小さな靴屋さん3〜自由を呼ぶ靴
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■シリーズシナリオ
担当:宮崎螢
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 64 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月06日〜03月09日
リプレイ公開日:2005年03月12日
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●オープニング
「ほお、幸せの靴を、今度は君のところが扱う、というのかね?」
「はい。ぜひ、どうかご贔屓になさって下さいませ」
「最近、あの店で幸せの靴が売りに出されなくなって、寂しいと思っていたのだよ。本当ならば楽しみな事だ。で、いつから発売されるのかね‥‥」
「近日中に‥‥必ず」
「楽しみにしているよ」
「えっ? 今日も幸せの靴、売ってないんだ。残念」
『彼』は路地に立ち、人々を見つめている。
一人の少年シフールがいた。
彼は腕のいい靴屋だった。素晴らしい靴を作る才能を持っていた。
それ故に奪われ、姿を消した。
だが『彼』は思う。
「あいつにとって‥‥本当の幸せは何だ?」
冒険者達は悩んでいた。
彼らには解っている。一人の少年シフールが今、自由の羽をもぎ取られ冷たい床の上に伏している事を。
助けたい。心の底からそう思う。
それは容易くは無かった。
表向き、そこはごく普通の商店。泥棒でもなければ、犯罪者でもなく、周囲を民家に囲まれた普通の商店、普通の靴屋なのだ。
店に入れば
「いらっしゃいませ、ターグの店へようこそ」
笑顔の主人が出迎えてくれる。彼の独特な口調と性癖に引くものも多いが、その店はそこそこ繁盛している。
とにかく、物が安いからだ。
精巧な靴屋の仕事は時間もかかるし、高い。
勿論品質は段違いだがとりあえずのまにあわせにはいいと、言う者も少なくは無い。
それは否定すべき事でもないのだが‥‥一人の少年の拉致に関わっているとなれば大きな問題だった。
「あたし達が調べているのが解ったからか、それとも違うのか。解んないけど、何人かごろつきっぽいのが出入りしているらしいわよ」
「‥‥どうやら、新規顧客開拓の為に上質な靴と、お客、を手に入れようとなさっているようです。職人の皆様、志も技術もあまりよろしくは無い様で‥‥」
調べた事を仲間から聞いて彼らは頭を抱えた。
「あの子がいれば両方手に入る、か‥‥つくづく汚いな」
だが、孤児である少年がそこにいたとしても、それをしかるべき所に伝えても、拉致と認められるだろうか?
まして、保護者である者はその移動を認めている。
お金の取引もあったとすれば少年が人間でない事も含めて、あの店を、主人を罪に問うのは難しそうだった。
「でも、このままだと、カトルくんがかわいそうなの。ぜったいたすけるの!」
小さな拳は皆と同じ、いやそれ以上の思いを握り締めている。
手の平の緑のマフラーを青年も同じ思いで見つめていた。
「でも、どうしたら‥‥」
何度目かの呟きの後、ギルドの扉が開いた。
何人かの人物は目を瞬かせ、そして眉を潜めた。
跳びかかって蹴りをかましかねない少女を抑え、若者はどうしたんだ? と来訪者に問うた。
『彼』はテーブルの上に袋を置く。ざらざらと、金貨、銀貨が溢れた。
「あいつを、取り戻してくれ。頼む!」
「座長さんよ。一体どうしたんだい?」
彼女の声は軽いが言葉に秘められた思いは決して軽くは無い。追求する眼差しから逃げず座長と呼ばれた男はこう答えた。
「俺達は、今月にはパリを出る。あいつにとっての幸せを考えたが‥‥少なくとも今のあの男の所に行く事があいつの幸せだとは思えない。金は返すから‥‥あいつを取り戻してくれ」
「だったら、自分で行けばよろしいのでは?」
その言葉に座長は首を横に振った。もう行った、と。
「だが、あのカマ野朗、そんな子供知りませんわ、とぬかしやがった。誰か人違いでは? とまで。あの顔を忘れるわきゃあねえのに」
要するに、しらばっくれられたという事なのだろう。
そして、それは同時にあの店では、カトルをまともに靴職人として扱う気も無いという事を意味する。
もっとも、一度助け出してしまえば‥‥。
「この金は、どうしたっていい。あいつに叩き返そうがあんたらの報酬にしようが、どうだって。だが、あのカマ野朗にだけは、あいつをカトルを預けてはおけねえ! 頼む!」
「おとなってかってなの。こうかいするくらいならさいしょからやらなきゃいいの」
小さな子供は時として賢者である。その言葉を俯いて受け止める男の背を見つめ冒険者は仲間に問うた。
「さて、皆、どうする?」
答えは、それぞれの胸の中で決まっていた。
●リプレイ本文
●幸せの靴を求めて
上流階級の集う酒場で、月色の髪の歌い手が歌う。
♪トントントン、キュッ、ギュッ
楽しいリズムが流れ出す
素敵な靴を作る音
トントントン、キュッ、ギュッ
夜が明けると出来ている
誰かが作った素敵な靴
トントントン、キュッ、ギュッ
謎の靴屋は誰でしょう
それは誰にも分からない♪
楽しそうに歌う少女に周囲の顔も童心に帰る。
「今度そういえば『幸せの靴』がターグさんの店で扱われるそうですね」
ほお、小さな呟きは噂となって静かに街に広がっていく。
「知ってるかい? ベベン 知ってるかい? ベベン 幸せの靴を知ってるかい? べべン!」
リズムに乗って陽気な声が町に響く。
「噂で聞いたんだけど、今度ターグの店で幸せの靴が扱われんだってよぉ。いやぁ、ぜひとも欲しいよねえ」
街の路地、あちらこちらでそんな噂が広がっていく。そして‥‥。
「幸せの靴、っていつい売り出すの!」
「私も欲しいわ。一体いくらなの?」
「ちょ、ちょっと押さないで下さい。順番に‥‥」
ターグの店に押しかける人の群れ。
その様子を見つめフィニィ・フォルテン(ea9114)とアリア・プラート(eb0102)は小さく指を立てあった。
喧騒の中、一人の人物がターグの靴屋を訪れた。
礼服を纏った若い人物だ。スカートを風に裁きながらその人は店の奥に声をかけた。
「あの、幸せの靴に憧れているんです。弟子に、して頂けませんか?」
工房から現れた何人かの職人にその人物は、ニッコリと微笑みかける。
なんとも形容しがたい、不思議な笑みで。
●奪還作戦 計画中
近日発売の案内にやっと納得したのだろう。人々の影もようやく去って行った。
人の消えかけた靴屋の奥で店の主、ターグは当り散らすように怒鳴る。
「ったくもう! なんでいきなりあんなに人が押し寄せるのよ! 払いのいいお得意様だけにって思っていたのに!」
ぷんぷんと頬を膨らませるターグを店の者達はまあまあ、となんとか宥めようとする。ため息をついた後、彼は店主の顔になった。
「で、どうなの? アレの様子は?」
声を潜めて周囲を見回した。夕刻の店はもう人も少ない。今、いるのは若い騎士が一人だけだ。
「なかなか‥‥強情で‥‥身体も弱ってますし」
「何を言ってるの? もう、こうなった以上のんびりなんかしてらんないのよ! ちょっと脅かしてもいいわ! とっとと靴を作らせるのよ!」
部下に命令する甲高い『彼』の声を背に騎士はゆっくりと店を出たのだった。
「‥‥くふふ、カトルくんをつかまえているのはカマさんだったの♪‥‥くふ、くふふふふふふ♪」
怪しく冥いオーラを出して微笑むレン・ウィンドフェザー(ea4509)を、少し困ったように笑いながらもルビー・バルボア(ea1908)は黙って見つめ、その後仲間達の方を見た。
「で、どうだった? 中の様子は?」
「やっぱり、彼はあそこにいるようですね。多少手荒な真似をしてでも‥‥という話をしていましたよ」
ユーディクス・ディエクエス(ea4822)の言葉にやっぱり、と仲間達は顔を合わせる。
「あんな所に居たらカトル君可哀想ですっ。なんとしてでも助けてあげないと‥‥」
ぐっ、と拳を握るミリア・リネス(ea2148)の横では木の板に簡単な絵が描かれていた。
「大したとこまでは見れなかったけど、店があって、奥に工房があって、二階があって、工房の奥に地下への階段があったわね地下室っぽい入り口が」
さっき靴屋を弟子入り志願で見に行ってきたユノ・ジーン(eb0262)は覚えている限りの建物の概要を板に書く。
「あのカマ! カマは弟子にはしない! なんて言ってさあ! あたし、よっぽどこの口調止めてやろうかと思ったわよ! カマじゃないって言ってんのに!」
怒り心頭の様子に
「どこが違うの?」
とは誰も言わず、冒険者達は考える。
「えっとですね。小鳥達はカトル君を見ていないそうなんです。という事は窓から見える範囲内ではいないという事でしょうか?」
セルミィ・オーウェル(ea7866)の言葉を肯定するようにマイ・グリン(ea5380)は自分なりの分析の答えを出した。
「‥‥仮に私がカトルさんを監禁するなら、多少暴れられても音の問題が出ない事と、窓が無い部屋を優先して使用しますね。という事は‥‥やはり地下でしょうか?」
「テレパシーで呼びかけても、返事が無かったですわ。そうとう衰弱しているんではないでしょうか?」
「じゃあ、ま、とっとと片付けて、とっとと助けちまおうぜ」
その頃、ただ一人行動を別にした黄牙虎(ea4658)は山のような酒瓶を持って、ターグの店の裏口にいた。
「ああ、重い! っと、大将!」
「なんだ? おめえか?」
裏口で最近出入りするゴロツキに声をかけるシフールとして牙虎は少し、顔を覚えられたのだ。
「そこそこ小銭を儲けたから、振舞い酒」
ワインを半ダース、バックパックから差し出すと、不審な顔をしながらも大将と呼びかけられたゴロツキはそれを受取った。
「ねえ、それで酒盛りでもしない?」
可愛く、色っぽくニコッと笑ってさそったつもりだったが、思惑はあっさりと外れる。
「わりぃな、今忙しいんだ。あばよ!」
「ちょ、ちょっと! 酒の持ち逃げは無いんじゃないの! 開けなさいよ!」
叩く扉が彼女の前に開く事は無かった‥‥。
●自由の翼 奪還作戦
ほぼ真夜中の時間。彼らは動き始めた。
漆黒の闇の中を動く小さな灯りが、一軒の店の前に止まった。
「俺達が外で見張りと陽動をします。だから‥‥レンさん。カトル君を頼みます」
ユーディクスはそう言うと膝を折り、小さな仲間と目を合わせた。預かった緑のマフラーを彼女の手に握らせる。
「金で本当に片づく事なんてそうないんだから‥‥頼んだわよ!」
「あたしらは、他所からの邪魔が入らないようにしとくからな。思う存分やってこいや」
「まかせておくの。ぜったいにたすけるの!」
ユノやアリアの言葉にレンは真剣な顔で頷いた。
「私、まず中を調べてみますね」
髪を白い布で留めたセルミィはそう言って高く飛ぶ。
窓や扉は内側から閉ざされているが、人が入れない高い屋根の明かり取りの窓には小さな隙間がある。
「‥‥気をつけて下さい」
「音、立てるなよ」
小さく頷いた影がルビーたちに見えた。かすかな羽音が部屋の中に入ったのを確かめて彼らは待った。
ほんの数分、長い時間ではない。だが、永遠にも近い感覚を彼らが味わった頃、内側から、カタン、音がして扉が開く。
「カトルさんは地下のようです。テレパシーにかすかに反応がありました」
マスカレードを目元に付けたマイは目を閉じ、また開く。
「‥‥このマスカレード、また着ける事になるとは‥‥準備‥‥できました」
「よし、行くぞ!」
セルミィを肩に乗せ、ルビーは突入する仲間に目で合図した。外で待つ仲間にも。
周囲に霧が立ち込め仲間を隠す。
その中で小さなカンテラを持ったままフィニィはテレパシーで祈るように呼びかけた。
「カトルさん、今、助けます!」
全員の目と、心が一つになって作戦は動き出す。
自由の翼、奪還作戦だ。
耳を欹てなければ聞こえない、小さな足音が進んでいく。
「ちかにとらえられているはず、なの。しんちょーに、でもだいたんに、なの」
先頭を行くレンの後ろを守るようにマイは周囲に気を配りながら歩いていく。
「‥‥隠密行動の勉強もしておくべきでしたか‥‥」
二人の背後を守るようにルビーが歩いていく。裏口から入って最初の部屋は厨房、その次が倉庫。
そして、工房だった。
この奥に地下への階段があったはず‥‥。周囲を見回してそれを見つけた冒険者はゆっくりと降りていく。
注意深く歩く彼らの鼻をくすぐるのはなめし皮の匂い、酒の匂い。汗臭い‥‥匂い。
「見張りがいる‥‥と言う事はあそこに何かが‥‥っておい、レン!」
二〜三人の男達が酒を飲みながら騒ぐ扉の前に、いつの間にかレンはスタスタ近寄って行った。
ルビーの静止も聞く耳持たず。
「なんだ? おめえ、一体何処から‥‥」
「どいてなの。カトルくんをたすけにきたの」
ニッコリ。レンは天使の笑みで彼らに笑いかける。だが、それを受け入れるほど彼らはいい人、では無い。
むしろ、悪い人。
「何をバカ言ってやがる。誰だ、おめえは‥‥」
「どいてくれないの? なら、しかたないの。もくてきをたっせいするためのとうといぎせいなの♪」
ニッコリ、もう一度レンは微笑む。だが、それは天使ではない。無垢なる破壊神の冥い笑み。
ドゴン!
波動の帯が、扉に叩き付けられた。男達の悲鳴と共に。
‥‥どのくらいここにいるのか解らない。
だが、暗闇の方が、彼には安らぎだった。
扉が開けばまた悪夢が始まる。
靴を作れと強制される、悪夢が‥‥。
そして、扉が開く音がする。
(「また‥‥来たのか‥‥。イヤだよ‥‥誰か‥‥」)
「カトルくん、しっかりするの!」
「大丈夫ですか? 助けに来ました!」
聞き覚えのある声と、無い声がふと耳元で囁く。細く彼は目を開けた。
「あれ? 夢、かな? ‥‥ねえちゃん達がいる‥‥?」
「‥‥衰弱しているようですが、大きな怪我は無いようですね。‥‥早く運びましょう」
マイの手にそっと抱き上げられて、すぐカトルはまた目を閉じた。
レンとセルミィはハッとするが‥‥呼吸は静かだ。
「‥‥大丈夫です。眠っただけだと思いますよ」
「良かった」
「おい、早く脱出するぞ!」
部屋の外で見張るルビーの声に少女達は慌てて顔を見合わせ、そして頷きあった。
駆け足で彼の背中の直ぐ後ろまで、来た時だ。
「くそ、遅かったか‥‥」
「あんた達、一体何しているの? 不法侵入よ! 泥棒よ! 犯罪者よ!」
甲高い声が地下に響く。紫のドレスを身に纏った‥‥男の声が。
「たかが数人の侵入者も抑えられないの? まったく役立たずなんだから‥‥!」
シュン!
長いドレスの裾が床に縫い付けられた。マイがダーツを投げたのだ。
そして‥‥それを取ろうとする‥‥より早く男、ターグは気付いた。
「‥‥フフフ‥‥カマさんは、まっさつなの‥‥」
一番前に現れた小さな少女の周囲が茶色く渦を巻くのを‥‥。
「な、何よ! あたしは何にも悪い事はしてないわよ。靴を作らせようとしただけじゃないの! あんないい靴が、あんな小さな靴屋にあるなんて‥‥勿体無‥‥っわああ!」
ターグと、その周囲でふらついていたゴロツキたちが重力法則を全て無視して、空中に浮かび‥‥そして‥‥
「どっかん♪」
ドガン! ドッガアアン!!
「おそうじかんりょー。わるいひとはまっさつなの♪」
死屍累々。転がった男達にレンは会心の笑みを浮かべる。
「レン! 気が済んだら早く行け! カトルを助けるのが先だ。マイ、セルミィもだ!」
「‥‥解りました。行きましょう!」
小さな足跡二つ、小さな羽音一つ。遠ざかったのを確認してルビーは周囲を見た。
ゴロツキ数名。そしてターグ。あれだけの音を出しても出てこないところを見ると、意外と中にいたのは少なかったのかもしれない。
「‥‥死んだ奴はいないようだな‥‥聞こえてるか?」
唸り声を上げるターグにルビーは大きく無い声で話しかけた。子供たちの逃げる時間を稼ぐためではあるが‥‥どうしても言いたかったのだ。
「幸せの靴ってのは、作り手が楽しくなければ作れないんじゃないか? アンタは最初から間違っていたんだと思う。拉致同然であのシフールは楽しかったのかな。楽しい気持ちの入っていない靴が‥‥本当に幸せを呼ぶのか?」
元々、答えを期待してかけた言葉ではないが、返事は帰ってこない。ルビーの足も、階段に向かった。
「さて、コレからアンタがどうでるか分からんが、俺はコレで終わりにしてくれる事を願うよ。アンタに少しでも良心が残っている事を信じて‥‥な」
走り去った最後の影を追う事が出来る者は誰もいなかった。
肉体的にも‥‥そして、心も‥‥。
裏口を最後に脱出したルビーの側に黒い覆面の男が駆け寄る。
「心配しましたよ。大丈夫ですか?」
「すまん、で、子供らは?」
「脱出しました。今は旅芸人の小屋に。俺と、ルビーさんが最後です」
「そうか‥‥行こう!」
霧が完全に晴れる頃、そこには理由も解らず路上で眠り、風邪を引いた通行人以外は何も残ってはいなかった。
いや、もう一つ残っていたものがあった。
扉に残っていたメッセージ。
『お前の宝は頂いた by FM』
●帰ってきた少年。そして
「‥‥う‥‥ん! ここは?」
柔らかい毛布と、暖かい空気、差し込む明るい光に、彼は目を覚ます。
「‥‥おいら一体?」
「目が覚めましたか?」
ニッコリと笑いかける青年には覚えがあった。彼の肩に乗った事が‥‥
「兄ちゃん‥‥あの時の?」
「覚えていてくれましたか? そうだ、マイさんが温かいスープを作っていたみたいだから‥‥」
外に駆け出したユーディクスの側で、彼が起きた気配に気付いたのだろう。
むっくりと起き上がり目を擦る少女がいた。
「おはよう。カトルくん? はい」
ふわり、まるで羽よりも軽く自分にかけられた汚れた緑のマフラーを見つめるシフールに彼女はニッコリと笑いかけた。
「ばばがつくってくれたマフラー、もうおとしちゃだめなの♪」
「‥‥うん。ありがとう‥‥」
マフラーを抱きしめるシフールの少年をテントの入り口で冒険者達は優しく見つめ微笑んだ。
数日後‥‥
『当店は閉店いたします。ターグ商店』
突然の事に周囲の住人達はいろいろと噂をしていた。
「なんでも、大貴族の怒りを買って圧力をかけられた、という噂よ」
「幸せの靴を売るって話も嘘だったらしいわよね」
「変な奴らが出入りしていたとか、悪い話も多かったしな」
「仲間割れしたとかじゃなかったのかな?」
アリアは三味線を抱え、ベベン! と強く音を立てる。
「ターグのおっさん! 残念!」
その意味を知る者は多くは無かったという。
不思議な事に覚悟していた追跡が冒険者に伸びる事は無かった。
ターグが何を思い、何を考えたか、知る由は無い。
そして彼のその後を知る者もいない‥‥。