●リプレイ本文
「‥‥大天狗については大久保さんは間違った事を言ってはいないようです。僕も実際にこの目で見た事はないんですけどね──あっ、そうそう、これは風聞に聞いただけなので嘘か真かは定かではないのですが、天狗のお面みたいな顔だけに成長して、サイコキネシスとフォーノリッジを駆使する。『暴れん坊』って種類の天狗さんもいるらしいですよ? 何でも単身異国に乗り込んでいって消息は不明だそうですけれど」
と、真夏の太陽に負けない、眩しい笑みを浮かべながら、沖田光(ea0029)は一同に自分の殆ど人知の限りを尽くしたモンスター知識を披露する。
無言のまま光の話を聞いていたカイ・ローン(ea3054)は語り手が変わっても、やはり嫌悪感を隠せない様であった。
「この間の情報が本当らしいな。だとして、無理やり肉体を奪っているなら、その所業は許しがたいものだ」
茜屋慧に向き直るカイ。
「理由はその子供が生まれた時から天狗なら、彼らの生態となんとか妥協できるが、もし普通に人間に転生するなら、これは人間の問題でもあると思うからだ」
カイは『射竦めの──』とのふたつ名に相応しい鋭い視線を慧少年に向ける。
「茜屋さんは彼らとの今後はどうしたいと思っている? 積極的に倒そうとまでは思わないが、俺は今の状況でさえなければ、そのまま天寿を全うしてもらいたいと思っている」
「多分、カイさんがジーザス教徒だから、そういう風に感じるのではないですか? 人外のものと交わって子を為すというのはジャパンの文化では別に不自然な事ではないのですよ」
慧少年がたどたどしく応える。
「ともあれ、拙者が高尾まで行って、事の真偽を直接天狗に確認するでござる」
結城友矩(ea2046)が立ち上がり、慧少年に暇を告げる。
「一緒させてもらおう。なに、おたくの邪魔はしない。あてにしてくれてもいいよ」
言って、ゲレイ・メージ(ea6177)が友矩の脇に立つ。
俺も行く、と。日向大輝(ea3597)も、武士の手本にしたいくらいの見事な一挙動で立ち上がり、慧少年に存念を述べる。
「とりあえず、慧に言っておくけど。構太刀達は無事に放てる場所も見つかっていないし、まだ皇虎宝団から狙われ続けている事だから、真名をラシュディアが発見し次第、一時避難でもいいから契約した方がいいぞ、構太刀の自由の為には必要な事だからな。裏を返せば構太刀が、皇虎宝団の手に落ちてからじゃ手の打ちようが無くなるんだ」
「──それは‥‥」
「一生縛り続けるんじゃない、あくまで一時の方便だからな。とりあえず、高尾山に向かうまでに言っておく。奪われてから言ったんじゃ遅いからな」
「そうそう、潜入は許しはしません」
闇目幻十郎(ea0548)が断言する。
「鈴の結界も万全。おそれるべきは皇虎宝団の直接の構成員と目されるデビルが来る事」(目的は妨害か? それとも奪取か‥‥逃げる事に徹した面子からして、妨害の色が濃いか?)
脳裏で状況を再整理している幻十郎の言葉に対し、光が主張する。
「人の心の隙間につけいるのが、デビルの常套手段ですし。襲撃に備えて合い言葉等を決めておくのがいい手かもしれませんね」
首を横に振り、カイが主張する。
「いや。人遁等で侵入されないように、人差し指で円を描くしぐさをする等の符丁を決めておこう。ただ、潜入されて聞いていても気づかれないように」
「まあ、それは夕餉でも頂きながら、相談しましょう」
とりあえず、議論が紛糾しそうになったので、光がこの場での口論を押さえる。
デビルの話題が出た時から固くなっていた、ラシュディア・バルトン(ea4107)がようようにして口を開く。
「正直デビルとは関りたくない――過去に一度心臓を貫かれてるし――けど。
でも、俺は俺の責任を果たすよ。ここまで来た以上逃げるわけには行かない。今度の依頼でこそ必ず真名を解き明かす」
「ラシュディアさん──下働きなら任せてください。協力サポートしますよ」
と光がラシュディアの決意を補強すると、旅立つ面々に向かって、手を振り──。
「では、3人とも行ってらっしゃい」
「あっと、その前にゲレイ、お前の研究に関して『手短』に聞かせてくれ」
と、イギリス語でラシュディアがゲレイに語りかける。
「そうか? ならば、まず──」
以下、大量の蘊蓄により、文書量節約のため、5千文字省略。
「──もう、いい。判った事にしてくれ」
ラシュディアがジャパン語で悲鳴をあげる。
「いや、おたく。まだ話の突端に取りかかった所だが? 肝心な事はまだ──」
「いや、入れ替わりに、化けて入った来た連中の為の対策だ。幾ら、外見を真似た所で、この知識の渦をイギリス語で言える忍者はまず、いないだろう。多分、デビルでも無理だ‥‥と思う。旅の無事を祈るよ」
山本建一(ea3891)も神妙な面持ちで──。
「私も守護に回りますので、どうかご安心して」
と、見送った。
「先生、今日は助手をさせていただきます、遠慮なく指示して下さいね」
と、アルル・ベルティーノ(ea4470)は竹簡を片手にラシュディアの元を訪れる。
やはり、彼女がラシュディアを『先生』と呼ぶのは、やはり、ラシュディアの隔絶した、古代魔法語知識を尊敬しての事だろう。
一方、竹簡の古代魔法語をロゼッタ・デ・ヴェルザーヌ(ea7209)が調べるが──やはり、情報の発信源となっている、ラシュディアに尋ねざるを得ない。
平文で書かれていれば、いざ知らず、茜屋家の資料は暗号化されており、それを文書化せずにラシュディアに一極集中させているので『読めない文はない』を目標にしている、ロゼッタと言えども、解読は捗らない。
とりあえず、過去の暗殺の出納帳に関しては、先日の大輝少年の案を活かしたラシュディアの手によって、櫃に納められ、漬け物石と一緒に床下に安置している。
ペットの蛇への、上手い命令手段を思いつかなかったカイは、とりあえずその櫃を自分以外の者から守れと命じてある。
さすがには虫類の脳味噌では、特定個人を認識させての命令は無理な様であった。
ともあれ、ロゼッタの問いかけは続く。
「四神相応は江戸の町を霊的に均衡させていたと聞きますが、それが破られますと町どころか国自体を危うくさせるとは大きな話になってますわね」
「まあ、『倭の守護者』がどうのこうの、という大きな話だからね。それに前、南方の方でも、鳳凰を巡って、一騒ぎあったというからね。それも精霊力のバランスの乱れを押さえる為の事件だったそうだよ」
依頼主の慧少年をも繰り出しての、総力戦である。
ロゼッタは続けた。
「竜といいますと、この国には八俣遠呂智という、蛇とも竜とも言われるエレメントが神格化されて居られるそうですわね。
冒険者ギルドの報告書を読むと、そのオロチが高尾を更に西へ行った所にあります富士の樹海で目撃されたという話を目に止めましたが、四神のお話とは無関係でしょうかしら?」
雑用を手伝っていた光がロゼッタの発言に解説を加えて──。
「八俣遠呂智は、西洋風に言えば、ミドルヒドラ──蛇ですよ。竜とも蛇ともつかないのは、違うんじゃないかな? ヒドラは地の属性ですから、土でしょうけど、そうなると中心、江戸の中にいないといけないのでは? まあ、金の属性に位置する高尾にいるのが、風の白虎ですから、直接に華国風の五行の配当と、ウィザードの四大精霊を符合させるのは訳が判らなくなりますけど」
「そうですか、結論は出ていないのですね‥‥。
ところで、ジャパンでは精霊のことを八百万の神というそうですわね。そしてそれら地に満ち溢れた精霊のことを国津神と言うと聞きましたが」
「八百万の神は別に精霊に限った事ではありませんよ。ジャパンでは力あるものが神です、出自は問いません。国津神というのは、ジャパンの『上』に位置する高天原からやってきた、天津神ではない神格を指す言葉ですよ」
ロゼッタはその言葉を反芻する。
「──お静かに」
と屋根の上からジークリンデ・ケリン(eb3225)が声をかけた。
「少々、話が長くなったようですね。じゃあ、今度は静かにお話ししましょう」
と、光はロゼッタの元を離れていく。
「──これか? 風神長津彦は──、固有名詞か? 他では出てこないな? 神を──このフレーズは判らないな、する。倭の守護者たるべく、白乃彦に命じ、3つの風を‥‥多分、この長ったらしいフレーズは大山伯耆坊だろう‥‥に遣わした? 与えた? 向かわせた。司る、制御する、操る、名を──暁の舞姫、彗星の君、雷の帝として──他にないな、この3つだけか? という事は見つけたか?」
ラシュディアは前後を数度に渡り確認し始めた。
その頃、エリー・エル(ea5970)は構太刀たちの元を訪れていた。
合掌して、白い淡い光に包まれ、周囲に通常の生命体ではないものがいるか否かを確認する。
1度失敗したものの、2度目は成就した。
反応はない。
以前の解読分をヒントにエリーは一姫から情報を聴きだそうとするが、生憎とラシュディアは多忙であり、記録に残る形で情報を残さない方針下では、エリーは情報を聞き出す暇が無かった。
「一姫としてはぁ、真名が分かったらぁどうしたいぃ? 自由も大切だと思うけどぉ、慧くんもいい子だからぁ、慧くんと一緒にいるのも楽しいかもよぉ。って、楽しいって新たな感情を発見できるかもってかんじなぁん」
と友達感覚で聞いてみるが、一姫は応えて曰く。
「真名が判ったら、どうするかって? 選択権を持っているのはそちらだろう。自分で自由が大切とか言っておきながら、こちらが真名に縛られず自由になりたいというのが、判らない? 相手が誰であろうと、真名で縛られるのは願い下げ。それにまるでこちらを木石の様に、感情を知らないかの様に扱って、何様のつもり?」
「あら、ご免なさいなのん。そんなに真名で縛られるのが嫌だなんて、思っていなかったのん」
そこへ通りかかる光。
「空気悪いですね」
「あら、どうしたのん?」
エリーのその言葉に光は微笑を浮かべながら──。
「いえ、なんだか愛着わいちゃって」
「兎に角、皆が幸せになる方法を考えないとねぇん」
エリーの言葉に小さな声で──。
「少なくとも、皆の中に構太刀は入っていないわけだ。真名で縛る気なんだろう?」
一姫は一刺しした。
その頃、高尾山に着いた3人は、友矩の手慣れた手引きで、修験者達とつなぎをとり、高尾山山頂の、薬王院有喜寺境内本殿裏で十郎防と合う手筈を整えた。
「今回は少しなら会っていっても平気かな?」
そのスケジュールの穴をついて、大輝少年は炊事の手伝いをしている少女『おの』と再会する。
彼女は大輝少年から送られた簪をさして現れた。
「今考えると高尾山においてもらうことを勝手に決めちゃって悪かったな。
なにか不自由してたりしないか?」
「ううん。みんな良くしてくれるし。考えてみたら、自分、枝理銅をここまで送り届ける事で頭がいっぱいで、この山に枝理銅を連れてきたら、次にどうしようかなんて考えてなかったし」
枝理銅とは少女おのが高尾山に避難させようとした、一角獣の事である。
「おいおい──というか、もう最初に送り届けたときから4ヵ月は経ってるけど、両親とかに連絡しなくていいのか?」
「大火事でみんな死んじゃったんだ──多分」
「悪い事聞いちゃったな──ご免。多分、またここに来る事になると思うけど‥‥元気で居ろよ」
「うん。大輝もね」
などという短いやり取りを大輝少年が終えた後、黄昏時に十郎坊はいつもの少年修験者の姿で、現れる。
真っ正面から向き直った友矩が──。
「十郎坊殿、お久しぶりでござる。本日は何とか真名解読の目処がついたので御報告に参りました。未だ真名が判明した訳ではござらんが。解読者が十分な手応えを感じております故、近日中に判明するでしょう」
さすがにここまで早く判明するとは、友矩も予想していなかったが、それは人の子としての限度だろう。
「いえ、その程度の事で、一々報告に参られても──」
「さて、高尾に参った本題でござる。先日に八王子代官大久保長安殿に茜屋殿が尋問の為償還された。その際に大天狗の転生の話が出たのでござる。女の腹を借りて器となる子をなし、長じた之に己の全てを注ぐ事で生を繋ぐと。そして大山伯耆坊殿の次の器が皇虎宝団に捕われていると」
「な、何故、それを──?」
露骨なくらいに狼狽する十郎坊。
「仲間からも、この件に関しては確証が取れ申した。また、転生に関してジーザス教徒の仲間が拒絶反応を起こしておる。今の態度を見れば真実だろうというのは一目瞭然であるが、一応事実か確認したい。そして先日言葉を濁しておられた人質とは器の事でござるか?」
「はい、全てあっています。間違いありません」
「器奪還に拙者等も動きたいのだが宜しいか。奪還の暁には‥‥」
「どうなされたいのですか? 異教に興味はありませんが、そちらの方で拒絶反応を起こしている方がおられる、つまり一枚岩ではないのでしょう?」
「まあ、それはさておき──長安殿と貴殿等の間に何やら遺恨がある様で心配なのだが」
「と、言われましても、さきほど初めて聞いた名前ですので、何とも言えませんが──そこまで天狗の内部事情を知っていて、かつ向こうが遺恨に思っているのなら、何かジャパン人らしからぬ考えを持っているのではないですか?」
「ならば、貴殿は八王子代官をどう見ておられるのかな、という問いは無意味か?」
「ですね。人の事にはお山に直接干渉する事でなければ、基本的には非干渉というのが、今までの方針ですから」
その言葉に大輝少年は──。
「友矩、十郎坊。今までのやり取りじゃ判らないから聞きたいんだ。
天狗たちがいま一番重要視してるのが、大山伯耆坊の命なのか、白乃彦が封じるなにかを守ることなのか、それとも別の何かなのかってことだ」
「それを言えば、白乃彦様が守っている封印を守り抜く事でしょう。しかし、地の霊力を強引に風の霊力で押さえつける、その為には白乃彦様と大山伯耆坊様の両方の霊力が必要となります──しかし、最悪でも大山伯耆坊様の命脈が尽きた時に、転生先の子が殺されたという事態でも、手近な天狗の子──つまり、自分ですけれど──に魂を乗り移らせて、転生するという最終手段が残っています」
「じゃあ、六道の辻から外れて生きる苦しみも、それでも転生を続けて生きなければならないほどの使命の重みも、人の身からじゃあ想像するしかできないけど。天狗道には天狗道なりの誇りがあると言ったその言葉を俺は信じたい。
天狗道を生きる者としての誇り、それはただ生に固執するだけのものじゃないと信じていいのか? 自ら身を投げ出す事も天狗道の内なのか!?」
「仕方ありません。小天狗と言えども数は限られています──自分は異能故に先頭で指揮を取っていますけれど、今まで聞いた事のない事態、転生先を失った、大天狗の死去の際には最年少の天狗がその魂の受け入れ先になるのは天狗として、取らざるを得ない道なのです──」
鈍い音が響く。
大輝少年が近くの木に拳を打ちつけた音だ。
「判んねえよ! 天狗が大山伯耆坊の命が失われても、戦う覚悟があるのなら‥‥‥‥一時の利害の一致にしたって、一緒に、全力で、戦いたい、そう思っていた、だけど──だけど、十郎坊まで簡単に受け入れ先になるなんていうなんて! それが天狗道の誇りなのか!」
ゲレイが大輝少年の震える肩をそっと押さえて──。
「おたくら天狗が、命を長らえるのに、他者を使うのは判った。だけど、受け入れの優先先をまず、人間の子じゃなくて、天狗の子にするっていうのは出来ない相談なのかね?」
「さあ、我らを創った造物主の気まぐれでしょうか? 転生にはまず、人の子を介する。天狗の子を使うのは非常時のみというのは定められた命数なのでしょう」
真名がラシュディアの手により判明し、それによる構太刀の処遇を決める儀式を行うべきか、否か。
知恵熱を出して(パラは頭脳職には向いていないのだ)、寝込む慧少年の枕元でエリーが果実を剥きながら、優しく声をかける。
「悩んでいるならぁ、色んな人の意見を参考にした方がいいよぉん。慧くんがひとりで抱えなくってぇ、皆で分け合えばいいんだからなぇん」
「いえ、大輝さんの言葉を聞いていたら余計混乱してしまって──確かに構太刀達を一時とはいえ、式神にするのは皇虎宝団から守るには正しい手段かと思って‥‥‥‥でも、彼らは嫌がっているのでしょう?」
「血に穢れて、正気を失うのは正しくない使い方をしたからよん。慧くんは慧くんの使い方をすればいいのぉん。剣や魔法と同じよぉん」
「────エリーさん。僕、一時的に式神として、彼らの身柄を預かります」
「やれやれ、ラシュディアのお手柄だったな。手を下すまでもなく事件が解決してしまった」
ゲレイが、帰ってきたときには、式神の儀式の準備のまっただ中にいる皆を見やりながら、呟いた。
(だが、まだ奥は深い──迷宮入りするかもしれん)
そこへジークリンデの声が響く。
「30人以上の包囲網が敷かれています」
その声を受けてアルルが緑色の淡い光に包まれながら、空中に印を描く。
こちらを包囲せんと動いている呼吸するものの数は36体。
「さて、パーティーの始まりか」
ゲレイは言って屋根に上る。
「術合戦なら負けんが、忍者やデビル相手は厄介だな」
「それって今回の相手に対して、完全に無力って事じゃない‥‥ともあれ、近寄ってきたら、捕まえるから、適当に痛めつけておいてね」
同じくロゼッタも、屋根に上ろうとするが、幻十郎が声をかける。
「相手は捕まりそうな仲間には止めを刺す輩、お気をつけて」
「大丈夫、アイスコフィンの封印は伝説の魔剣でもなければ傷つかない」
「慧くんの護衛は任せておいてねん」
エリーが皆を見送る。傍らでラシュディアが。
「『情報を収集する』『慧達も守る』『両方』やんなくっちゃならないってのが『冒険者』のつらいところだな。覚悟して、頑張ろう──屋内でトルネードはちょっと無理っぽいな、というか発動させたら、潰れかねんな。ウインドスラッシュあるのみか」
「カバーに入ります」
と健一が。
「数度の襲撃が失敗したんだ。今度はより周到に襲ってくるだろうな」
カイが杖を携えて、遮蔽物の影に隠れる。魔法の発動時、無防備になるのを防ぐ為である。
「ふむ、是非もない」
言って友矩は『サンクト・スラッグ』を抜き放つ。
時折、見え隠れする、淡い赤い光は大輝少年が魔法で罠を仕掛けているのだろう。
一方、ブレスセンサーで相手の位置を把握しているアルルのライトニングサンダーボルトが集団を打ち据え。テレスコープの望遠視力から、通常の視界へと切り替えたジークリンデの直径30メートルのファイヤーボムが10人ほど巻き込んで爆風を巻き上げると、明らかに包囲網の動きが鈍くなった。
そこへ、前衛が突入し、算を乱す。今回の相手は浪人混じりのため、単純な暴力勝負となったが、流石に抗しきれず、次々と降伏していった。
忍者はまとめて、氷漬けになり、後衛はアルルのセンサーで次々と撤退していったのが確認された。
今回はジークリンデのハッタリ勝ちである。
「興味深い証言ですね」
と、カイが魔力が追いつかなくなるほど、忍者の解毒をしまくると、光が捕虜のひとりが見たという、ひとつのシーンを皆に解説する。
「おそらく、このジークリンデさんが最初に一撃を浴びせた集団の中にいた黒ずくめの三度笠の人物はデビルでしょう。ですが、目の前で姿が見えなくなったというのは、デビルの魔力で姿を変えるもので、蠅か何かに化けて潜入するつもりだったのでは? まあ、ジークリンデさんの魔法では蠅程度の生命力では生き残れなかったでしょうけど」
まあ、誰がやっても範囲魔法で蠅を殺さないというのはまず無理だろう。
「多分、そこで潜入するつもりだったかと」
幻十郎が今回の隠密性と忍者の利便性を欠いた作戦から、デビルの一点突破を狙った作戦では、と推測した。
だが、新たな問題が発生した。
浪人や忍者からリシーブメモリーで得た情報からは、三度笠の男から、捕まったら『大久保長安に雇われた』と、言う様に指示が下されたというのだ。
無論、ファイヤーボムの爆煙を見て周囲が黙っている訳が無く、奉行所から人が来て、一同が一通りの情報を得たのを確認した後で、侵入者達を引っ立てていったが、一応、口止めはされた。仮にもこの事が公になれば、中途半端な情報過ぎて混乱を招くというのである。
そして、暁の舞姫、彗星の君、雷の帝と真の名で式神として正常化された、構太刀たちには慧少年からひとつの指示が下された。
──全ての生あるものを傷つけない事。
部屋こそ変わらねど、檻から解き放たれた構太刀たちはただ、慧少年からの次の指示を待っている。
これが何時まで続くのかは、人の知る所ではなかった。
これが真名を巡る冒険の顛末である。