蜘蛛女の憂鬱2――ジャパン・江戸
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■シリーズシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:5〜9lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 95 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月12日〜06月19日
リプレイ公開日:2006年06月13日
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●オープニング
●女郎蜘蛛『真奈』
「あなたが‥‥その、妖怪なの?」
冒険者の一人が、一枚布を噛ませたような口調でその女性に問いかけた。
「しかり、この地にくくられて300年ほどになるかの」
貴人のような超然たる様子で、その女性――『真奈』は言った。
彼女の話を総合すると次のようになる。
300年前、華国から渡ってきた僧侶が彼女を調伏し、この土地にくくったそうである。それがいかなる秘術かは計り知れないが、いずれにせよ彼女はこの地に根ざしこの地を守護することとなった。
といっても、たいした仕事は無い。せいぜいが魑魅魍魎のたぐいを寄せ付けないことぐらいで、そんな事件も30年に一度あるか無いかというところである。
が、彼女も知らないことがあった。くだんの封印の件である。
「例のものは、私がこの地にくくられるより200年は前にあったものらしい。神代とまでは言わぬが、それなりの『もの』らしいの。その正体については我も知らぬ。そして、300年を生きた我よりしたたかで強力な『もの』じゃ」
そう言うと、女郎蜘蛛は衣服に手をかけた。するりと脱ぐと白磁の肌があらわになり、そしてそこにあるえぐられたような醜い傷跡を見せることになった。
「脚を2本食いちぎられた。糸の結界を張ってこの地を守ってはいるが、それもあまり持たぬ。一両日には『それ』も動き出すじゃろう」
女郎蜘蛛を一蹴した化生。
もしかしたら手に余るかもしれないと、冒険者の誰もが思った。
*
群馬の針井(はらえ)村を舞台にした冒険活劇。封印された魔物とは? この女郎蜘蛛を信用していいのか? 超速で力を取り戻しているらしい封印の魔物に対し、真奈の張った糸の結界は一両日には無力化される。一〇〇名余の村人を冒険者は守りきれるのか?
伝奇活劇ロマン第二弾!
●リプレイ本文
蜘蛛女の憂鬱2――ジャパン・江戸
●針井村の現状
針井村は、農耕を営む山間の村である。
村の敷地は、現代に換算しておおむね8ヘクタールほど。その9割以上は山の斜面に段々畑のように作られた水田で、現在は稲の青菜が茂っている。
斜面は南から北にそりあがっており、その上は深い森林だ。建物に使用する木材の伐採などはここで行われ、例の古刹もそこにある。
斜面の南側は、焼き畑農業を行っている。村自体は、野菜穀物のたぐいならばほぼ完全に自給自足していると言って良い。
街道と家屋はその田畑の境界を東西に走っており、外敵からの守りと言った点では非常にもろい。もっとも、真奈のおかげか鬼種もろくによりつかなかった村に、そのような防備が必要になることは過去一切無かった。
「予想以上に難しい依頼よね」
レンジャーのノリコ・レッドヒート(ea1435)が、率直な感想をため息と共に漏らした。
攻めるに易く守るに難しい地理的不安が、まともに的中している。獣が消えた山側に住むのは猟師が数名なので、避難してもらうのは容易いが、現状の戦力では彼らにも弓を取ってもらわなくてはならないだろう。
「長老の言っていた洞穴は‥‥これね‥‥」
ノリコの目の前には、しめ縄の張られた小さな洞穴がある。パラならさくさく進めそうなサイズの洞穴で、代々村長にだけ伝えられている洞穴だそうだ。
「いくか?」
鬼切七十郎(eb3773)が、刀の鍔(つば)を鳴らす。とりあえず有力そうな手がかりを得て、護衛もかねてついてきたのだ。
この洞穴、作ったのは古刹に化け物を封印した僧侶という話らしい。村長が子供の頃、この村を継ぐための心得としてこの洞穴の存在を告げられる時に一度だけ入っていったそうだが、その時に堂のようなものを見たそうである。が、すぐに怖くなり逃げ帰ってきたそうだ。
二人は身をかがめて、中に入っていった。中にはいると中はすぐに広くなり、なんなく進めるようになる。
明かりの届く範囲に、その堂らしきものが見えてきた。現代で言うなら神棚のようなもので、札が一枚封印のように貼ってある。
どくん!
――なっ!
その札を見た瞬間、ノリコの心に異変が起きた。えもいわれぬ恐怖が、その内面を浸食し始めたのだ。
動悸が止まらず、異常な汗を吹き出し、膝が笑い始める。
――怖い、怖い! 怖い!!
ばりっ!
その時、七十郎がその札を剥がした。
「魔法の罠だな」
あまり顔色の良くない様子で、七十郎が言う。彼にも同様の異変が起きていたらしい。
「並大抵の人間には近寄らせない仕掛けだろう。用があるのは並大抵ではない『誰か』ってことだ」
七十郎が、神棚の扉を開ける。そこには、刃物の先端のようなものが入っていた。
「槍の‥‥穂先?」
見たままを、ノリコが言う。持ち手は付いていないが、槍の穂先のように見えた。形は古い華国風に見える。
「これを使え、ってことだろうな」
七十郎が言った。
●助っ人参上?
アザート・イヲ・マズナ(eb2628)は、自分の経験と勘に従って村に防衛線を引いていた。といっても警護のため巡回する程度でしかないが、村人の協力を得にくい現状では出来ることもそう多くはない。
――ギャア、ギャア、ギャア。
その時、山の一角から一斉に鳥が飛び立った。何事かあったように見える。真奈の結界の外側だ。
アザートは駆け出し、その場所へと向かっていった。
しばらくして、何かが争っているような物音が聞こえてきた。
「マジックパーンチ!!」
どがっ! と何かをぶん殴る音が聞こえたかと思うと、アザートの頭上を何かが飛び越えていった。グシャっと地面にたたきつけられたそれは、多分小鬼だったもののようだった。
さらに進むと、湿った血臭が漂ってきた。
「マジックキーック!!」
ばごっ! と音がすると、今度はバキバキと木が倒れる音がして小鬼の悲鳴が響いた。何匹か下敷きになった、そんな感じだ。
アザートがたどり着いたその場所は、戦場のように荒れていた。倒れ、逃げまどう小鬼の中に、鬼が2匹――正確には、ジャイアントとなんだかよくわからない『何か』の魔物――。
魔物は、牛鬼を思わせる姿だったが身の丈が3メートルほどもあった。背中にこうもりのような黒い翼を生やしていて、西洋世界の悪魔を連想させる。2本あったらしいねじくれた角は1本折れていて、口からは食い潰した小鬼の内蔵の一部がはみ出ていた。
対するジャイアントは、真っ黒なローブに隆々たる筋肉の束を押し込み、『素手で』その魔物に対抗していた。
状況は掴めないが、魔物のほうが優勢に見える。ジャイアントは負傷しているが、魔物にそれは見られない。
「むう、このような地でこのような魔物に出くわすとは。道には迷ってみるもんぢゃのう!」
そう言うと、ジャイアントは魔物に向かって突進していった。そしてその豪腕をかいくぐり懐に潜り込む。
「《ローリンググラビティ》!」
その瞬間、魔物を中心とした直径3メートルほどの範囲のものが空中に持ち上げられた。そして空中に放り出された状態から何をどのようにしたのかよくわからなかったが、ジャイアントは魔物の頭を両足で挟んで空中から逆さに突き落とした。
現代で言うパイル・ドライバーである。
ずどん!!
牛鬼でも即死物の一撃が、地面に突き刺さった。
「ワシの相手は10年早かったなごはっ!」
余裕しゃくしゃくでその場を去ろうとしたジャイアントの背中を、魔物の拳が打った。ジャイアントは立木にたたきつけられてかなりのダメージを負ったようだった。
魔物が立っていた。ダメージなど、みじんも感じさせない。
――まずい!
「そこまでだ!」
アザートは武器を抜いて、その場に飛びこんだ。魔物はアザートを一瞥すると、腹に響く雄叫びを上げて飛び去った。
●結局
「糸の結界については、相手を感知し必要なら退けられるが、絶対的なものではない、これでいいかな?」
レオーネ・オレアリス(eb4668)が、真奈に問いかけた。それに真奈は「然り」と短く答えた。
レオーネは支援者から女郎蜘蛛についての情報を得ていたが、真奈は多少違うようだった。まあ、モンスターが皆判を押したように同じとは限らないからそれもやむなしであろうが、さすがに300年以上生きているとなるとモノが違う。
そこに、アザートが何かを担いで帰ってきた。
「どうした?」
レオーネが問う。
「魔物を見た。このおっさんはその魔物と戦っていた。何か知っているかもしれない」
ノリコと七十郎も戻ってきた。互いが互いの情報を交換し総合して得た結論は、相手は悪魔などに類するものではないか? ということだった。
「相手としては、きついかもしれないな‥‥」
七十郎が言う。頼りは、村の守護となる槍の穂先のみ。
「むう‥‥うむ? ここはどこじゃ?」
あ、このおっさんもいたか。
【つづく】