箱根温泉防衛隊 4――ジャパン・箱根
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■シリーズシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 46 C
参加人数:9人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月04日〜10月11日
リプレイ公開日:2005年10月05日
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●オープニング
●坂城源八郎登場
「私の名前は、坂城源八郎(さかき・げんぱちろう)である。この度、日ノ本一之助に代わってこの『箱根温泉防衛隊』を預かることになった」
突然やってきたヒゲ面の中年侍にそう言われ、箱根温泉防衛隊の隊士は、顔の疑問符と当惑の色を隠せなかった。
前回の任務で確かに、日ノ本一之助は重大な負傷をしてここ一ヶ月ほど隊を離れている。リハビリを入れれば、回復まではもう少し時間がかかるだろう。
ゆえに、隊は現在、ごく小さな仕事――街道の警備や町内の治安強化といった――をしながら、日ノ本の復帰を待っていた。
だがそこにやってきたのが、この坂城なにがしとかいう、いかにもエラそうな男。権力欲の強そうな外見をしていて、冒険者を見る目もなにやらいわくありげだ。
「我が隊に軟弱者は必要ない。任務遂行には命がけで当たれ。さもなくば腹を切れ!」
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「ちょっと悩ましいことになっているみたいなのよねぇ」
いつものようにいつもの口調で、冒険者ギルドの番頭である烏丸京子は言った。
坂城なにがしの襲来でカチンときた冒険者の何人かが、事の次第を京子に問いただしに来たのだ。
「日ノ本さん、実はけっこうな切れ者でね。ただほら、切れすぎる刃物って危ないでしょ。組織に属して組織そのものを健常化させるのはいいんだけど、例えば賄賂を受け取ってくれないとか、線引きのきっちりしすぎた人なのよ」
清いことが常に美徳とは限らない。必要悪というものがあるように、清濁併せ呑むことは常に必要だ。大人は汚れてなんぼ。奇麗事だけでは、社会は機能しないのである。
「防衛隊はよくやっていると思うわ。評判もいいし実際箱根の知名度も上がっている。それはもちろん、旨味も増しているということ。その坂城なにがしは、その旨味目当てでこの役の代行を申し出たのかもね」
箱根の治安と日ノ本の面子を考えれば、仕事の手を抜くことはできない。しかし坂城なにがしの元で成果を挙げれば挙げるほど、日ノ本の復帰は遠くなる。
日ノ本との信頼関係を感じ始めた冒険者諸賢には、なんとも悩ましい状況であった。
【ミッション4:山賊退治】
東海道に『三野の勘三郎』という盗賊一味が出るようになりました。特徴は数名の浪人を囲い込んでいることで、生き残った人間の証言によると一人は居合いの使い手だそうです。
盗賊の人数は約30名。大物隊商ばかりを狙い皆殺しにする凶賊なので、手加減は無用との事。現在いずこかに人質(主に女子供。人数不明。全員町人)を取っているので、その救出も任務に含まれます。役人側からは、坂城源八郎以下10名の小田原藩士が出ます。
●リプレイ本文
箱根温泉防衛隊 4――ジャパン・箱根
●正真正銘
盗賊は悪であるが、邪悪ではない。
禅問答のような繰(く)り言葉だが、嘘というわけではない。盗賊行為は悪い事だが、それを行う人間は邪悪なわけではないことのほうが、多いのである。
例えば盗賊に襲われた場合、通常は荷の一部を放棄すれば見逃してくれる場合が多い。盗賊の目的は殺戮ではなく、荷の確保にあるからだ。交渉だって充分通じる。相手だって、楽に獲物を獲得したいのである。
だが、今回の『三野の勘三郎』なる盗賊は、その常識というか基本的な人間の良識を、第一宇宙速度ぐらいでブッチしている。累々たる屍の数がその証左だ。50名以上殺した盗賊ともなると、もはや人間性といったものまでも疑ってしまう。
つまり、勘三郎は正真正銘の悪党である。
●琴宮茜(ea2722)の場合
「なるほど、事情は分かりました」
思っていたより反応が鈍いと、私は日ノ本さんの言葉を聞いて思いました。
私の名前は琴宮茜、ジャパンの女志士。
ここは箱根のとある療養所。日ノ本さんが怪我をしている最中に、世話になっていた場所です。
「何も思わないんですか?」
私は思わず、日ノ本さんに問いかけてしまいました。私は日ノ本さんに、坂城なにがしのことと隊員達の動揺を伝えたのです。
しかし日ノ本さんは少しだけ考える顔になると、「全力を尽くして下さい」と言いました。
「私の療養は長くなります。ずいぶん肉も落ちてしまいました。私の体面などよりも、今は箱根に現れた凶賊の退治が先決です。まずは任務の成功を優先させて下さい。私が戻るかどうかは二の次です」
その言葉に、私は不満を隠せませんでした。しかし、日ノ本さんの言葉も分かります。世の中には、清廉潔白な人間の方が少ないのです。
――でも、私は日ノ本さんのほうがいい。
前歯まで出掛かった言葉を、私は飲み込みました。
●レダ・シリウス(ea5930)の場合
『箱根をやけに大きな隊商が出ていたんじゃ。じきにこの辺を通るのじゃなかろうか?』
わたしはシフール共通語で、道々通りすがる同族に噂を流して回った。
私はレダ・シリウス。エジプトの女ジプシーじゃ。
シフール便の格好をしているのは、噂を広げるための変装じゃ。今回の凶賊――勘三郎一味を捕縛するために、隊商に変装した防衛隊を襲わせるための一手。つまり餌を撒いているわけじゃ。
しかし悲しいかな、わたしはジャパン語を話せないのじゃ。お陰でずいぶんと、噂を広めるのに苦労しているの。この苦労が報われるといいのう。
散々話をし倒して、わたしは防衛隊の所に戻って襲撃に備えたのじゃ。今日は太陽が出ていないので魔法の出番は無いかもしれぬが、追跡にはおあつらえ向けじゃ。何せ誘拐された人たちも助けねばならんからな。
後は待つのみ、じゃ。
●南天桃(ea6195)の場合
「さっそく出発するですよ〜」
私がそう言うと、偽装隊商はゆっくり動き始めました。坂城源八郎さまは一人馬を駆り、やけに威張った風体で先頭を進んでいます。
私は南天桃。ジャパンの女志士。でも職業は歌い手ですよ〜。
馬が坂城さまの分しか無いのは、坂城さまいわく「相手を油断させるため」だそうです。でも私には、自分だけ楽をしたいからとかに見えますね〜。
おだてには弱いようで、面白いように私の言うことを聞いてくれましたけどね。
現在偽装隊商は、ほとんどの冒険者を荷車の中に隠して、今は坂城さまの直属となった侍たちの護衛のみという構成で進んでいます。隊商が移動するのは三日間。全行程約6里(約18キロメートル)ほどの強行軍になります。
往路では、とりたてて何も起こりませんでした。ただ荷車の中の人たちは蒸し風呂状態だったらしく、かなり汗をかいていたようです。やがて復路となり、シリウスさまが隊商に合流しました。噂は流しつくしたとのことですが、動きがなかなかありません。気軽な旅で結構ですけどね。
もっとも、この後すごい苦労をすることになるのですけど。
●グラス・ライン(ea2480)の場合
――日ノ本はんのために頑張ろう。
断固たる決意で、うちは今回の任務に臨んだ。
うちの名前はグラス・ライン。インドゥーラ生まれの、エルフの女僧侶や。
坂城なにがしいう人物は、うちから見れば最悪で最低な人間や。俗物で金にがめつく、欲を隠さず人種を差別しとる。ハーフエルフのアレクサンドルやエルフのうちなんか、はなから当てにしていないみたいなそぶりやった。シフールのレダなんか、眼中に無いんやないやろか?
日ノ本はんがしっかり教育しておらんかったら、防衛隊の侍集団のほうもボロボロやったやろう。隊の何人かは、陰でうちらに頭下げとった。人間から見ても、坂城なにがしは恥ずかしい部類に入るらしい。
往路の三日間を終え、一日休んで復路になった。相手が襲ってこないと話にならんけど、今回は待つのが仕事や。そして何より、さらわれた人質を救うのが第一や。
やがて、その時は来た。黒装束とてんでばらばらの着流しの集団が、前と後ろを遮断する。その数は30を軽く超えとった。多少聞いてた話より層が厚そうや。
《コンフュージョン》のスクロールを取り出すころには、とっくに戦闘がはじまっとった。
●緋邑嵐天丸(ea0861)の場合
戦技を駆使し、たて続けに3人を戦闘不能にしたところで、俺は『そいつ』に行き当たった。眼光が鋭い、一目見て手練れと見れるヤツ。戦闘局面で二本差しを抜いていないのは、その技が居合いであるゆえんであろう。
俺の名は緋邑嵐天丸。ジャパン出身。人間の浪人。
戦いの腕前はかなりのものと自負しているが、『そいつ』もかなりのものを持っているように見られた。
俺が居合いを見切れる確率は五割がいいとこ。相手が技を駆使すれば、その確率はさらに半分に落ちる。
しかし、それはこちらも同じだ。俺もかなりの居合い術を使える。条件は五分と五分。そう思っていたところに、俺の油断があった。
足の指で地面を噛むような間合いの取り合いの最中、ヤツは小柄を投げてきたのだ。完全に不意を打たれた。しかもその小柄は、正確に俺の右目を狙い、眼球を撃ち抜いた。
片目になり、距離感を失っては居合いも発揮できない。俺の繰り出す刀身をヤツは悠々とかわし、逆に俺はヤツの居合いに切り刻まれた。
全体の趨勢がこちらに傾くと、『そいつ』はどこかへ逃げていった。不敵な笑みを残して――。
おそらく、わざと死なない程度に手加減したのだろう。
完全な、敗北だった。
●南天流香(ea2476)の場合
序盤の戦闘は、数で押されてこちら側が不利だったわ。でも冒険者が押し出すと、相手の力量にはさすがにバラつきがあり、スキマもずいぶんありそうだったわ。わたくしはそこに《ライトニングアーマー》と《ライトニングソード》を装備して、吶喊していったわ。
わたくしは南天流香。ジャパン出身の女志士、22歳。現在花婿募集中。酒飲みのお嫁さんでもいいって言う人がいればの話だけど。
隊士のみんなは、グラスを始めとする術者を守るのに精一杯のようだったわ。ただ隊の発足時に比べて、格段に腕前は上がっていたわね。弱いなりに連携も考えているようで、三人一組で相手にかかっていたわ。
わたくしはその戦列に立って、敵の層の厚い部分の切り崩しにかかったわ。数が問題なら減らせばいいこと。簡単な図式よね。もっとも実行するには、戦列が確保されていることが条件だけど。
それよりも、坂城なにがしはどこに行ったのかしら? 馬は置き去りになっているけど、姿が見えない。逃げるような場所も無いし、いったい指揮もせず何をやっているんだか。
●李雷龍(ea2756)の場合
――日ノ本さんも悩み所でしたが、今回の方は更に悩み所ですね。
と、僕は思って盗賊の一人を殴りつけました。
僕は李雷龍。華国の武道家です。
馬鞭を持って『指揮』しているのは、坂城なにがしさん。ただし僕の後ろで「行けー!」だのなんだの言っているだけ。大鎧はそのままですが烏帽子を脱ぎ捨てており、それなりに『目立たない』ようにしているようです。
僕は拳法を駆使して、たて続けに4人ほどを戦闘不能にしました。他の方の働きもあって相手の数が10人を割るころには、盗賊も逃げ腰になっていました。
そして、事実逃げました。そこを坂城さんは「追え! 逃がすな!」と愚昧にもほどがある指示を出します。
戦闘集団は戦って相手を撃滅するのがその主任務なのに、いまさら「追え!」は無いと思います。そんなことは当たり前なのですから。
日ノ本さんはその辺、しっかりしていました。目的と手段を明確にし、そして実行する。任務達成のためには、自分自身ですらコマとして見なす。
そして何より、人より率先して危地に立つ勇気がありました。
愚痴はともかく、逃げる盗賊の処遇を決めなければいけません。まあ、はっきりしているのですけどね。
僕は倒れている盗賊を引き起こすと、尋問を開始しました。
●マミ・キスリング(ea7468)の場合
レダ殿と流香殿の追跡、そして李殿の尋問によって、盗賊の隠れ家が明らかになりました。
私の名前は、マミ・キスリング。フランク王国出身の女ナイトです。
私を含む討伐隊は隊伍を組み、隠れ家のある山中へと進軍しました。主に冒険者で構成された討伐隊は、捕縛した20名余の盗賊を侍たちに任せ、レダ殿の案内で森に分け入ります。これには、坂城殿も加わりました。
レダ殿と流香殿は空を飛んで追跡したので分からないことでしたが、山道はかなりの難所でした。盗賊たちがどのように略奪品や人質を運んだのか把握できませんが、おそらく山に詳しい者がいるのでしょう。獣道や高低差の少ない場所を行けば、我々の2倍か3倍の速度で移動することが出来そうです。
この不利を、我々はもう少しきちんと把握すべきでした。
山道の途中で弓矢の攻撃を受けたとき、我々は事実上足止めを食ってしまいました。木々の茂る山間で弓矢というのもあまり有効な手段ではありませんが、足止めが目的ならこれほど有益なものはありません。《オーラシールド》で矢をはじきながら、私は何のための時間稼ぎかを考えました。そして程なく、逃げるための時間稼ぎであることに思い至りました。
「強行します!」
私は他の方の返事を待たずに、足を踏み出しました。
●アレクサンドル・リュース(eb1600)の場合
俺は、時間との戦いは苦手だ。戦いは速度と破壊力。チマチマ考えながら戦うのは好きじゃない。
俺は突出したマミのカバーに入るように歩を進めた。矢はほとんどがめくら撃ちであさってのほうに飛んでいったが、一発だけ俺の肩に刺さった。ただたいした傷ではなかったので、無視した。
俺の名はアレクサンドル・リュース。ビザンチン帝国生まれの、ハーフエルフのファイターだ。
俺たちは石臼で穀物を挽き潰すように、ゴリゴリと前進していった。どうせ矢玉には限りがある。逃げるための時間稼ぎがしたいのなら、させなければいい。
やがて、矢が尽きたのか俺たちの接近に恐れをなしたか、敵の気配が散って行った。後続に無言で進軍を促すと、あとは悪路との戦いになった。
しばらくすると、偵察に出ていたレダが、血相を変えて戻ってきた。何か一生懸命ボディーランゲージを含めてアピールしているのだが、何を言っているのかさっぱり分からない。言語に通じている李が解読したところによると、盗賊の隠れ家が燃えているらしい。
自然に火が出るわけは無い。ならば、盗賊が人為的に着けたのであろう。その理由は?
――証拠隠滅!
人質の口封じと、略奪品の消去。その目的に思い至った瞬間、俺は走り出していた。スタミナ配分など、考えなかった。
●記録者記す
人質の救出は、からくも間に合った。しかし間に合ったというだけで、煙を吸い込み瀕死の者も数多くいた。
人質のうち5名ほどは、めぼしい略奪品を運び出すための人足として連れて行かれたという話しである。勘三郎はアレクサンドルの《スタンアタック》で捕まっていたことが判明したが、手下10名弱を逃がし、完勝というわけにはいかなかった。
後日、一人の女性が堂ヶ島で保護された。盗賊の手下に連れ去られたはずの女性だ。隙を見て逃げ出したのだという。
女性が言うには、堂ヶ島のどこかに手下どもが潜伏しているという。
情報を待って、次の依頼があるだろう。
なお、今回の件で坂城源八郎は一定の評価を得た。どこまで実体に沿った報告が源八郎から成されたかは知る由も無いが、結果として勘三郎を捕縛し人質を全員救出したのは防衛隊の勲功である。
日ノ本の復帰は、少し遠のいた。
【つづく】