【戦士達に安らかな眠りを‥‥】死神の馬車

■シリーズシナリオ


担当:BW

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月20日〜04月27日

リプレイ公開日:2005年05月01日

●オープニング

 深い森の奥での、冒険者達と死者との戦いから数日。
 不思議な事に、問題の森でのアンデット目撃情報はぱったりと途絶えていた。
 それ故、問題のアンデット討伐の依頼が再度出されることなく、近隣地域では何事もなかったかのように行き交う旅人や商人の姿が戻っていた。
 だが、それからさらに数日後‥‥。
 その平穏が束の間のものであった事を人々は知る。

 暗闇の中を、一台の馬車が走っていた。
 馬を操るのは、漆黒のローブに身を包んだ謎の人影。
 ひたすら真っ直ぐに走り続け、しばらくすると小さな村に辿りついた。
 ――ガタ‥‥ゴト‥‥。
「誰だ‥‥こんな時間に‥‥?」
 近くの民家の扉が開き、来訪者の存在に気づいた一人の男が灯りを持って姿を見せた。
 その村人を見つけると、謎の人影は馬車から降り、フードを取る。
 それは、銀色の髪の少年だった。
 こんな子供が、何故こんな時間に‥‥と、村人の男は不審に思う。
「ごめんなさい。起こしてしまったみたいで‥‥」
 申し訳なさそうに謝る少年に、村人の警戒心が少しだけ緩む。
「いや、それは構わないんだが‥‥。お前さん、一人で馬車に乗って来たのか?」
「一人じゃないよ。他の仲間は、馬車の中にいるんだ」
 そう言われて男は馬車の方を見たが、幌には幕がついており、中の様子を知る事はできない。
「そうか‥‥。それにしても、こんな時間まで馬車を走らせているなんて、よほど急ぎの用でもあったのか?」
「うん。どうしてもやりたい事があってね」
「この村で? こんな時間にか?」
 少年の言葉に、男は首をひねる。
「うん。夜の方が色々と都合がいいんだよ」
「夜の方が‥‥って、今から何かするのか?」
「うん。実はね‥‥」
 少年が素早く何かを呟いた、次の瞬間。
 ――ブオッ!
「‥‥なっ!?」
 男の視界を完全なる闇が覆った。
 ――ザクッ‥‥。
 そして、男に抵抗する力がなくなったと知るや、少年は躊躇いなく、懐から取り出した短刀を素早く男の胸に突き刺した。
「が‥‥あっ‥‥」
 悲鳴をあげる事もできぬまま、男はその場で息絶えた。
 クスリと笑みを浮かべ、少年はそのまま馬車に戻ると、幌の中の『仲間達』に声をかけた。
「始めようか‥‥君達」
 一切の言葉を返さぬその者達に向けて、少年はゆっくりと魔法を紡ぐ。
「さあ、宴の始まりだよ」

 ――後日、キャメロット冒険者ギルド。
 ある依頼書が張り出され、一部の冒険者達の注目を集めていた。
「死を運ぶ馬車‥‥?」
「何か、不気味な話だな‥‥」
 依頼書を目にした冒険者達は、多くが困惑の表情を浮かべている。
 内容はこうだ。
 ここ数日、とある地方で一台の馬車の存在が噂になっている。
 深夜に突如現れるその馬車には幾人もの死者が乗っており、訪れた村々を襲撃し、多くの人々の命を奪い続けている。
 これ以上の被害が出る前に、何としてもその馬車の正体を突き止め、然るべき対処をして欲しい‥‥との事。
「その馬車に乗っているという死者についてなのですが‥‥」
 係員が集められた情報を整理したところ、先日の依頼で冒険者達が退治できなかった、とあるジャイアントのズゥンビが関わっているらしい事が判明した。
「今までに集められた情報から、問題の馬車が次に襲撃するであろう村がどこかという予測は立っていますので、皆さんにはそちらへ向かっていただこうと思います。どうか、よろしくお願いします」

●今回の参加者

 ea3761 鳳 蒼龍(41歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea3800 ユーネル・ランクレイド(48歳・♂・神聖騎士・人間・フランク王国)
 ea5913 リデト・ユリースト(48歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea7528 セオフィラス・ディラック(34歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea7850 ヨシュア・グリッペンベルグ(40歳・♂・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea8247 ショウゴ・クレナイ(33歳・♂・神聖騎士・人間・フランク王国)
 ea8807 イドラ・エス・ツェペリ(22歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9462 霞 遙(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb0117 ヴルーロウ・ライヴェン(23歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0161 コバルト・ランスフォールド(34歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ミィナ・コヅツミ(ea9128

●リプレイ本文

 何故、こんな事になってしまったのだろう‥‥。
 少年はゆっくりと立ち上がり、目の前に横たわるその人を見つめていた。
 仕方がなかった‥‥。
 少年は、必死にそう思おうとした。
 だって、僕はまだ、死にたくなかった‥‥。だから‥‥。
 必死に自分を保とうとする。自分が正しかったと言うための理由を探す。
 けれど、どんなに悩んでも、後悔は消えなくて‥‥。
 少年はただ、一人で泣いていた。
 ‥‥それは、遠い日の記憶。

 村に辿り着いてからの冒険者達の行動は早かった。
「よろしくお願いする」
 ヨシュア・グリッペンベルグ(ea7850)は村長と挨拶を交わすと、すぐに作戦への協力を願い出た。
 提案は快く受け入れられ、村長の呼びかけで、村の男達がすぐに集まった。
「これだけの人数がいてくれれば、十分な準備ができますね」
「よし、とっとと始めるか。まあ、力仕事は任せとけ」
 霞遙(ea9462)と鳳蒼龍(ea3761)が相談しながら、村人達に指示を出す。
 罠の設置に関しては、この二人が中心だ。
「これ以上の被害を出すわけにはいかない。何としても、ここで奴らを討つ」
「おら、急げ、急げ! ちんたらやってる暇はねぇんだ!」
 セオフィラス・ディラック(ea7528)とユーネル・ランクレイド(ea3800)も、穴掘りや木材の運搬などの力仕事を手伝う。
 一方、村の少し外れには、何やら揉めている様子の人影が三つ。
 こちらはヴルーロウ・ライヴェン(eb0117)、コバルト・ランスフォールド(eb0161)、イドラ・エス・ツェペリ(ea8807)のハーフエルフ組。
「ただ遠くから見ているだけなどできるか。俺も手伝う」
「やめておけ。下手に俺達が顔を出して、上手くいっている事を台無しにしては意味がない。幸い、向こうの人数は足りている」
「そうなのですよ。ここは我慢して欲しいのですよ、ブルー」
「うっ‥‥。イドラがそう言うのなら‥‥」
 彼らは自分達の種族的な問題を考え、極力村人との接触を避けた。
 ヴルーロウだけはそんな事は気にもせずに手伝いを申し出ようとしたが、止められて仕方なく断念。
 もっとも、彼の体が汚れる事で狂化するという危険な狂化条件を考えれば、下手に土木作業などさせないのは正解であったろう。
「他に運ぶ物はありますか? 何かあれば、遠慮なく言ってくださいね」
 女性や子供、老人など、力のない者達の避難を手伝うショウゴ・クレナイ(ea8247)。
「さてさて。上手くいくといいんであるが‥‥」
 リデト・ユリースト(ea5913)が見つめる中、敵を迎え撃つための準備は着々とすすんでいった。

 ――数時間後。
 周囲は完全に闇に覆われ、聞こえるのは虫や獣の声ばかり。
 村の外には誰の姿も見えない。
 そんな中で、戦いの時は確実に迫ってきていた。
 ――カラカラカラ‥‥。
 仕掛けておいた鳴子が揺れる音に、冒険者達は物陰に身を隠しつつ武器を構える。
(「来やがったな‥‥」)
 蒼龍は薄暗い月明かりの下で見える僅かな視界を頼りに動き、静かに魔法の詠唱を始め、仲間達の武器に『オーラパワー』を付与していく。
 しばらくすると、聞こえてきたのは走る馬車の音。
 ――ガタッ‥‥ゴトッ‥‥。
 それは、村の入り口に仕掛けた罠へと向かい、まっすぐ近づいてくる。
(「そのまま‥‥そのまま‥‥」)
 祈るような気持ちで遙が見守る中、その瞬間は訪れた。
 ――ガダンッ!!!!
「掛かった!」
 ヨシュアの声に、冒険者達は一斉に物陰から飛び出す。
 リデトがすぐさま周囲の灯りに火を点けて回り、周囲が明るくなると、そこに見えるのは、大きな穴の中に落ちた馬車と、それを引いていた馬の死体。
 中に仕掛けておいた杭と落下の衝撃で、馬車は完全に大破している。
「どういう事だ? 中にいたはずの連中は‥‥」
 ヨシュアが言う。
 そう。馬車が積んでいたはずの肝心のもの。噂に聞いたズゥンビの姿が見当たらない。
「ここにいるよ」
 突然聞こえてきたその声に、冒険者達は一斉にそちらへ振り向く。
「それにしても大きな穴だね。随分と苦労したでしょ?」
「なっ‥‥子供!?」
 そこにいたのは、銀色の髪の少年。
 相手の意外な姿に、ヴルーロウは驚きの声を上げる。
「‥‥何者だ?」
「分かっている事を聞くのって、時間の無駄だと思わない?」
 コバルトの質問に、少年は苦笑して答えた。
「‥‥何故、罠がある事が分かったのです?」
 遙が訊ねる。
「お姉さん達、僕が来た事を知るために仕掛けをしてあったでしょ? それも、あちこちに。こっちだって耳は聞こえるんだ。あれじゃ、罠を張って準備してますって、自分達から教えてるようなものだよ。それなのに、真正面から飛び込むわけないでしょ?」
 少年の言葉に、苦い表情 を浮かべる遙。
「そんな事を言うわりには、堂々と俺達の前に姿を見せてるじゃないか?」
 セオフィラスがそう言うと、少年はこう答えた。
「だって、仕掛けた相手が誰だか分かったからね。身を隠す必要なんかなくなったよ。‥‥お兄さん達、弱いから」
 その一言が合図になった。
「言いやがったな、この坊主! 話の続きは、てめえをぶん殴ってから聞いてやるぜ!!」
「同感だ! 今回こそは逃げられると思うな!!」
 ユーネルと蒼龍が間合いを詰めようと一気に駆け出す。
 だが、その前に、物陰から三つの影が姿を現し、少年の前に立ち塞がった。
 剣を手にした三体のズゥンビ。そして、その一体は、前回の戦いで冒険者達を返り討ちにしたジャイアント、グドル。
「他の二体は俺と蒼龍で引き受ける。他の者はグドルを‥‥!」
 力を秘めし剣、ワスプ・レイピアを手に駆け出すヴルーロウ。
「これも試練か‥‥。神よ‥‥」
「光よ‥‥」
 ヨシュアとコバルトも、それぞれに魔法詠唱を開始。
「イドラ、頼むのである」
「分かったのです」
 リデトから借り受けた鳴弦の弓を手に、イドラはその弦をかき鳴らす。
 その音色に、ズゥンビ達の動きが目に見えて鈍るのが分かる。
「へえ‥‥。面白い物を‥‥うわっ!?」
 少年が感心するように呟いたその瞬間に、彼を一羽の大きな梟が襲う。
 間一髪のところで、少年はその鋭い爪の一撃から逃れる。
(「前回は遅れをとりましたが、今回はそうはいきませんよ」)
 梟の正体は、『ミミクリー』で変化したショウゴ。
 視界を封じられて窮地に立たされた前回の経験を活かし、今回は聴力に優れた梟への変化。
「なるほど、考えたね」
 不適に笑う少年。
 こうして、戦いは始まった。

 ――ザシュ!!
「啄ばめワスプ!」
 オーラの加護を受けたヴルーロウのその剣が、ズゥンビの一体を刺し貫く。
 イドラの奏でている鳴弦の弓の効果か、敵の動きが明らかに遅い。
「さあ、生者様のおなりだぜ。亡者どもは道をあけな!」
 襲い掛かる剣をかわし、返して両の腕と頭突きを同時に叩き込む蒼龍。『カウンターアタック』と『ダブルアタックEX』、そして『ストライク』の三つの合成技。リスクや制限は大きいが、決まればその破壊力は圧倒的だ。
 ――ズゴッッ!!!
 たった一度の攻撃で、ズゥンビはその動きを完全に停止した。

「‥‥相変わらずの化け物だな」
 やや距離を取りつつ、魔法を使う仲間達の盾となっているセオフィラス。
 彼の目から見て、確かにグドルにも鳴弦の弓の効果はあった。明らかに以前の戦いの時に比べれば動きが鈍い。
 それでもその剣は、いまだ一撃もグドルには届いていない。
「おい、その剣はまさか俺の‥‥! きっさま誰に断ってその剣使ってやがんだっ。今返せ、すぐ返せっ。即刻返しやがれっ!!」
 果敢に攻撃を仕掛けるユーネルが、ある事に気づく。その視線は、グドルが手にしているクルスソードに注がれている。
「余計なものに気を取られるな、集中しろ!」
 黒い光がグドルに直撃する。後方のコバルトの『ブラックホーリー』だ。
「二人とも、こちらへ‥‥!」
「分かった!」
「おう!」
 遙が呼ぶと、ユーネルとセオフィラスはグドルと剣を交えながら、ゆっくりとグドルを誘い出す。
「離れて下さい!」
 その声を合図に、二人の騎士はグドルと距離を取り、代わって遙が前に立つ。
 当然、グドルは目の前の遙に攻撃を仕掛けるが、『疾走の術』で素早さのましている遙はその攻撃を紙一重で交わし、後方へ跳ぶ。
 グドルは遙を追おうとするが、その瞬間。
 ――ギンッ!!
「これで終わりだぜ、このウスノロ!」
 背後からのユーネルとセオフィラスの特攻。
 かろうじてグドルはその攻撃を受けるが、勢いに負けて一歩下がる。
 そこで勝敗は決した。
 ――ガラガラガラ!!!
 音を立て、崩れる地面。冒険者達が仕掛けた罠は、一箇所ではなかったのだ。
 暗黒の穴がグドルを飲み込む。
「これで‥‥!」
 油の壷と火のついた松明を穴へと投げ込む遙。
 落とし穴の中で、杭に串刺しになったグドルの身を、さらに炎が包む。
「この時を待っていたのだ!」
「白き光よ‥‥」
「今度こそ‥‥最後だ」
 リデト、ヨシュア、コバルトの三人が、一斉に前に出る。
 翳された手。唱えられる呪文。
 放たれる神の力は、『ビカムワース』と『ピュアリファイ』。
 ‥‥眩い光が消えた時。残されていたのは、一振りの剣と一つの盾だけだった。

「まさか、彼が負けるなんてね‥‥。どうやら、お兄さん達の力を甘く見すぎていたみたいだね‥‥」
 呟く少年の眼前。
 翼のあちこちに傷を負い、かなりの深手を負った梟‥‥ショウゴの姿があった。
(「くっ‥‥。この姿でも駄目なのですか‥‥」)
 その姿を変える事によって、変化した対象の能力を身につける事ができる『ミミクリー』の呪文。
 だが、変化した対象の全ての能力を得られるわけではない。
 梟の姿をしていても、その基本的な戦闘能力はショウゴが元々持っている能力に準ずる。
「危ない瞬間は結構あったけど、ギリギリで僕の勝ちだったね、お兄さん? トドメをさせなくて悪いけど、あっちの恐い人達が来る前に、逃げさせてもらうよ」
 そう言って、今度は少年が『ミミクリー』で一羽の梟に姿を変える。
(「せっかく‥‥、ここまで‥‥」)
 傷ついた羽を必死に動かそうとするが、それはもはや微動だにしない。
 少年はそのまま、夜の闇へと姿を消した。