●リプレイ本文
「お疲れさまです、とりあえず栄養尽きそうな食べ物持ってきました‥‥あんまり根を詰めすぎないでくださいね、まるで締め切り前の浮き世絵師みたいですよ、くすっ」
「ありがとうございます──浮世絵師ですか」
と沖田光(ea0029)は窶れ気味の茜屋慧の家を訪れて、精のつくものを渡した。
挨拶のため、顔出ししに来た羽雪嶺(ea2478)は──。
「今回から手伝わせて貰う『魔物ハンター』の羽雪嶺だよ。まあ最近お呼びがかからなくて休業中なんだけどね。よろしく、僕はハンターだから必要以上の狩はしない質だからね。で、式として取戻せたのなら、必ず制御もしくは暴挙に出ない様にしてもらいたいんだよ」
「無理です」
赤毛の武闘家にあっさり応える慧少年。
「制御も何も、それが最初から出来ていたら、こんな事態にはなっていません。その方法を模索中です」
「やれやれ、困ったモンだね」
肩を竦める雪嶺。
「うぅん、淋しがり屋の女の子の次はぁ、道徳観念がない男の子かぁ。教育がなってないよぉ」
と慧に冗談まじりで云う、エリー・エル(ea5970)。
カイ・ローン(ea3054)も訪れて──。
「事件を起すまでに時間差があることから、狂気にとらわれるのに個体差があるのか? なら、長兄はまだ正気かもしれない。どうにか居場所を特定できないかな?」
「さあ、構太刀が暴走したのはこれが初めてなので──どうにか、と言われても晴明様の様な陰陽寮之頭でもなければ、その様な事が出来るとは思えません」
「医者に陰陽師の事は判らん」
ムチャを言ったと自覚したカイは、慧にギレされる前に、自分が開き直る事で、安全弁を設けた。
「俺は騎士ではないけど、人々の『日常』を護りたい気持ちは負けないくらいにある。だから通り魔事件を起こし人々を苦しめる奴は許せない。
まあでも、話を聞く限り構太刀たちも同情すべき身の上。救えるものなら救ってやらないとな。
また高尾山ゆかりの話か‥‥縁があるものだな、当分逃れられそうにないか。
しかし、駄目だ、これは──竹簡の量だけでも大分あるぞ、ジョーンズ教授の所で鍛えていたとはいえ、八王子におもむく前の1日、2日では読めるものではない」
と言いながら、慧に許可を取り、ラシュディア・バルトン(ea4107)は資料の読解にチャレンジするが、以前の直感通り暗号化されており、生半可な事では判るものではなかった。
最近のものらしい資料では、殺人の依頼とその入金が書かれており、これは比較的判りやすかったが、こんなものまで古代魔法語で書くなよ、とラシュディアは思わずツッコミを入れたくなった。
光が立ち会っても根本的な問題として、彼は古代魔法語が読めず、レヴィン・グリーン(eb0939)が口伝てに解読した文書から、動物学の点からアプローチしようとしても、風の精霊力が凝り固まって生まれ、その強い所である高尾の吹き溜まりで、育まれた構太刀の様なエレメンタルビーストにはその定石は通用しない事が判る事であった。
しかし──。
「一姫は自分の事をKunitsuKamiと言っていたが、AmatshuKamiらしき単語も散見する。どの神だろうか」
ラシュディアは時間の関係上、調査を打ち切った。
ラシュディアの後始末に動いていたレヴィンであったが、急ぎ出立する為、ピッチを早め、雑用係の任を終える。
そこで、一姫に皆が何か聞かれる時は未熟と自称するものの、スクロールからメロディーで一姫が警戒心をほぐせるような落ち着ける歌を歌い出す。
光はその曲の流れる中、檻に閉じこめた一姫に会って、半分は彼女の狂気脱出作戦もかねて、色々話しをしてみる。もちろん、昔の事や丹太郎、沙茄子の事も色々聞いてみようとする。
「そうですか──高尾の事は精霊溜まりの中でゆるやかに暮らした事しか覚えていませんか。
はあ、丹太郎や沙茄子は代替わりの儀式の時に会う位で禄に覚えていないと──」
と、当人は真面目に聞いてるつもりのものの、雰囲気は茶飲み話のようであった。
「こんにちは、僕は雪嶺だ。
強いんだって? 丹太郎さんも暴走してるんだよね。身内とかの区別はつくのかな? 動く者全てが攻撃対象になるんだろうか。好きな食べ物等あるのかな、僕、キミとも友達になりたいんだけどな」
と微笑を湛える雪嶺。
「元気してたぁん?」
と、エリーも挨拶をして──。
「丹太郎が暗殺しまくっているんだけどぉ、彼ってどんな性格ぅん?」
と尋ねて情報を得ようとする。
ふたりの言葉に、一姫は未だ狂気の淵に囚われている様で、ガチガチと檻の縁を噛む始末。しかし、ポツリポツリと応える。
「ものは食べない。丹太郎は私が失敗した時の2本目の刺客だから、そうそう顔を合わせた事はない」
「あら、そう困ったわね」
エリーは困っていない様に返すが、光は──。
「と、そうだ、最後にこれだけは聞いておかなくちゃ‥‥ご兄弟の事は好きですか? まあ、滅多に会えないのじゃ判りませんね‥‥‥‥。じゃあ、狭くて申し訳ありませんが、もう少しここでお留守番お願いしますね」
「はあはあ、喉が涸れた──」
とレヴィンはメロディーを打ち切り、丹太郎の大きさを慧少年に尋ねる。
1.2メートル位だそうだ。
最後に武張ったジャイアント、クルディア・アジ・ダカーハ(eb2001)も慧少年の家を訪れ──。
「んー。高尾は精霊力が強いだの言っていた筈だから、もう一体も近辺に居る可能性はあるな。
でだ、お上に知れたら処分されるしかねぇだろうし。手前が再契約出来なければ封印するか殺るしかねぇだろうよ。
会ってどうなるかは知れんがね、一応そういう事に詳しそうな奴等を知っては居るが、接触出来るかどうか判らん。
ついでで、3匹をどう扱われるか判らんがね。賭けるか?」
「賭けて──みます」
慧少年は細い声で、しかし確かな言葉でクルディアのそれに応えた。
一方、先行した結城友矩(ea2046)は、先ずは江戸から八王子へ馬で移動する。
木賃宿に部屋を取ると早速周辺で連続殺人事件の聞き込みを行う。
聞き込みの結果から地図上で殺害現場の分布図を描き丹太郎の縄張りを推測する。
「ふむ、こんなものか──丹太郎の凶行を止めねば、罪なき人々が殺害されるのを黙止出来ぬ。
そして、茜屋殿の見るに堪えない姿。このままでは茜屋殿の精神が重圧に押し潰されてしまう。何とかせねば」
一同が合流してきた所で情報交換と黒い糸の準備。
レヴィンが雪嶺に説明する。
「丹太郎は夜に奇襲をかけると思いますから、緊急時にはこれを引っ張ってもらって、合図とするのです。一筋縄ではいかない相手ですから」
「色々考えてるね」
同じ魔物に正対する者として、雪嶺は感嘆する。
その黒い糸をつけた友矩が周囲に皆のフォローを受けながら、半月の下、歩き出していく。
「今宵も月が出ているか。この光量なら十分な見通せる」
レヴィンのブレスセンサーの範囲に高速の影一つ。1.2メートルクラス。
友矩に結びつけられた糸が引かれ、一同に緊張が走る。
牽制に光の放った火球が炸裂し、爆風をまき散らす。
影──丹太郎の動きが止まる。
正対する友矩。
「拙者、新陰流の結城友矩と申す。ここであったが百年目、もはや貴殿の好きにはさせぬ」
小太刀と盾を構え、間合いと呼吸を合わせながら小太刀を上段に持って行く。
軽いなれど十分な斬撃を放てるはず、と友矩は小太刀を振り下ろすが、余裕綽々でかわされた挙げ句、その巨体に隠した右腕から、常人には見切れぬ斬撃が放たれる。
狙うは首──。
しかし、鷹の様に鋭い友矩の視力はその斬撃を半月の下とは言え十分に見切った。
盾で楽々受け止める。構太刀は高度な技を複合しすぎて、かえって太刀筋が読めるのだ──見えさえすれば。
淡い光に包まれた光の炎の精霊力と、白い淡い光に包まれたカイの聖なる母の加護を受けて、レヴィンが先制のライトニングサンダーボルトを放つ。
風に属する存在故、十二分な威力は発揮しないが、動きを封じるには十分であった。
一方、雪嶺は自身に3つもの魔法を付与しようとして、それだけで駆けつける時間を取れなくなってしまう。
仕方なく、声をかける。
「ねえ、何でそんなに荒れているんだい? あなたは強くなる為に戦いを求めているんだよね? でも心無い闇討ちでは強くはならないと思うんだよ。僕も武の腕を磨きたいから考えてしまうんだ。落ち着こうよ」
自分も落ち着いて考えてみると、腕に得物を付けたままでは爆虎掌は使えない。更にそれに闘気を付与しようとして、時間を取られていたのだ。
(自分の技も把握できず──未熟)
エリーも説得に入る。
「ねぇ、これまで教わってきた技はねぇ、普通の人に使っちゃいけないって知ってる? その技はぁ、悪い人を倒すのに使うものなんだよぉん。私がぁ、ちゃんと教えてあげるからぁ、一緒に来てぇん。一姫も私達と一緒にいるよぉん」
と日本刀、レイピアの幻惑する様な連係攻撃で責め立てながら、言葉を投げかけるが、丹太郎は一言。
「で、何であんたに教えられる必要がある?」
「もう、聞き分けがないのねん」
「まったく、どうして俺に回さない」
クルディアが精悍に割ってはいる。手にした無銘の日本刀を振りかざすと、こちらにこないかと、手ぐすね引いて待っている。
「待っていられるか」
焦れて飛び出し、日本刀の斬撃を浴びせて、丹太郎を行動不能にする。
「まずいな、やりすぎたか?」
「いいえ、大丈夫。青き守護者、カイ・ローン参る」
ラシュディアが自分の術の間合いまで進入しようとしている間に、カイは淡く白い光に包まれて、慈愛神の力を解き放つ。
丹太郎をコアギュレイトで固める。
「つまらん。死に瀕してからが勝負のしどころだろうに」
日本刀を鞘に収めてラシュディアは吐き捨てる。
カイは魔法で固まった筋肉(?)を強引に押し戻しながらロープで縛り上げる。
魔法の時間が切れてから──。
「お前達は三兄妹なのだろう。なぜ、バラバラで行動しているんだ?」
「何で兄妹だと、一緒に行動する必要があるんだ?」
「長兄はどこにいる」
「知るか」
友矩は問う。
「丹太郎よ、何ゆえ人の血を求める。仮初めとはいえ山野で静かに生きる事も出来たであろうに」
「暗殺で吸わされた血が俺を呼ぶのさ」
仕方なく、茣蓙で撒いて、茜屋宅へと戻るのであった。
「慧さん、丹太郎を連れて帰りましたよ」
との光の言葉に、慧はか細い笑みを浮かべて。
「ありがとうございます、皆さん」
と応えるのであった。
これが八王子での構太刀を巡る冒険の顛末である。