【翼】新たなる翼

■シリーズシナリオ


担当:BW

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月28日〜04月06日

リプレイ公開日:2007年04月06日

●オープニング

 キエフ冒険者ギルド。
 ここには様々な問題を抱えた人々が、冒険者達の力を借りるべく集まってくる。
 ただ、この日ギルドに持ち込まれた二つの依頼は、先日の、ある一つの依頼における、冒険者達の行いが招いたものだった。

「お願いです。私の父を殺した魔物を探し出して下さい」
 外見から判断して、歳は人間なら十四、五といったところだろうか。リリーと名乗るそのエルフの少女は、次のように事情を語り始めた。
「一ヶ月ほど前のことです。私達の暮らしている村から半日ほど行った山の麓に、別の小さな村があったのですが、そこが山に棲んでいたドラゴンに襲われ、無くなってしまったのです。‥‥私達の村も、そう離れた場所にあるわけではありません。次に襲われるのは自分達ではないかと心配で‥‥」
 しかしながら、傭兵や冒険者を雇って竜退治を依頼するような金銭的な余裕は村にはなかったため、せめてドラゴンへの警戒だけは行えるよう、村人達の間で相談し、定期的に山の麓へ誰かが様子を見に行くことに決めたのだという。
「その日は父が様子を見に行く日で、朝早くから準備をして、私や母に『少し様子を見てくるだけだ。必ず帰って来るから、そう心配するな』と‥‥言って‥‥」
 この時、リリーは今にも泣き出しそうな表情をしていた。元気だった父のことを思い出すのが、今は辛いのだろう。
「帰ってきた父は‥‥酷い怪我をしていて‥‥」
 嗚咽混じりに話すリリー。
 彼女の父は、山の麓で、ドラゴンの子供のような大きな魔物を見つけたそうだ。どこから奪ってきたのか、誰かの荷物らしきものを傍に置いていたという。放っておけば、いつか村を襲う脅威になるかもしれないと考えたリリーの父は、親竜と思われるドラゴンがいなかったのを好機と考え、魔物に矢を射掛けた。すると、その場に木でできた人形のような別の魔物が現れ、リリーの父に激しく殴りかかってきたのだという。
「かろうじて魔物達から逃げてくることができた父でしたが、その時の怪我が原因で次の日に‥‥。お願いです。どうか、父の仇を討って下さい。少ないですが、村の皆で協力して、お金も用意してきたんです。ですから、どうか‥‥」


「報告書は確認させて貰った。危険な依頼を、よくやり遂げてくれた」
 先日の依頼の主、ガルディア・ローレンは集まっていた冒険者達に拍手を送った。
「さて、前の時は依頼の目的が分からずに、少しばかり歯がゆい思いをした者もいたと思う。それについては申し訳なかったと思っているが、こちらにも事情があってのことだ。どうか、許して欲しい」
 冒険者達に頭を下げるガルディア。
「今日は他でもない。ローレン商会からそのことについて、あらためて皆に依頼したいことがあり、こうして代表である私自身が来た次第だ」
 『商会から』という言葉に、何人かの冒険者の耳がピクリと反応する。ローレン商会は、ここ最近、ロシア国内で急速に成長した大商会だ。物資、財力ともに、並の貴族などより遥かに上。仕事の報酬の額も、かなりのものであると期待が膨らむ。
「我々ローレン商会は、ホルスの捕獲を行いたいと思っている。ついては協力してくれる者を広く募集したい。また、近日中に私の屋敷で捕獲に際しての会議を開きたいと思う。相手は巨大な精霊だ。捕獲作業は困難を極めるだろう。どうか、良い知恵を貸して欲しい」
 ガルディアの言葉に、集まっていた冒険者達が一斉に騒ぎ始める。
 冒険者達の中には、魔獣や精霊に属する巨大なペットを飼っている者もいる。そして、それらの中には非常に高価な値段で取引されるものもおり、売買が目的で商会がホルスに目をつけるのも分からなくはない。ただ、そうだとしてもその辺の鷹狩りとは訳が違う。下手をすれば、多数の死傷者が出てもおかしくない相手だ。それに見合うだけの額を払う取引相手が、ローレン商会にはいるというのだろうか。
「‥‥ああ、それと、先日の依頼の際にあったクエイクドラゴンについてだが、ホルス捕獲の障害になる可能性を心配していたが、ある冒険者の活躍により、話し合いの余地があると分かった。ついては、近日中にローレン商会から、交渉に適任と思われる者を送るつもりだ」
 冒険者達のざわめきが、さらに大きくなる。クエイクドラゴンと交渉など可能なのか。確かにローレン商会の財力があれば、巨大なドラゴンに満足のいく食事を与え続けることも可能かもしれない。いや、それでも、あのドラゴンは人間に傷付けられ、恨みを抱いているはず。その問題をどう解決するつもりなのか。


 魔物に父を殺されたという少女。
 ホルスを捕獲し、クエイクドラゴンを手なづけようとするローレン商会。
 そして、未だ不明なままの、ホルスとクエイクドラゴンの関係。
 様々な出来事が複雑に絡み合い、そして、新たな何かが起ころうとしていた。

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea4526 マリー・アマリリス(27歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea5753 イワノフ・クリームリン(38歳・♂・ナイト・ジャイアント・ロシア王国)
 ea9508 ブレイン・レオフォード(32歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 eb0888 マリス・メア・シュタイン(21歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb2546 シンザン・タカマガハラ(29歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb4667 アンリ・フィルス(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

ロイ・ファクト(eb5887

●リプレイ本文

『グウォォオオ!!!』
 突如、天から降り注いだ閃光が、竜を射た。
 姿を現したのは自分と同じ、金色の翼。
 その翼が大きく羽ばたいた瞬間、竜は空より大地に叩きつけられ、雪原は割れ、衝撃に風が騒いだ。
『間に合わなかったか。‥‥若き同族よ。その命果てる前に、この世界のために残す言葉はあるか?』
 問われて、そして、決意した。
 今、この胸にある想いは、自分の死と共に、もうすぐ消えてしまうだろう。
 ‥‥託そう。この想いを。

 先日のクエイクドラゴンとの戦いの場所。
 ブレイン・レオフォード(ea9508)、オリガ・アルトゥール(eb5706)、シンザン・タカマガハラ(eb2546)の三人は、そこに来ていた。
 そして、再び出会った。黄金の翼持つ巨大な精霊、ホルスに。
「まさか、ずっと俺達を待っていてくれたのか?」
『否。我には我の使命がある。今は、ここに向かう汝らを見つけ、この一時、天より降りただけのこと。我が目は太陽と同じ。光の届く場所であれば、その全てを見通す。‥‥汝らは、我に、訊ねたいことがあるのだろう?』
 シンザンの問いに、そう返すホルス。太陽と知の遣いとも言われるこの精霊は、どうやら、三人の目的も既に見抜いているようだった。
「聞きたいことは色々あるけど‥‥まずはお礼を。あの時、仲間のせいで起こった事件が、あれ以上騒ぎが大きくなる前に教えてくれて、ありがとう」
「あの件に関しては、俺も礼を言う。正直、助かった」
「私も、貴方には感謝しています」
 ブレインに続き、シンザンとオリガも礼を述べる。
 そして、話は本題に入る。
「私達はダージボグという名の小さなホルスを探しています。私達の命を救ってくれた、大切な仲間です」
 意を決し、どんな返事が返ってくることも覚悟の上で、オリガは訊ねた。
『その名を持つ者のことであれば、知っている』
 そのホルスの言葉に、三人の瞳に希望の光が浮かぶ。‥‥だが、その光は次のホルスの言葉によって、絶望へとその色を変えた。
『その名を持つ者は、この山で死んだ』

 オリガ達がホルスと接触した頃。デュラン・ハイアット(ea0042)は一人、ガルディアの屋敷へと来ていた。ローレン商会のホルス捕獲会議へと出席するためだ。
「商会‥‥か。なるほど、大した商人じゃないか‥‥」
 呟くデュランの眼前。見えるのは広大な屋敷の敷地と、その中に集まった人間達。ざっと見て四十人ほどいるだろうか。騎士や聖職者らしき者から、旅の傭兵まで。様々な種族や職業の者が一同に会していた。だが、ギルドからの紹介で訪れているのはデュラン一人。他の者は全て、ローレン商会と個人的に繋がりを持つ者達なのだろう。実際の実力は分からないが、もし全員がホルスの捕獲に挑めるほどの腕利きであるならば、それをこれだけの人数まで集めたローレン商会の力はかなりのものだ。
「しかし‥‥妙だな」
 見渡して、デュランはふと思う。ギルドを介さずにこれだけの戦力が集まるのなら、何故、先の依頼では冒険者ギルドを使ったのかと。
「よく来てくれた、諸君」
 思案を巡らそうとしたところで、ガルディアが一同の前に姿を現した。
 ギルドの情報によれば、ローレン商会はここ数年の間にロシアで急速な成長を遂げた商会だという。そして、それは目の前にいるガルディアがたった一人で成し遂げたという。
 会議が始まると、集まった者達はホルスの捕獲について様々に意見を述べた。
「何か、大きな餌になるような物を置いたら寄って来るんじゃないだろうか? そこを‥‥」
「おいおい、知らないのか? 精霊ってのは俺達と違って、食事なんかしなくても平気なんだぜ? 餌なんて何の意味もねぇ」
「一応、鳥の姿をしているんだし、どこかに巣があるんじゃないかしら? それを探せば‥‥」
 意見は様々に出るものの、どうにもこれと言った意見は出てこない。しばらく様子を見ていたが、一通り全員が発言した時点で、これ以上は無駄と判断したデュランは口を開く。
「あー‥‥もういい諸君。この私が今からありがたい意見を聞かせてやるから、しばらく黙っていたまえ」
「何だ、お前、随分と偉そうに‥‥」
 デュランの態度に、何人かの出席者が敵意を込めた眼差しを向ける。だが、デュランはそんな物に怯みはしない。
「当然だ。私は偉いからな。下らん意見しか出せん凡人共よりは遥かに。分かったら、少し黙っていてくれないか」
 途端、場が静まり返った。余りに高慢なデュランの言葉に、その場の多くの者が呆然としていた。
「ほう‥‥そこまで言うとは、自分の策にかなりの自信があるようだな。ぜひ、聞かせてもらいたい」
 興味を示したガルディアの様子を見て、デュランは話を始める。
「以前、強力な精霊と戦った事があるが、あれは戦いと言うより小さな災害だ。それだけの力に加えてホルスは知能も高く空も飛ぶ。正直、力尽くでの捕獲は難しいだろうな」
 デュランは今でこそロシアにいるが、少し前まで主にジャパンで活動していた冒険者だ。そのジャパンでの冒険の中で、ダンディドッグと戦った経験があると言う。
「だが、何故ホルスがあの山岳地帯に居るのか。それがポイントになるかもしれん。つまり、有るのだよ、何かが。そう、ホルスがあそこに居るべき理由になるものがね。そして、それが捕獲の鍵になる可能性は高い」
「‥‥ほう。それで、その鍵は何だと思う?」
 ガルディアに訊かれ、デュランはニヤリと笑みを浮かべた。待っていましたという表情だ。
「さて、それは調べてみなければ分からないな。もっとも‥‥ローレン商会がその理由の為にホルスを捕獲しようとしているなら、この案も無駄だろうがね」
 それは、ガルディアの反応を探るための一言だった。が、返ってきたガルディアの反応は、デュランの予想外のものだった。
「合格だ。少しばかり考え違いや不足もあるようだが、君はそれなりに優秀な人間のようだ。採用しよう」
「‥‥何?」
 わけが分からないという様子なのは、デュラン以外の者達も同じようだった。
「実は、会議というのは半分嘘だ。失礼ながら、君達を試させてもらった。危険な上に重要な仕事なのでな、こちらも誰かれ構わず連れて行く気はないのだよ。まあ、これで茶番も終わりだ。皆、ご苦労だった」
 平然とそう言い放つガルディアに、言葉を失う出席者達。
「合格者には追って通達を出す。ああ、デュランといったな。君には残念かもしれないが、私の目的はあくまでもホルスそのものだ。これは嘘ではない。そして、先の『鍵』の準備だが、実はもう進めている」
「‥‥どういうことだ?」
「これ以上は下手に口外できないのでな、後で連絡させる。ただ、私にその鍵を教えてくれたのは君達ギルドの冒険者だ。‥‥では、失礼」
 ガルディアが部屋を去った後で、デュランは不適な笑みを浮かべ、こう呟いた。
「‥‥試した? この私をか? ふっ、思ったより面白い男かもしれんな。だが、余り私を甘く見ないことだな、ガルディア・ローレン」

 少し時を遡る。
 マリス・メア・シュタイン(eb0888)は一人、雪山を進んでいた。
「どこにいるのかな‥‥あのドラゴン」
 マリスは焦っていた。キエフを出る前、ローレン商会の支店の一つで、クエイクドラゴンとの交渉に向かうという一団と会っていた。だが、その一団は交渉に向かうという割には、余りに物々しかった。鉄弓を携えた大柄の男が三人、いくつかのスクロールを携えたウィザードらしきの女が一人。そして、一団のリーダーとして、長弓を携えた若い銀髪の男が一人。おそらく交渉の担当はウィザードの女の役目だろうが、同行者に弓の使い手ばかりが集まっていたことに疑問を覚えて訊ねると、リーダーの男はこう応えた。
「先の件で、急所を狙っての矢が竜に有効なことを君達の仲間が見せてくれただろう。それで、商会に雇われている傭兵の中から、弓の使い手でアルスターの流派を学んだ者に声がかかってね」
 そう言われても、マリスは少し納得できずにいた。竜殺しの魔剣がそう容易く手に入る品で無いことを考慮しても、護衛であるなら、やはり盾を携えた戦士達の方が適任だろう。それを敢えて弓の使い手を集めたということは、この者達はおそらく、護衛というよりは保険。もし竜との交渉が決裂したならば、その場で殺しにかかるつもりなのだろう。先の戦いで、あの竜が負った傷は深く、まだ完全に癒えてはいないはず。この人数でも、そう難しいことではないかもしれない。
「どうやってドラゴンを探すつもりなの?」
「それも、先の君達のやり方を真似させてもらう。幸い、必要なスクロールは商会の方で用意してくれてね。後は現地でどうにかするよ」
 あっさりと言われ、マリスは何か裏があると疑っていたローレン商会を、ますます信用できなくなった。雇っている人材は既にいて、それでも前回は自分達冒険者を使った。その上で、その優秀な部分だけは真似る。商会にとって、先の自分達は様子見のための実験台だったのだろう。
 ――ドゥォオン!!
「‥‥今のは!?」
 突如、遠くから聞こえた爆音に、マリスは不安を覚え、その音がした方向へと急ぎ駆け出した。

「アンリさん!!」
 叫ぶジークリンデ・ケリン(eb3225)の視線の先には、雪の中に蹲る重装の戦士、アンリ・フィルス(eb4667)の姿があった。
「‥‥無念‥‥」
 クエイクドラゴンを討ち果たすべく、この地を訪れた二人だったが、その途中でローレン商会の遣いの一団に出会ってしまう。
 どちらも目的は同じ。この先にいるのだ、あのクエイクドラゴンが。そして、互いの目的が相反するが故に、彼らは戦うこととなった。
「誰であろうと、邪魔をするというならば斬り伏せるで御座る」
 そう言い放ち、戦いに臨んだアンリ。彼の剣の技量は、既に常人を超えた域にあり、その身を守る鎧は堅く、並の魔物やその辺の戦士では、全く彼の相手にはならないだろう。それだけの実力が、彼にはある。‥‥だが、今回に関しては相手が悪かったと言わざるをえない。
 僅か十秒。それが、戦いの始まりから、アンリの命が絶たれるまでの時間だった。降り注いだ矢の雨は、確実に鎧の隙間から彼の身を射当てた。かろうじて急所だけは外し、それでも傷は抑えきれず、距離を詰めることもできぬまま、彼は雪原の中に倒れたのであった。
 そして、この相性の悪さはジークリンデにも同じことが言えた。彼女が使う火の精霊魔法の多くは、威力こそ高い一方で、射程範囲が短いという欠点を持つ。鉄弓の射程は彼女が使える魔法より遥かに長い。
 彼女もまた、矢の雨の前に下手に身動きが取れない。ジークリンデがまだ生き残っているのは、彼女の連れたスモールホルス、ヴィゾフニルがその特殊な身を持って盾となり、矢の雨から彼女を守ってくれていたからだ。
「何故です? どうしてこれほど早く、ここに‥‥?」
 ジークリンデには大きな疑問があった。自分達は魔法の靴を用いて、普通に歩くより早くこの地を訪れている。連れていた犬達のペースに合わせはしたものの、それでも幾らかの時間短縮にはなったはずだ。この一団には遭遇するはずが無いと、そう思っていた。
 ――ズンッ!!
「ヴィゾフニル!?」
 先ほどまで平然としていたはずのホルスの巨体が、大きく揺らいだ。インフラビジョンを用いて見れば、飛来する矢の中に、不思議な炎を纏ったものがある。おそらくは、魔法の付与によるもの。このままでは全員殺される。そう思った彼女は、決断する。
「逃げて下さい、ヴィゾフニル。そして誰か、ここに助けを呼んできて下さい!」
 命を受け、羽ばたくヴィゾフニル。それに向けて幾つかの矢が放たれたが、さすがのホルスの驚異的な速度には、敵も追撃を断念したようだ。
 そして残ったのはジークリンデと、その傍らに寄り添うフロストウルフ。
「フレキ。私は貴方と、まだまだ一緒に過ごしたかった‥‥。こんな事になって、ごめんなさい‥‥」

 山の麓。
 マリー・アマリリス(ea4526)とイワノフ・クリームリン(ea5753)は二人、父を魔物に殺されたと言う、リリーの元を訪れていた。
 村の片隅に作られた小さな墓。それが、リリーの父の墓だと教えられた。
 墓前に赴き、祈りを捧げた。
「あの、お話というのは‥‥」
 リリーに訊ねられ、マリーは口を開いた。
「私達は、貴方のお父さんを助けることができませんでした」
「‥‥え?」
 突然の言葉に、戸惑うリリー。ただ、マリーは言葉を続けない。どこまで話せば良いか、その判断がついていない。
「隠しても、いつかは知られてしまうだろう。ここまで来たのだ。素直に話そう」
 イワノフの言葉で、マリーも決心がついたらしい。
 二人はリリーに全てを語った。彼女の父を殺したのが、仲間のペットであったかもしれないということ。自分達がそれに気付かず、彼女の父を救う機会を逸したこと。
「‥‥‥‥」
 リリーは、言われたことを受け入れきれていないようだった。無言のまま、そこに立ち尽くしていた。よく見れば少し、肩が震えている。
「すいません‥‥今日はもう‥‥帰って頂けますか?」
「あの、リリーさん‥‥」
 そっと、マリーは手を延ばそうとした。だが‥‥。
「帰ってって言ってるの!!」
 強い口調で、リリーはマリーの手を払いのけた。
 帰り道。イワノフは、マリーにこう言った。
「自分は正直、これからどうすれば良いのか分からない」
 自分達がしたことが正しかったのか、間違いだったのか。それさえも、彼はまだ判断できずにいた。そして、それはマリーも同じだった。
「‥‥それでも、私達は決めなければいけないのだと思います。自分達の手で‥‥」

 突然現れたヴィゾフニルに導かれ、マリスは戦いの跡へと辿り着いた。目の前には、無数の矢が刺さったアンリとジークリンデの遺体。
 そして二人の前に、シェリル・オレアリス(eb4803)の姿。
「良いところに‥‥!」
「ねえ、どうなってるの? 何があったの?」
 シェリルは手短に、先のローレン商会との戦いの出来事をマリスに語った。シェリルがここに残っているのは、彼女が先の戦いの時、身を隠していたからだった。降り注ぐ矢に二人はあっという間に倒れ、どう助ければ良いかも分からず、結局、商会の者達が立ち去った後でようやく二人に近づくことができたという。
「すぐに、どこかの教会へ運ばないと‥‥。このままでは、手遅れになってしまう‥‥」
「分かった。任せて」
 フライングブルームを取り出す、マリス。本当はクエイクドラゴンに会いにきた彼女だったが、この状況を見捨ててはいけない。それに、今から追いかけても、アンリ達同様、商会の者達に妨害される危険があった。
 まだ機会はあるはず。マリスはそう信じた。

 冒険者達はそれぞれに、キエフへと戻った。