【真紅の滅び】封じられた力【黙示録】

■シリーズシナリオ


担当:BW

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:17 G 37 C

参加人数:14人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月19日〜03月30日

リプレイ公開日:2009年04月08日

●オープニング

 魔王軍陣中。
 アラストールの前に、五つの影があった。
 先の争いの最中、大公ヤコヴの城へと潜入した者達だ。
『‥‥報告せよ』
「はっ。我らの見たところ、大公ヤコブが所持している『冠』は『陽』のものかと‥‥」
 魔王の問いに、答えた男はガルディア・ローレン。今や、完全なるデビノマニと化した彼は、ここに集う悪魔信奉者達の代表的な存在となっている。他の四人もアラストールに認められ特別な力を与えられた存在となった者達だが、この魔王の前に立つ度、言いようのない不安と恐怖が心を襲う。平気な顔をしているのは、五人の中でガルディアくらいのものだ。
『ほう‥‥では、キングエスナーか。我が持つに最も相応しきものだ』
「‥‥いかがなさいますか?」
『攻める。あれに封じられし力を思えば、こちらも小細工は不要』
「御意」

 チェルニヒフ、城内。
 大公ヤコヴ・ジェルジンスキーは、決断の時を迫られていた。
「どうするべきか‥‥」
 その手に携えたる杖、キングエスナーは彼の血筋に代々受け継がれてきた秘宝。世界各地の伝説においては、異なる名で呼ばれる杖でもある。その名は‥‥。
「大公殿下!! 大変です!!」
「何事だ、騒々しい」
 ヤコヴは訊ねたが、血相を変えて大公の間に飛び込んできた臣下の様子を見れば、答えは聞くまでもなく分かっていた。先の戦の折、城内に潜入を許した賊が、悪魔の魔法を使ったとの報告を兵達から受けている。魔王の手の者だろう。彼らに杖を見られた。先の時は何とか守りきったものの、次は‥‥。
「魔王が‥‥軍を率いて‥‥!!」
 そう。もう時間は残されていなかった。
「やはり来たか」
 覚悟はしていた。だから、一つの手を打っておいた。後は‥‥。
 
 その頃。キエフ冒険者ギルド。
 集められた冒険者達を前に、ギルドの係員は依頼の説明を始めていた。
 この時キエフには、まだ魔王アラストールの軍がチェルニヒフへ侵攻を開始した知らせは入っていなかった。
「ヤコヴ大公から、秘密の依頼?」
「はい。何でも、チェルニヒフからマリンスキー城まで運んで頂きたいものがあるとか」
 依頼の内容は、その護衛。
 内容そのものは単純だが、荷物の内容は秘密だという。細長い箱に入ったそれ一つのために、募集されるのは熟練の冒険者が多数。よほど大事なものが入っているのだろうことは想像できるが‥‥。


 この時、冒険者達はまだ知らなかった。それこそが、世界の命運を握る鍵の一つであることを‥‥。

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5640 リュリス・アルフェイン(29歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea9285 ミュール・マードリック(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0655 ラザフォード・サークレット(27歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb0882 シオン・アークライト(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb2363 ラスティ・コンバラリア(31歳・♀・レンジャー・人間・イスパニア王国)
 eb3529 フィーネ・オレアリス(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec0126 レヴェリー・レイ・ルナクロス(25歳・♀・パラディン・人間・フランク王国)
 ec0199 長渡 昴(32歳・♀・エル・レオン・人間・ジャパン)
 ec0569 ガルシア・マグナス(59歳・♂・テンプルナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 祈りは心に宿り
 心は剣に宿る
 諦めることなく振るわれし剣に映る瞳の輝き
 その名は希望
 希望こそ全てを切り開く力とならん
 悪魔の囁きは大地に枯れ
 希望の元には勇者が集う
 諦めぬ心にこそ勝利は訪れる
 さあ天に声をあげよう
 大いなる誓いと共に

 清らかに響くラスティ・コンバラリア(eb2363)の、その美しい歌声に導かれるように。
 力強く、気高く、勇ましく‥‥幾つもの足音が、チェルニヒフの町より城へと向かう道を進んだ。
 それは城の門兵達が、気圧される程。
「貴様達、冒険者か!? これは何事だ!! こんな大人数で来るなど聞いて‥‥」
 スッ‥‥と一歩、前に出る男が一人。
「大公閣下に、お伝え頂きたい」
 名を、ラザフォード・サークレット(eb0655)。
「我々は、閣下の依頼を受けられぬと」
「な‥‥ふざけるな!! ならば、貴様達は何のためにここに来たというのだ!?」
 怒れる兵より目を背けることもなく、ラザフォードは一言、こう続けた。
「皆で生き延びる。ただ、そのために」
 冒険者達は、その場で城の兵達に捕縛された。彼らは抵抗しなかった。
 この一件は、すぐに大公の耳に届く。間もなくして、一同のうち数人が大公の前へと引き摺り出された。
「‥‥弁解の機会を与えるのは、せめてもの情けだ。主らの意図、申してみよ」
「このような形でお会いしたこと、申し訳なく思います」
「同じく。それについては無礼をお詫びするのだ」
 ガルシア・マグナス(ec0569)とヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)は頭を下げた。立場あるテンプルナイトの彼らであろうと、公国の主の顔に泥を塗るような真似は、容易く許されて良いものでは無い。それでも‥‥。
「余達は慈愛神の地上代行者として、成すべきことを成さねばならぬと思ったのだ。大公殿、この状況下にあって余達に託そうとは、あからさまに曰くありげな荷物。ご自身や公国の民草より大事とは、まさか‥‥」
「そんなことを、貴殿らが知る必要は‥‥!」
「いいえ」
 ヤングヴラドの言葉を切って捨てようとした大公ヤコヴのそれを、オリガ・アルトゥール(eb5706)が遮る。
「それは魔王軍に対抗し得る力ではないですか? そうでもなければ、自分達よりも優先して、キエフへと送り届けようとする理由はないはず」
 鋭い指摘に一瞬、ヤコヴの表情が変わる。
「‥‥仮にそうだとしたなら、ここで使わぬ理由は何だ?」
「覚悟だ」
 それは、リュリス・アルフェイン(ea5640)の一言。
「どんな強い力だって、上手く使えなけりゃ意味がない。その自信が無いから、自分より上手く使ってくれそうな奴に託したい。そんなとこだろ」
 ヤコヴは沈黙した。
「‥‥今のキエフで偽王疑惑が持ち上がってるのはご存知でしょうか? おそれながら、今ここで護送出来たとしても‥‥」
「問題を先送りにするだけで、次はキエフが滅ぶだろうな」
 以心伝助(ea4744)に、ラザフォードが続ける。
 あとひと押し。そう感じて、パラディンのレヴェリー・レイ・ルナクロス(ec0126)は最後の札を使う。
「‥‥閣下。私達は、閣下の依頼を完全に放棄するつもりでは無いのです」
「何?」
「我が阿修羅の神の秘術の中に、一瞬で遠くの地へと飛ぶ魔法があります。万が一の時には、それを用いることで護送の任は果たします。その最後の決断の時までは‥‥」
「何故だ? 何故そうまでして‥‥」
「理由なら‥‥そこにある」
 ミュール・マードリック(ea9285)。その視線は、王宮の外へと向けられている。
 耳を澄ますと、聞こえる音があった。歌だ。
「これは‥‥」
 ここにいる冒険者達とは別に、城まで来ずに城下で人々の不安を取り去るべく動いていた者達がいる。これは、その冒険者達と共に歌う、街の人々の声。
 しばし歌声に耳を済ませていた大公は、こう言った。
「‥‥手段は確かにある。だが、それを使うならば、敵陣の只中に入る必要がある。いかに貴殿らに力があろうと‥‥」
「それでも、僕らは希望に手を伸ばします。全力で」
 雨宮零(ea9527)が応える。
「‥‥よかろう。だが、あの力は使う者に罪を背負わせる。その罪は、大公である私以外のものに背負わせるわけにはいかぬ」
 そう言って一度、玉座の間を大公は離れた。戻ってきた時、その手には一振りの杖。
「まさか‥‥それは‥‥!!」
 その杖を見た瞬間、穏やかな表情を常とするオリガにも驚愕の色が浮かぶ。
 竜の爪に掴まれた七つの宝玉が特徴の、その杖。
「伝承に疎き者達とて、その名くらいは耳にしたことがあろう。これこそは古代魔法王国アトランティスの遺産。六大精霊の力を宿し、太古の秘術を封じた秘宝セブンフォースエレメンタラースタッフの一つ。名をキングスエナーという」
 勝敗を分ける鍵は、今ここに。
 そして、魔王軍との戦いの幕が上がる。

 ここで一つ、余談がある。
 阿修羅魔法パラスプリント。冒険者達が大公に示したこの魔法は確かに優れた手段だが、上級悪魔と呼ばれる存在の中には、これに容易に追いつく手段を持つ者もいれば、同様の魔法を行使する者も存在する。
 もし、冒険者達がレヴェリーにこの魔法で護送を任せる選択に出ていれば、最悪の事態に陥っていた可能性もあった。何より冒険者達は、敵方にどのような上級悪魔がいるかという情報を、全くと言っていいほど掴んでいない。
 もっとも、彼らはこのすぐ後で、上級悪魔という存在の脅威に触れることになるのだが‥‥。

 ほどなくして起きる両軍の激突。
 冒険者達は、躊躇わず最前線に立った。
「さあ、一世一代の蛮勇として、魔王に名を覚えて貰いましょうか。それと‥‥」
 深紅の刃を手にしたシオン・アークライト(eb0882)は隣に立つ零の大剣に、その刃を重ねて。
「愛の力が世界を救うって、歴史に刻んであげましょう」
「‥‥シオン」
 見つめ合う二人。その隣で。
「ふっ、若い者はすぐ愛だの恋だのと。私にとって、そんなものはどうでもいい。お前もそうだろう、キングスエナー?」
 先の城での一件を聞いて、自分のグリフォンに杖と同じ名前をつけ直したデュラン・ハイアット(ea0042)が笑っていた。
「む、失礼ね。なら、そこの騎士殿は何のために冒険者をしているのかしら? お金? 名誉?」
「決まっている‥‥」
 不敵な笑みを浮かべて、男はこう告げる。
「最高の冒険だ!」
 ――ドゴオオオッツツ!!!
 前方に、大地を揺らす轟音が響いた。押し寄せる悪魔の軍に対して、冒険者の誰かが強力なグラビティーキャノンを放ったようだ。
「一番槍を取られたかしら。さすがに、あの距離での魔法戦には加われないわね」
「とは言え、あれでどうにか止まってくれる相手なら苦労しないだろうけど‥‥」
「違いない。だが、そうでなくては面白くない」
 この戦いには、総勢で三十人を超える冒険者が参加していた。大公が杖の護衛を依頼した人数の倍以上。彼らは、杖を持つ大公の護衛を行う冒険者達の行動を助けるべく、周囲の悪魔の軍勢に立ち向かっていった。広範囲に展開した悪魔の軍を相手に、彼らは各所でその力を発揮する。直接戦うのみでなく、中には大公の姿を模して囮になる者などもいて、敵軍の分断や混乱を誘った。
「それでも‥‥さすがに旗色が悪いようですね」
 ラスティが望遠魔法で見る限り、悪魔の軍はじりじりと公国軍を押している。冒険者達の活躍で押しとどめてはいるが、それでも長くは持たないだろう。
 またしばらく後のことだが、伝助が掴んだ情報の中に、敵の前線の中にアラストールとは別の魔王がいて、数人の冒険者が倒されたとの話が出た。公国兵らの間に流れた情報を拾ってきただけのものだが、事実なら想像以上に事態は深刻だ。
「恐れることはありません! さあ、私達と共に!!」
 長渡昴(ec0199)は公国軍の兵の中で、統率の乱れた部隊や、単独で行動していた者などに声をかけ、大公の守りに同行させた。
「我らが母よ。恐怖に立ち向かい生きようとする者達に、どうか未来を」
 聖なる奇跡を起こす神聖魔法の使い手、フィーネ・オレアリス(eb3529)の結界と治癒魔法は、一団の守りの要。しかし、手を回せる範囲は限られている。移動しながら要所での使用を心がけていればなおのこと。悪魔の群れが飛び交う範囲では、巨大な鳥の悪魔や、醜悪な顔の悪魔らが次々と公国の兵らを蹂躙している。
「く‥‥この私の前で‥‥っ!!」
 世界の守護者とも称されるパラディンのレヴェリーにとって、力の無い他者が傷ついていく様を見ることが、彼らを守りきれないことが、今この場では何より辛い。
「‥‥その心だけで十分だ。進まれよ騎士殿。後ろを振り返っては、この歩みの礎となった彼らへの侮辱になる」
「大公殿下‥‥」
 励ますのはヤコヴの声。冒険者達より貸与された魔法の指輪による透明化で姿は隠れているが、背中に感じるその存在こそ、今、自分達が全てを賭して守るべきもの。
 オリガ、デュラン、ラザフォードの攻撃魔法が飛び交い、ヤングヴラド、フィーネ、ガルシアの聖なる光が悪魔達の攻撃を押し退け、リュリス、シオン、零、レヴェリー、昴の剣が、道を切り開く。伝助とラスティが、敵軍の動きから進むべき方角を模索して‥‥。
 どれだけの悪魔と戦ったろうか。
 気づけば、彼らはついに辿りついていた。
 そう‥‥魔王アラストールの眼前。それこそが魔王と思ったのは、周囲のデビルと異質な、高貴な法衣を纏いし真紅の髑髏の、周囲に渦巻く凄まじい殺気ゆえに。
『‥‥人間とは、どこまで愚かな生き物か。わざわざキングスエナーを持って我が前に来るとは‥‥』
「おいおい、見えてやがるのかよ‥‥」
 リュリスは舌打ちする。その音を合図にするかのように、周囲の悪魔達の攻撃の隙間を縫うようにして、ミュールが戦場を駆けた。
(「何人も寄せ付けぬという魔王の秘密。見せてもらう‥‥」)
 剣を手に危険も顧みず‥‥それに対し魔王は微動だにせず、そして‥‥。
 ――ッ。
 何かが起こったようには見えなかったが、突然にミュールの足が止まった。そして、次の瞬間に冒険者達は驚くべき光景を目撃することになる。
「‥‥魔王様。どうか、ご命令を」
 突然に剣を下げ、アラストールの前に跪いたミュールの言葉。
『我が新たな僕よ。愚かな人間共を皆殺しにしろ』
「はっ」
 振り返ったミュールは、明らかにこちらに敵意を向けていた。
「そんな‥‥何かの冗談だと言って下さいよ‥‥」
「冗談の顔ではないな。あれは‥‥」
 昴とガルシアの額に流れる汗。
『良い顔だ。余興に、もう一つ。お前達に面白いものを見せてやろう』
「何を‥‥っ!?」
 天より降りるは陽の翼。フィーネが咄嗟に生み出した強固な結界さえ容易く破壊し、その翼の生み出した光が、前衛の冒険者達の視界を奪う。
「そんな‥‥まさか‥‥」
 オリガは、その輝く巨大な翼を一目見た瞬間、自分が夢でも見ているのかとさえ思った。そう‥‥悪い夢を。
『久しいな人間達よ。汝らと再び見えるこの時を、我は心待ちにしていた』
「ホルス‥‥。まさか魔王の‥‥」
 ラスティの表情が歪む。
『汝らも今に理解するだろう。アラストール様こそ、真に世界を導く者。我はそれを支える一翼となったまで』
「‥‥なるほど、解けたぜ。お偉い魔王様の能力ってのは、近づいた奴の心を破壊するってわけだ。くそったれが!!」
 リュリスは毒づきながら剣を振るった。相手は敵と化したミュール。
 魔王アラストールの特殊な魅了。それは並み外れて強力で、人間ばかりか高位の精霊までも己が下僕と変えるほど。伝承によれば、強過ぎる力を持つが故に仲間のはずの多くの悪魔達からも忌み嫌われたとされているが、その理由の一端も分かるというもの。
「しかし、そんなことで怯む余ではない!! 皆、魔王と対した時点で天国入りは確定ゆえ、あとは点数を稼いで左団扇を目指すだけであるぞ!」
「‥‥確かに、逃げ腰になったところで、勝てるわけでもないですしね」
 ヤングヴラドの開き直った台詞に、昴も覚悟を決めた。
「近づけないなら、遠距離から‥‥!」
 オリガがアイスブリザードを高速詠唱で放つ。凄まじい威力の吹雪が魔王と周囲の悪魔達へと‥‥。
『ほう‥‥』
 感心したように呟くアラストールの手より、放たれるはオリガの魔法と同じ吹雪。威力も同等のそれは、互いにぶつかり相殺する。
「だったら‥‥!!」
 ラザフォードの重力波。魔王に直撃して見えた‥‥が、
『何かしたか?』
 まるで効いた様子が見えない。
「おのれ、魔王!!」
「我が身に宿れ‥‥竜魂召呼!!」
 もし大公に接近を許せば、その時点で全てが終わる。覚悟を決めて、飛び込んだのはガルシアとレヴェリー。振るった剣は魔王の身へと吸い込まれ‥‥。
(「手応えが無い!?」)
 それが刹那に生み出された月の精霊魔法による幻影と気づいた瞬間、真なる魔王の姿は彼らの背後に。
『邪魔だ』
 魔王の手より生みだされるは巨大な竜巻。風の精霊のそれに巻き上げられて、地面に叩きつけられた彼らは深手を負う。地の重力魔法の例外はあるが、いかに強固な鎧を纏っていても、落下による衝撃からは身を守れない。
「待て‥‥!」
 アラストールは二人に背を向けた。歩みは速い。追いかけようとした二人を、味方のはずの公国兵達が阻む。既に心を奪われていた。魔王の歩む度に陣形が崩れていく。
「何なの、あいつの出鱈目な強さ‥‥!!」
「皆、とにかく大公様をお守りするんだ!」
 シオンと零は次々に魔王の攻撃に倒れていく仲間の姿を目にしながらも、怯むことなく、よく戦った。デュランの暴風や、方角を変えたオリガの吹雪も他の悪魔の牽制に効果を見せる。
 敵は魔王だけではない。周囲の悪魔達は絶え間なく冒険者達に攻撃を仕掛けてくる。
 ホルスが攻撃してくる度に結界が破壊されるため、フィーネはその維持に必死だ。ラスティはアイスチャクラで迎え撃ったが、強固な魔力に守られた身体は傷一つつかない。
「くっ、何でも良い! 時間を‥‥!」
 ――ゴッ!!
 ラザフォードの身に打ち込まれたのは炎を纏った魔王の拳。対応できぬままに連撃を打ち込まれて、その身は瞬く間に大地に沈んだ。フィーネからかけられた対魔の魔法は持続しているはずだというのに。
『残るは‥‥』
「我が獅子の指輪に賭けて‥‥通す訳にはいかない!!」
「そうなのだ! 例え、命を落とすことになっても‥‥」
 昴とヤングヴラドが立ち塞がって‥‥。
『ふっ‥‥』
「何がおかしい!!」
『この我の軍が、人間ごときに負けるとはな』
 ―――!!!!
 その時、世界の色が変わった。
 光、炎、風、空間、精神、負‥‥。突如、周囲一帯を六種の波動が覆ったのだ。
 それは、周囲の全ての悪魔を、そして、冒険者達をも巻き込んで‥‥。


 公国軍の勝利と、戦いの結末の詳細がギルドに伝えられたのは、それより少し後のことである。