【ワラウモノ】川を渡って、木立を抜けて

■シリーズシナリオ


担当:MOB

対応レベル:7〜11lv

難易度:やや難

成功報酬:4

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月08日〜11月17日

リプレイ公開日:2005年11月17日

●オープニング

 天使のような死者は立ち去った、数々の謎を残したままにして‥。
「くそっ! 本体の居場所が分からないんじゃ、どうしようもない‥」
「アンデッドは自律的に行動しているのではなく、相手が操っているようですから、少なくとも相手はこちらを見る事に出来る位置に居るには違いないと思うのですが‥」
「だが、遺跡でデティクトアンデットに反応があったのは、アンデッドだけだったしな」
 正体不明の敵。分かっているのは、おそらく相手はデビルだろうという事。今回、相手がデスハートンを使っていた事からすると、それはもう間違い無い。だが、それだけである。それ以外の何一つ、冒険者達は分かっていないのだ。
「一つ一つ、可能性を潰して確かめていくしかないのかもしれませんわね」
「ううむ‥そうするしか無い、のかもしれんな」
 そして、冒険者達にはもう一つ突き止めなければならない事があった。
「あの二人の様子はどうだ?」
「いや、義姉さん達はすっかり元の体調に戻ってるよ。ただ‥」
「ただ?」
「首筋に浮かんでる、小さな模様があるんだ」
 デビルに仕掛けられた、謎の魔法。いや、これは魔法というよりも呪い‥というのが正しいのだろうか。一定の手順を踏む事により、通常の魔法では成し得ない事を成す手段。デビルに詳しい者に聞けば、そういったモノがデビル達の中には存在しているという事も知れるだろう。

 だが、うねる流れは、冒険者達を答えから遠ざけるように。
 リッド卿の乱心‥とでも言えば良いのだろうか。失われた者を取り戻す為の執着は、あまりにも強く、周囲を巻き込んでいく。デビルの言葉を疑いもせずに、その要求を受け入れたリッド卿は、例の遺跡に誰も辿り着けないように資料を処分し、遺跡の所在を知る者を一時的に自分の手元に集め始めた。
 当然、シヴ・ノイがこれの対象になった。遺跡に一度や二度しか行っていない者は、到底辿り着けないだろうとして放置されているが、彼はそうはいかない。
「冒険者達に刻まれたという刻印。解除する方法が不明な以上、仕掛けたデビルを倒すのが唯一‥」
 デビルに掛けられた呪いは、一体どんな効果を持っているのか? 今は、仕掛けられた冒険者の体に小さな刻印が浮かんでいるだけで、特に何かが起きているような状態ではいが、その内に必ず何かは起きるだろう。
「リッド卿は、最早聞く耳を持たんようだしな‥」
 シヴは再び遺跡に向かい、デビルと対峙する道を選んだ。
(「彼等に、仲間を見捨てるような道を、選ばせたくはない‥」)
 見上げる先の空の向こう。そこには、昔よりリッド卿の一族とは勢力争いの関係にある貴族の領土が広がっている。そこまで逃げ込めば、リッド卿の配下の騎士は下手に自分を追いかける事は出来なくなる。

●今回の参加者

 ea6282 クレー・ブラト(33歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6632 シエル・サーロット(35歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea8218 深螺 藤咲(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0763 セシル・クライト(21歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0884 グレイ・ドレイク(40歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1061 キシュト・カノン(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●遁走
「すまないな、こんな事に付き合ってもらって‥」
 自分の元に集まってくれた冒険者達を見回して、シヴ・ノイは申し訳なさそうな表情でそう言った。
「まあ、そんなに気にしないで。あたしは自分の為でもあるんだからさ」
「そや。ともかく今はしっかり逃げて、次んなったら攻めに転じたいもんやな」
 だが、冒険者達の方は、フォーリィ・クライト(eb0754)を始めとして今回の依頼に対して協力的だった。まあ、彼女やクレー・ブラト(ea6282)は詳細不明な呪いをかけられている為、今ここで遺跡に向かう為に必須の人材であるシヴを捕まえられてしまうわけにはいかなかった。
「それにしても‥リッド卿は敵の誘いに乗ってしまわれたのですね、愛する者の為とは言え、少々口惜しく有りますわ」
「気持ちは分からなくもないけど、明らかに冷静さを欠いてるよな」
 ルメリア・アドミナル(ea8594)、レオン・バーナード(ea8029)が言うように、リッド卿は完全に相手の誘いに乗ってしまった。彼がここまで彼女に固執するには、貴族ゆえの‥しかし普通の人間からすれば、贅沢な事情がある。
 リッド卿はこの地を治めていた貴族が子に恵まれなかった為、唯一の跡取りとして育てられた。手の負えない我侭な貴族になる可能性は、昔より勢力争いを続けている相手が潰してくれた。だが、その為にリッド卿は、ランド卿に領主を任せて隠匿するまでの人生の全て、完全に整地された道を歩かされて来たのだ。
「例の娘の話も、一部の者にしか知らされていない。この地に住んでいる者達にとって、リッド卿は正しく鉄の領主だったのだ」
「良い領主だった‥。って、わけね」
「しかし、そうなると厄介ですね‥」
 追っ手として派遣されてくるであろう騎士達は、よもやリッド卿がデビルに誘いに乗ってしまっているなど考えもしない。フォーリィとセシル・クライト(eb0763)の義姉弟の表情が曇る。
「説得は不可能と考えなければなりませんわね」
「だな、今のまんまじゃ、アタシ達が何言ったってダメだろうな」
 シエル・サーロット(ea6632)とグラケルミィ・ワーズの表情も同様だ。
「幸い、年の暮れも近いおかげで夜が長いからな」
「上手く逃げれば、なんとかなるかもしれませんね」
 キシュト・カノン(eb1061)や深螺 藤咲(ea8218)が言うように、今の季節は夜の時間が長い。野生の獣や、余程夜目の利く者ならばともかく、普通の人間は夜に活動しようと思ったら手元に灯りを携える必要がある。もちろん、あまり遠くを照らす事も出来ない。夜の間は、逃げる方も捜す方も休むしかないのだ、下手に動いても、自分が相手を見つけるよりも、自分の持った灯りに相手が気づく方がよっぽど早い。
「外で寝るにはキッツイ季節になってきてるとも言うけどなぁ‥」
「そこは困りましたわね。テントを張って畳んで‥としている時間は無いでしょうし」
「やはり、誰かとくっついて寝た方が‥」
 ちらり。
「‥う?」
 しかし、正論である。こうして、この日より数日間の間、冒険者達の間では2人一組の『華やかな絵』と『暑苦しい絵』の二種類が展開される事になる。姉持ちのセシルが、少し他の男性陣から少し恨めしげな眼で見られていたのはここだけの秘密だ。


●狭窄
「どうする? 思ったよりも相手の動きが早いようだが」
「いや、この場合は相手の動きが早いというよりも‥」
「前回の領土各地のアンデッド、それの対処に向かっていた騎士達が、そのままわたくし達の追っ手になった‥と考えるのが妥当ですわね」
 前回の顛末とは無関係のグレイ・ドレイク(eb0884)。シヴや他の冒険者達に合流する前に、少しだけ領内の様子を見てこれていたので、どうにも村の様子がおかしい事に気づいていた。
「なんだか、悪い方向に事が転ぶわねぇ」
「まさか、これも相手の狙いだったとか‥」
 セシルが気づいたが、もしかすればこれも相手の狙いだったのかもしれない。シヴが最も安全を確保出来る場所、つまりリッド卿とは勢力争いの関係にあった貴族の領地へは、ドレスタットから行こうとすればどうしてもリッド卿‥現在はランド卿の領地を通過する必要がある。
「どうすんだ? こうなると道は殆ど塞がれちまってるんじゃないのか?」
 今は、出発してから二日目の昼。これまでは騎士達にも遭遇せずに来れたが、まだまだ目的地までは距離が残っている。普段は強がれるレオンも、今回ばかりは不安を隠そうとしない。
「こちらは、戦うわけにはいかず、基本的に逃げの一手しか許されていませんからね‥」
 もちろん、止むを得ない場合は、少しは戦わねばならないという事は藤咲も理解している。だが、相手は正規の騎士、戦えば後に響いてくる可能性が高すぎる。

「道が無いのならば、道が無いところ歩いていけば良いのですわ」
「‥へ?」
 シエルの提案に、他の冒険者達は顔を見合わせる。脇道に逸れるという事は、他の冒険者達も考えていたが、道の無い場所‥つまり林の中を進むという方法は、誰も考えなかったようだ。
「それだと時間かかり過ぎへんか?」
 しかし、それは当然でもある。林の中を進めば、確かに相手に見つかり難いが同時に進み難い。自分達が用意している食料にも限りがあるし、補給の為に村に寄るのは自分達の位置が知れ渡る事になるので出来ない。
「大丈夫です。普通の人達ならば、時間もかかるでしょうが、わたくし達ならば‥」
 そう言いながら、グラケルミィ、レオン、フォーリィ、それにシヴに視線を移していくシエル。
「なるほど、オイラ達が先導するってわけだな」
「悪路を行くのは、少しは慣れてるものね」
 積んだ経験は必ず力になって返ってくる。いや、力になって返ってきているのだ。


●焦燥
「‥寝れない」
 無理にでも寝ておかないと、今後に響くのは分かっている。林の中、道無き道を歩くのは、慣れた者でもその体力を容赦無く奪う、慣れていない者ならば尚更。だが、疲れているはずなのに、眠れないのだ。
「追われている状況で休むのが、これほど難しいとはな」
 グレイとキシュトは夜警の番を終え、眠る番になったが互いに上手く眠れずに居た。
「それにしても、義姉さんの呪いはどうすれば治るんだろう‥?」
「ま、なるようになるでしょ。何にせよ、今度あのデビルが出てきたらぶっ飛ばしてやるわ」
 クライト義姉弟の組は、そうして一言二言交わした後で、フォーリィがさっさと寝付いてしまった。
(「義姉さんは心配とかしてないのかなぁ‥」)
 その精神的な強さ故にデビルの呪いの対象となった事もあり、セシルの心境は複雑だった。
「やっぱり、夜明け前が一番冷え込みますわね」
 シエルは、先程まで寝ていた時と同じように、寄り添いながらグラケルミィと夜警の番をしていた。
「こういう逃げながらの夜っていうのは‥嫌いだ」
 その言葉に少しだけはっとする。表面上強いように見えて、それは結構弱さの裏返しだったりする。

「みんな、おはよー」
 と、言った傍から寝始めるクレー。
「ちょ、ちょっとクレーさん。そっちはまだ仕掛けたライトニングトラップが残ってますわよ!?」
 前にクレーと同じ依頼を受けた事がある者は、彼がイマイチ寝起きが良くない事は知っていた。だが、今回は特に眠りが浅かったためか、いつもにもまして寝起きが悪い。というか、起きてない。
「はっ! ‥いや、寝てへんで?」
「嘘だ!? 今、はっ!‥とか言ったじゃんか!」


●邂逅
「‥仕掛けて来るな、アタシの勘がそういってるぜ」
「乙女の勘‥というヤツですか?」
 結局、予定より多少時間がかかったものの、一度も騎士と遭遇する事無くシヴ達は逃亡を続けた。もう、あと数時間の距離まで、目的の領地の境目は迫っている。だが、だからこそ相手が仕掛けてくるとグラケルミィは言った。
「ぐぉっ!?」
「シヴさん!?」
 そして、その言葉通りに相手は仕掛けてきた。‥だが、まだ姿は見えない。
「い、いや、殆ど怪我はない。しかし‥」
「なんだ今の? 木の間を縫って何かが飛んで‥‥‥ムーンアローか!」
「こんな魔法の使い方をしてくるとは」
 これで、少なくともこちらの居る方向は相手にバレた。急いで位置を変えようとする冒険者達だったが、相手にも道無き道を歩く事に慣れて居る者が居るのか、逃げ切る事は出来ずに遭遇してしまう事になる。

「「って、あれ?」」
 
 ‥で、その場で向かいあった殆どの人達がそういう事を言うのは、もう、どういう事なのか。だが、事はそう簡単に大団円には向かってくれない。同行していた騎士に叱責され、相手に雇われた冒険者達はこちらへの襲撃を再開する。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 結局仕掛けてくるのかよ!」
「‥‥‥」
 レオンの呼びかけに、無言で返して襲ってくるかつて仲間となった冒険者達。彼等がどんな条件の下に雇われたのかは分からないが、依頼というものはそう易々と放棄出来ない。
「どういう事です! あなた達が追われているというのなら、それにはちゃんとした理由があるんじゃないですか!?」
「チッ! ったく、後でそっちに居るあいつに聞けってんだよ!」
 一合、二合。得物を交える度に相手の本気具合が分かる。言葉の上では相手を疑ってかかっているが、本心はそうではない。
「はあっ!」
 だが、そんな中で少し心踊るのは何故だろう。相手もそうなのだろうか? 炎を纏った刺突を凌いだ相手は、その構えを変えて真空の刺突を繰り出し、鈍い衝撃が肩口に入った藤咲は一旦後退する。相手の追撃を警戒したが、それは元々やる気が無かったのか、
「相変わらず、見事なもんね」
 フォーリィがお返しとばかりに放ったソニックブームに邪魔されたのか。

 クレーがコアギュレイトで相手を拘束し、グレイとキシュトがそれぞれ戦っていた相手をスタンアタックで気絶させると、戦いはほぼ決着した。相手の騎士も、レオンによって武器を弾かれている。


●二卿
「そこまでだ! 双方止まれ!!」
 そこへ、一人の騎士が割り込んできた。
「グリアス殿‥何故、貴方がここに‥」
 その騎士を見る、先ほどまでレオンと剣を交えていた騎士は、信じられないといった表情をしていた。
「私が来ねば、信じる者も居らんかもしれんからな。単刀直入に言おう、ランド卿がリッド卿の乱心に対し決意を成された。盗賊捕獲の依頼は中止、冒険者達とお前はとりあえず最寄の村へ戻れ」
 凛とした表情と声で、その場に居る者達に対して指示を始めるグリアスと呼ばれた騎士。
「どうなっているんだ‥?」
「ランド卿が動いてくれたのか?」

 どうやら、現領主のランド卿がリッド卿の乱心に対し、対処をする事を決めたようだった。シヴ達に対しては、今後の問題となる可能性がある為、どうかあちらの貴族の領土に行ってしまうのは避けて欲しいと言われた。
「これで当面の問題は無くなったわけか‥」
「義姉さんにクレーさん、刻印の様子は‥?」
「いや、今んとこ何の変化もあらへんなぁ」
「そうなのよね。日常生活にも戦闘にも、全く支障が無いのよね」
 今回、デビルは何も仕掛けてこなかった。だが、冒険者達、そしてランド卿達はその理由をすぐに知る事になる。

 ――遺跡への道に、アンデッドの大量発生。

 閉ざされていく道。そして、ようやくと言うべきか、それと時を同じくして発動する呪い。
「ど、どういう事‥?」
「デビルの居る方向が分かる‥って言うんか、これ?」
 ランド卿による支援の下、冒険者達の反撃は始まる。