で、呟いた。
  

●偵察
 彼らは翼ある魔物を倒し道を切り開き、島に降り立つ。地図を確認し。偵察へ、ペガサスで煉淡と、紫狼が向かう。
 立ち並ぶ石造りの家――は未だ残っているようだ。13年前の『災禍』により、生き残った住人の大半は家を捨て、アゼンダへと移り住んだのだという。屋敷は、その町より続く坂道の先、山の一部を切り開いた場所にあるらしい。
「あそこか」
 双眼鏡で確認し、紫狼が。煉淡は、高速詠唱ディテクトアンデッドを使用する。
「‥‥どうやら、二百は軽く超える程いますね」
 すぐさま綱をひき、ペガサスを方向転換させる。
「くそ、入ったら魔物の大軍がお出迎え、か」
 嫌そうに紫狼が。煉淡は目を眇める。―――望むところだ。


●命の灯 護りし人
「今、ある女性と、この島を。貴方がたを救う為戦っている人達がいます」
 港町で。自身にレジストデビルをかけ。クリエイトハンドで夢魔を体から叩き出し。技を駆使し。霧のような姿の不気味な魔物を退治し。ソペリエは町の者達を救っていった。一人で出来る事には限りがあり、魔力も無尽蔵ではない。それでも。手傷を負おうとも、力がある限り敵を倒す。彼女はそう、心に決めていた。
 彼らの命運が絶たれていない事を、希望を捨てないよう皆に言い聞かせ、救助を行っていった。


●炎の記憶
「ケイ。貴様の此度の助力、感謝する。私が不甲斐ないばかりに」
「気にすんな。世界平和に興味はねぇがな、放ってはおけん。そう思っただけだ。んじゃ、打ち合わせ通り俺は奴らの背後からかますぜ」
 巴渓(ea0167)が言う。
「その前に」
 煉淡の傍に皆が集まる。神聖魔法の使い手の彼が施す、グッドラック、レジストデビルは彼の周囲にいるもの全てに、一度に掛かる。対象へ思考と行動にプラスの効果を与えるそれと、魔物の特殊能力への防御の術。強力な護りの力は、非常に心強い。渓だけが別行動で、屋敷の背後より潜入を試みる手筈だ。
「お前らを危険な目に遭わせて。すまない」
「謝る事じゃない。君が呼んでくれたから、僕らの力を必要とするところに居合わせることが出来たんだ。こっちが感謝したいくらいだよ」
 ずっと力を貸してくれている冒険者の言葉に、クインは言葉を詰まらせ。まじまじと彼を見た。エイジスはぽんと手を打って。
「さて、今度こそ決着を付けて、ロゼちゃんの魂を取り返さないとね!」

 *

 屋敷にて。錆びついた扉を、チャージングとバーストアタックによる突撃で破壊したルエラ。館内には焼け焦げた絨毯等の残骸が、崩れ落ちた亡骸がある。それが、窓から入る微かな光で見えた。
 彼等は騎獣と共に進んでいく。
 薄暗さに慣れた頃。奥に、それは現れた。
「ようこそ、私の家へ」
「‥‥ロ、ゼ?」
 反響する笑い声。姿は闇の中に紛れる。
「騙されちゃ駄目だ。あれはロゼちゃんじゃない」
「判ってる!」
「くそ、何企んでやがる!」
 紫狼が憤って、言う。煉淡がディテクトアンデッドを使用する。
「‥‥明らかに、罠ですが」
 煉淡の発言に皆は頷く。判っている。けれど。
「行きましょう!」
 ルエラが剣を抜き、ペガサスを駆る。騎獣と共に、後に続いた。廊下を進むと――目の前に大広間が。
「!」
 広間で手を取って踊るのは貴族の装いに身を包んだ男女。華やかな音楽。様々な楽の音。灯りの中浮かび上がる、不気味な光景に皆が束の間呆然とする。
「これはある記憶の再現。ねぇ。知りたくはない? 私が13年前に何を仕出かしたのか。これだけ広いお屋敷よ。火を付けたのは、魔物だけだと思う?」
 ロゼは笑う。
「!?」
「広がった火は、魔物の放つ黒焔だけじゃないの。私が蝋燭の炎から絨毯や布、あちこちに燃え移したの。だからね、私も『人殺し』なのよ」
「黙れ!」
 クインが叫ぶ。冒険者らに、何処から放たれた術がある。しかし、その魔法は影響を及ぼさない。抵抗が成功したのだ。煉淡が高速詠唱、すかさず術を使用、鋭く言う。
「魔物――、仮初の姿をとっているだけです」
 奇しき音楽を遮るべく、アマツと煉淡は『精霊招きの歌声』を再生する。敵の奏でる音量も増した為、その場には音楽が入り乱れた。
「その時ロゼちゃんを操ったのは、どうせ君らだ!」
 武器を手にし。エイジスの瞳が冷ややかなものになる。
「――貴様らの甘言、聴く耳は持たぬ!」
「どうせあんた、性悪ゴスロリちゃんだろ。へっ、いつもいつも、ぺらぺら口だけは達者だよな!」
 女は顔を口元を引くつかせ、手を叩いた。人を装う魔物達は、黒炎を解き放つ。必中のその術に、周囲に物が焼ける臭気が漂う。
「は、どーなってるのぉ、旋律を奏でる者」
 女の傍に現れた、あの男が手を翳す。皆の身体がぶれるが、抵抗が成功する。男は唇を歪める。
「ふむ、効かぬか」
 その場に、元の姿に戻った少女の掌より強烈な冷気が発生する。一気に気温が下がった。
 大広間を飛び交う魔物には、空中戦に慣れているルエラが。ペガサスと共に自らが囮となって敵をひきつけ、上空にて刃を閃かせる。
 百を超える魔物達の攻撃が、四方八方から飛んでくるのだ。下級といえど数に物を言わせれば、脅威になり得る。しかし。
 怪我を負わされても、鬼神の如き活躍で魔物を葬っていくエイジス、煉淡は高速詠唱の聖なる結界を随時貼り直し、枯渇していく魔力をアイテムで補給しながら味方の援護を行っていった。アマツはグリフォンに騎乗したまま、ルエラの援護を行い魔を次々切り裂いていく。
 紫狼は次々退魔の塩を投げつけるが、投擲の技術がない為中々当たらない。効果も目を見張る程の物ではなかった為、結局は刀を抜いての応戦に切り替えた。
 オーラパワーを付与したクロックもまた、愛刀で魔物と対峙する。傷を負いながらも怯む事なく。
「彼はぁ?」
「『鼠』の相手をしている」
 その時、上で轟音が響いた。天井が派手に崩れ、それと共に落ちてきたのは。
「隠密の才能もないのに、奇襲とは」
 嘲り声が降ってくる。新手の魔物か!
 双頭竜に乗っている子供が、大きく開いた穴から見える。
「煩せぇよ、くそ餓鬼!」
 重傷を負いながらも渓は減らず口を叩く。即効でアイテムで傷を癒すが、上空から次々黒焔の雨が、降り注ぐ。竜の吐き出す炎の息も共に。熱風が吹き荒れ怪我人が続出した。渓が傍にいた紫狼やクインらに複数の回復アイテムを押し付け、使え、と短く告げグリフォンの治療を行った後すぐさま穴から外へ飛び出す。
「‥‥っ、アタシ達がいるの忘れてな―――ガハッ!!」
 エイジスが距離を詰めスマッシュを立て続けに決める!
 逃亡を試みる魔物に、煉淡がコアギュレイトを放ち、極限まで磨いたホーリーを叩きこむ。悲鳴。その姿が歪み縮む。
 トドメを刺そうとしたエイジスと煉淡に、瞬時に連続で放たれる黒炎。爆風と衝撃に、さしもの彼も後方へ押しやられ、受身を取る羽目になる。
 再び姿を現した旋律を奏でる者は、その猫を掴み上げ。指を弾く。溢れ出る下級の魔物。次々冒険者達の足元で、影が爆発する。恐らく虫か何か――小さい生物に変化していた魔物達が元の姿を取り戻し、一斉に攻撃を仕掛けてきたのだ。
 僅かな隙をつき、男の姿は消失した。
「来な! 僕に勝てたら『返してあげるよ!』」

 *

 渓に続き、ルエラ、アマツ、煉淡が騎獣を駆って、開いた穴から上空へと飛びだす。エイジスの狂化はその場全ての敵を殲滅するまで、止まらない。クロックもその場に留まり、敵の群れにはソードボンバーで攻撃を仕掛け、傍にいる敵は次々音もなく、愛刀で切り裂いていく。
 子竜が熱線のブレスで敵をなぎ倒し、彼らがトドメを刺していく。
「これで終わりか!?」
 ふっと、エイジスの覇気が緩んだ。その変化は明らかなもの。彼は仲間に、毅然と告げる。
「雑魚は全て倒した。外へ行こう!」


●勝敗決する
 双頭竜を巧みに操り、天使の翼を生やした子供は冒険者らに攻撃を仕掛ける。竜はそれぞれ火と氷の強烈な息を吐き、闇の結界に護られし子供は邪法を放ち、冒険者らを翻弄した。
 アマツはグリフォンを操り、オーラ宿る刃を、居合い抜く。ルエラと連携で攻撃を試みるが敵は素早い。煉淡が高速詠唱のホーリーを放つ。グリフォンに乗って先程の御返しとばかりに、渓がオーラショットを見舞う。レミエラで効果範囲を広げ、確実に敵に打撃を与えていった。
 天使の翼から羽が千切れ飛ぶ。子供の顔に憎悪が浮かぶ。変化の術で獣に変えられたアマツ、直後氷の息で襲われ瀕死状態で落下していく。援護する翼ある魔物を、渓が倒しながら。アマツの治療の為急降下していった。怪我を負いながらも忠実に主人を護るペガサス、ルエラもかなりの傷を負いながら果敢に子供に攻撃を仕掛け。黒炎を潜りぬけ子供の懐に突っ込み、武器を引き下ろし肉を断つ。
「!」
 双頭竜が退く。下方からの奇襲。クロックのソニックブームが竜の肉を裂いた。彼は地上から引き続き刃を放つ。バランスを崩した双頭竜の手綱をひき、子供が怒鳴った。
「‥‥旋律を奏でる者! 援護しろ」
 その魔物に向かって飛翔していくのは、エイジス。彼は用意したウィングシールドにより数分間空中戦を可能としている。無数の傷を負い、動きが各段に鈍っている竜を追尾する。苦し紛れに放たれた高速詠唱のブラックフレイム、トランスフォーム、幾つもの魔法を潜りぬけ、眼前へと飛び出す。
 白刃が煌めかせ、スマッシュを三連続で叩きこんだ。
 衝撃に子供は竜から投げ出され、後方へ派手に転がる。
 そして、その人物の足元で止まった。
「せ、ん、りつを奏でる、お前っ‥‥なぜ」
「先に警告はした。―――油断が過ぎるからこうなる。このまま、散るが良かろう」
「‥‥な、にをっ」
 身を屈め、転がり出た白い球を拾い、急上昇する。エイジスのウイングシールドの効果が切れるのとほぼ同時だった。
「逃がさない!」
 冒険者らはそれぞれの技で、男に攻撃を試みる。結界で阻み、魔物は微笑った。ダメージは蓄積し、皆、満身創痍だ。それでも向かってくる冒険者達に、男は言う。
「―――此度の闘い、貴様らの勝ちだ」
 男はぶん、と手を振る。煌めく白いものを、皆呆然と見やる。
「勝者たる者へ、子爵からの伝言だ。貴様らを、首都で開かれるある宴に招待する。二月か三月は先の事だ。それまで我々は今まで同様、子爵領各地で事件を起こす。我らの邪魔をするというのなら、追ってくるがいい!」
 翼ある魔物が、彼の楯になるよう、周囲を飛び交う。まだいたのか、とその翼ある魔物を冒険者らは疲労感に苛まれながらも、睨む。奴らは既に襲ってくる様子はない。白い塊――ロゼの命を。クインは拾い上げた。
「この島で起きつつある事象は、その時に明らかにしてやろう。子爵とあの娘は、表裏一体。強い光には、濃い影が生まれる。貴様らはいつか想う。このまま死なせてやった方が、幸せだっただろうと」
 銀の結界で身を護り、仲間達の攻撃を防ぎきって、男は消えた。

 地に残された魔物達は――天使の翼をもつ魔物もまた、大きく眼を見開き倒れ伏したまま。塵となって風に運ばれ、消えていった。