【翼】白き翼の予言
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■シリーズシナリオ
担当:BW
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:04月14日〜04月23日
リプレイ公開日:2007年04月28日
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●オープニング
数日前のこと。
雪に閉ざされた山の中、三人の冒険者は、陽の精霊ホルスに再び会った。
「何故、あなたはここに居る?」
冒険者の青年が訊ねた。
『我は世界を見守る者。天を駆け、世界の数多の事象を見続けてきた。その我が今この場に留まるは、若き同族と交わせし誓いのため』
二ヶ月前。それは、その三人の冒険者にとって、忘れたくとも忘れられない出来事のあった、あの惨劇の日のことだった。
村一つを滅ぼし、冒険者達を死の直前にまで追い込んだ竜。その竜に、冒険者の手によって育てられた一羽の小さなホルスが捨て身の戦いを挑んだ。ホルスと竜は戦いを続けるうち、この雪山へと辿り着く。ホルスは懸命に戦った。己が主を、その仲間達を、人々を守るために。
そして運命の悪戯か、その戦いを、ある者が知る。それが、今ここにいるホルス。
だが、このホルスが戦いの場へと辿り着いた時には既に、小さなホルスの命は消えようとしていた。
『間に合わなかったか。‥‥若き同族よ。その命果てる前に、この世界のために残す言葉はあるか?』
訊ねると、小さなホルスは願いを一つ、このホルスにしたという。
『かの同族は、竜が再び人の住まう所へ降りることの無きようにと、そう願った。我はその願いを聞き入れ、その誓いゆえに、この地に留まっている』
「だったら何で、あの竜を殺してしまわない? お前になら出来るんじゃないのか?」
訊ねたのは、ハーフエルフの男。
『あの竜は、この一帯を統べる主。それを殺めることは、この一帯の全ての生き物に影響を与えるだろう。我はそれを望まない』
「‥‥事情は‥‥分かりました。でも‥‥」
小さなホルスの主であった冒険者が、悲しみに心を痛めながらも、言葉を紡ぐ。
「理由は分かりませんが‥‥貴方を狙っている者達が‥‥」
『知っている。しかし、それでも我は今、ここを離れるわけにはいかない』
時は今に戻る。
ガルディア・ローレンの屋敷の部屋。銀色の髪のハーフエルフの青年が一人、報告のために訪れていた。先日、クエイクドラゴンとローレン商会との交渉を任された部隊を率いていた青年だ。
「例のクエイクドラゴンとの交渉ですが、無事に終了しました。ただし、竜の負っている傷は未だ癒えておらず、作戦に用いるには今しばらくの時間が必要だと思います」
「そうか。まあ、多少の遅れは予定のうちだ。気にする事は無い。クラスティ、お前にはしばらく、あの山での竜の世話を任せる。必要な物があれば後で他の者に手配させよう」
「かしこまりました。‥‥しかし、今でも信じられません。まさか竜と話し合いが出来るとは‥‥」
「『奴』の言っていた通りに交渉を行ったのだろう? なら、失敗はあるまい」
「確かに、あの人の助言は凄いですよ。まるで未来が見えているみたいだ。急ぎの馬を用意したのもあの人の勧めで、おかげで冒険者に先を越されずに済みました。‥‥それでも、実際に竜に出会った時は、生きた心地がしませんでしたよ」
時々だが、クラスティは自分の雇い主である、このガルディアに恐怖を覚えることがある。目の前のこの男は、己の欲しい物のためならいかなる手段でも用い、何であろうと利用し、そうして今の地位を築いたと聞いている。ただ、それゆえ周囲の者にかかる負担は相当なものだ。今取り掛かっているホルス捕獲の件でも、ドラゴンを餌に利用しようなどという突拍子も無い案を持ち出してきている。
「しかし、よく気がつきましたね。ホルスがクエイクドラゴンを山から出さないようにしているなんて」
「まあ、私にもホルスがそうしている理由までは分からないがね。ただ、あの竜に滅ぼされたのが未だに村一つで済んでいることに疑問を抱いただけだ」
「『疑うことを忘れるな』‥‥ですか? それが貴方の商売を成功させる秘訣でしたね」
場所は移り、キエフ冒険者ギルド。
ここには様々な問題を抱えた人々が、冒険者達の力を借りるべく集まってくる。
そして時に、人ならざる者さえも‥‥。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。本日は、どのようなご用件でしょうか?」
純白のローブを身に纏った、一人の修道士らしき娘が一人、ギルドを訪れていた。歳はまだ十七、八といったところだろうか。金色の髪の、若く見目良い人間の娘だった。
「キエフより北東にホルスの棲む山があるという話はご存知でしょうか?」
「‥‥ええ、まあ」
問われて、係員は少し戸惑った。この一件は現在、ギルドでも扱いの難しいところにあった。巨大な力を持つ精霊と竜に、国内で強い財力を持つローレン商会。最も困っているのは、冒険者達の行動で近隣の村人に死者が出たとの話だ。あまり触れられたくないというのが、今の係員の正直な想いである。
「では、お願いがあります。どうか、そのホルスを退治して頂きたいのです」
「‥‥‥‥え‥‥‥‥えええーーーっつ!!??」
途端、係員は驚きの声を上げる。
「‥‥お、落ち着け。冷静になれ‥‥」
何とか我に返り、自分にそう言い聞かせる係員。
「し‥‥失礼ですが、理由を教えていただけませんか? 事と次第によっては、ギルドでは引き受けられない仕事もありますので‥‥」
「理由‥‥ですか?」
娘は何かを考え込む様子を見せるが、少しの間を置いて、何かを決意したような表情を見せた。
もぞもぞ‥‥。
「‥‥って、いきなり何脱いでるんですか! ちょっと‥‥!!」
突然、着ていたローブを脱ぎ出した娘に、ギルド員は慌てふためき、そして、次には言葉を失った。
――バサッ。
白い薄絹の衣姿になった娘。美しいその白い肌にギルド員は目を奪われそうになったが、それ以上に彼の目を奪ったのは‥‥。
「は‥‥羽‥‥?」
娘の背にあったもの。それは、大きな純白の翼。
「‥‥信じてもらえないかもしれませんが、私は神の使いとして参りました」
「え‥‥え‥‥え?」
「神の予言があったのです。直に、あのホルスは地上に大きな災いをもたらす。そうなる前に、滅ぼさねばならないと‥‥」
「‥‥え〜、いきなりそんな事を言われましてもですね、こっちも心の準備がですね‥‥」
もはや係員は完全にパニック状態だ。天使の話をまともに聞けているかも怪しい。
「申し訳ありませんが、私は長く地上に留まることはできません。どうかこの事を、ホルスと戦える力を持つ方々に‥‥」
天使は小さく礼をし、そして何かの魔法か、一瞬、眩い光を放った後、スゥっとその姿を消した。
「‥‥‥‥あ〜もう!! 何がどうなってるんだよ、いったい!?」
この後、係員が冷静さを取り戻すまでには、長い時間がかかったという。
●リプレイ本文
見守る者。
願う者。
蠢く者。
想いは様々に。それを取り巻く世界と共に、大きな運命の中に‥‥。
キエフにて、ブレイン・レオフォード(ea9508)とマリー・アマリリス(ea4526)は、ギルドに現れたという天使の調査に動いていた。
「何でも良いんだ。天使が現れた時のこと、もっと詳しく話して貰えないかな?」
「と言われても、私も突然のことでしたからね‥‥」
天使の依頼を受けたというギルドの記録係に、ブレイン達は話を訊きに訪れたが、どうにも思うような情報は無いらしい。
「他に天使を見たという方は?」
まやかしの幻術であった可能性を考えて、マリーが訊ねた。
「私の他に、ギルドにいた職員が数人と、その場に居合わせた冒険者が何人も。そりゃあ、天使ですからね。ちょっとした騒ぎになりましたよ。ええ」
その後、二人は他の職員や現場に居合わせたという冒険者等にも話を聞いたが、余りに突然のことで、本物の天使かどうかは分からなかった。けれど、背中の純白の翼など、外見上はまさに天使そのものであったと、皆、同じ答えを返すだけだった。ローレン商会に敵対する商売敵などの線も探ってはみたが、こちらも成果は無かった。
「手掛かり無し‥‥か」
調査そのものに進展が無いため、二人はとにかく現状を考え直す。
「何故このタイミングで忠告に来たんだろう?」
思えば、天使の行動には疑問点が多い。本当にホルスが危険な存在であるならば、冒険者ギルドなどより、教会や国王など、もっと大きな力を持つところに現れても良いはずだった。
「僕達がホルスに関わって、何かが変わり始めている‥‥ということかな?」
可能性として無くはない。もし神が自分達の想像もつかない高みから世界の運命を見ており、天使が冒険者に警告を行ったことで、世界にとって良い方向に運命が変わるのだとすれば、この不可解な状況も神の意によるものだと納得できなくは無い。ただ、それは宗教的な考えで、あまり現実的な考え方とは言い難い。
「仮に天使でないとすれば‥‥やはり悪魔ではないでしょうか」
聖職者であるマリーは、敢えて今回の天使を本物とは信じなかった。確証は無い。だがもし、彼女の予想が当たっていたならば、冒険者達のまだ知らぬところで、何か大きなものが動いている可能性があった。
シェリル・オレアリス(eb4803)は一人、ローレン商会の情報を集めに動いていた。
「う〜ん‥‥なかなか難しいものね」
しかし、どうやらこちらも思うような成果は上がらないらしい。彼女が情報を訊く対象としたのは街の一般人だ。昼は占い師を演じ、上手くローレン商会の店の情報を聞き出しては、そこに向かってみた。だが、商会の取り扱い商品は、武具から貴族の服、人々の日用雑貨まで、まるでエチゴヤのように様々な品を取り扱っており、とにかく手広く商売をしているようだ。
何人か、馴染みの客と思わしき者に声をかけ話を聞いてみたが、特に妙な噂などは聞けなかった。
夜。彼女はフォーノリッヂのスクロールを用いて未来を見ることを試みた。
ただ、この魔法も中々成功と言える結果を出せない。というのも、未来を見せる精霊の力が、指定した単語の意味を使用者の意図通りに汲み取ってくれるとは限らず、それがいつの未来なのかも分からないからだ。ただ、何十回と試した中で一度だけ、気になる結果を見せたものがある。
「これは‥‥」
その時に指定した言葉は、『クエイクドラゴン』と『襲撃』。見えたのは、クエイクドラゴンに人々が襲われている光景。気になったのは、その未来の中に、ドラゴンが人々を襲う様を、笑って眺めている見知った男の顔があったこと。
「あれは‥‥ガルディア・ローレン‥‥?」
「魔法ってのも融通が利かないものがあるんだな。おかげで酷い目にあった」
「すみません。この手の魔法は、どうも扱いが難しくて‥‥」
シンザン・タカマガハラ(eb2546)とジークリンデ・ケリン(eb3225)はクエイクドラゴンの様子を探るべく山を訪れていた。
ただ、先に山に着いて適当な場所に身を潜めていたジークリンデと対照的に、シンザンは猛吹雪の中を歩いてきたために、それなりに体力を消耗している様子だった。
それというのも、ジークリンデがローレン商会の者達の行動を阻害するために用いた天候操作の魔法の影響である。天候という大きなものに影響を与えるせいか、この類の魔法の効果範囲は変動も大きく、無作為に数十キロ単位で効果の及ぶ有効範囲が変わる。思い通りの範囲で天候の変化が定まることの方が稀だ。
「まあ、この天候で影響受けてるのは連中も一緒だろ。今のうちに行かないとな」
ここまでの道のりもかなり厳しいものであったはずだが、シンザンはまだ動くという。この体力はさすがに優れた肉体を持つハーフエルフの戦士といったところか。
ジークリンデの魔法による索敵を元に、二人は山を進んだ。どうやら、クエイクドラゴンは山の洞窟の一つを塒に使っているらしい。その入り口付近には、ローレン商会の者達の姿も四人確認できた。ジークリンデにとっては忘れもしない、先日戦ったあの傭兵達だ。クエイクドラゴンに食べさせる食糧だろうか。かなりの量の荷物と、明らかに人数に会わない頭数の馬が揃っていた。シンザンの脳裏に、自分を庇ってくれた愛馬の最期の姿が浮かぶ。
「くっ‥‥あいつ‥‥」
万が一を考えて携えていた剣を握る手に力が篭る。本当は、今すぐにも飛び出して行きたい。
「耐えてください。これ以上は、向こうの魔法で探知されるかもしれません」
ジークリンデにそう言われ、シンザンは唇を噛み締め、心の中で呟いた。
(「絶対に‥‥許さねぇ‥‥!」)
間違いなく、ローレン商会はクエイクドラゴンと手を組むことに成功している。それを確かめ、二人は山を降りた。
同じ頃、イワノフ・クリームリン(ea5753)とオリガ・アルトゥール(eb5706)も、再びホルスに会いに山を訪れていた。
やはり、二人も天候による影響を受け、かなり疲労していたが、この悪天候で山の獣達も大人しく身を潜めているらしく、道中の障害となるようなものが無かったのは幸いであろう。
「あの‥‥ダージボグを看取っていただき、ありがとうございました」
『‥‥礼などよい。それに、我に訊ねたきは別のことであろう』
どうやら、今回もこちらの意志は見透かされているらしい。ならばと、オリガはホルスに問う。
「貴方を退治しろという天使がギルドに現れました。何か、ご存知でしょうか?」
『知らぬ』
一瞬、オリガとイワノフは耳を疑った。この精霊ならば必ず何かを知っているはずと、そう思っていたからだ。
『それほど驚く事ではない。大地を照らす太陽とて、夜は姿を消すのだ。我とて、この世の全ての事象を把握しているわけではない。天の上の者、地の底の者。我の見知らぬ者もまだまだ多い』
「参ったな‥‥」
イワノフは今もこの混乱した状況の中で、自分の進む道を決められずにいる。ホルスに会って何かきっかけのようなものを得られればと思っていた。
『少なくとも、我の目より姿を隠す存在であるならば、人にはあるまじき者であることは確かであろう』
そう助言するホルスに、オリガは次の問いを投げる。
「失礼を承知で訊ねます。あの竜と貴方と。その双方が山を去れば、今の一件は解決すると思うのですが、いかがでしょうか?」
『人の都合を重んじた考えだな。我にしてみれば、この一帯に住まう全ての人が新たな地に移り住むことの方が望ましい。元より、竜の地に踏み入ったのは人の方でもある』
「そんなこと‥‥」
『主ら人は出来ないのではなく、それを望まないだけであろう』
返そうとした言葉さえ見透かされ、イワノフもオリガもどう答えてよいか分からない。
「貴方がここを去るとすれば‥‥」
『ここに留まる理由を失えば、去ろう』
「他に、誰か貴方に接触した人はいますか?」
『無い。元より、我は不要に他者との接触を持とうとはせぬ』
精霊と人は違う世界を生きている。
人の意思とホルスのような事象の意思が常に共にあると限ったことでないのは理解していても、それが悲劇を生むなら悲しいことだと、オリガは思った。
マリス・メア・シュタイン(eb0888)は一人、ガルディアの屋敷へと訪れていた。未だ分からぬ商会の真意を探るためだ。
警備の者達に事情を話し、ガルディアへの面会を頼んだ。
しばらく待たされることになったが、大きな支障はない。
「今日はどのような用件かね?」
「あの、ドラゴンのことを狙っている人達がいるってことを伝えに来たの」
マリスは出来る限りローレン商会に対して協力的に振る舞い、取り入ろうとしていた。実際、クエイクドラゴンのところにはシンザン達が様子を見に向かっている。情報としては確かなものだ。
「らしいな。交渉にあたった一団がドラゴンを倒すつもりで山に来ていた冒険者達と戦ったと報告があった。どういうつもりかは知らないが、こちらとしては迷惑な話だ」
その時に殺された冒険者達を助けたのもマリスなのだが、さすがにそのことは知られていないだろう。
「あの、私もホルスの捕獲に協力したいの。お手伝いさせてくれない?」
「ほう‥‥理由は?」
「穏便に事を済ませたいの。ローレン商会なら、あのドラゴンだって飼ってあげられるでしょ。それで皆、死なずに済むなら、私はそれに協力したいの」
ガルディアは少し悩んだ末に、マリスにこう訊ねた。
「あのドラゴンを死なせたくない。それが理由か?」
「はい」
はっきりと、マリスはそう答えた。
「では‥‥残念ながら君は不採用だ。すまないが、帰って貰おう」
「‥‥え?」
予想外のガルディアの返答。
「‥‥それって、どういう事!?」
「お前達、客人のお帰りだ。丁重に送って差し上げろ」
声を荒げるマリス。だが、両横から警備の兵に腕を掴まれ、そのまま屋敷から無理やり出されてしまう。
「ドラゴンの命を助ける気は無い‥‥そういう事‥‥?」
閉ざされた門の前で、マリスは答えの返ってこない問いを呟いた。
「こういった事は、二度と無いように願いたいものだがね‥‥」
「すまない‥‥」
マリスが屋敷を訪れた翌日。マナウス・ドラッケン(ea0021)とデュラン・ハイアット(ea0042)もガルディアと会った。ただし、互いの間に流れている空気は実に重い。それというのも、二人がここに辿り着くまでに大変な面倒をガルディアにかけたことが原因だ。
「マナウスと言ったか。以前見た報告書で実力のある男だとは知っている。だが、旅の道中で行き倒れるような失敗を犯す男を大事な作戦で使うのは、こちらとしては考え物だな」
そう。今回の依頼、マナウスは保存食はおろか、寝具、防寒具に至るまで、およそ必要と考えられる一切の道具を持たず、キエフより徒歩四日を要するガルディアの屋敷を目指して出発するという、熟練の冒険者にあるまじき失敗を犯していた。道中で体調を崩した彼をデュラン一人では担いで運ぶのも難しく、かといって、マナウスが連れ歩いていた月精竜や鬼火のために、通りがかりの乗り合い馬車でも乗車を拒否される始末。どうにも身動きが取れなくなっていたところを、偶然出会ったローラン商会の商人にデュランの名前でガルディアへの伝言を頼み、急ぎで迎えの馬車をよこさせて、どうにかここまで辿り着いたという、お粗末な状態なのである。
「今回はたまたまそういう失敗をしているが、普段は使える男なのだ。この私が薦めるのだから間違いない」
デュランはいつもの調子でガルディアに進言するが、さすがに反応は悪い。これはマズいと悟ったデュランは、話を切り替える。
「ああ、今日来た目的だがな、以前の話の続きをしに来たのだ」
「追って連絡を寄こすと言ったはずだが‥‥まあ、良い。少しは話してやろう。何を聞きたい?」
「例の鍵だが、ドラゴンを使うのだろう?」
「その通りだ」
あっさりとガルディアは答えた。
「具体的には?」
すると、ガルディアは意外にもマナウスの方へ顔を向け、こう言った。
「あのドラゴンの頑丈さは知っているな?」
突然のことにマナウスは何か試されているのかと想ったが、特に他意は感じられなかったため、とりあえず頷いて見せた。
「かなりの威力の魔法でも、奴の堅い皮膚の前には通じない。例えホルスといえど、あれを止めようとすれば、どうしても自分の巨体を使っての力押しで止めざるを得ないだろう。ホルスの捕獲には様々な問題があるが、その中でも最大の障害と考えられるのは、奴の驚異的な飛行能力だ。延々と高速で空を飛び続けられたのでは、全く捕らえる隙がない。だが、地上に降りてこさせることができれば、こちらの手も届く」
後は、集めた人材にガルディアが指示を出し動かす‥‥と、そういうことらしい。
「他に聞いておきたい事はあるか?」
「‥‥天使がギルドにホルス退治を依頼しに来たって話は知っているか?」
先ほどまで小さくなっていたマナウスだが、このままではいけないと、ここに来た目的を思い出す。
「何だ、それは?」
全く耳に入っていなかったらしく、ガルディアば興味深そうな様子を見せる。そのまま、ギルドで聞いた一部始終を話すと、ガルディアの様子は一変した。
「‥‥すまないが、今日はこれで帰ってくれ。至急、キエフまでの馬車の手配をさせる」
明らかに、ガルディアに先ほどまでの落ち着きが無い。
「いや、できれば、もう少しここに‥‥」
調べたいことや確かめたいことが幾つもあったデュランは、そう言って屋敷にいる時間を延ばそうとした‥‥が、
「帰れと言っているんだ」
有無を言わさぬガルディアの剣幕に、それは適わぬ望みとなった。