【新撰組三番隊 番外編1−3】

■シリーズシナリオ


担当:

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 83 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月01日〜09月09日

リプレイ公開日:2005年09月09日

●オープニング

●新撰組三番隊番外編1−3

 近江の名門の家柄はいくつもあるが、その中でも神楽坂家と近衛家は別格に名門である。
 神楽坂家は近江の侍の筆頭として、近衛家は10年前から志士の家系としてその名を広く知らしめている。
 そんな近衛家の分家に位置するも志士としてその名を知らしめている人物が居る。
 年の頃は20代後半、女遊びが過ぎる御仁ではあるが腕は立つ。彼はその日もお供の者を2名ほど連れて、京都の遊郭で遊び、夜道を帰る帰り道であった。
「もし‥‥そなた‥‥近衛重三殿ではござらぬか?」
 月明かりを浴びて白銀に輝く髪。
 紅に染まった着物。血の臭いをプンプンさせている。
 単身痩躯の優男‥‥っと言うイメージが有るが‥‥。
「いかにも‥‥俺が近衛重三だが‥‥お前は?」
 彼のその言葉を聞くと、銀色の髪の男は腰の刀を抜いて静かに構えた。
「志士の増長‥‥はなはだ許し難し‥‥天誅を喰らわせる者である‥‥」
 銀色の髪の男はそう言って構えを取った。
「面白い‥‥近衛重三を‥‥舐めるなよ‥‥」
 彼は印を結ぶとその右手に水晶の剣を握りしめていた。
「おまえたちは手を出すな。こんな奴俺一人で十分だ」
 一足飛びに間合いを詰める重三。
 渾身の力を込めたスマッシュの一撃!!
 しかし、銀髪の男はそれを軽々と回避すると一瞬で重三の懐に飛び込んだ。
 そして身体を回転させつつ切り裂く一撃を放つ!
「不知火抜刀術 つむじ切り!」
 胴薙ぎに斬られた近衛重三がその場に倒れ込む。
「貴様‥‥何者だ! 名を名乗れ!!」
 お供の2人が刀を抜き‥‥間合いを取る。
「河上彦斎‥‥人は私を『人切り彦斎』と呼ぶ者も居る‥‥」
 男の言葉に2人の表情は凍り付き、血の気が落ちて真っ青に変わる。
『人切り彦斎』と言えば、京都で1.2を争う人切りである。出逢った者は全て切り捨てられるとんでも無い極悪人と聞いている。
 お供2人は後方へ逃げる事を選んだ。一目散である。
 そして目の前の刀を抜いたもう一人の大男を見つけた。
 黒装束に野太刀を構えた‥‥。
「人切り彦斎に斬りかかるくらいなら、お前に斬りかかった方がマシだ!!」
 お供の一人が大柄な黒装束の男の飛びかかる。
 男は野太刀に力を込めるとその男を胴薙ぎ切り裂く。
 男は力無く倒れ込む。

 この2人とて素人ではない。だが、こうもあっさり斬られるのは達人のなせる技である。
「なっなっなっ!? お前は!? 一体!?」
 最後の一人の男が泣き叫びながら逃げまどう。
「俺の名か? 俺の名は岡田以蔵。『人切り以蔵』なんて呼ぶ奴もいるがね」
 そう言って黒装束の男はニヤリと微笑んだ。
 最後の一人の断末魔が響いたのはそれからまもなくの事である。

●京都の夜の見まわり
 最近京都の町中では志士が我が物顔でのし歩いている。
 便乗して志士を名乗る偽志士が居る。
 そしてそれを良く思わず、志士狩りをする者達が居る。
 新撰組の京都巡回はそんな治安の悪い現状を少しでも良くしようと言う者である。
 っと言うわけで新撰組三番隊では今日も元気いっぱいお仕事いっぱいである。
「頼むなら昼間仕事で夜巡回ってパターン辞めないか? 寝てる暇が無いんだが‥‥」
 斉藤一がぼやきまくっている。先の大和遠征で神楽坂紫苑からご褒美とか金子とか色々貰っているが、やっぱり新撰組内での風当たりは悪い。成功したから文句も言われないが、それでも視線が痛かったりする。
「大丈夫、がんばりましょう! これからですよ!」
 相変わらず脳天気な小春。
「おま、コレ終わったら俺は、夏の水浴び着審査委員として近江に出張とか言われてるんだぞ‥‥紫苑に‥‥お前交われ!」
 泣きそうな面でぼやく斉藤。しかし小春は元気いっぱいである。
「分かりました。私も一緒について行きますから、泣かないでくださいね」
 小春の言葉に言葉を失う斉藤。
「いや、一緒じゃ俺が休めないし‥‥意味が‥‥」
 ぶつくさと文句を言う斉藤。
「その前に三番隊の連中が過労で倒れるな、何とかしないとな‥‥」

 そんなこんなでまたしても夜回りの依頼が発生する。

『鴨川東・京都左京区区外地域(外京)の夜回り警備をお願いします。提灯と新撰組羽織はこちらで用意しますので新撰組の期間限定隊員として行動してください。人切り彦斎に注意』

●今回の参加者

 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0585 山崎 剱紅狼(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1765 猛省 鬼姫(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3207 ウェントス・ヴェルサージュ(36歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea5480 水葉 さくら(25歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea8428 雪守 明(29歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ディオス・テンペスタース(ea9288)/ 李 麟(eb3143

●リプレイ本文

●新撰組三番隊 番外編1−3
 夜だと言うのにまだまだ熱い日が続く。
 それでも昼間の暑さに比べたらなんぼかマシではあるのだが。
「河上彦斎ですか‥‥興味有るのです、抜刀術を遣う方の中でも間違い無く最強の部類に入るお方‥‥此れからのボクの成長の糧にする為にも、一度は戦ってみたいのです‥‥」

 深夜の夜回り、提灯片手にみんなで夜回り。斉藤君も眠そうについてくる。小春ちゃんは元気に先頭を歩いている。
「人切り彦斎は、強いって噂だよ? 斉藤組長でも勝てるかどうか分からないんじゃないかな?」
 小春の言葉に月詠葵(ea0020)がにんまりと微笑む。ならなおさら会いたいと思うのが心情なのである。
「やはり、浅葱色の陣羽織は良いねぇ」
 山崎剱紅狼(ea0585)が真新しい新撰組の羽織に笑みを浮かべる。
 それもその筈。この為に下ろした新品である。着心地も良かろう。
「俺も早く「仮」を外して正式隊士に成りたいねぇ」
 山崎剱紅狼の言葉に斉藤が応える。
「仮ってのは三番隊預かりって意味だ。正式隊士は新撰組局長預かりになる。まぁ対した違いは無いから、余り気にすることも無いんだが‥‥必要なら局長に申請しておいてやるよ」
 フラフラと猛省鬼姫(ea1765)の肩を借りて寝ぼけながらのお仕事の斉藤。敵が出たときに役に立つのか少々疑問ではあるが。
「うん。じゃ斉藤殿、蕎麦でも食って一休みしよう。斉藤殿のおごりで良いな?」
 そう言って屋台のそば屋に駆け込み人数分蕎麦を注文する猛省鬼姫。
 斉藤はコクコクと首を縦に振って、身銭を切って蕎麦休みを取ることにする。
「今回は人が少ないからな、盛りそばくらいご馳走するよ。‥‥しかし眠い、一日3時間の睡眠が一ヶ月くらい続いている気がする」
 夏の暑さで昼間寝られず、仕事して。夜も夜で巡回をしているから眠れないという生活が続いているらしい。
 明け方3時間が彼の眠れる時間なのであろう。
 ウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)
 蕎麦を啜る。
 彼は今回人切り彦斎を捕まえるべく、気を張っている。
 色々策を練っている様だ。
 こうして蕎麦を啜っている時も隙がない。
 隙だらけの斉藤とは大違いである。
「まぁ志士を狙っての天誅となれば、新撰組は襲われないだろう‥‥。っとは言ってもそんな行動を見つけたら捕まえにゃならんのも仕事のウチだ。ベストな状態でなら戦いたいが、こう疲れが溜まってる身体じゃ言うこと聞いてくれるかなぁ」
 斉藤がそう言ってぶつくさ肩を回す。
「まぁ三番隊預かりの仮隊士を増やして俺の負担を減らすのが一番なんだけどな。誰か腕の立つ奴が居たら連れてきてくれ」
 そう言って蕎麦を啜り込む斉藤。小脇の娘に目線を止める。
「斉藤さまは、な、なんだか大変そうです‥‥ね‥‥大丈夫なんでしょうか?」
 水葉さくら(ea5480)が斉藤を気遣う。
 新しく仮隊士に入った娘である。
「今日は可愛い娘さんが3人半もいて、嬉しい限りだな」
 眠そうな目をして娘達に微笑みかける斉藤。目の下にはクマがある。
 可愛い娘に小春が入ってないとみると、どうやら半は月詠葵の様である。
 斉藤が水葉さくらの膝の上で膝枕で仮眠を取る。
 その頭の上に盛りそばの蒸籠を乗せておそばを啜る水葉さくら。
斉藤が引き物扱いされているが‥‥威厳が無いのだ威厳が。
『新撰組に居るときはもっと怖くてみんなビクビクするような人なんですよ〜。冒険者のみんなと居るときだけ羽を伸ばしてるんですよ〜』
 そんな噂を聞いたことがある。嘘か誠か、鬼のように強く剣客である‥‥っと。
そんな斉藤の一面を観たことがないのでなんとも言えないが。
「斉藤が頭を下げるから着ているが‥‥この色は、ちょっと軽薄すぎやせんか‥‥」
 雪守明(ea8428)がそう言って羽織をパタパタさせる。
「だが、夜でも見やすい色をしているし、なんと言っても目立つ。それが犯罪抑止につながるなら良いんじゃないのかな?」
 斉藤の言葉に成るほどと手を叩く雪守明。
「河上彦斎‥‥出来れば戦いたい、っが私たちの本分は犯罪を起こさせないこと‥‥ならば、我々をみて、退散してくれればそれで良いんだが‥‥」
 雪守明がまともなことを言う。斉藤は水葉さくらの下乳覗き込みながらぼーっとしている。
「手持ち無沙汰が有るなら相手をしてやるぞ? ‥‥峰でな。その後風呂にでも入って一汗流すってのはどうだ?」
 寝ぼけ顔で斉藤は雪守明を誘う。
「面白そうだな。俺も入れてくれ、負けた奴が勝った奴の背中を流すってことでいいよな?」
 猛省鬼姫がそう言って拳を握る。
 その拳には爪がついている。
 斉藤はやれやれと言った感じで小太刀を抜いて刃を返し峰を向ける。
 猛省鬼姫と雪守明。2対1での戦闘である。
「んじゃ‥‥行くぜ!」
 ナックル付きの拳が斉藤を襲う。斉藤はそれを左手の持った小太刀で払い、右手を伸ばす。伸ばしたその手が猛省鬼姫の左胸をわしづかみにする。
 っとそれを予想していた猛省は左手の龍叱爪で伸ばした腕を攻撃する。
 フェイントアタックを織り交ぜた一撃が斉藤の右腕を擦った。
 だが、浅い。着物を多少削っただけである。
 雪守明が斉藤の頭に刀を振り下ろす。
 斉藤は身体を反転させてそれを肩で受け止める。
 さらにもう一発とばかりに殴りつける雪守明。
 斉藤はそれを身体を反らし、背中で受ける。
 だが、それでも雪守明の手は止まらない。3発目の攻撃が放たれ、斉藤はそれを額で受け止めることに成る。
 睡眠不足の為、多少動きは鈍いがそれでも斉藤の動きは達人の域にある。
 だが、手数で押されてはどうしようもない。
 斉藤がそうそうに負けを認める形と成った。
「どういう形にせよ、『あの斉藤一』から一本取ったのは自慢できる事だぜ?」
 山崎剱紅狼がそう言って2人を褒め称えた。
「私の剣はどれも手応えが無かった。斉藤!! お前何をやった?」
 斉藤の動きに詰め寄る雪守明。
「あぁデットオアライブで威力を軽減させていただけさ。別に何もしちゃいないよ」
 そう言って小太刀を鞘に収める斉藤。
 確かに雪守明の剣は斉藤の身体をとらえていた。だが、実戦でダメージを減らされては有効打にはほど遠かったであろう。
 それが証拠にあれだけ撃ち込まれた斉藤がぴんぴんしている。
「2人とも‥‥良かったら3番隊に入らないか? 俺が思うに結構良い線行ってると思うぞ?」
 袴の埃をはたきながら斉藤がそう言って乾いた笑を浮かべる。
 朝焼けの中かで、彼らは湯屋に向かうのであった。

●近江屋にて
 京都左京区区外地域。三番隊がそう呼ぶ場所に一軒の馴染みの湯屋がある。
 一階が手前が食事どころ。一階奥が湯屋。
 二階が宿屋兼連れ込み宿に成っているその店の名は近江屋。
 近江の特産物を扱っている店である。
 そして、新撰組三番隊の密やかな隠れ家にも成っていた。
「屯所に帰るのがめんどくさい時はこっちに寝泊まりしてるんですよ‥‥っというか、私と斉藤さんは月の半分はこっちにいますけどね」
 2階の座敷で、小春がそう言ってウェントス・ヴェルサージュにお茶を入れる。
 お煎餅片手にお茶を啜るウェントス・ヴェルサージュ。
 確かに屯所までは歩いて遠い。ここならこの一帯を警備するのに向いているだろう。
「でも、このことは他の人には内緒ですよ。隠れ宿ですから」
 小春が今度は山崎剱紅狼にお茶をだす。
 山崎剱紅狼はそれを静かに飲み干した。
「んで、肝心の斉藤達は何処行った?」
 山崎剱紅狼の言葉に笑みを浮かべる小春。
 湯屋の方に連れて行かれてましたよ。『罰ゲームだ!』って猛省さん達に。
 言われて苦笑を浮かべる2人。

「さて、それじゃ背中を流してもらおうか? 斉藤殿」
 湯屋の中、猛省鬼姫がそう言って斉藤に垢擦りを渡す。
 斉藤はそれを手桶に付けて、ゴシゴシと猛省の背中を流している。
「もう少し力入れて擦ってくれ‥‥っと俺が終わったら次は雪守の番だからな?」
 猛省鬼姫がそう言って満面の笑みを浮かべている。
「あぁ、分かってますよ。それじゃ、お尻と足も洗うから、その長椅子の上に横に成ってくれ」
 斉藤に言われるままに、長いすの上に腹這いになる猛省鬼姫。
 石けんが無いので泡は立たないが、ゴシゴシと音を立てて垢をすり下ろす。
「新撰組の幹部だって俺に身体洗って貰える奴はそうそう居ないんだぞ? 光栄に思ってくれよぉ」
 斉藤の言葉に勝ち誇ったような顔を浮かべる猛省鬼姫。
「んじゃ光栄ついでに前も洗って貰おうかな?」
 そう言って長椅子の上でごろりと身体を仰向けにする猛省鬼姫。
 腹や胸、脇腹に足と隅々までゴシゴシと擦る斉藤。
 嫁入り前の娘なのだからもう少し恥じらいが有っても良いと思うのだが
「ほい、一丁上がり」
 そう言って湯をかけて身体を垢を流す斉藤一。
 天下の斉藤一に三助をさせているのだから、すごい度胸である。
「では、次のお客さんどうぞ?」
 猛省鬼姫がお湯にどぼんと飛び込む。今度は雪守明の番である。
 長いすの上に腹這いに寝転がる雪守明を垢擦りで丁寧に擦っていく。
「斉藤様も眠いのに大変ですね? 終わったら私がお背中お流しします」
 水葉さくらが温かい言葉をかける。
 斉藤が雪守明の背中を流し終わると、今度は仰向けにして身体を洗い始める。
「‥‥こうしてみると、胸大きいんだな〜」
「!? 入らぬ事言わない!」
 身体を洗いながら、マジマジと雪守の胸を見つめる斉藤の頭に拳が入る。
 雪守明が頬を赤らめているが、斉藤の手は雪守明の胸をゴシゴシと洗っている。
「今日の斉藤さんはいつになく腰が低いですね?」
 湯に浸かる月詠葵に声をかけられ、乾いた笑みを浮かべる斉藤。
「ん‥‥まぁもうみんな身内みたいなものだしな。それにこれから一週間夜回りを手伝って貰うんだし、そのおかげで俺の睡眠時間も増えると思えば、感謝の先払いって奴だな」
 そう言って、雪守明の胸腹足を洗い流すと、斉藤はゆっくりと湯に浸かった。
 雪守明も静かに湯船に肩まで浸かる。

「実際三番隊の仮隊士が増えれば仕事も分散出来る。仕事が減れば訓練の時間を取ることが出来る。そうすればおまえたちに剣術を教えてやる時間も出来るんだぞ?」
 そう言って月詠葵の頭をぐりぐりなで回す斉藤。湯船に身体を預けてのんびりと湯を楽しんでいる。
「斉藤様は‥‥お風呂が好きそうですね?」
 水葉さくらの言葉に斉藤が静かに頷く。
「あぁ‥‥風呂と蕎麦‥‥それに人を斬ることは‥‥俺の生き甲斐‥‥かな」
 斉藤がそう言ってまぶたを閉じる。

 風呂の中で河上彦斎について多少なりとも情報を集めた物を纏めてみる。
 名前は河上彦斎で、流派は不知火抜刀術を名乗っている。
 銀色の髪に赤い服を着ている。忍者刀を使う。
 っと言うところであろう。

「斉藤! ここじゃよく冷えた牛乳が飲めるらしいじゃねぇか! おごれ!」
 風呂上がりに牛乳を柄杓ですくって飲みながら、京都左京区区外地域の警備は何事も無く終わりを付けるのであった。

どっとはらい