猫耳近江屋珍騒動 2

■シリーズシナリオ


担当:

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 85 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月19日〜06月25日

リプレイ公開日:2006年06月29日

●オープニング

●猫耳近江屋珍騒動 2

 平安京。京都左京区の東に存在する地区。外京。
 新撰組三番隊が何故か、左京区区外地域などと呼んでいる場所である。

 そんな場所に一軒のチョット大きくて不思議な店があった。
 1階はお食事処とお風呂やさん。
 2階は連れ込み宿と旅籠に成っている宿屋さん
 ご飯を食べてお風呂に入って寝る‥‥っと言う複合施設にもにたお店である。
 今で言う所の健康ランドや遊技場に近いお店。
 そのお店の名は『近江屋』。

 近江の特産品等を売るのが目的として作られた半藩半民のお店である
 そして何故か、猫耳巫女が雇われ店長をしていたりする。

 実はこのお店、新撰組の隠れ宿だったり、京都の情報を近江に持ち帰る『目』の役目を果たしていたりと、とても重要なお店だったりするのだが、何故か店長はノー天気な雇われ店長の猫耳巫女である。

●戦のお話。
 5月某日、京都にて大きな戦が有った。
 それによって京都の治安は乱れに乱れている‥‥っととある人物が思った。
 近江の鷹派の急先鋒、京極鹿之助である。

 実は彼(男装の麗人なので本当は彼女だが)の父親先代の当主が近江領主浅井長政の首を狙い見事に玉砕、病死と言う事に成っているがめでたく首を撥ねられ、彼に従っていた諜略を受けていた者達も軒並み首を撥ねられている。

 そんな中でお家お取りつぶしの話も上がったが、浅井長政の温情により、彼女を新たな当主として京極家は生き残った。

 その恩義からか、父親の負い目からか、京都の治安回復を考える彼女は配下の兵士300名を引き連れて京都の治安維持活動に乗り出した。

 しかし、この仕事が京都の治安維持活動を行っている検非違使、見廻組、新撰組からの風当たりがめっぽう強く、切った張ったの問題も日常茶飯事に成っている。

 なにせ治安維持活動の許可を全く取らずにいきなり兵を連れて乗り込んでいるのである。
 そりゃぶつかるだろう。現在許可の申請を出している真っ最中である。

「く‥‥流石に疲れた溜まってきておるな」
 全身汗だく泥だらけに成りながら、鴨川の河川敷に陣を張って炊き出しを行う京極鹿之助、ろくな物も喰わず、風呂にも入らず早10日以上の日々が過ぎている。
 疲労のピークに達している彼女にはもはや判断力さえも欠落している。

「確か‥‥京には近江やが有ったはず‥‥私はしばし宿にて休息する。おまえたちも交代で大津に戻って休んで良いぞ。ただしいつでも戦が出来る準備と連絡用の早馬だけは用意しておけ‥‥」
 馬に引きずられるようにして運ばれていく京極鹿之助。
 綺麗な紅色の武者鎧が泥だらけである。

●そして
 そんなわけで近江屋にお偉いさんがお泊まりになる。
 京極鹿之助様‥‥近江の京極家の当主である。
 疲労困憊で何日もろくな物を食べていなかった彼女をもてなして疲れを癒して上げてください。
 そんな依頼である。
 なお、ここで恩を売っておけば近江に対して発言権を得ることになる。
 十分がんばっておもてなしして貰いたい。

●今回の参加者

 ea9455 カンタータ・ドレッドノート(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0494 高町 恭華(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb0711 長寿院 文淳(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb1645 将門 雅(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb3226 茉莉花 緋雨(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb4467 安里 真由(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

桐生 和臣(eb2756

●リプレイ本文

●猫耳近江屋珍騒動 2

 京都の東の外れに位置する一件のお店、近江屋。
 料亭と湯屋、それに旅籠を兼ねたこのお店は、出資元が近江の国。
 近江の特産品を安く仕入れて京都の人間に売り、京都で得た情報を近江に持ち帰る。
 そんな目的で建てられたこのお店は、いつの頃からか猫を一匹連れた猫耳巫女を雇われ店長にし、そしていつの間にやら2階の座敷に新撰組三番隊が住み着くようになった不思議な店と成った。

 そんな近江屋に今回一人の客人が足を運ぶ。
 彼の名は京極鹿之助。
 男装の麗人で、最近に成って跡目を継いだ、京極家の当主である。
 京都に置いて近江の無頼漢とも言える鷹派の武士団300人を従え、治安維持活動を行う武装派急先鋒の御仁である。

 そして、それをもてなすのが冒険者達の今回のお仕事である。

「お待ちしておりました。ささ、どうぞこちらです」
 血と泥にまみれ、汗と雨にまみれた土気色に成った朱塗りの武者鎧と武者兜に身を包み、武器は持っていないが、全身赤備えの格好が、見るからに薄汚れた様子になっている。

「しばらくやっかいになる。ヨロシク頼む」
 話に聞いていたよりも穏和な口ぶりで将門雅(eb1645)に挨拶をする。
 彼女は獣耳ヘアバンドに巫女装束。千早に神楽鈴の猫耳巫女装束と言った格好だ。

「仕事の事は忘れて、素に戻って、あんじょう疲れ落としたってください」
 将門雅がそう言って鎧を脱ぐ手伝いをする。
 鎧を脱ぐ事に隙間に詰まった泥などがボロボロと落ちて行く。
「食事の前に湯浴みして、食後にもゆっくり湯浴み、そのほうがよろしかろう?」
 彼女に勧められるままにペタペタと湯屋の方に向かう京極鹿之助。

「お手伝いさせて頂きます」
 茉莉花緋雨(eb3226)がそう言ってペコリと頭を下げる。
 それに対してあごを引いて挨拶の代わりとする鹿之助

 するりと男物の着物‥‥袴を脱ぎ、注いで一つ一つ着物を脱いで行く、返り血と汗とでどろどろに成った服を脱ぎ捨てると、日に焼けては居るが、女性らしい素姿が現れる。

「私は志士に成ったときに女で有ることは棄てた。既に恥じらいは無い。普通に殿方に接する様にしてくれてかまわない。ヨロシク頼む」

 そう言って手ぬぐいを一つ取って湯屋の中に入る。

 通常京都の湯屋‥‥っと言うと蒸し風呂が基本である。
 蒸し風呂に入ってじんわりと汗を流してそれを手ぬぐいで拭う。
 もしくはヒザまで入る湯船に浸かる物が主流だ。

 近江屋の様に現在の銭湯の様な作りの湯屋は少ない。
 彼女は湯を浴びて身体の汚れを大雑把に落とすと、湯船に入って大きく息を吐いた。

「お武家さんは志士なのか? そうか、私も実は志士だ」
 茉莉花緋雨の言葉に不思議そうに彼女を見つめる鹿之助。
 だが、何かを割り切ったかのように一つうなずく。
「そうだ。私は志士だ。選ばれた人間だ。心技体に優れ、武勇の誉れ高く、血筋に恵まれ、忠誠心が高い。それらに恵まれて初めて、虎長様に‥‥そして神皇様に選ばれた物‥‥それが志士だ。私は志士で有ることを誇りに思っている‥‥そして私は志士で有ることの義務を果たす‥‥」
 彼女はそう言って手ぬぐいで身体を擦り始める。
 普通湯船の中でそれをやるのは、湯の中に垢をドンドンまき散らすため、作法としてはやってはいけないことなのだが、彼女はそれに気が付いていない様子だ。
「志士の義務‥‥とは?」
 茉莉花緋雨が湯に入って彼女の垢落としの手伝いをする。
 鹿之助は垢を落としながら静かに答える。

「多くの領民は能力の有る支配者に支配されて生活する。そこに幸せがある。そして、それらを支配する側に居る我々は、常に自らを高め無ければ成らない。それが義務だ。‥‥能力の低い物に従った者達は不幸でしかあるまい?」

 彼女の言葉はさらに続いた。

「そのために我々は努力する。万民の為、領民の為、一人でも多くの民を幸せにするために努力する。‥‥今、京都は恐怖に支配され、脅かされている。我々志士は‥‥虎長様の意志継ぎ、多くの民を幸福にするために努力しなければならないのだ。‥‥誰かがやらねば成らないのではない‥‥誰もがやらなければ成らない。それが使命であり義務だと‥‥私は思っている。そのために私は全てを捧げて働くのだ」

 狂信者‥‥っと言うのは恐ろしいものである。
 流石近江で1.2を争う鷹派の筆頭である。

 ‥‥しばらく静寂が間を整える。
 湯一杯に垢を絞り出して、彼女は着流しに袖を通し、座敷の方に案内される。

「今、食事を用意します。それまでは甘酒でもどうぞ」
 猫耳巫女が入れた甘酒に口を付けながら、火照った身体を沈める鹿之助。
 彼女にお酌をするのはポニーテールで猫耳衣装の巫女‥‥安里真由(eb4467)である。

「初めまして、京都見廻組並の安里 真由(やすざと まゆ)です」
 彼女はそう言って頭を下げる。

「初めまして、近江の‥‥そう言えば奴らに名前を付けていなかったな‥‥改めて、近江武装集団頭目の京極鹿之助です」
 儀式的な挨拶は無い。かしこまった仕草も無い。
 目と目で交わす武家ならではの会話があった。
「最近京都で良くお名前をお聞きします‥‥京都に無許可で兵を連れて治安維持活動を行い、私達見廻組ともぶつかって大変難儀しているとの同僚の者がもらしておりました」
 遠巻きにトゲの有る言い方だが他意はない。
 そしてそれに答える鹿之助にも他意はない。

「うむ。京都は虎長様の領地、誰に許可の必要があろう。ましてや良い行いをするのに誰に頭を下げる必要があろう‥‥。見廻組とのいざこざが絶え無いのは真実。それは私も良くは思っていない。だが、お互いに信念基づいての仕事。信念を曲げろとか言えまい? だからぶつかり合う‥‥お互い求めている物は同じだと言うのにな‥‥」

 鹿之助がそう言って少々困った顔をする。

「京都は虎長様の御領地ではございません‥‥神皇様の‥‥。いえ、それよりももう少し穏便に済ませる事は出来ないのですか?」
 安里真由がそう言いながら甘酒を注ぐ。
 鹿之助がそれを口に運びながら問いに答える。

「残念ながら出来ぬ‥‥一日でも早く京都に平和をもたらすためには‥‥妥協は出来ぬ」
 そんな2人の会話をよそに、盛りだくさんの料理が部屋に持ち込まれた。
 今回の料理の担当はカンタータ・ドレッドノート(ea9455)

 先ずはお櫃が3つ運ばれる。
 一つはだし汁で炊いたシジミを卵で綴じた丼物。
 一つは紫蘇(しそ)を混ぜたご飯。
 一つは枝豆とだし汁で炊いたご飯である。

 ちなみに枝豆とは大豆であり、近江の特産物でもある。

「ほう、米の飯を3つも用意してくださるとは豪勢な‥‥」

 鉢物にひじきときんぴら大根。焼き豆腐とカブの和え物などが並ぶ。
 ちなみに豆腐は高級食材であり、庶民の口には余り入ってこない上に値が張る一品である。

 焼き物として鱒(ます)の塩焼き、焼き茄子。
 マスは琵琶湖に生息する魚の一種でシャケの様な味のする魚である。
 まぁマスもシャケも同じ種類の魚なので赤身の魚だと思えば良い。

 今回普段口に出来ない様な食材や調味料が使われているのは近江商人達の力のおかげである。
 当然値が張る。
 砂糖など、1kgで原価が1両する事に注意されたい。
 もちろん1両払えばいつでも手に入る訳ではない。
 売っている人間を見つけて手に入れてくるのはかなり骨の折れる作業である。
 今回料理に卵やお麩が使われているが、それらを手に入れる事の苦労はご想像頂けると思う。

「おもてなしいたみいる」
 ゆっくりと味わうようにして食事を取る。
 疲れている為か、少々味覚が狂っているが、それを理解してか、味付けの濃い物が並んでいる。

 ゆっくりと食事を口に運んでいると、静かな音楽が部屋に流れ始める。
 長寿院文淳(eb0711)の奏でる楽器の音が、心地よく彼女の身体を撫でた。

 音とは空気振動である。耳で感じる以上に、空気と肌を通して身体に染みこむ。
 これが熟練の人間の音楽である。
 彼のクレセントリュート+1の音色は、まさにそれに等しかった。

 半刻かけてゆっくりと食事を取る鹿之助。
 食事が終わったところで高町恭華(eb0494)が一礼して前に進み出る。

「温泉教団直伝のマッサージをして差し上げたいのだが‥‥よろしいか?」
 京極鹿之助は初め何の事か分からなかったが、言われるままに服を脱ぎ、布団の上に横たわった。
 そんな彼女の身体を優しく撫でるように‥‥マッサージをする高町恭華。
 湯の中とか異なり、勝手が違う為、上手くマッサージを行う事は出来ないが、それが功を奏したのか、鹿之助は気持ちよさそうに寝起きを立て始めた。

「お疲れ様です」
 猫耳巫女に別室に呼ばれ、取りあえずは一息つく面々。
 何とか今回も依頼は成功へと導く事が出来たようである。

 目を覚ました京極鹿之助はお礼の言葉を残して、また京都の治安の為に戦うのであった‥‥。