暴れん坊藩主#3−3――ジャパン・箱根
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■シリーズシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:4〜8lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 45 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:04月17日〜04月24日
リプレイ公開日:2005年04月22日
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●オープニング
■サブタイトル
『名物菓子が悪を斬る! 箱根湯元湯もち騒動 3』
【湯もち】
白玉粉と蜜を使った柔らかな餅に、刻んだようかんを散らしたもの。箱根の名物菓子の一つ。一つ一つ竹の皮に包まれていて、一口食べれば口の中にユズの香りが広がる。美味です。マジで。
●当世ジャパン冒険者模様
ジ・アースの世界は、結構物騒である。
比較的治安の取れたジャパンでも、その傾向は強い。人間が何かするよりも、ゴブリンやコボルド、オーガと言った鬼種による事件が、後を絶たないからだ。
それに対し、君主達は一応の警戒網を敷いている。しかし機能しているとは言いがたく、今日もそれら鬼種を含めた、様々な化け物による事件が減ることは無い。
そんな君主たちが歯噛みしている所で、出番になるのが『冒険者』である。雇われ者で無頼の輩。政道にまつろわぬ彼らは、金で様々な問題を解決する。汚れ仕事も進んで引き受け、様々な揉め事も解決してくれる。縦割り社会構造を持つ役人には出来ない、事態に即応した対処が可能な遊撃部隊ということだ。
それを束ねるのが、『冒険者ギルド』という組織である。
冒険者ギルドの役目は、仕事引き受けの窓口、仕事の斡旋、報酬の支払い、報告書の開示などが主に挙げられる。大きな仕事や疑わしい仕事は独自の諜報機関を用いて裏を取り、怪しい仕事は撥(は)ねるのだ。
基本的に、咎を受けるような仕事は引き受けない。仇討ちの助勢を行うことはあるが、暗殺などの依頼は原則として受けないのが不文律である。報酬の支払いは確実なので、冒険者としても安心して仕事を受けられるというものだ。
「というわけで、今日も『仕事』が入ってるわよん☆」
と、明るい口調で言いキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼人は、大野進之助(おおの・しんのすけ)っていうお侍さん。立場は貧乏旗本の四男坊っていうから、暇人には違いないんだけど、何にでも首を突っ込むのよね」
やれやれ、と、お京が苦笑いした。
「依頼内容は湯本の商家『秋谷屋』の調査。前回の調査で名前が挙がってきたんだけど、どうも白玉粉の買占めを狙っているようなのよね。白玉粉は菓子の材料によく使われるから、流通が滞るとちょっと難儀なのよね。でも、前回粉屋にはりついたちんぴら達は排除したから、今は平常の戻っているわ。ただし、それは先日までの話」
京子が、キセルを吸い付けた。
「粉問屋、『松井屋』『志津屋』『いの屋』の3軒は、またもや何者かに張り付かれているみたい。黒田家の動きも気になるし、秋谷屋の動きも不気味だわ。とにかく悪の元根は断つこと。以上が、今回の仕事よ」
京子が言った。
●リプレイ本文
暴れん坊藩主#3−3――ジャパン・箱根
■サブタイトル
『名物菓子が悪を斬る! 箱根湯元湯もち騒動 3』
●買占めとは何か
『買占め』という言葉はよく耳にするが、その実態を正しく把握している人は意外と少ない。
辞書を引くと『独占的に買い集める。相場の騰貴(とうき)をはかって、商品・株式などを買い集めること』とある(広辞苑第5版)。
表面的にはそういう意味だけだが、これに経済が加わってくると話はぐるっと変わってくる。買占めとはすなわち投資であり、それなりにベタな経済戦略なのだ。
利潤や利益を拡大するために、商品を占有する。そこに競争原理は無く、ただ一つの業者のみがその利益に浴する。簡単な理屈だが、それは占有できればの話。もしそれが失敗したら、投資した金は丸々大損をする。悪くすると、家の屋台骨が傾く。
だから、買占めをする側はそれなりに準備を怠らない。獲物は、確実に一発で仕留める。そういう姿勢で行うのが買占めなのだ。
そして、一つの商品の流通を滞らせる事には、また別の意味がある。相場の騰貴以外に、関連商品の流通を滞らせ、相場をいじるというものだ。今回の白玉粉の場合、あずき、寒天といった商品以外に、砂糖といった高額商品の相場を操るという効果が考えられる。
「これは箱根限定の話だが、箱根宿の人間はわりと相場にうるさい。湯もちに限らず米にせよ小豆にせよ、また味噌や醤油、塩といったものの多くを他藩に依存しているため、どうしてもその辺りに強く意向が向いてしまうのだ。たとえばこの味噌汁の椀ひとつとっても、味噌問屋を押さえられてしまうと箱根はどの宿場でも味噌汁を出せなくなってしまう。もちろん専売させるわけにはいかないので味噌問屋だけでも箱根には五軒あるが、その問屋間で談合などが行われないように俺――いや、君主大久保忠義さまは目を光らせているわけだ」
と言って、味噌汁をすすったのは、きょうび『暇人』の地位を固めつつある依頼人、大野進之助である。
「秋谷屋って、何の問屋なの?」
久遠院雪夜(ea0563)が、進之助に問いかけた。
「新興の砂糖問屋と聞いている」
和三盆といった精白糖(あるいは分蜜糖)が現れるまで、ジャパンの砂糖はサトウキビや竹丈(ちくじょう)から絞られたものを煮詰めた、黒砂糖が主流である。だがそれが庶民の口に入るようになったのはごく最近の話で、それまで砂糖は漢方薬の一種だった。華仙教大国との交易品としてジャパンには伝わり、現在はイギリスからの輸入でその多くがまかなわれている。砂糖ひとつとっても、イギリスがあげる莫大な利益は計り知れない。
それはともかく。
「なーるほど、それで白玉粉を買い占めて自分のところの砂糖の値もつり上げようと」
「いや、それは違うな」
雪夜の言葉に、白銀剣次郎(ea3667)が、飯盛り茶碗を片手に割り入った。
「白玉粉が流れなくて高騰したのは、饅頭や菓子の相場だ。砂糖の相場はそれほど動きがない。どちらかというと、秋谷屋は砂糖をだぶつかせている。いやむしろ、相場の下落に乗じて砂糖を買い込んでいる」
「よ、帰ったよ、進さん。紹介状、ありがとうよ」
そこに、やけに普段とは違うやけにキチンとした風体でやってきたのは、ジャイアントの女志士、鷹波穂狼(ea4141)である。彼女は秋谷屋に買占めをもちかけられたという、深町家に出張ってきたのだ。進之助経由で木賀領主、河合秀文の紹介状をいただき、土産に駕籠までいただいてのご帰還である。まず最上の厚遇と考えていい。ちなみにみやげ物は、最近すっかり高値になった菓子の詰め合わせであった。
馬子にも衣装というが、今の穂狼がそれであった。といっても、宿屋に入った瞬間片肌脱いで、いつものような風体になっている。内側から押し上げる筋肉が『あー、窮屈だった』と言っていた。
「秋谷の目的は、砂糖相場の下落だね」
茶をすすって、穂狼は話を始めた。
「何か意味ありげじゃな」
不良老人、剣次郎が言った。
「まあね。深町家では、今回のことに対して関せず、という姿勢を貫くことで、平たく言えば保身を図るみたいだ」
過分に政治的な意味を持つ言い回しで、穂狼が言った。
「からくりはこう。まず粉問屋を押さえて菓子の流通を阻害する。当然原料の白玉粉は高騰する。でも同時に、砂糖の値段は下がるんだ。なぜかと言うと、砂糖の消費が抑えられるから。売れないものは値段が下がる。市場原理の原則さね」
「そこで、秋谷屋は砂糖を買い占める」
なるほど読めたぞ、というように剣次郎が一言入れた。
「そう、つまり安くなった砂糖を買い占めて、今度は流通を元に戻すわけさ。そうすると、砂糖はほとんど秋谷屋の独占市場になる。つまり、利ざやのデカい商品でぼろもうけできるってわけ。同時に秋谷屋は、やくざに一言入れてその素行を正した正義の味方という評判も得る。そしてその最終目的は‥‥」
「『御用商人』の看板か」
刀を手にしたデブ浪人、鬼頭烈(ea1001)が言った。
「察しがいいねぇ」
と、穂狼が言った。烈の言葉は否定しなかった。
まあ、今回の件は、ちょっとしたマネーゲームのようなものである。『風が吹いたら桶屋が儲かる』ではないが、ふすま一枚向こうでほくそえんでいるやつが居るということだ。ちなみに、秋谷屋は法を犯しているわけではない。だぶついた商品を引き取っているので、むしろ善良そうに見える。
「あくどいよねぇ‥‥」
雪夜が、ほほを膨らませて言った。
●黒田佐之助に会う
ちょっと誤解があったようなので訂正させていただく。
黒田佐之助は箱根の元君主ではなく、『元箱根』という地域の君主である。箱根の君主はここ2代、小田原藩の大久保家が勤めている。
さて大宗院謙(ea5980)と大宗院真莉(ea5979)の夫妻は、今現実に状況のよくない黒田家へと足を運んだ。進之助が手配した木賀の河合の紹介状を手に、遺漏なく佐之助との拝謁手続きを進める。拝謁と言いながら、そのイニシアチブは大宗院夫妻が握っているところが微妙である。
黒田家の傾き方は、門構えからして見て取れた。凋落の一途という言葉が似合いすぎるたたずまい。はっきり言って隙だらけである。悪人が目を付けるのもうなずける。
二人はいつになく真面目な表情で、屋敷へと入っていった。
「黒田佐之助である」
半刻ほど待たされたが、佐之助との面謁は無事に果たされた。
佐之助は、えらの張った四角い顔の男であった。威厳はありそうだが徳はあまりなさそうである。もっとも、人間は環境が作るもの。妙な格式や家風がなければ、もう少し活きた目をしているはずである。ある意味、彼も犠牲者と言える。
ちなみに大野新之助から聞き込んだところによると、佐之助は元箱根の領地変えで得をしたはずの人物であった。所領300石前後にさらに100石追加し、東海道の主幹を外れても問題の無いように、藩主大久保忠義によって手配されていたそうである。
結論から言うと、資産運用に失敗した侍の典型であった。
「はじめまして。大宗院真莉と申します。こちらは夫の大宗院謙でございます」
丁寧に、真莉が礼をする。
「そこもとらは木賀の河合様の知己ということだが、今回は何用で参ったのかな」
「それでは率直に申し上げます。黒田様は、何故、秋谷屋に組みなのすですか。秋谷屋には闇の部分があることは、黒田様のことですからご存知ではないのですか。それとも現在の君主に、何かご不満でもあって藩を混乱させるつもりなのですか。君主であるのですから、それが民に苦を与えている事に気づいてないというのでしょうか。己の誇りよりも民の幸を望むのが、上に立つ者の使命であると思います」
ずばっと、本丸を突いた発言である。これが町人なら、このまま斬首されても文句は言えない。
その言葉に、黒田は苦虫を噛み潰したような顔になった。
「黒田殿も侍なら、例え落ちぶれても、自分の信念で生きてみたらどうですか?」
佐之助は謙の言葉に、最初顔が赤くなり、そして青くなり、そして最後には紫色になった。何か心の中で、さまざまな葛藤があったようである。
「わかった。秋谷屋の件からは手を引く」
最後に、佐之助はそう言った。これで、外堀は埋まった形になる。
●三匹が斬る!!
さて、こちらは粉屋の掃除に向かった面々である。面子は鬼頭烈、アーウィン・ラグレス(ea0780)、レヴィン・グリーン(eb0939)の3名。別に全員が『斬る』わけではないが、細かい事は気にしないでほしい。
粉屋の掃除は、ことのほか順調だった。浪人ものが多く手間取りはしたが、それほど大きな混乱も無く邪魔者を排除してゆく。彼らは地回りたちの子飼いの者たちで、地回りたちが金を出していることも突き止めた。主にレヴィンの尋問によってだが。
「これで終了だぜ」
アーウィンが手をはたきながら言う。彼はイギリスのファイターだが、武器を使わず素手で今回の事に当たっていた。
「意外とあっけなかったな‥‥」
烈が、刀を鞘に戻しながら言う。少なくとも、5人ぐらいは戦闘不能にしただろう。町人は刀を持つ相手に対して明らかに劣勢だが、同じ浪人者である烈にとっては同格。手加減無しなら、まず技量で遅れを取る事は無い。
「よお、派手にやってるな」
そこに、やけに陽気な声がかけられた。
「貴様っ!」
烈が、てきめんに顔色を変える。
そこには、三〇がらみの浪人が居た。襟元から手を出し、無精ひげの浮いたあごを撫でている。
「烈、誰だ?」
アーウィンが言う。
「俺の名前は茨木三十郎(いばらぎ・さんじゅうろう)。見ての通り浪人よ」
浪人――三十郎が言った。
「何しに来た」
警戒もあらわに、烈が言う。
烈は知っている。この浪人者が凄腕の剣客であることを。『刃折りの烈』の刃を折った男なのだ。
「まあ、そういきり立つな。俺はまだ雇われちゃいねぇよ。ただ忠告しに来ただけだ」
「何ですか? 早く言いなさい」
レヴィンが言った。
「『手を引け。さもなくば怪我をするぞ』だそうだ。お前ら、なんか金がらみで事件を抱えているだろう。それから手を引かなきゃ‥‥あとは言わなくてもわかるよな」
「嫌だといったらどうします?」
あくまで強気に、レヴィンが言う。
「面倒な事になる。ま、刺客の一人や二人は覚悟してくれ」
三十郎が言った。
「聞くと思うのか?」
烈が答える。
「知らねぇよ。俺は伝えたからな。じゃ、あばよ」
三十郎が、きびすを返す。
「なんでぇ、見掛け倒しじゃん」
アーウィンが腰に手を当てていった。
はらっ。
そのアーウィンの前髪が、一房落ちた。
「「「!!」」」
何が起こったのか、理解できない。おそらく居合いの一種と思われるが、そんな仕草は三十郎に見えなかったのだ。
「厳しい戦いになるぞ」
烈が言った。
【つづく】