【破壊神の僕】地精の嘆き

■シリーズシナリオ


担当:BW

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:15 G 20 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月28日〜04月06日

リプレイ公開日:2008年04月24日

●オープニング

 囚人達の脱走騒ぎから数日。
 事件の裏に悪魔の影を感じた冒険者達は、それぞれに調査を行っていた。

 国内で有数の大商会であるローレン商会の管理する開拓地の一つ。そこに二人の冒険者が訪れた。
 だが‥‥。
「立ち入り禁止とは、どういうことだ?」
「そのままの意味だ。商会の関係者から許可を得た者以外、この先は立ち入り禁止になっている。そういう上からの指示でね」
 訊ねたウィザードの前には、商会の一員である男達が数人。道を塞ぐかのように立っていた。
「それは、商会にとって他人に見られては困るものがある、ということですか?」
 レンジャーの言葉で、男達の表情に一瞬ではあるが変化が見えた。どうやら、図星だったらしい。自分達がここまで来た目的も、それだ。
「悪いが、詳しいことは話せない。どうしてもと言うのなら、上の人間に掛け合って話を通してからにしてくれ」
 そう言って、男達は二人を追い返した。
「何かあるのは間違いないようだが‥‥」
「今は無理に踏み込めませんね。ここは一応まだ商会の管理下にありますし、無断で入り込んで見つかり、盗人扱いでもされれば、先日捕まえた囚人達と同じく牢の中‥‥」
「ふむ‥‥聞いた話だが、行方不明になった者達の捜索のため、商会が人員の募集を行っているらしいな。それに参加できれば機会があったかもしれんが‥‥」
「残念ながら、気になることは他にもあります。今は、そちらを優先しないと‥‥」

 その頃、キエフ某所。
 一人のウィザードと役人が、人目を避けるようにして会っていた。
「よく来てくれた、パーヴェル。で、私の送った手紙への返答は?」
「‥‥正直、信用するには足りないな」
 ウィザードの男は、仲間達が調べた情報や自身が関わった依頼の内容も含め、個人的に面識のあった国の役人の一人に送っていた。
 なお、情報の収集にあたった冒険者達の中には、大地震によって崩落した、あの谷の情報を探し回った者もいたが、その険しい道のりから今まで近づく者のいなかった地域であったと再確認しただけに終わる。比較的、国としての歴史が浅く未開の地が多いロシアでは、資料や文献を頼るのも難しいだろう。あの谷の奥に何があったのかは、以前、謎のままである。
「はっきり言えば、情報が足りない。キエフに流れている様々な噂についても、それらを悪魔と結びつけるものが無い。悪魔の仕業だとして、目的も不明だ。これでは国としては動けん」
「それは承知している。しかし、本当に放っておいて良いのか? このまま、国全体を揺らがす事態にまでなっても構わない、と?」
 どこか脅迫にも似た雰囲気を漂わせながら、男はパーヴェルに詰め寄った。
「まあ‥‥ここ最近になって、あちこちの開拓地から、良くない報告が届いているのは確かだ」
 その言葉に、男はニヤリと笑みを浮かべた。

 後日、冒険者ギルドにて。
 集められた冒険者達は、他の冒険者達の目から離れるようにして、小さな部屋へ案内された。
 そこに、あのパーヴェルがいた。
「諸君らも知って通りだが、このロシアの大地全体に何か異変が起こり始めている。その調査を頼みたい」
 そう話を切り出したパーヴェル。
「ただし、諸君らが国の依頼で動いていることは、他に知られぬよう細心の注意を払って欲しい」
「どういうことです?」
 冒険者の一人が訊ねた。情報を聞き込むにしろ、何処かへ立ち入るにしろ、国の後ろ盾というものはこれ以上なく心強い武器になりうるはずだった。
「諸君からの報告にあったガルディア・ローレン氏と悪魔との関係や、先日の囚人達の脱走騒ぎ。これらを踏まえるなら、既に、このロシアのあらゆる場所に、悪魔や、その手先となっている人間が数多く存在している可能性が高い。それらに諸君らの行動の目的を勘付かれた場合、敵が何らかの妨害行動に出てくる可能性もある。だから、表立っては別の依頼を受けた形で、行動してもらいたい」
 そして、彼は次の依頼書を提示した。
「北方に、巨大な精霊が現れ、村が滅ぼされたという噂を聞いた者もいるだろう。その精霊と言うのは、ポレヴィークと呼ばれる大地の精霊だ。だが本来、この精霊は凶暴な性質の持ち主ではない。野原や畑の守り神といわれ、その地にすむ人々の尊敬を集めていた精霊だ。それが、突然に人に牙を向いた。その時期は諸君らの知る、あの大地震の起こった時と前後している。これが偶然とは思えない」
「なるほどな」
 表向きは、人に害を為す存在となった精霊を鎮めること。そして真の目的は、大地の変化に敏感な地の精霊と接触することで、異変の原因を探ること。
「ポレヴィークは余所者を嫌う。人間を道に迷わせ追い返すことは珍しくない。それに、この一帯の森はポレヴィークだけでなく、トレントやガヴィッドウッドなどの特殊な力を持った樹も多いと聞いている。十分に気をつけてくれ」

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8553 九紋竜 桃化(41歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8737 アディアール・アド(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea8769 ユラ・ティアナ(31歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb0655 ラザフォード・サークレット(27歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb2363 ラスティ・コンバラリア(31歳・♀・レンジャー・人間・イスパニア王国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec0140 アナスタシヤ・ベレゾフスキー(32歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec0199 長渡 昴(32歳・♀・エル・レオン・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ソムグル・レイツェーン(eb1035)/ 木下 茜(eb5817

●リプレイ本文

 ざわめき揺れる森。
 恐怖に震える大地。
 世界に轟くのは闇からの叫びか、破滅の足音か。

 解け残った雪がチラホラと見える森の中を、冒険者達はゆっくりと進んでいた。
「少しずつ春に近づいてはいるようだが、まだまだ寒いな。こんな時に、火を使えないというのは些か堪える。誰か私と引っ付いて歩かないか? 別に男相手でも一向に構わんが?」
 場を和ませようとして言ったのかもしれないラザフォード・サークレット(eb0655)の発言。しかしながら、近くにいた周りの冒険者達は逆に距離を空けたように見えた。顔を背けているのは、気のせいだと思いたい。
「服装の趣味だけがアレなのかと思えば、そっちの気もあったとは‥‥」
「私は器のでかい男だからな。少しばかりアレな男でも、それなりに仲良くはしてやろう。しかし、それ以上は近づくなよ」
 聞こえたアナスタシヤ・ベレゾフスキー(ec0140)とデュラン・ハイアット(ea0042)の言葉に、ラザフォードは、密かに心で泣いていたに違いない。もっとも、この二人の場合、単にラザフォードで遊んでいるのかもしれないが。
「相手の位置を特定できるくらいの地図が作成できれば良かったのですが」
「いやはや、この深い森では上空から偵察するのも難しいですね。素人目には似たような木ばかりで目印になりそうなものもないですし。迷いの森と呼ばれるのは、こういう場所なんでしょうね。とはいえ、私としては、これはこれで個人的に楽しいのですけれども」
 少し残念そうに言うラスティ・コンバラリア(eb2363)。もっとも、正確な位置こそ掴めていないが、おおよその方角に関しては分かった。その情報を踏まえた上で、彼女の前を行くのは、深緑の森こそが自らの故郷と話す薬草師、アディアール・アド(ea8737)。
「大丈夫かしら? こんなにサクサク進んで、帰りの道が分からなくでもなったら‥‥」
「ははっ、まさか。この程度の距離で迷ったりしませんよ」
 仲間達と繋げたロープを強く握るユラ・ティアナ(ea8769)の不安げな言葉にも、アディアールは笑って応えた。他の冒険者にとっては正しい方角を進んでいるのか疑いながらの行進であったが、彼の足にだけは全くといって言いほど迷いが無い。
 アディアールの持つ森歩きや植物への知識は、既にその道の達人という枠を超えた域にある。他の冒険者達にしてみれば、彼が何故それほどまで自信を持って、この視界の悪い森を平然と進んでいけるのか理解出来ないほどだ。だが、今回の依頼でこれほど心強い冒険者は他にいないかもしれない。
「それにしても、大地の精霊が村を滅ぼすなどと、いったい原因は何なのでしょうか‥‥」
「以前の地震が、それほどの何かであったということかもしれませんが、実際に精霊に会ってみるまでは何とも言えませんね」
 精霊への貢物としてキエフで仕入れてきた鶏の卵を万が一にでも転んで台無しにしないよう、足元に気を配りながら歩を進める九紋竜桃化(ea8553)とオリガ・アルトゥール(eb5706)。
「冬場の卵は貴重ですし、そのことを精霊が理解してくれると良いのですが」
 この世界で、それなりに精霊の知識を持つものならば常識的に知っていることの一つに、精霊は食事を必要としないという事実がある。人間の社会をよく知る精霊の中には、貢物をするという行為を誠意として受け取るものもいるが、食べ物を貢ぎ物として好む可能性は低い。色々とキエフで調査もしては見たが、やはりポレヴィークが何かの食べ物を欲したり喜んだりしたという話は誰も聞いたことが無かった。実際、大して喜ばれない可能性が高いのだが、まあ、物は試しで何個かの卵だけでも、というのが最終的な二人の判断のようだった。
「ふむ‥‥誰かにつけられたりはしていないようだが‥‥」
 後方に目を配りながら、エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)が呟く。幸い、ここまで悪魔や不審な追跡者の影は一切ない。ポレヴィークの異変は、悪魔達やローレン商会の関係者が意図的に起こした類のものでは無いのかもしれない。

 少しずつ奥へと進み、気がつくと冒険者達は森を走りまわっていた。
「まぁ、待て。話せばわかる‥‥状態ではないか」
 襲いくるガヴィッドウッドの枝を紙一重で回避して、ラザフォードは動きを制限する魔法で敵の攻撃から仲間達を守る。
「ええい、もどかしい。いっそ派手に暴れてやりたいが‥‥」
 右から左からと、様々な方向から次々に現れる枝を冷静に見極めて避けながら、デュランは小さく舌打ちをする。
「出来るだけ、攻撃の届かない場所を選んで進んではいるのですが」
「仕方ありませんよ。こうも数が多くては」
「やれやれ、走り回るのは苦手なんじゃがの」
「お前達、絶対に手を出すなよ。とにかく、今は逃げるのみだ」
 ペット達に指示を出しながら、エルンストは必死にアディアールの後ろを付いていく。オリガやアナスタシヤなどもそうだが、肉体的な戦闘技術は学ばず、ひたすらに魔術の腕を磨いてきた者達にとっては、多くの敵の攻撃を一方的に耐える状況が続くのは非常に厳しいものがあった。
「くっ‥‥いったい、ポレヴィークはどこに‥‥!?」
 愛馬を庇いながら長渡昴(ec0199)は、篭手を上手く使い、枝を受け流す。だが、いつまでも、このまま耐えているわけにもいかない。冒険者達の心の中で、焦りや苛立ちの感情が少しずつ強くなる。精神的な疲労が、身体の動きを鈍らせる。
「賭けてみるか‥‥」
 呟いて、一人の男が一本のトレントの前に進み出た。
「何のつもりだっ!? 無茶はよせ!!」
 後方から止める仲間の声がしたが、彼、エルンストは歩みを止めない。そして、こう言い放つ。
「この森に危害を加える気はない。この身を喰らいたければ、喰らうがいい。だが、せめて話を聞いてからにしてもらいたい」
 説得を試みるエルンスト。しかし、トレントの枝は止まることなく彼を捉え、その身を弾き飛ばす。
 強い衝撃に深手を負うエルンスト。だが、それでも彼はその手に印を結ぶことはせず、無抵抗の姿勢を崩さない。横から伸びたガヴィッドウッドの枝が彼の身を捕らえる。
「ええい、世話をかける奴め」
 さすがに危険だと判断したデュランが暴風の魔法を使おうとした、その時だった。
『止めい!』
 その声が森に響くと、冒険者達を襲う木々の動きがピタリと止まった。
「な、何だ‥‥!?」
 ただの地面であったはずの場所が、ゆっくりと隆起し、やがて、それが人の形を取っていることに冒険者達は気づく。
 泥の肉体に、草の髪や髭。大地より姿を現した巨大な精霊。彼こそ、冒険者達が探していたポレヴィークだった。
『ふむ。自らの身を危険に晒そうとも、けして反撃はせぬか。呆れるほどの馬鹿じゃのぅ』
「酷い‥‥言い様だな‥‥」
 傷の痛みに顔を歪ませながら、エルンストは言葉を放つ。
『ふぉ、ふぉ。じゃが、お前のような者は嫌いではない。他の者達も、そこらの人間とは違うようじゃの』
 草の髭を上下に揺らして笑い、ポレヴィークは他の冒険者達へ視線を移した。
「これが、あの村を滅ぼした精霊‥‥?」
 アナスタシヤは、ここに来るまでの途中に魔法の箒を用いて、滅ぼされた村の様子をその目で確かめた。かなり酷く荒らされていたが、それを為したのが目の前にいるこの穏やかそうな精霊だというのには、疑問を抱かずにはいられなかった。
「ポレヴィーク、あなたが守る神聖な地を私たちの足で穢した事、どうぞご容赦願います」
「ですが、それは理由あってのこと。古くより、この地を守護してきた大いなる巨人よ、如何か我々の言葉に耳を傾けて下さい」
 オリガと桃化が謝罪の言葉を述べつつ、持ってきた卵をポレヴィークへと差し出す。
『ほう、礼儀正しい嬢さん達じゃのう。じゃが、わしゃ人間の食い物に興味は無いんじゃ。気持ちは受け取ってやるが、そりゃ自分達で食え。‥‥ああ、しかし、そこのお前さんのは受けとろうかの。そこでお預けをくわされてイジけとる木達に、かけてやってくれ』
 ポレヴィークが顔を向けた先。デュランが樽を二つ取り出していた。
「ふむ‥‥精霊ではなく魔樹に貴重な富士の名水をやるのは気が引けるが、まあ、お前がそう言うのなら良かろう」
 樽の蓋を外し、渋々ながら周囲の木々へと水撒きを始めるデュラン。
『‥‥さて、話とは何かの?』
 聞きたいことは幾つもあった。最初に訊ねたのはユラだ。
「何故、急に村を襲ったりしたの? 理由を聞かせて」
『危険になったからじゃよ。人という存在がの』
「どういうことです?」
 返された言葉の意味するところが分からず、昴がより詳しい説明を求める。
『ぬしらのような者には聞こえぬかもしれぬな‥‥あの声は』
「声? それは、何か邪悪な意思が働いているものですか?」
 ラスティの問いにポレヴィークは肯き、それを見て、オリガが次の問いを投げた。
「私たちも追っている事件があります。もしかしたら繋がりがあるかもしれません。いったい、その声とは何なのですか? いったい、誰がそんなものを?」
『世界をおかしくするものが、何処かで封じられた力を取り戻そうとしておる。声は、そのためのもの。弱い人間はその声に負ける。そうなった人間はわしらに害を為す。今のわしらに出来るのは、全ての人間そのものを遠ざけることくらいじゃ。じゃから村を壊し、人間を追い出した』
「‥‥何か大きな存在が裏で動き始めている‥‥というわけですか」
 アディアールは思考し、そして訊ねる。
「私達に、何か出来ることはありませんか?」
『全てを平穏に戻す手段はわしにも分からぬ。じゃが、ことを悪くせぬには、既に声に操られている者達を止めることが必要じゃ』
 話に一区切りがついたのを確認して、デュランが訊ねた。
「最近、この辺りに姿を見せるようになったホルスがいただろう。何処にいるか知らないか?」
『わしには分からんな。少なくとも、この近くにはおらん』
「そうか‥‥」
 言って、デュランは空を見た。ポレヴィークの言葉を聞いても、この目にあの翼が映ることを少し期待している自分がいた。

 祈りよ届け 我が神よ 大地に根付く偉大な神よ
 忘れるなかれ 穏やかなる大地の息吹 風の歌声 水面の静けさ
 祈り願う人々の声に耳を傾けたまえ その心をどうか鎮めたまえ
 祈りよ届け 偉大なる精霊よ 邪なる闇に負けることなかれ

 森を去る際に、ラスティは想いを込めて歌った。
 ポレヴィークの話によれば、声の存在は人間だけでなく精霊達にも影響を与えはじめているという。各地の地震や災害は、その一端であるらしい。
 そして、彼はこうも語った。
 異変はまだ、始まったばかりである‥‥と。