暴れん坊藩主#3−2――ジャパン・箱根
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■シリーズシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:5〜9lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 95 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月10日〜03月17日
リプレイ公開日:2005年03月19日
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●オープニング
■サブタイトル
『名物菓子が悪を斬る! 箱根湯元湯もち騒動 1』
【湯もち】
白玉粉と蜜を使った柔らかな餅に、刻んだようかんを散らしたもの。箱根の名物菓子の一つ。一つ一つ竹の皮に包まれていて、一口食べれば口の中にユズの香りが広がる。美味です。マジで。
●当世ジャパン冒険者模様
ジ・アースの世界は、結構物騒である。
比較的治安の取れたジャパンでも、その傾向は強い。人間が何かするよりも、ゴブリンやコボルド、オーガと言った鬼種による事件が、後を絶たないからだ。
それに対し、君主達は一応の警戒網を敷いている。しかし機能しているとは言いがたく、今日もそれら鬼種を含めた、様々な化け物による事件が減ることは無い。
そんな君主たちが歯噛みしている所で、出番になるのが『冒険者』である。雇われ者で無頼の輩。政道にまつろわぬ彼らは、金で様々な問題を解決する。汚れ仕事も進んで引き受け、様々な揉め事も解決してくれる。縦割り社会構造を持つ役人には出来ない、事態に即応した対処が可能な遊撃部隊ということだ。
それを束ねるのが、『冒険者ギルド』という組織である。
冒険者ギルドの役目は、仕事引き受けの窓口、仕事の斡旋、報酬の支払い、報告書の開示などが主に挙げられる。大きな仕事や疑わしい仕事は独自の諜報機関を用いて裏を取り、怪しい仕事は撥(は)ねるのだ。
基本的に、咎を受けるような仕事は引き受けない。仇討ちの助勢を行うことはあるが、暗殺などの依頼は原則として受けないのが不文律である。報酬の支払いは確実なので、冒険者としても安心して仕事を受けられるというものだ。
「というわけで、今日も『仕事』が入ってるわよん☆」
と、明るい口調で言いキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼人は、大野進之助(おおの・しんのすけ)っていうお侍さん。立場は貧乏旗本の四男坊っていうから、暇人には違いないんだけど、何にでも首を突っ込むのよね」
やれやれ、と、お京が苦笑いした。
「依頼内容は湯元の地回り『前橋一家』『倉敷組』『山田組』を調べ、その活動を阻止し白玉粉の流通状況を回復させること。前回の報告書の通り、この三つの地回りは粉屋に張り付いてその営業を妨害しているわ。彼らを排除しない限り、箱根の湯もちは復活しないわけ」
京子が、キセルを吸い付けた。
「粉問屋は、『松井屋』『志津屋』『いの屋』の3軒。相変わらず張り付かれているみたい。これはもう、蛇の頭を潰すしか無いわね。悪の根は元から絶たなきゃだめなのよ。ということで、よろしくね」
京子が言った。
●リプレイ本文
暴れん坊藩主#3−2――ジャパン・箱根
■サブタイトル
『名物菓子が悪を斬る! 箱根湯元湯もち騒動 2』
【白玉粉】
もち米を洗い水に漬けたのち水切りし、水を加えながら磨砕し、水にさらし、乾燥させたもの。寒中に作ったので、寒晒し粉ともいう。多くは菓子の原料として重用され、白玉もちなどに使われた。
●物価のからくり
正常な流通が行われていた場合、商品の物価は適正価格に収まる。
昨年はひどい干ばつや不作などは無かったので、物価はおおむね平常どおりの価格で取引されている。それは箱根の白玉粉についても同じだ。
だが悪どい連中は、それでは面白くない。もっと利益を! と考えた時に、値の吊り上げや商品の出し渋りなどの手段を取ることもある。
だが、商家一つがそんなことをやっても意味は無い。適正価格で物を売っている、善良な業者に客が流れるだけ。談合や買占めといった手段を講じなければ、効果を発揮するのは難しい。
そこで、今回の場合はどうだろうか?
箱根で白玉粉を扱っている『松井屋』『志津屋』『いの屋』は、別に値の吊り上げや談合といったものは行っていない。白玉粉の入手を妨げているのは外的要因――つまり地回りたちの『暴力』である。これはちょっとめずらしいパターンだ。
地回りたちに、何の利益があるのかは分からない。人を出すにも金がかかる。
そして、白玉粉の買い入れを申し出ている『元箱根』君主、黒田佐之助という人物の存在。
整理して書いてみると、裏で誰かが、何かを企図している様子がうかがえる。
その目的は、何だろうか? まあ、究極には『金』ということになるのではあろうが。その過程が問題である。
冒険者の調査は、その中間で糸を引いている『何か』に向けられた。
●調査の網
「庶民のためにお役人はいるのに、何故、庶民を苦しめることにするのでしょうか」
とぼやいたのは、大宗院真莉(ea5979)である。今日は夫の大宗院謙(ea5980)とは別行動で、独自に地回りたちの調査を行っていた。
今回調査対象となっているのは、『前橋一家』『倉敷組』『山田組』の三つの地回りである。平たく言うとやくざ。現在は暴力行為に及んでいるので、暴力団とも言えなくもない。
各地回りたちと君主の黒田。一見接点は無さそうである。他の武家から聞き込みをしても、黒田家は一時隆盛を極めたが、箱根関所の移動に伴って凋落の一途を辿っているという、わりとありがちな話を聞くにとどまった。武家筋ではあまりたいした話しは流れていないらしい。
「捜査の基本は足、って言うしな‥‥ひとつ行ってくるよ」
アーウィン・ラグレス(ea0780)は、主に町人からの情報収集を行っていた。地回り達の最近の動向について、他愛のない会話を交えて探りを入れてみる。
「その話、詳しく聞きたいんだけど‥‥構わないかな?」
調査の過程で、アーウィンは一人の町人と出会った。その人物は地回りたちの最近の行動について、情報を持っていたのだ。
「前橋と倉敷、そして山田ってのは、以前はすげぇ仲悪かったんだよ。それを仲立ちしたやつが居たんだ。秋谷っていう商家で、今まで仲たがいしていた地回りどもに金を配って、もろもろの事件を全部手打ちにしちまった。地回りが仲たがいすると、街は寂れるからねぇ」
あとはくどくどと与太話が続いたので、アーウィンは秋谷の名を胸に刻んで席を立った。
ゲレイ・メージ(ea6177)と巴渓(ea0167)は、まったく別の方向から秋谷屋の名に行き着いた。黒田以外の箱根の君主で、今回の事件に関わっていそうな人物を探っていて、深町という君主に行きあたったのだ。深町というこの君主は、秋谷屋に「粉屋がたいへんなことになっている」と話を持ち出し、粉の買い付けに携わってもらえないか、と持ち出したのだ。資金は秋谷屋が出し、深町はその粉を買い付け秋谷屋に卸す。それで話は終了である。
ただ深町家は、その話を断ったそうである。深町家も台所事情はあまり良くないとは言え、それは君主の権限で粉を買占めすることに他ならないからだ。悪の片棒を担ぐのは、御免である。
白銀剣次郎(ea3667)は黒田家を調べている久遠院雪夜(ea0563)に湯もちの差し入れを行い、自身も黒田家に張り付いた。黒田家は、世間で言われるような名家であったのは過去のことで、いかにも寂れているという感じであった。
ただ黒田家の家臣には隙が少なく、剣次郎が期待していた『酒で口が軽くなるバカ』にも行き当たらずあまり成果を挙げる事が出来なかった。黒田家の家臣たちは、どちらかというと緊張している。
「地回りたちについては、悪い評判しか聞かないでござる」
藤原雷太(ea0366)が、ぼやくように言った。地回りたちが何らかの理由により仲たがいをやめたという話は聞いたが、それ以降地回りたちは共同で悪い事をするようになり、この変の裏社会はだいぶきな臭くなっている。酒、賭場、女。どれもこれも、回転が良くなった歯車のように、悪の道をまい進している感じだ。これこそ裏社会の闇カルテルと言ってもいいだろう。
●地回り殲滅
粉屋に張り付いている地回りの殲滅には、大宗院謙と鷹波穂狼(ea4141)、鬼頭烈(ea1001)が当たった。それぞれ『松井屋』『志津屋』『いの屋』を担当する。ちんぴらの腕は想像通りで、各粉屋のちんぴらたちはほとんど何も出来ずに撤退した。それはもう、記録に残す必要が無いぐらいだ。
締め上げたちんぴらたちは、たいした情報は持っておらず、捜査の進展になりそうなことはほとんど無かった。ただ『覚えてろ!』と言っていたところを見ると、まだそれなりにやる気らしい。この手の地回りたちはだいたい用心棒を雇っている。次は彼らが出てくるのだろう。
ともあれ、粉の流通については(一時的にせよ)問題は無くなった。これでしばらくは、湯もちや他の菓子も問題なく食えるだろう。
だが、逆襲は必ずある。
●忍者の心得
先も書いたが、久遠院雪夜は黒田家に張り付いていた。《人遁の術》で変装し、女中として入り込む。そして来客者などをチェックした。
雪夜はあらかじめ、黒田佐之助について進之助から情報を得ていた。現在の『元箱根』の領主で、石高は五〇〇石ほど。街道が通っていた時は隆盛を極めたが、街道が変わり関所が移る事でずいぶんと寂れてしまったこと。
昔の贅沢を今もしようとすると、必ず金に困る事になる。ただ人間、一度染み付いた贅沢はなかなか取れないものである。
ある日、黒田家の前に駕籠がついた。中から出てきたのは商人風の男だった。
雪夜は早速、客間の天井裏に忍び込んだ。
「‥‥黒田さま、お心はお決まりになりましたでしょうか?」
「秋谷屋、まだしばらく待ってくれ。莫大な儲けが出るとは言え、買占めなどに関わるのは、さすがに覚悟がいる」
「黒田様は善人であらせられますなぁ‥‥ですが御家は凋落の一途。早く手を打たなければ、家は寂れるばかりですよ」
――なるほどう。
雪夜は思った。黒幕はこの商人のようである。
●対策会議
一同は今回の成果を、進之助に報告した。
「なるほど。黒田の権威を借りて、秋谷屋が粉の買占めを狙っているわけだ」
進之助が言った。
「しかし秋谷屋は、粉問屋ではないな。いったいどういうつもりなのだろうか‥‥」
進之助の言葉に、一同も首をひねる。ずいぶん回りくどいことをしているようにも見えるからだ。
その辺りに、まだ謎は残る。
「引き続き調査を頼む。今度は用心棒が出てくるぞ」
進之助が言った。
いわずもがな、であった。
【つづく】