【それぞれの正義】信じる心、疑う心
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■シリーズシナリオ
担当:BW
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 44 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:07月21日〜07月28日
リプレイ公開日:2005年08月01日
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●オープニング
――某日、キャメロット郊外のとある家屋にて。
そこでは、数人の男が集まって言葉を交わしていた。志を同じくし、遠き異国ジャパンより、ここイギリスへと来た者達。
「まさか、この場所が知られていたとは‥‥。奴らを甘くみたか‥‥」
「此度の事、我らにとって一生の不覚。かくなる上はこの命を持って‥‥」
彼らは先日、ある物を冒険者達に奪われた。それは恐るべき敵、黄泉人の脅威に苦しむ祖国を救うために、彼らにとって必要な物だった。
「止せ。今は一人でも多くの力が必要な時。主らの命、祖国の危機を救うその時までは取っておけ」
重い表情を浮かべる一同を前に、その男‥‥長谷部正十郎はそう言った。
丁度その時、部屋の扉が開き、やはりこれもジャパンの出身であろう男が一人、中へと入ってきた。
「新しい情報が入った。だが、少し荒事になるかもしれん」
「分かった。詳しく話してくれ」
――数日後、キャメロット冒険者街のとある一角にて。
こちらにもまた、ジャパンより来訪したと思われる者達が何人も集まっていた。
「小雪、何故あんな勝手な真似をした!?」
「ご‥‥ごめんなさい。兄上‥‥」
そこにあったのは志士の青年‥‥天宮幸成と、兄に叱られるその妹、小雪の姿だった。
「幸成殿、そう怒鳴られては小雪殿が可哀想ではないか。石版は無事に取り戻せたのであるし、我らの事は冒険者達には話しておらぬとの事。ならば、今回は少し大目に‥‥」
「そうはいかない」
近くにいた男が小雪を庇うが、幸成はまだ言葉を続ける。
「小雪。確かに、奴らにあれを奪われたのは俺達の失態だった。だが、だからといって、どこの馬の骨とも分からん連中に助力を願うなど‥‥」
「ですが‥‥ですが、兄上。私達だけではもう‥‥彼らを止める事は‥‥」
「‥‥‥‥」
小雪の言葉に、幸成だけではなく周囲にいた他の者達も全員が沈黙した。それは誰もが感じていた事だった。ジャパンより増援を呼ぶにも、その祖国は今この時も死者達の脅威にさらされている。とても異国に割くだけの余裕はないだろう。だが、自分達にとっての敵は,時が経つにつれその数を増やしているようだった。今までは何とか抑えていられたが、これからはどうなるか分からない。
‥‥そんな時、彼らの元にもまた一つの知らせが舞い込んだ。
「また奴らが動きだした。どうやら、今度はとある商人の所有している精霊に関する書物を狙っているようだ」
すぐさま伝令の男は手製のキャメロットの地図を広げ、そのある一点を指す。
「場所は‥‥街の中か。周囲に被害を出したくはないが‥‥」
「最近は奴らも手段を選ばなくなっている。あまり悠長な事は言ってはいられないぞ」
「‥‥今、手の空いている者は?」
一人が言ったその言葉に、そこにいた者達は苦い表情を浮かべた。既に、別件で何らかの任についている者がほとんどらしい。
「俺と小雪と、後は二、三人が精々といったところか‥‥。くっ‥‥」
幸成は、ある妥協をするか否か悩んだ。
「‥‥小雪、この国の冒険者達は、お前の目から見て信用に値する者達だったか?」
「え‥‥その‥‥‥‥はい。信用しても大丈夫だと‥‥思います」
小雪のその言葉に、幸成は一つの決断をする。
「今回の仕事に、冒険者の協力を依頼してくれ。ただし、こちらの事情はまだ話すな。本当に信用に値するかどうか、俺がこの目で見極めたい」
そして、しばらくの後にギルドより依頼が出される事になる。
内容は、盗賊に狙われているという文献の護衛。伝えられた依頼の内容は、ただそれだけだった。
●リプレイ本文
そこには、二つの正義があった。
彼らは何のために戦うのか。
それは、彼らに信じるものがあるからだろうか。
だが‥‥彼らの信じるものは本当に正義なのだろうか‥‥。
冒険者達が商人の屋敷に辿りつくと、屋敷の手前では護衛役らしき男達が数人立っていた。どうやら、冒険者達が来るまで最低限の自衛は行っていたらしい。
「随分と物々しいね‥‥」
ハーヴェイ・シェーンダーク(ea7059)はそう言いながら、使用人達の顔に目を配る。最悪、この中に既に敵が紛れている可能性もある。油断はできない。
「‥‥ご苦労様です」
冒険者達に同行していた小雪が、使用人の一人にペコリと頭を下げる。
使用人も小雪に挨拶を返し、冒険者達は依頼人の商人のいる大広間へと案内された。
(「それにしても‥‥何故、彼女が‥‥?」)
イドラ・エス・ツェペリ(ea8807)は小雪の動向に注意を払って見ていた。
表向きには依頼人の商人の知り合いで、彼女がギルドへ依頼を出す事を提案したからとの事だったが、前回の件もあり、冒険者達全員がそれで簡単に納得するわけもなかった。
だからといって、それ以上の事を訊ねても、今は納得のいく答えが返ってくる可能性は低そうだ。
その小雪にはショコラ・フォンス(ea4267)が暇を見ては色々と話を振っている。
「実は、私には妹がいましてね」
ショコラからさりげなく出た話題に朝霧桔梗(ea1169)も耳を傾けた。前回、小雪が自分には兄がいるというような事を言っていたが、詳しくは聞いていないままだ。何か分かるかもしれない。ショコラから妹の話を聞いた小雪だが‥‥。
「まぁ‥‥素敵な方ですね‥‥」
‥‥と、それだけ。ここはショコラが上手く運ぶかと期待した桔梗だったが、ショコラはそれ以上の事はしなかった。彼は小雪を困らせるような可能性のある事は極力避けているようだ。
(「そこからが重要だったのに‥‥」)
やはり、そう簡単に期待通りにはいかないらしい。
「お待ちしておりました」
大広間で冒険者達を出迎えたのは、顎鬚を生やした恰幅の良い男性。彼が今回の依頼人の商人。名はリルド。そして彼の前には、今回の護衛対象と思われる一冊の本が置かれていた。
「狙ってるのは盗賊って事だが、心当たりは無いのか?」
訊ねたのはクラウス・ウィンコール(eb0911)。
「多すぎて困るくらいですよ。長く商売をやっていますとね、色んなところから悪い奴が寄ってきますから。ただ、最近はどうも私の周りを特に頻繁に嗅ぎ回っている輩がいるようでして、警備を強化しようかと。まあ、何でもジャパンの男達らしいのですがね‥‥」
(「やっぱりか‥‥」)
内心でクラウスはそう思った。
「精霊関係の本ですか。そんなに貴重な物なんですかねぇ〜?」
「そうだよね〜。見たいなら、お願いしてみれば良いのにね〜?」
言ったのは凍扇雪(eb2962)とガブリエル・シヴァレイド(eb0379)。同様の疑問を持つ者は冒険者の中には多数いた。
「ははは。皆さんはこれの価値をあまりご存知ないと見える」
リルドは苦笑しながらそう言った。
「確かに、簡単な単語の羅列に過ぎないような精霊碑文の資料も世の中には多い。ですが、卓越した魔術師が世に残した高度な魔術の行使法や、精霊の秘密を今に伝える物‥‥。あるいは精霊の力を秘めた武具の在り処を示した物など、真に価値のある資料はかなりの値がつくのですよ」
そう語るリルドはどこか自慢げだ。おそらく、彼の持つ資料というのもその類なのだろう。
「そんなに凄い資料なんだ‥‥。それじゃあ、少しだけでも見せてもらうって事は‥‥」
「ふむ‥‥まあ、少しだけなら構いませんよ」
ハーヴェイが聞いてみると、これをリルドは意外にもあっさりと承諾。‥‥が、その理由をハーヴェイはすぐに知る事になる。
「‥‥駄目だ。全然読めない‥‥」
読み始めてから数分と経たぬ間に、ハーヴェイは解読を断念した。
「専門家の中でも特に知識のある方でなければ解読不能の品でしてね」
逆に言えば、それだけの価値のある珍しい資料というわけだ。
「あ〜ん、難しすぎるよ〜」
同様に、興味を持ったガブリエルも解読に挑戦してみたが、やはり結果は同じだった。
(「‥‥ただ価値があるだけなら、他に狙う物がいくらでもあるはず‥‥。前に私達が石版の奪還を依頼された時の相手と今回の賊が一緒だとすれば、やっぱり狙いは精霊の‥‥」)
思案を巡らせるショコラ。だが、まだその答えを出すのは些か早計ではある。
「何か、ダミーとして使えそうな物は?」
シェゾ・カーディフ(eb2526)が訊ねる。依頼人の隙を見てこっそりという手もあったのだが、手近に丁度良い大きさの物が無かったため、普通に頼む事にしたようだ。
「必要とあれば、こちらで用意しても構いませんが、本物はどうされるのですか?」
「私が持とう」
そうして、シェゾは資料の本を預かった。
――依頼開始より四日目。屋敷の中。
「退屈なのです‥‥」
「そういう仕事だからな」
イドラとシェゾの二人は書物の保管してある部屋の前に立っていた。とは言え、ここは屋敷の中でも特に奥まった場所にある部屋で、屋敷の者以外は滅多に通りがかる事がない。
冒険者達の警備していた場所はこの部屋の中と外、そして屋敷の周辺。とりあえずこの部屋にさえ人を近づけなければ‥‥との考えだろう。屋敷に出入りする者を見張る機会があったのは外の見張りの時だが、怪しいと言えば怪しいと思える者は多々いた。例の書物の商談に来た者も数名。だが、見覚えのある者は見つけられなかった。単に見落としただけかもしれないが‥‥。
外回りの警備の最中、雪とショコラはこんな会話を交わしていた。
「凍扇さん、来るとすれば、敵はどういう形で来ると思いますか?」
「ん〜、そうですねぇ‥‥。私なら狙うのは夜中。ちょっと誰かに陽動してもらって、それから強行突破ですねぇ〜」
基本に忠実といえばそうだが、ある意味で無茶な策だ。これだけ厳重な警備の中に遠慮なく飛び込んでくる相手がいたとしたら、それはよっぽどの馬鹿か、でなければ相当の実力を持った相手だろう。
‥‥が、それが本当になった。
――六日目の夜の事。
「うわっ、何あれ!?」
周辺の警護にあたっていたハーヴェイと桔梗は、厄介な敵と遭遇する。屋敷の庭に突如、一匹の巨大蛙が現れたのである。
これが巨体のわりに中々に素早くあちこち動き回るものだから、気付いた館の使用人達は大騒ぎだ。
「おそらくは陽動だろうな。しかし、放っておくわけにもいかないか‥‥」
二人は急ぎ、その大蛙を退治する事にした。
――その一方、屋敷の中。
外の混乱に乗じて、三人の男が中に入ってきていた。
「表の方は上手くやっているようだな。後はこちらか‥‥」
「長谷部殿、こちらへ‥‥」
言って、一人の男が案内する。三人のうち、二人はどうも隠密に長けた忍者のようだ。どうやら、既に書物の置かれているはずの部屋の位置は分かっているらしく、迷う事無く彼らは進んでいく。
「まさか、本当に真正面から来るとは‥‥」
問題の部屋の前、待ち構えていたのはショコラと雪。
「すまないが、無駄な争いは避けたい。死にたくなければそこをどいてはくれないか?」
言ったのは、日本刀を構えた一人の男‥‥長谷部正十郎。
「残念ながら、それはこちらも同じでして〜」
「‥‥そうか。では仕方がない」
言うが早いか、先に動いたのは正十郎。
対する雪は盾を構えた。こと格闘戦においては、雪は今回の依頼を受けた冒険者の中でも最も優れた能力を持つ。果たして‥‥。
(「‥‥え?」)
僅か十秒の攻防の後、地に倒れていたのは雪。
「急所は避けておいた。それ以上、動かずにいれば大事には至らぬ」
盾で刀を受けようとした雪。だが、その正十郎の攻撃はその雪の防御をくぐり抜け、武器の重さをのせた一撃を彼に見舞った。その返しで雪もカウンターを繰り出したが、受けた傷はそれなりに深く、彼の本来の力を発揮するには至らなかった。結果、二の太刀を浴びせられ、地に膝を着く事になった。
「凍扇さん!?」
ショコラが加勢に入ろうとするも、それは他の二人の男達が投げた手裏剣によって防がれる。
「‥‥くっ!!」
「その扉、開けさせてもらうぞ」
怯んだショコラを力ずくで押しのけ、正十郎は扉を蹴って開いた。中にいたのはクラウスとガブリエル。
「ぐっ‥‥!!」
突如、正十郎の動きが鈍る。ガブリエルの使った魔法の効果だ。
「はあっ!!」
「‥‥ぬっ!!」
すぐさま繰り出されたクラウスの攻撃を正十郎はかろうじて受けきったが、続いて繰り出されたさらなる剣の攻撃には対応できず、閃いた剣の一撃は正十郎を捉える。
「間に合ったか!」
「観念するのです!!」
後方、扉の前には騒ぎに気付いたシェゾとイドラがやって来ていた。
「ここまでだな。おとなしく‥‥」
「そうはいかん!」
クラウスが投降をすすめようとしたその次の瞬間。
――ブオッ!!
「なに、この煙‥‥」
「これは‥‥くっ‥‥」
二人の男が自分達の前後に発動したのは春花の術。これに対し、ガブリエル、ショコラ、シェゾの三人が抵抗しきれず眠りについてしまう。
「退くぞ!」
ここぞとばかりに正十郎達は退却を試みる。
「逃がさないのです!」
イドラとクラウスが必死に止めに入ろうとする。
だが、二人だけでは彼らを止める事ができず、ついにその攻防は外で大蛙の退治を終えたハーヴェイと桔梗も巻き込んだが、またしても春花の術を発動されて桔梗とクラウスが眠りにつくと、最後には逃亡を許してしまう事になった。
――依頼終了後。
冒険者達は無事に依頼を終えた。だが、賊を捕まえられずに終わってしまった彼らの表情は余り優れない。
「近いうちに、私はもう一度ギルドを訪れる事になると思います」
冒険者達にそう言い残し、最後に礼を述べた後、小雪は去った。
次に冒険者達が彼女と会う時、彼らは何かを知る事になるのだろうか‥‥。