●リプレイ本文
●パワープレイ
「ぬぅん!」
キシュト・カノン(eb1061)のティールの剣が、また一体のズゥンビを薙ぎ払う。
「全く、これで何体目だ‥?」
「分からねぇなぁ」
「数が二桁超えた時点で、もう数えるの諦めちゃったよ」
石動 悠一郎(ea8417)もまた相手を斬り伏せるが、いい加減に疲労も溜まってきていたし、そろそろ剣の手入れも考えないと翌日以降も今日と同じように戦えるどうかといったところだ。斬り伏せた相手の数が分からないと答えたグラケルミィ・ワーズは体力に自信がある上、得物が斧なのでこういった連日の戦闘時には他のメンバーよりも余裕がある。そんな様子を少し羨ましそうに見る、レオン・バーナード(ea8029)も居た。
「後続の騎士達が来てくれはったみたいやで〜」
「はぁ‥はぁ‥。ふぅ‥! これで一息つけますね‥」
クレー・ブラト(ea6282)の言葉に、深螺 藤咲(ea8218)がぐいっと汗を拭いながら安堵の表情を浮かべる。もう季節は秋を過ぎて冬になるというのに、びっしょりと汗をかくぐらい動かねばならない程に相手は居た。
「全く、聞いては居ましたが、ホントに凄い数ですわ」
「一度の魔法で、これほどの相手を巻き込める事はもう無いですわね」
魔法による支援役であるシエル・サーロット(ea6632)やルメリア・アドミナル(ea8594)は、汗はかいてはいないものの、連日魔法を使えるだけ使っているので精神的な疲労が溜まってきていた。
ズゥンビとの戦闘は今日で三日目。ランド卿に仕えている騎士達と共同で、遺跡までの道を突き進んでいるがやはり速度は思わしくない。呪いの進行は気になるが、この依頼を終えたら一旦休みを取らないと遺跡に踏み込むのは危険過ぎる。
「ランド卿は良く決心して下さいました。その思いを無駄にしない為にも、このアンデッド達を払わないと‥」
●障壁と大物
「使用者の条件としては、神聖魔法が使える事‥だな」
アーティファクトを使ったホーリーフィールドについて、詰め寄るクレーとレオンに、モリスン・ブライトはそう説明をしていた。耐久力はあまり試していないので正確な所は不明だが、効果時間はだいたい一時間と、非常に強力な事が分かった。
「くあー、もう腕が上手く上がんねぇよ」
「私もだ。これも修行だと思えば良いのかも知れんが‥」
「修行というよりも特訓だな、これでな」
今はアンデッドとの戦闘を騎士達に任せ、冒険者達は少し後方で休憩を取っている。残してきた愛馬達に思いを馳せながら得物の手入れをしたり、相手の奇襲を避ける為にトラップを張ったりなど、思い思いの時間を過ごしている。
「義姉さん‥体の方は大丈夫?」
「うん‥? 大丈夫よセシル、全然問題ないわ」
休憩中、心配そうに問いかけてくる義弟‥セシル・クライト(eb0763)に、フォーリィ・クライト(eb0754)は笑顔で応える。
「にしても、嫌よねぇ‥アイツの居る方向が分かるなんて。気持ち悪いったらありゃしないわ」
「そやなぁ‥。上手くすれば相手の居る場所が分かりそうやねんけども」
騎士達と再び交代し、今度は自分達が戦闘を行う冒険者達。
真空の刃が飛び、炎が群れる相手を薙ぎ払い、力任せに振り下ろされる刃が骨ごと相手を叩き潰す。閃光が敵陣を駆け抜け、聖なる光に晒された相手は抗う事は出来ずにその体を地に横たえる。
疲労が重なっているとはいえ、相手は動きの遅いズゥンビ。若干攻撃力が上がっているとはいえ、今の冒険者達にとっては楽な相手だ。調子に乗って一人で飛び出さない限り、無傷で戦える。全ては順調に進んでいたのだが‥
「そういや前にドラゴンのズゥンビと戦ったけれど、今回は流石に居な‥」
思わずぽかんと口を開け、そのままの姿勢で相手の方を見るレオン。
「‥おいおい、嘘だろ?」
「こんな相手まで居たか‥」
悠一郎もキシュトも、同じように思わず動きを止める。相手はゆっくりとした動きで自分達へ迫り来る。
「もう‥なんと言うかお腹いっぱいだって言ってんのに、更に盛られた‥って感じね」
「あーあ、レオンがそんな事言うから出て来たんだぜ、これ。きっと」
「ええええ、おいらのせい?」
目前に迫る六つ足の竜、どう見てもアンデッド化したフィールドドラゴンです。
「こんなの相手に普通に戦っては時間がかかりますわね」
そう言って、オーラパワーの付与を行うシエル。こういう時は、とにかく相手に高い威力の攻撃をぶつけられる者にお鉢が回ってくる。つまりは、レオンとグラケルミィ。
だが、この非常にこってりしたものを倒し終えた冒険者達に更なる不幸が襲いかかったのだ。
「よっしゃーー! なんだ結構楽だったじゃん、もう‥おかわりって感じ?」
「オーラパワーのおかげだな。にしてもレオン、不用意な事は‥」
のそ‥
「あ、六本足のがもう一匹」
そんな藤咲の言葉と、レオンの肩にポンと置かれる二人の手。
「自分の言葉には責任を持てよ」
「魔法使える回数には制限ありますし、今回は支援は無しですわ」
頑張れレオン、超頑張れ。でも、声援だけしか送らない。それが記録係クオリティ。
●剥がれる肉
遺跡まであと少し‥と迫った所で、相手の本命とも言える群れが現れた。中心に居るのは‥遺跡に居た男女のアンデッド!
「お久しぶり♪ 騒がしいと思ったら貴方達ですか」
一目見ただけで分かる。そこには『修理』された体で礼をするアンデッドの男。
(「‥ん? そういえば娘はどうなったのだ‥?」)
たしか、相手はリッド卿が思いを寄せていた娘の体も持っていったはず。それがこの場には無い。
「くっ‥!?」
「義姉さん! それにクレーさんも!」
手に持った得物がずっしりと重い、その他身に着けている物もだ。
「あっはっは♪ 実にいい気味ですねぇ。でも安心して下さい? もう少しの辛抱ですから‥直に逝かせて差し上げますよ♪ だから、我慢してて下さいねぇ?」
そう言って、トンッ‥と地を蹴って駆けてくるアンデッド!
(「は、疾い!?」)
篭手で受け止めきれずに腹部を蹴り上げられるキシュト。その様子を見て悠一郎がソニックブームを放つが、それは相手をキシュトから切り離すに留まる。‥速い。遺跡に居た時よりも速くなっている。
「そ、そんな‥一体どうなって‥?」
「ルドナスん時と同じだ! あの野郎、もうあの体は使い捨てるつもりで酷使してやがるんだ!」
(「グラキさん‥!」)
戸惑いながらも体勢を立て直す藤咲やグラケルミィ。男のアンデッドだけでなく、女の方も獣のアンデッド達も迫ってきている。ここが正念場だろう、ここを退ければ遺跡までの道は開ける‥!
(「とにかく、一瞬でも動きを止めなければ‥」)
「‥雷精よ、その意を示し閃光となれ」
この依頼の中で幾度と無く敵陣を駆け抜けた雷撃が、今もまた駆け抜ける。
「よくやってくれた!」
モリスンがアーティファクトを投げ、念じるとアンデッドの男を中心に光の膜が出来る。
(「捕らえた‥! 動きさえ封じれば、後はどうとでも‥」)
冒険者達も一瞬気が緩む。女アンデッドの方は、男のアンデッドほど動きが速くない。獣のアンデッド達も、これまでに戦ってきたアンデッド達と同じで、タフではあるが決して強敵ではない。
「素晴らしい。まさか、既にこの力を引き出せるとは思っていなかった」
諦めたように、肩を竦めてその場に立ち尽くすアンデッドの男。しかし、その一瞬の後に‥
「‥! アカンて、モリスンはん!」
傍に控えていたクレーが、モリスンを押しのけてその刃を身に受ける。しかし、直前で逸らされた刃はクレーに多少の怪我を負わせるに留まった。
「こ、この‥! よりによって貴方が‥!」
もし、これがクレー以外であったならば、その者は命を落としていたかもしれない。デビルにとって、呪いをかけた相手は呪いで死んでもらわねば困るのだ。だから、ある意味一番命の保障がされている。
「あなたが‥!」
急いで駆けつけた冒険者達の一斉攻撃を受け、最後に藤咲の突きでトドメを刺されたアンデッドの男。
「反応あり‥!? 方向はこちらから‥?」
「馬鹿な、いやしかし‥そこに居るのか!」
悠一郎が放ったソニックブームがその体を斬り裂き、ざっくりと割れる死体。そこから種のような物が見えると、それが人の形へと変化していく。これが、自分達が相手をしていたデビルの正体‥?
「な、なんだ!?」
(「死体の中に『埋まって』いた、のか‥!?」)
ディテクトアンデットに反応しない理由。いや、反応していたとしてもそれがただのアンデッドとしか判断出来ないカラクリはそこにあった。普通、相手を倒した後にディテクトアンデットを使う者は居ないし、居たとしても相手がズゥンビでは通常『動けなくなるまで体を壊す事』が倒す事になるため、反応があったとしてもまだ生きているが直に死ぬだろう(アンデッド相手だと変な説明だが)と判断してしまう。
「おんや、バレちゃいましたかぁ?」
だがデビルは余裕の表情で、相変わらない態度。しかし、それを打ち崩すべく駆け出した冒険者が居た。
●剥がれた肉
「ムカついてたのよねぇ! アンタのその態度と、何よりその言葉使いがぁー!」
「ね、義姉さん!?」
普段よりも行動が上手く出来ないのが良く分かった。不恰好に振り下ろされる聖剣「アルマス」デビルスレイヤーは、ようやくに見つけたデビル本体の‥‥
「ヒッ!? ぎぃやあああぁぁーー!?」
見事に腕を掻っ捌いた。デビルは怯えたように体を硬直させて、とりあえず腕を体の前に出して防御しただけ。斬りかかったフォーリィは、はっきり言って素人と同レベルに動きを悪くしていたのに、だ。
「‥え?」
これには、斬りかかったフォーリィが一番驚いた。だが、冒険者達が驚かされる‥というよりあっけにとられたのは、この後に起こった出来事だった。
「イタイ、イタイ、イタイィーーー!! この‥女が、私の体に傷を‥。ちくしょう、ちくしょう‥、ちくしょう! ちくちくちくちくちくちく、ちくしょうがぁーー!!」
そのあまりのわざとらしいまでの悔しがり方と不気味さに、冒険者達は思わず身構える。
「呪い殺さないと生贄にならないからなぁ‥。そうじゃなけりゃ、今ここでぶち殺してやるのにぃ!」
「‥‥。ふん、そうでなくても、あんたなんかにあたしを殺せやしないわよ」
フォーリィは敢えて相手を挑発するような言葉を放つ。それは勘付いたのか、それとも彼女の瞳が朱に染まっていた事を考えると狂化の影響によるものなのか。どちらにせよ、それは相手を逆撫でた。
「この‥! ヒ‥だが、後一ヶ月だ! 後一ヶ月待てばお前は‥‥」
その口元を歪ませながら放たれる相手の言葉に、後ろに控えていた冒険者達は思わずニヤリとする。
「ふ〜ん、なるほど。後一ヶ月ありますのね」
「なんや、結構時間あるんやなぁ」
「フォーリィさん、中々やりますわね。尤も‥ただ相手が馬鹿なだけかもしれませんけど」
「‥馬鹿なんだろ、きっと」
言いたい放題。だが、まぁ自業自得だ。
「く、くそ! 覚えてろ!」
一瞬にして姿を掻き消すデビル。ここで取り押さえておきたかったが、相手も自身の安全を確保しているからこそこうして出てきていたのだろう。示し合わせたようにその場に雪崩れこんで来るアンデッドの群れの対処に追われ、冒険者達は現時点での追撃を諦めた。
「しかし、捨てゼリフまでセンスありませんでしたわね」
「で、でもいいのかよ、相手を挑発しちまって‥。もし相手が遺跡からも逃げてしまっちゃったら‥」
「いいえ、大丈夫ですわ」
「そう、遺跡から離れてもいいなら、リッド卿に遺跡までの道の情報を処分するように要求する事も、こうしてアンデッドを配置する事も必要無い。相手は、遺跡に留まらないといけない理由があるはずですわ」
冒険者達は遺跡にあった魔法陣を挙げた。前に探索を行った時には全く作動していなかったが、デビルの言う生贄‥おそらくは魔法陣を作動させる為のものなのだろう。発動までの期限の間、あのデビルは魔法陣を守り抜く必要がある。
「時間は十分ありますわ、次こそ‥」
「ああ、もう相手に逃げ場所は無い」
「くだらねぇ企みも含めて、丸ごとぶっ潰してやろうぜ」