●リプレイ本文
「事情はまだ全て把握しているわけではありませんが‥‥頑張ります」
世に名の轟いているリアナ・レジーネス(eb1421)は先行して、大久保長安の屋敷に詰める事にした。
屋敷内で働く人々の人数や行動パターンなどを密かに記録しようとしたが、筆記具を持参していない為、断念。記憶に留める。
家人も屋敷内にデビルがいないか探索していると思うので、リアナ自身も屋敷内でブレスセンサーを発動。
人間なら呼吸反応があるが、デビルの化けた人ならば呼吸を感知できないので反応は無いはずである。
そこではたと思い至った。
目に見え、尚かつ呼吸反応が無ければ、それはデビル等の人外の存在だと断定してもいいだろうが、彼女の強大な魔力は屋敷中の呼吸を検知できる。
目に見えない所にいる呼吸していない存在は検知できないという事だ。
沖田光(ea0029)は自分の格好を見下ろしながら呟いた──。
「礼服‥‥買っておけば良かったですね」
大久保家と屋敷の事は、光の相方の舞が調べてくれる筈なので、光自身は冒険者ギルドに行って、冒険者ギルドに依頼を持ってきた人の特徴を聞いた後、身元の証明を一筆書いてもらう。
身支度を整えて奉行所に話を聞きに行こうとした所であった。あくまで内々らしいので目立たぬように、だが。
ともあれ、冒険者ギルドの方では一筆書く事に難渋を示した。
一言で言えば、光が光自身である証明をまずせねばならないのである。その具体案を示さずに、自分はかの高名な志士である(自身がどう認識していようと)沖田光なり、と冒険者ギルドのお墨付きを与えるのにはいい顔をされなかった。
少なくとも依頼の期間中である5日以内に降りる事はなかった。
ジークリンデ・ケリン(eb3225)はギルドの許可を得て、人のいない時に、という限定つきでパーストのスクロールの行使を許される。
そして、彼女が見た、大久保家からの家人の姿と、受付から聞き出した家人の風体は一致したのであった。
ともあれ、光は奉行所に話を通さないまま、冒険者がやってきた所で、何らかの勢力が事件を起して、何者かを──無論、デビルにとって都合の悪いものであろう──下手人として捕らえさせて排除する可能性もあるかと読んだ‥‥だから、確認を奉行所にする。
「昔、話が通ってなくて酷い目あった事があるので心配になってしまい」
「成る程、それは殊勝なお心がけでござるが、大久保様の側の人間であれば、その旨、了解した以上の返答は出せぬというのも判っていただけるかと?」
「それで‥‥十分という事にします。無用なトラブルが避けられればいいのですから、しからばご免」
奉行所から戻ってきた光であったが、舞が何らかの情報を持ってきた兆しはなかった。
「これは吉兆か──それとも状況の進展が何も無かったのか‥‥もっとも舞が動けるのは1日だけですし。過剰な期待でしたか?」
一方、闇目幻十郎(ea0548)は、任務の破棄である事を判った上で、 茜屋屋敷に於いて、警護の任に就く。
「あそこに仕掛けた罠は自分の管轄ですから」
というのが弁であるが、それは任務破棄の理由にはなりはしない。あくまで冒険者ギルドに依頼されたのは、大久保屋敷の調査の立会人になってくれという事なのであったのだから。
「構太刀が何とかなったら、次はこっちか。
大久保氏に罪を着せるのか、それとも大久保氏を害して、我々に罪を着せるのか‥‥?」
ともあれ、そこでゲレイ・メージ(ea6177)と合流して、聖遺物箱を渡し、役立ててくれるように願う。デビルならば、その魔力を凌がねば触れる事は適わない品であるが、いかんせん重かった。
少なくともゲレイの腕力では持っただけで魔法が使えなくなる。
「むう、痛し痒しとはこの事か? おたく、良くこんなの持っていられるね?」
「普段から持ち歩く品ではないので。あくまでデビルが関係しているという事で、持ち出したので‥‥ともあれ、上手く役立ててください」
「任された。まあ、おたくにはこちらで頑張っていてくれ給え」
そのやり取りの傍ら、結城友矩(ea2046)は──。
(恐らくこれは罠でござろう。だが、光殿の言が確かならば、奉行所による館改めは信憑性を帯びてきたようでござる。ならば、致し方ない剣一振りに、この命賭けるでござる。襲ってきたら斬り捨てるのみ)
と瞑目して、雑念を取り払っていた。
一方、カイ・ローン(ea3054)は茜屋邸の警護は依頼とは関係ないから、冒険者ギルドに始めから受けてないことにしてもらおうとする。
「土壇場でのキャンセルは信用問題に関わる」
それに対して冒険者ギルド側の返答は無機的なものであった。
「それが判っているなら、虫のいい話が通じる事が通じる訳にはいかないでしょう──カイさん、あなたは依頼を受けて、それを放棄した。冒険者ギルドの記録に残るのは失われた信用だけです」
「ならば是非はないか‥‥」
と、傷ついた信用を以てしても尚、茜屋慧の所にたどり着いたカイは今後の見通しを立てる。
「今までは、解読させて横取りしようとして、解読依頼の終わりごろに襲ってきたけど。解読できているなら常時襲ってくるかも」
と、良いながら、口では聖句を呟き、合掌した両手からは淡い白い光が漏れ出す。
ホーリーフィールドの呪文は成就した。これは慧少年が悪意を持っていないか、抵抗に成功した証拠である。
この白の神聖魔法を以て、カイは己の身の証しを立て、同時に慧少年がこのしばらくの月日の内に入れ替わっていないかを確認する。あくまで前記の前提つきではあるが。
結界の中、慧少年に、カイは告げる。
「常時、皆さんのような凄腕を雇っておくだけの財産はぼくにはないのです。借金するにも担保となるのが、土地屋敷だけですから──まあ、ぼくが働いて返せばいいのでしょうが、その仕事のあても‥‥」
「それは甘えだな‥‥まあ、いい。大天狗の転生だが、自動的に起こる事なので、そういう生態に天が作ったと思い、器の人の子が納得しているのなら文句はない。だが、人の子でなくとも転生が可能なのだから、今後は人の器を作らず、天狗内だけで収めて欲しいと思うのだが、異教の傲慢な考えかな?」
「多分傲慢だと思うのですが。ならば、最初から創造主が、天狗を造り、その転生する際に、わざわざ人の子との間に子をなす、という様に回りくどい路になる様に路を定め。本来、自然に見える仲間内である天狗への転生が特殊な手段となる様に造られたのか、そのあたりを考えてもいいのではないでしょうか?」
それより少し前に遡り、日向大輝(ea3597)は──
依頼を受けたのにもかかわらず茜屋の家に関わるという事になると知り、冒険者ギルドに確認を取って依頼人へ一筆啓上。
『茜屋に関わった冒険者が全て立会いに係りきりでは茜屋邸への襲撃など、不測の事態が起きた際に即時の対応が困難となるため、茜屋慧および茜屋邸の警護に当たらさせていただく。
まことに勝手ではあるが茜屋慧は今回の騒動を治める上で大事な証人であり、大久保殿の無実を晴らすために必要な措置であるとご容赦願いたい』
むろん、大輝少年が言われた事もカイに言われた事と、大差はなかった。
依頼人の方からも、その様な無責任な事では困る。茜屋邸の警護ではなく、大久保屋敷の事を頼んだから。
と、猛反発を食らった。
当然、報酬はなしである。
慧少年の前でさりげなく胸元に指で円を描き、大輝少年の前でさりげなく返された事でようやく安堵する。
「まだ、悩んでいるのか? 構太刀たちの事で」
うなずく慧少年。
勧めた責任もある事だし、自分なりの意見を言っておく事で、慧少年を宥めようとする大輝少年。
「構太刀は真名で縛られてはいるけど意志はあるんだろ?
だったらきっとこう思ってるんじゃないかと思う。
『なんだかんだ言っておきながら真名が分かればこの通り、結局今までの奴らと同じだ』ってな。
でも残念ながら宝団を何とかするまでは解除はできない、だったら態度で示すしかないよな。
『全ての生あるものを傷つけない』俺はすごくいいと思うぜ」
「そうでしょうか?」
「ああ、本当さ。足りない分は俺が守ってやる──ところでラシュディアは?」
大輝少年と同じく手弁当で来ているラシュディア・バルトン(ea4107)は小出しにした資料を必死に見比べながら、額に汗している。
ラシュディアの本人確認はシンプルであった──正確を期すならば、言うは易し、行うは難し、な手段であるが──慧少年に、前回の依頼で、古代魔法語の手解きをした時、何を教えたか尋ねさせて貰いたいというものである。
という事で慧少年は必死こいて復習する羽目になり、ラシュディアは確実な本人保証を得たのであった。
(『真名の解明見事でござった』って‥‥絶対デビルからの宣戦布告だよな‥‥‥‥また本格的にヤツラと関わることになったんだなぁ、俺)
嘆息するラシュディア。今回は正規の解読依頼ではない為、前回までの様に、依頼時間はふんだんに取られている訳ではない。
(このままだと、襲われた時に慧も構太刀が無力だからな)
ラシュディアは慧少年への提案として、構太刀たちへの命令に『例外として自衛と主人の護衛の場合に限定的に許可する。ただし、主の許しなく殺害することは禁ずる』というものを付け加えるのはどうか、と提案していたが、
元来から持っている命令に付随して、与える命令を複雑にすればするほど、構太刀達への状況認識能力は低下するし、元来知性の高いものではない構太刀に漠然とした命令を与えるのは、危険な事。第一、これ以上、構太刀たちには戦いに加わって欲しくない──と、涙ながらに訴えられた。
「あくまで『真名で束縛』するのは皇虎宝団から為の手段に過ぎません。本当は彼らの手の及ばぬ原野があれば、そこに放したいのですが」
「デビルの手は長いぞ。それを覚悟しての言葉だろうな?」
「はい」
「断言されたか──その前に涙をふけ。もう、そんなヒマはないからな
構太刀と言えば‥‥。
縛られるのを嫌悪し、反動として自由を求める気持ちは理解できる。
しかし、ただ漫然と存在しているだけの『自由』ってのは辛いぞ。
自分が何者なのか、何のために存在しているのか‥‥生きる目的というのを人は誰もが求める。
『倭の守護者』として生み出された彼らは生まれながらにしてそれを与えられた‥‥という風には考えられないかな。
‥‥‥‥彼らは存在の理由が、欲しくはないのか?
俺なんかはそれが欲しくて足掻いてたんだけどな‥‥‥‥」
「足掻いていた──という事はラシュディアさんは見つけたのですか?」
慧少年が尋ねようとした時、ラシュディアはその視界から消えていた。
「私用でぇ、急用の用事ができたんでぇ、今回は辞退させてぇん」
と、社会人ならばまず通用しない言葉を、冒険者ギルドに言い置いて、エリー・エル(ea5970)は茜屋家を訪れていた。
無論報酬などない──それでも。
「慧くん、今日は何か怪しいからぁ、ただで守ってあげるよぉん」
エリーは明るく現れて事情を話す。カイに促されて符牒をやってみせて、ようやく、玄関を通される。
その上で構太刀たちが滞在する部屋を訪れると──。
「自由ってのはぁ、イギリス語でいう『freedom(自由権利)』じゃなくってぇ、『liberal(自由思想?)』ってことだよぉん。って、判らないかぁん? まぁ、まだ、時間はあるしぃ、自分が何をしたいかをゆっくり考えてみるといいよぉん」
──などと語りかけるが、反論も何も、一切反応は返ってこなかった。
エリーが何を言っても、一姫達は微動だにしない。
(これが『真名』で縛るって事かなぁん? 一姫達が嫌がるのが判ったような気がするぅ?)
そして踵を返し、竹簡を広げて解読作業に勤しんでいるラシュディアに──。
「倭の守護者ってぇ、どういうことかわかったぁん?」
──と云って、読解された文章を読もうとするが、ラシュディアは情報の漏洩を嫌って覚え書きなどを残さないので、ただ、ぶしつけに卓の上を眺めるだけであった。
ラシュディアが咄嗟に空中に印を切り、呪文を唱えようとする。
スパイと勘違いされたのを悟って、慌てて、符牒で自分は本物のエリーであると主張するエリー。
「解読には痕跡を残さないのねぇん、肝心な事を忘れていたわぁ‥‥で、首尾はどうかしらぁん?」
「今、邪魔をされた所だ、とでも言って欲しいのか? 今回は時間がないんだ」
「あらあら、お邪魔したのね」
言ってリストを作り、買い出しに出かける。
本来の買い物の他に大久保長安の情報を探すのが目的であったが、エリーがいくらイギリス人らしき面子から、噂レベルの情報を得ようとしても徒労に終わった。
後に単純に突っ込み返される事になる。
「長安って、ノルマン帰りじゃなかったけか?」
「そうそう☆ そうなのねん。言われてみれば館に行った人から、ノルマン風の造りだった、って言ってるし。確か、道化に関しても、ゲルマン語で何か言ったって話なのよねぇ。エリー勘違いしてたわぁん」
しかし、それに気づくのは後日の事であり、今は大久保長安のイギリスでの話を聞くのが彼女に出来る精一杯であった。
一方、エリーが帰ってきた所で、ジークリンデがミラーオブトルースのスクロールで、家人、大久保長安、皇虎宝団を影から操る首領の真実の姿を覗きみてみようと試みる。
スクロールを広げ、念じながら、淡い青い光に包まれると、ジークリンデを中心に彼女だけが見える真実を映し出す直径3メートルの水鏡が広がる。
しかし、大久保家の家人もそこにおらず、映らない。当然、大久保長安も自分の屋敷にいるだろうから映らない。皇虎宝団を影から操る首領もその例に漏れなかった。
何か劇的な展開があるのでは? と騒ぐ皆に向かって、ジークリンデは人差し指を唇につけ、囁くのであった。
「──お静かに」
友矩は予定の時刻の30分前に愛馬で駆けつけ、ムーンアローの洗礼を以前の慧少年と同様に受ける。
無論、その後に、僧侶によるリカバーにより傷は癒されるが、用向きを伝え、大久保長安への取次ぎを依頼する。
家人に馬を預け、女中の案内で客間へと移動する。
その間も庭や物陰に忍者が潜んでいないか友矩は周囲を隈なく観察した。
客間に通され座に着き、十数人の女姓を引き連れた長安に挨拶を交わす。
「お久しぶりでござる。既にご存知だろうが、漸く構太刀の真名が判明いたしました。今、構太刀は茜屋殿に真名で縛られた状態でござる」
先ずは目の前の長安が依頼人か軽く試した。現状を知っているなら今回の依頼人、知らぬなら依頼人ではない。
「うむ、その話は聞き及んで居る」
──友規の判断ならば、今回の依頼人は長安という事だ‥‥。
「此方は之で一段落つき、次の段階に進むのでござるが。大久保殿は、有らぬ疑いをかけられ災難でしたな」
胡坐でなく正座で座る。にこやかに話しながらも、相手の一挙手一投足も見逃さぬよう目だけは眼光鋭く長安を探る。
更に毒飼いを恐れ、出された菓子にも手を出さない。
また即座に剣を抜けるよう、傍らに置いた鞘から左手を添えている。
もっとも、抜刀術に長けているわけではない友矩が、ジャパンの刀とも異なる剣で抜き打ちをできるかは甚だ疑問の余地があったが。
その明らかな警戒に女性達は怯える。
緊張を鷹揚に受け流す長安。
そこへ後続の山本建一(ea3891)が追いつく。
(大久保邸で、待つものは、果たして何者ぞ。
その正体を見極められれば良いのだが?)
心穏やかならぬものの、巨躯を完全戦闘装備に装ったマグナ・アドミラル(ea4868)が、健一に続く。
一方、ゲレイは──。
「ギルドに来た家人は、教えていないのに、真名を解読した事を知っているから、デビルの配下である可能性が高い」
「ああ、あれは私の指示で『フォーノリッヂ』のスクロールを使った僧侶からの情報だよ」
──と、事も無げに返される。
「あ、なるほど。とはいえ、このままだと、館改めで“大久保さんが黒幕である証拠”が出てくる気がする。
それにしても、デビルがなぜ大久保さんを狙うのだと思いますか?」
「白虎を狙って、皇虎宝団が徘徊する八王子での権力を狙っているからだろう。皇虎宝団はデビルの結社らしい、というこちらの自説を開陳したと思うが?」
「それだけでは──」
と、長弓に弦を張ったまま、立ち上がった光が『うっかり』転倒しざまに弦をかき鳴らし、魔力を込める。
「どうなされた!」
「大丈夫です‥‥‥‥緊張して転んじゃいました」
赤面しようとするものの、そこまで自在にコントロールできずに光は、懸命に取り繕うのみ。
(普通の人間だったら、こういう時は心配するか、笑ってしまうと思うけど、デビルなら鳴弦の弓の魔力で不快に感じるんじゃないかなって──。
それがデビルに操られた者もそうかは判らないですが、操られている時はデビルの精神構造に近くなっているんじゃないか──ってそんな事は全く、在り得ませんよね。それだったら、バードや陰陽師にチャームの呪文をかけられていれば、バードや陰陽師に精神構造が近くなっているのと同じくらい有り得ない事ですし。デビルが自在に人間をコントロールする魔法はとてつもなく高度な魔法となりますけれど、今のジャパンにそれだけ高度なデビルは居ないはずですから)
そんな寸劇はさておき、奉行所からの人が来て、御用改めが始まった。
豪奢なノルマン渡りである家具の数々が次々と検分されていく。
見つかったものとしては、隠し引き出しから発見された、血で何かが記されている羊皮紙が数枚。更に地下深くから発見された大量の大判であった。
「これはデビルに魂を譲り渡す代わりに地上での栄華を約束する旨の契約書‥‥」
リアナが書かれたゲルマン語と、鏡文字で記された大久保長安の文字を見て呟く。
「リアナ。あなた、先に大久保屋敷に乗り込んでいたのでしょう? その羊皮紙がいつ、その引き出しに入れられたのかは──判らないでしょうか?」
ジークリンデの言葉に、リアナは──。
「何十人もの人間の動きを全て把握できるのは人間の領域ではありません。何人の人間が引き出しの前を横切ったと思っていますか?」
「それでも思い出してください。大久保長安の未来はあなたの記憶力にかかっているのです」
スクロールを広げるジークリンデは懸命に促し、リアナは出来るだけの大久保屋敷での過去の記憶を思い出そうとする。
リアナの言葉のままにジークリンデはパーストで過去を見るが、いずれも引き出しの前を横切ったのみであった。
それに肝心な事であるが、パーストは客観性がない。極論すれば何を言った所で、証拠にならないのだ。
ジークリンデが魔力を消耗しきって手を組んでいると『石の中の蝶』が羽ばたいているのが見えた。
「近くにデビルがいます! 気をつけて」
「呼吸の反応がしない存在──ええと」
そこへ光のアドバイスが飛ぶ。
「リアナさん、人間に変身できるデビルとなると、元々人間以上の大きさのデビルです! と、なればかなり高位なデビルですよ」
デビルの声にゲレイは聖なる釘を畳に打ちつけるが、突如飛び出した続けて取り出したタリスマンを黒い炎で破壊される。
「ブラックフレイム! 鉄をも砕く地獄の業火を喚起するデビル魔法!」
光の声の叫びに、マグナが五芒星の描かれた呪符を取り出し、火打ち石で燃やし出す。 しかし、魔法を使う為に透明化を解いたデビルの姿は黒い子ネズミであった。
飛び出した友矩が愛剣『サンクト・スラッグ』で一撃する。
その一連の活劇の後、ジークリンデの指輪の中にいる蝶はただ佇むのみであった。
結局、出所不明な大金や、契約書は奉行所預かりとなる。
デビルが関係していた事を神皇に仕えている光が説明すると、奉行所の面々もとりあえずは納得したようであった。
とはいえ、大久保長安の嫌疑が全て晴れた訳ではない。
御用改めが終わり、大久保長安から礼を言って送り出される一団が、慧少年の家に行こうという話になり(マグナなどは荷物を置いていたので、行かざるを得なかったのだが)、そんな彼らをエリーの手作りの汁物が迎えてくれるのであった。
全てが終わったわけではない。
これが御用改めを巡る冒険の顛末であった。