【破壊神の僕】繋がる闇
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■シリーズシナリオ
担当:BW
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:15 G 20 C
参加人数:12人
サポート参加人数:4人
冒険期間:06月07日〜06月16日
リプレイ公開日:2008年06月21日
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●オープニング
先の戦いより数日。
冒険者の魔法により崩壊した遺跡の外。
彼らの姿は、まだそこにあった。
「‥‥ったく。あの人は、いつまで待たせるんだよ」
ディマスは大きな欠伸を一つして、何もない空を見ながら呟いた。
あの戦いの後、ガルディアは用事が出来たからと、しばらく自分達にここで待つように言い残した上で、何処かへと姿を消した。
それまで、毎日のように薄暗い遺跡の中を歩き回る日々が続いていたこともあって、最初は良い休息になると少し喜んだりもした。
だが、思った以上に長く続く休みは退屈なだけであった。
「そんなに暇なら、剣の素振りでもしてれば良いじゃない。マカールさんなんて、毎日ずっと訓練ばかりしてるわよ」
後ろからクラーヴァのお節介な声が聞こえたが、ディマスは聞かなかったことにして無視した。
自分でも、思うところが無いわけでもない。剣の腕だけが取り得だと思っていた自分。それが先の戦いでは冒険者側の騎士に圧倒され、出来たのはマカールやガルディアが他の冒険者達を相手取っている間の時間稼ぎ程度。それが悪いわけではない。マカールのような卓越した身のこなしや、ガルディアのような高速移動を兼ねた攻撃の魔術がある者なら、自分の戦い易そうな相手から先に潰していく戦い方は、妥当な戦術だったろう。その間に他の冒険者の相手をして時間を稼いだ自分は、十分に役に立ったと言える。
しかし一方で、見方を変えれば、自分の存在は、いないよりはマシだった、というだけにも思えた。
マカールは、あの冒険者達を仕留めきれなかったことを自身の未熟と恥じて、さらに高みを目指している。自分から見れば、あの手練れ揃いの冒険者達を相手に大暴れしていたマカールの実力は完全に人外の領域だ。そのくせに、まだ力が足りないと言う。最早あれは変人の類なのだろうが、彼の背中を見ていると自分がとても小さく弱い存在に思えて、強くなりたいという願望と、諦めて全てを投げたくなる失望とが、心を混沌とさせる。
(「どうすりゃ良い‥‥。どうすりゃ‥‥」)
その時、遠く空を見ていたディマスの視界に、ふと見慣れぬものが映った。
「何だ?」
かなりの速さでこちらに近づいてくる。数は六。鳥のように見えるが、違う。段々と輪郭がはっきりしてくると、それには四つ足があった。そして、その背に‥‥。
「人間‥‥? まさか、あれが‥‥」
「ガルディアの用事というやつだったらしいな」
「って、マカールさん!? いつの間に後ろに!?」
驚いて声を上げるディマスだったが、マカールの方は気にした様子もなく、向かってくるグリフォンと、それを駆る者達の姿を真っ直ぐ瞳に捉えていた。
そこに並んだのは、六人の乗り手達。
「紹介しよう。右からクラスティ、レティア、ニーバ、フェイ、トーマ、ラシェル。元は、私の下で働いていた傭兵達だが、その最中に、どこぞの馬鹿悪魔に誑かされ、私の元を去った。おまけに、その悪魔が行方知れずになったせいで、先日まで途方に暮れて各地を転々としていたという情け無い有様だ。おかげで所在を掴むのにも苦労させられた」
「ところどころ妙に悪意を感じる紹介は止めて下さい。だいたい、俺達を悪魔に売り渡したのは、ご自分でしょう?」
「他の者はともかく、お前はイペスが私に隠して連れていったのだ。ただの人間のまま、上手く使ってやるつもりだったものを‥‥」
進展しない話に苛立ちを覚えたのか、マカールが口を出す。
「くだらん話はどうでもいい。ガルディア、この者達を連れて何をする気だ?」
「なに。探し物を手伝わせるために連れてきたまでだ。それに、いざという時の戦力にもなる」
ふと、ガルディアは懐から小さな正八面体の物質を、取り出した。
「それは?」
クラスティの問いに、ガルディアはその物質を彼に渡してから応える
「レミエラという。お前達が世間から離れている間に、世界中に広がった品物だ。今ではエチゴヤと縁の深い冒険者を始め、城の兵士や旅の傭兵はおろか、それを奪った森の魔物達にまで所有者が広がっている。もっとも、高い効果を持つ物は希少で、私もまだ、珍しいものは持っていない。武器や防具に付けて使うのが一般的だが、装着に時間がかかるのが難点でな。使い方は今から説明してやる」
「なあ、ガルディアさん、ちょっといいか?」
「何だ?」
これからガルディアの長い説明が始まるのだろうと思ったディマスは、考えていたことを告げることにした。
「悪い。俺、しばらく別行動させて貰いたいんだ」
「ほう。理由は?」
「別に‥‥つうか、一人で少し考えたい事があるだけ」
真面目に答えるのも面倒そうに、ディマスはガルディアに言った。
「‥‥良かろう」
「ちょっと待ちなさいよ、ディマス!! ガルディアさんも、何で今ので、あっさり認めちゃってるのよ!?」
クラーヴァが抗議の声を上げるが、ガルディアは特に意に介した様子はない。
「どの道、『声』に魅入られた者は戻ってくる。何を思い、どこへ行こうとな」
「まあ‥‥そうかもしれねぇな」
呟いて、ディマスは荷を纏めにいこうと、張ってあるテントへ向かおうとする。
マカールの横を通ったが、彼は何も言わなかった。
(「超えないとな‥‥この人を‥‥」)
――その一方、キエフ冒険者ギルド。
パーヴェルが再び冒険者達を集めていた。
「先の遺跡内の調査で判明した謎の遺跡。これを見つけ出し、調査にあたってほしい」
「って、ちょっと待て。その前に、俺達に知らせることとか無いのかよ?」
冒険者の一人が促すように言う。
前回の戦いで再会したガルディア・ローレン。戦いの中で見せた悪魔の魔法。
そういえば商会も必死になって彼を捜していたはずだが、その後、どうなったのか。
「‥‥ローレン商会だが。現在、捜索作業は打ち切られた。行方不明になった傭兵や開拓民達ごと、だがな。ガルディア氏当人を捕縛していないため、あくまで悪魔に魂を売った容疑がかかったというだけだが‥‥。結果、今、商会内でガルディア氏の務めていた代表の座を、誰が継ぐかで揉めに揉めていて、捜索どころではなくなったというのが実際のところのようだ。それでいて、下手に国が手を出せば、その揉め事がもっと拗れそうでな。結局、国側も静観という状況にある」
「ふむ‥‥煮えきらんな」
「利権の絡む事柄には、少しでも自分が利益を得るため、余計な手を回し、口煩く事を騒ぎ立てる者が山といるものでな。上手く納まるには時間がかかる」
コホンと、咳払いをしてパーヴェルは話の続きに入る。
「まあ、本当に重要な遺跡なら、そう容易く侵入できるような状態には無いだろう。入り口そのものが簡単には見つからないかもしれん。その状況にあるとすれば、今頃、ガルディア氏達は‥‥」
●リプレイ本文
人よ、憎しみに踊れ。
怒りに興じ、絶望に笑え。
他者の不幸を願い、その破滅を夢見よ。
我が司りしは、復讐なれば。
目的の遺跡調査をほとんど進められぬまま、冒険者達が敵との戦いを強いられることとなったのは、森に辿り着いて早々のこと。
「まさか、こんなに簡単に!?」
接近したグリフォンの背後から突き出された槍をかろうじて回避するも、そのさらに後方より飛来する豪の矢に肩を撃たれ、ただ一人で敵に包囲されたユラ・ティアナ(ea8769)は、とにかく走って仲間達と合流することを目指した。
逃げる背中を雷が襲う。顔を歪め、携帯していた回復薬を湯水のように使いながら、どうにか身体能力を保持し命を繋ぐ。
事の起こりは、ユラが仲間達から先行して周囲の捜索に動いたこと。無理をせず、敵の姿を見つければすぐに遺跡調査を始めている仲間達の近くに戻るつもりではあったが、どうやら探査・索敵範囲の広さに関しては敵の方が上だったらしく、結果、仲間達から離れて動いた彼女は、一人で敵の集中攻撃を浴びる羽目になった。
隠密技能には自信があった。だが、どうやら敵は魔法の類でユラの存在を掴んでいるらしく、いくら木々や茂みを利用し姿を消して敵を撒こうとしても、それは成功しなかった。
――ゴッ!
繰り出された高速の襲撃を咄嗟にかわせば、そこには先の戦いで出会った男の姿。
「‥‥偶然に、というわけではなさそうだな」
呟くマカールの声に応えるよりも、と再び走り出す。
「くっ‥‥!」
しかし、ほんの一瞬で、マカールの姿は再びユラの逃げ道を塞ぐ。
身につけた装備重量の差もある。一度追いつかれてしまった以上は、どう足掻いても、この男からは逃げられる気がしない。万事窮すかと、死を覚悟した。
そこに、誰かの足音が近づいた。
「だらああぁっ!!」
二つの魔刀を同時に振るいつつ、側面より飛び出したのはリュリス・アルフェイン(ea5640)。
しかし、マカールの反応が上回ったか。飛び退いた彼の動きに、刃が手応え無く空を切れば、小さく舌打ちをしたのは両者ともに。
「間に合ったか‥‥って、堂々と言えりゃ格好も良いんだろうがな」
今、この場に来たのはリュリス一人。敵の方が数も多く、危険な状況に変わりはない。彼も偵察に動いていた身で、仲間達の中で距離的に最もユラの近くにいたというだけだ。
(「ちぃ。下手に偵察でこっちから近づくより、遺跡が見つかるまで警戒だけしてる方が良かったかねぇ‥‥」)
敵の索敵魔法には注意しているつもりだっただけに、仲間達と分断された状態で戦いを始めざるをえなくなったことは悔いが残る。
「ごめんなさい。私が‥‥」
「バラバラに偵察に動いていた時点で、俺も同罪だ。反省会は後にしとこうぜ。とにかく、他の奴が来るまでもたせるぞ」
このような状況にはなっていたが、元より深入りはしないつもりで偵察に動いていたので、他の冒険者達との距離は遥か遠くというわけではない。ほんの数十秒。そこを生き残れれば‥‥。
「こっちです!」
仲間達を先導して進むのは、テレスコープの遠視で戦いの始まりに逸早く気付いたラスティ・コンバラリア(eb2363)だった。
「やれやれ、こういう余裕の無い形で始まる戦いは苦手じゃわい」
「なってしまったものは仕方がない。オリガ、他人に使っている余裕はないだろうが、自分だけにでも‥‥」
「ええ。出来る範囲のことはしておきます」
全力で走るアナスタシヤ・ベレゾフスキー(ec0140)にデュラン・ハイアット(ea0042)。そして、高速詠唱で走りながら自身に強化魔法を施すオリガ・アルトゥール(eb5706)。
「あそこか」
魔法の雷光を視認して、不破斬(eb1568)は、その光の通過点の中に激しく動く人影を見つける。
「私はここで。皆さんは先に」
「任せろ」
細工のために足を止めたラスティの横を斬が抜けて、先頭を切って戦いの場に飛び込んだ。あちこちに傷を負ったリュリスへ追い討ちをかけるように槍を振るっていたグリフォン乗りの若い男へと、側面から攻撃をかける。
「ちいっ! まだ仲間がいやがったのか!?」
右の小太刀は受けられるも、左で魔獣の牙を相手の腕に突き立てると、怯んだ男は手綱を引いて、グリフォンに距離を取らせた。斬は、すぐにリュリスを背に庇うように回りこむ。
「へっ‥‥遅かったじゃねぇか。待ちくたびれたぜ、狼さんよ」
「減らず口を叩く余裕があるのか。見た目よりは元気そうだな」
実際は、立っているのも辛いだろう。そう思ったが、敢えて斬は口にしなかった。代わりに、手持ちの回復薬を一つ、投げてやる。
「そこまでだ!」
一方で、遠目にも分かるほど危険な状態だったのはマカールの前に倒れていたユラだった。間一髪のところを、エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)の風刃とデュランの雷光が届いて、何とかマカールを離れさせた。
「かなり酷い状態ですが、かろうじて息はあります。すぐに治療を」
後から追いついてきたクローディア・ラシーロ(ec0502)がユラの身体を引き摺りつつ後退し、すぐに治療薬の投与と回復魔法の用意にかかる。
「こいつら、次々と‥‥。ラシェル!! 他に鼠はいねぇか!!」
後方の空に声を上げたトーマに応えるように、ラシェルと呼ばれた術士らしき男が森の上空へ姿を現し、その目を周囲に向けた。そして、彼が指を差ししめすと、ほんの一呼吸の間を置いて、その先に森のどこからか矢が飛来した。
「っ痛‥‥!」
こそりと接近を試みていたジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)の肩に、矢が一つ。
(「この距離で気付かれた? 気配を消しても、魔法で姿が見えてるってことか。二人組みでの連携後方支援ってわけだ。おまけに、こっちより向こうの射程が長い。得意の手が通じない面倒な相手ってわけか‥‥」)
彼女だけではない。同様に、オリガやエルンストも魔法での遠距離攻撃を狙ったが、ギリギリの距離でこちらの間合いに入らぬまま、空を逃げ回りつつ攻撃をかけてくる相手に上手く攻撃が行えない。機動力と射程。この双方で優位にある相手を崩すのは容易ではない。対抗する術がなければ、何人でかかろうと全員ただの的にされてしまう。
「全く、嫌になるほど手強い連中じゃのう」
アナスタシヤが結界を生み出して攻撃を防ごうとするも、敵の攻撃力はその守りの壁を貫いて、手傷を負わせてくる。
「くっ。もう少しは容易に近づけると見たが、甘かったか」
立ち止まってスクロールを使うタイミングを掴めず、歯噛みするエルンスト。
「ふっ、なるほど。‥‥だが、それだけで勝てるほど、このデュラン・ハイアットは甘くはないぞ!」
「何か、考えが?」
訊ねたオリガに、男は不適に笑って肯く。確かに、彼には鉄弓にも劣らぬ遠距離攻撃の魔法がある。だが、一人でそれをしても、火の術士に相殺される可能性が高い。それは、過去の交戦で経験したことだ。
「上手くいくかは運次第だが、手はあるだろう?」
じっと見返されて、オリガも気付く。上手く使いこなせる力量に無いために、使用を避けているが、対抗策は自分の中にある。そして、ここはもう、それ以外に手が浮かばない。
「ほんの二、三十秒で済む。手の空いている者はオリガを守れ」
周囲の仲間達に呼びかけるようにデュランは声を上げ、それに何人かの冒険者が肯いた。
確かめて、デュラン自身は周囲に風を纏い、敵の注意を引く囮となるべく、先を走る。その後に続くように、森の中を行く影が二つ。その全ては同じ人間の‥‥ラスティの姿をしていた。
「少々、時間を取りましたが、これで‥‥」
灰より生み出した人形を動かした後、本物のラスティは離れた位置で再び戦況を確かめる。そして、新たに一枚のスクロールを取り出していた。
魔法使いの面々が相手方の魔術師を先に片付けようと動いていた一方、斬はマカール達との激しい近接戦闘を続けていた。
「貴殿が件の無手の武人か」
――ドッ!
「‥‥くっ」
斬の呟きに何かを応えて返すでもなく、マカールは蹴撃を繰り出す。右手の刃を向けて受け止めるも、それが当たるのは厚い靴底。ならばと左手で足に一撃を振るおうとするも、相手の足は、その瞬間には刃を離れて‥‥。
「なっ‥‥」
――ガッ、ゴッ、ドッ!!
息を呑む一間に、受ける手の追いつかぬ連蹴。血の混じった唾液を吐き捨てて、構えを直す。
「‥‥強い。だが、負けるわけにはいかぬ」
その声に合わせて再び攻撃に出れば、その目に映るのは対峙するマカール‥‥と、その後方に迫るリュリス。
「いくぜ、狼さんよ!」
「応っ」
視線を交わして合図を送り、二方から繰り出されるのは四本の刃の同時攻撃。いや、斬は同時に蹴りを繰り出している。瞬間に繰り出される五連撃。これでは、さすがのマカールも‥‥と、そう信じた。
――ッ。
まさに刹那。男の身体は五つの攻撃の軌道、その全ての線上から消えた。これすら通じないのかと、二人の心に絶望に近い思いが生まれる。
‥‥いや、どんな攻撃も通じない人間など存在しない。
「っ!」
小さく呻き声を上げたマカールの、その腕に突き立つのは一本の矢。
「あっちは駄目だったけど、こっちには何とかなるみたいだね。‥‥さあ、狙われた以上は逃げられないよ。このジョーさんの弓からはね」
卓越した弓の名手による、死角を突いての一閃。流石に、これを回避できる人間など、この地上には存在しないだろう。
「‥‥少し安心した。ならば、かわしきれなくなるまで‥‥」
「ああ。やってやろうじゃねぇか!」
十秒。短いようで、その何と長いことか。
「くっ‥‥」
時間をかけての詠唱に入ったオリガの一度目、そして二度目までもが運悪く不発に終わる。魔力の回復のために、さらに時間を消費した。
その間に、エルンストとアナスタシヤが敵の矢を受け、容易に回復できない深手を負い後退。ラスティの生み出した分身達も動きのあった物は潰されてしまった。
「焦っては駄目です。あなたになら、きっと出来ますから」
そう声をかけたのは、クローディア。
ユラの治癒を終え、今はオリガの盾となって彼女を守っていた。
「はい!」
――ッ!!
仲間の声に背を押されるように‥‥生まれ出ずるは、己が敵を討つ超速の水弾。
当然、敵は発光を見て反射的に対応を考える。術士に届く前、それを放たれた火球に‥‥。
「いいえ。止められませんよ」
魔法の理。属する力の優劣。オリガの言葉通り、水は炎を打ち払い、その先へと届く。
体制を崩して大きく揺らいだグリフォンの、その先を待ち受けていたのは。
「ククク‥‥さあ、今こそ後悔させてやろう。この私を敵にしたことをな!」
金色の髪が風に揺れて、雷光二閃。裁きの雷が鷲獅子を喰らえば、戦いの天秤は、その傾きを大きく変えたのだった。
「どうにも雲行きが怪しくなってきたわね‥‥」
離れた位置から攻撃魔法による支援を行っていたクラーヴァは、自分達の旗色の悪さを悟ると、その場を立ち去ろうと考え始めた。
(「ま、誰だって自分の身が一番、大事ってことよね。他人なんて、どうなろうと‥‥」)
「どこへ行くつもりですか?」
「な‥‥っ!?」
クラーヴァの振り向いた先。目に映ったのは、刀を構えた鬼‥‥いや、鬼の面を被った長渡昴(ec0199)。
「いつの間に‥‥」
「苦労しましたよ。空にいた術士の視界から逃れるために、かなり遠回りをしたので、だいぶ時間をかけてしまいましたが‥‥」
刃を掲げて、一気に距離を詰めにかかる昴。
「やるじゃない。でも、重い武器を持ったままで、私に足で勝てるかしら?」
妖しく笑うクラーヴァに、昴も笑みでこう返す。
「生憎と、一人ではないんですよ」
――ュツ!
飛来した矢が、クラーヴァの足を貫いたのは、ほぼ同時。
「やられたままでは終われないもの。助けられた分は、ここから返すわ」
治癒を終え、再び力を取り戻したユラの姿が、そこにあった。
「我が名はビィダブ・リュー。そなたを止める者の名だ。覚えておくと良いだろうがサインはやら‥‥」
「ゴチャゴチャ五月蝿ぇっ!」
槍の先が届く寸前。かろうじて発動した重力反転の魔法によって、ウサミミのリューことラザフォード・サークレット(eb0655)は、トーマの攻撃をかわすことに成功する。
「ちいっ、この変態がぁ!!」
敵も流石というところか。翼なくば地面に口付けをしているところを、巧みな騎乗技術でグリフォンを操り、持ち堪える。
「他人が話している時に邪魔をするな。そして、私は変態ではない。仮に他人からは変態に見えても、私は変態と呼ばれるだけで、その実は変態という名の英雄なのだよ」
もはや何が何やらという感じだが、そんな台詞をいたって真面目な口調で話すので、馬鹿にされていると感じたトーマは怒りでどうにかなりそうだった。これがラザフォードの狙い通りなのだから、この男は恐ろしい。
「調子に乗るなよっ!」
トーマがグリフォンの背を降りた。意味するところは、二方向からの攻め狙い。一対一の形でなら魔術士は戦士を圧倒する場合が多いが、数での攻めには途端に不利になることもある。
だが、そこに飛来するのはラスティの氷輪。身を裂かれた痛みにグリフォンが叫びを上げると、トーマの表情も強張った。
「既に流れはこちらにあります。大人しく、降伏する気はありませんか?」
その問いに答えず、トーマはラスティへと槍を向けた。
「そうですか。なら‥‥私の大切な人を、仲間を傷つけるものは許しません」
戦いに終わりの幕を下ろしたのは、風の如き男を喰らう四つの刃だった。
「今度は‥‥!」
「逃がさん!」
何度目か。それすら忘れる程に、無我夢中で振るった刃。リュリスと斬の攻撃が、ついにマカールの身を捉え、命を狩る。
「‥‥‥‥」
その瞳から生命の灯が失せる寸前にマカールは笑みを浮かべて、ただ静かに逝った。
全ての敵を倒した後には、疲れきった冒険者達だけが残って‥‥。
「まだです!」
ラスティが声を上げる。遠視の魔力を宿したその目に映るのは、こちらへと向かってくるクラスティ達の姿。
「逃げましょう! さすがに、このまま戦うのは得策ではありません!」
クローディアの声で一斉に動く。冒険者達はその場を急ぎ離れた。
マカール達との戦いに勝利したこと。これは、冒険者達にとって大きな収穫であった。
だが、要の遺跡に関しては、はっきりとその存在を確認できていない。
僅かにだけ行った調査の時に、それぞれに魔法や占い道具等を使ってはみたが、どれも全くの不発に終わっている。
ただ‥‥。
「どこにも見えないだけでなく、魔法の地図でも見つけられなかったもの。彼らも、今なお必死に探している。もし、入り口など存在していなかったのだとすれば‥‥」
オリガは、ある魔法の使い手であるラザフォードに目をやった。
「どうした?」
今となっては、もう遅かった。