●リプレイ本文
「慧殿、もし生き残る事が出来たなら。貴方と構太刀が自立するまで拙者達も関わらせて頂きたい。貴殿一人で背負うには、この罪は重過ぎる」
結城友矩(ea2046)はレヴィン・グリーン(eb0939)を伴い、急ぎ高尾へ急行する最中、依頼主である慧少年の下を訪れ、短いながらも言葉を告げていった。
一方、レヴィンはおっとりした口調で──。
「茜屋さん。沙茄子さんの事を色々お聞きしたいのですが。特に、万が一他の構太刀さんと大きさが違っていましたらブレスセンサーに引っかかられても気づけませんし‥‥」
と五月に似合わぬ汗を一滴垂らした。
「そして構太刀さん達の今後の件について、ですね」
そうレヴィンが言うと、沖田光(ea0029)はにこやかに──。
また、慧くんにはこの先どうしたいのかを聞いて、再び彼らが狂気に捕らわれるような事をしないのであれば、式神として降ろす為に最後までお手伝いをしたい。
「‥‥あれだけ鋭い鎌を持っていれば、後は芸術センスを磨く事さえ出来れば、庭師さんとして重宝するかもしれませんね」
‥‥あっ、それともあれだけの伐採能力があるんだから、荒れ地の開墾とか‥‥‥‥等と、想像豊かにしつつ、慧少年の手をがしっと取って。
「頑張りましょう!」
「ええ。皆さんの手助けがあれば、僕も道が拓けるような気がします。一姫にしても、丹太郎にしても、僕の手元に在っても正直、使い道は思いつきません。ですので、正気に戻ったら高尾山に返すのが本道なのかもしれません。再び血に染めるのは、彼らにとっても、命がけで捕獲した皆さんにも失礼ですし。単に僕が子供だから、綺麗事を言っているだけなのかもしれませんが」
そこへ、カイ・ローン(ea3054)が──。
「今回の所業は嘗ての使役者ら所業ゆえと考えて、捕獲できた以上は構太刀をただ滅するという考えは否定したい。
しかし、解き放った責任は依頼人がとらなければならないと思うし、今後も暴走する可能性が高いなら封印等を考慮すべきだと思う」
「一口に封印と言われても──家の中の文を調べれば、その様な方法も出てくるかも知れませんが、その様な儀式魔法を行うにはあまりにも僕は未熟過ぎると思います古代魔法語のイロハも知らないのですから」
カイの言葉に却って慧少年は萎縮したようであった。
「そうか──こちらではあまり精霊魔法は発達していないか──だが、選択肢として考えていて欲しい。少なくとも心がけておけば、滅した後で、封印する手段が発見されるという悲しい結末を迎えずに済むからな」
「それは俺に言っているのかな?」
ラシュディア・バルトン(ea4107)が書簡から眼を上げて、カイと視線を合わせる。
「済まないが、俺は古事記やら、日本書紀を読むので精一杯だ。これだって、正直読んでいられない。しかし、茜屋さんが日本の伝承に詳しくないから、こうやって近くの神社に頭を下げて写本を貸してもらっているんだ。まあ、俺だって茜屋さんが地元の知識に詳しくない、とは思っていなかった。だからと言って責められるほど、自分自身が伝承の知識に詳しくない。
ウィザードをやる為の基礎教養としてたたき込まれた程度だ。
しかし、アマツ神や、クニツ神と言った背景を知らなければ、茜屋さんの所で、情報を集めても、それが何を意味するのかまるで判らないだろうから、改めて基礎教養として読んでいるんだ、これでも俺なりに焦っているんだ、判る?」
「もー、そんなにカリカリしないのラーちゃん?」
エリー・エル(ea5970)がラシュディアのほっぺたをつつきながら唇を開く。
「ラーちゃん、それだ! そのノリが欲しかったんだ」
「でもね、慧君に構太刀をしっかりと従える力を身につけられるまでは封印してもらってぇ。
で、その間、慧君には責任を以って彼らを扱える力をつけてもらいたいのよん。
そうすれば、これで最後、ね? がんばらなくっちゃねぇん!」
と、エリーは気合を入れた。
「いやぁ、でも封印とかの方法、俺判らないし」
ラシュディアが必死の抵抗。
「お・ね・が・い・☆」
エリー、うん十うん才の色香に負けて、ラシュディアは封印の方法を探る羽目になってしまった。もっとも古代魔法語の山からそんなに都合良く魔法が飛び出してくる訳ではないが。
(まあ、アマツ神やクニツ神の事を調べるのが先決だな‥‥俺自身が決めた事だし)
その頃、2頭の愛犬を従え、クルディア・アジ・ダカーハが奥から出てきた。
一姫達の匂いを犬に覚えさせ、追跡の要としたのだ。
「駄目だな。檻の金気ばかりに反応して──それに相当強く命令しないと、側にも近寄らない。本能的に強い者が判るんだな。『吼え丸』にも『嗅ぎ丸』の奴にも動じはしなかった」
「さっき、僕が話しかけた時も無反応でしたからね? 今はどうです」
と光。
「沙茄子さんの事を聞いてみたんですけれどね」
「いや、両方ともぴくりともしなかった」
吐き出すようにクルディアは返す。
「すまんが先に行かせてもらう。便利なブーツや、俺の重さに耐えられる馬はそうそうないのでな。慧──来るか?」
「いえ、僕が行くと、真っ先に狙われそうなので、今までの戦法が上手く行っているなら、それで良いと思います」
「そうか。では行く。皆、高尾で落ち合おう、シフール郵便は欠かさないようにしてくれ。俺のようなこんな眼の色の奴がそうそういるとは思えないのでな‥‥高尾で前に会った、忍者の話は今度にしよう」
と、最後の言葉を慧少年に向けると、2頭の愛犬を伴ったクルディアは街道をめざし、慧少年の家を出た。
「全く、古事記にしろ、日本書紀も、ジャパンの正史たる自覚があるならば、異国人向けに、翻訳版を準備しろ!」
後にラシュディアは、古文に奮闘しながら一同が慧少年の家をひっきりなしに飛び交うシフール速達の連絡が忙しくなるのに従って、皆の緊張が高まるのを確認せざるを得なかった。
そして光が──。
「ここまで関わったんです、最後の最後まできっちり片を付けたいですから」
と言って、慧少年の家を辞したのを最後に、ラシュディアと慧少年はふたりっきりの時間が続くのであった。いや──構太刀達はいるのだが。
一方、若干時は遡り、騎馬で、高尾についた友矩は、寺社に沙茄子を退治しに来た事情を丁寧に説明した上で宿坊に泊めてもらう事に成功した。
「成る程、このジャパンでも実力者の呼び声高き、結城様が動くとは、そういう事で──それでしたら、私どもも出来るだけの事はさせていただきましょう」
「忝ない。しかし、これは拙者達の仕事。御坊方の力添えは却って足手まといになる故、地図などが在ったら貸していただけると力強い」
「それではそういたしましょう」
こうして、宿が決まった時点で、友矩はレヴィンと手分けして、付近の住民と修験者達に、連続辻斬りの聞き込みを開始した。
聞き込みの結果から地図上で殺害現場の分布図を描き沙茄子の縄張りを推測し、それを記した地図を、シフール速達で急ぎ、慧少年の家と、クルディアに送る。
どうやら、急行した甲斐在って、友規達は沙茄子の頭を押さえる形になったようだ。
クルディアはピッチを上げる。
そこへ来訪者が現れた。
12、3ばかりになる少年の山伏だ。剃髪している。人の良さそうな笑顔を浮かべると、彼は十郎坊と名乗った。
「確か、クルディアさんでしたよね?」
「小天狗のまとめ役の十郎坊です。ご無沙汰してました」
「辻斬りの件か?」
「今度は幟がありませんでしたけれど、話を聞き回っているとのことで、何か事件があったかと思いまして」
「ならば、話は速い。この地より来たという構太刀が、血に狂って、辻斬り紛いの事をしているのだ。依頼人はその構太刀を代々式神として操っていた陰陽師の家の末裔、茜屋のものだ」
「茜屋──確か、長津彦様縁の家にそんな名前があった様な」
「以前、大山伯耆坊の所で言っていた、アレか──!? ともあれ、人の命が次々と失われている。
その精霊の処遇について助力を頼みたいんだが、どうか?
で、腹案だが。罪を償う為と、恩返しを兼ね、高尾山で霊場の護衛を勤めて貰う。
これなら3匹の力は殺害に使われないで済むし、
霊山の守護を通して力量を高めて、将来別の職──有り体に言って、山の守護者を得れねえかと、考えたんだが。おい、十郎坊、どうして固まっている」
「大山伯耆坊様が衰えている時に何故──? しかも3匹という事は、全部ですか、構太刀3姉弟が?」
「俺に言われても困るが、全部だ。その内、一姫と丹太郎は捕獲した、沙茄子がこちらに来ようとしているらしいのでな、その捕獲に茜屋の所からこちらに依頼が来た。やっぱり、血で汚れると山の守護者は難しいか?」
クルディアは武家の修験者も居たはずだが、と思いつつ訪ねる。しかし、十郎坊は戦慄していた。
「構太刀──あれは山の守護者どころではありません──‥‥倭の守護者です」
「判りやすく言うと大事(おおごと)だな」
その言葉にクルディアは、立ちつくす十郎坊の匂いを、不審気に嗅ぎ回る愛犬達を制御する気力も失っていった。
とりあえず、クルディアは光達と合流を急ぐ。速達によると、ラシュディアも慧の家を出たというが、おそらく、決戦には間に合わないだろう。
「ヘックション。誰か俺の事を噂してるのかな?」
ラシュディアは書物を返還し終えた後、高尾へと急いでいた。彼に付き従うはニムと若き馬のみ。
クルディアからの報を受け、あまり気が進まない為書きたくはないものの、前に皇虎宝団から山を守ったことを挙げ、それを『貸し』として、構太刀らを正気に戻すために尽力してもらえないか頼んでみた。
道具として心を無視されて、使われ。『壊れた』から廃棄される‥‥なんてのは哀しすぎる。何とか助けてはやれないものだろうか──。
とは手紙で訴えてみたものの、十郎坊から返る返信としても── 。
助けてやりたいのは山々だが、闘気や、天の霊力では解除する手段がない。古代の秘術に関しては、茜屋の所で管理してもらっている。使いこなせるまで待ちたいが、その時間も怪しい。
封印の要である大山伯耆坊が衰えている今、風の精霊力溜まりで強引に封印を行っている白虎に風の精霊力の管理を止めて、他の事に動いてもらうと、高尾山に封じられている“もの”が目覚めて、今度は江戸の街が軒並み吹き飛びかねない。それこそ日本中の冒険者と、加えて大天狗とその眷属が集まって(もちろん、天狗達はそれなりの使命を持って動いているらしい、と十郎坊は付け加えた)、大いくさをする様な大事になりかねない。
なので、茜屋の家にあるモノでどうにかして欲しい、というのが、十郎坊からの返事であった。しかし、最後にこう付け加えられていた。
『僕の嫌いな言葉は大事の前の小事です』
そこで、クルディアから、慧少年の家の位置を聞いた十郎坊は、話を聞きに江戸に向かうと言う、結局、沙茄子の事は冒険者達に委ねられた。
「──ちッ、俺は間に合いそうにないな」
様々な情報を聞いて急ぐクルディアだが、さすがに騎馬集団に追いつくのは不可能であった。
情報が錯綜する中、高尾で、レヴィンはエリー達を出迎える。
「お待たせしたのねん☆」
「早速ですが、結城が纏めた地図は見て頂けましたね? 今はこちらが頭を押さえた形となっていますが、相手の移動速度からして、高尾入りするのは時間の問題でしょう。
いつもの様に、友矩が囮になって、魔法で私が周囲の捜索を行います。友矩が時間を稼いでいる間に、魔法を付与して、あなた方が一気にケリをつけてください。おそらく、カイさんの神聖魔法が利くか利かないかが勝負の分かれ目でしょう」
「むぅ〜ん、両手に武器を持っていると神聖魔法って使えないのよん」
そして月夜──最後の散歩である。
友矩が黒い糸を背中から垂らし、歩いていく。
白い淡い光に包まれたカイの聖なる母の祝福と、淡い赤い光に包まれた光からの火の精霊の加護を受け、自身も緑色の淡い光に包まれたレヴィンが全力で風の精霊魔法を唱え、周囲の呼吸するものの気配を探る。まさしく結界。
慧少年の言っていた、1.5メートル程の影がじわりじわりと友矩に迫っていくのをレヴィンの感覚が感知する。
「来ました! 空中からですので、間違いありません。多分、十郎坊でもないでしょう」 カイが小柄と盾を構え直す。小柄ならば、いざというときに足下に落としても、十分に十字架のネックレスを構える事が出来るだろう。
「皆さんに火の精霊の力を──」
相手の侵攻が遅いことを奇禍として、光が一同にフレイムエレベイションの魔法を施していく。
「青き守護者、カイ・ローン参る」
勇んでカイが突っ込む。
糸を引かれて友矩も振り向き、細身の巨体──今までの構太刀たちに比してではあるが、が視界内に入ってくるのを認める。
「沙茄子だな。貴殿を捕まえに参った。いざ、尋常に勝負!」
冷静に、闇の中、満月に輝く沙茄子の太刀筋を見極め盾で受け止める。前回の反省を踏まえ、直ぐに右手の刀で斬りかけるのだ。
「大振りせず確実に当てる。構太刀戦での定石らしいな」
しかし、沙茄子にひらりと交わされる。
その後方で赤い淡い光が収束し、一弾の火の玉と化す。光のファイヤーボムだ。続けて緑色の淡い光が立ち上り、煌めく雷となって、沙茄子を打ち据える。レヴィンが放つライトニングサンダーボルト。レヴィン当人だけでは不安定な高出力での魔法の使用も、聖なる母と、火の精霊の加護があれば、十分安定して使えるのだ。
更に光のファイヤーボムが炸裂し、爆風となる。
「沙茄子、姉と兄達も待ってる、だからもうこんな事はやめるんだ!」
悲痛な光の叫び声。
カイとエリーの神聖騎士コンビが突っ込んでくる。
カイの小柄が唸り、確実に沙茄子を捕らえる。
一方、エリーの刀とレイピアのコンボも確実に沙茄子の体力を削ぎ落としていく。
「沙茄子くんってぇ、末っ子なんでしょぉん。他の姉兄もぉ、苦しんでいるみたいなんだけぉ、助けるのを手伝って欲しいなぁん。それにぃ、今の主人はぁ、沙茄子達を苦しめたりしないよぉん」
サイレンスの魔法がまだ利いているのか、無言のままの沙茄子。
そのまま離脱しようとする所へ、光の拳骨がこめかみに抉り込まれる。
「しばらく良い夢を見ていてください」
そこでカイがようやく武器からネックレスの十字架へと持ち替えてコアギュレイトを発動させる。
空中から沙茄子は落ちていった。
エリーが鎖鎌で縛り上げ、ようやく一同は一段落する。
「勝ったけど☆ ‥‥これからは慧くんの番ねん」
呟くエリー。
途中、伝書シフール(さすがに沙茄子の事件が一段落したので、金銭の無用な浪費となるシフール速達は中断した)の導きでクルディアと出会い、更に途中から追いかけてきていたラシュディアとも合流した。
その間、沙茄子は無言。
サイレンスの魔法だけではなかったようだ。沈黙は当人の地らしい。まあ、能弁な暗殺者というのも中々にいないものではあるが。
仔馬に乗っかって慧少年も、江戸市中の街道筋で出迎えてくれる。
最も、余り相性は良くないらしいが。
「で、どうなされたいか、考えは変わりませんか?」
「はい、十郎坊さんと色々話をしまして‥‥力に振り回されている、自覚がある内に、この力を手放した方がいい。ただし、白乃彦さまにも、大山伯耆坊さまにも現在は動けないので、浄化は自分たちでどうにかした方が良いと言われました」
「結局、結論は変わらなかった訳か」
クルディアが確認する。応えて慧少年も。
「はい、力を持っても、使い道が思いつきません。幾ら風神『長津彦』縁の血筋故、倭の守護者なる者を委ねられても当人がこれですから」
その応えにうなずいて、慧少年に尋ねる光。
「で、封印されしものって何ですか? 十郎坊さんの話を総合すると、話半分でも、あの構太刀達が総出で戦うどころか、ジャパン中を相手に出来る様な存在ですよね──あ、すいません、聞かなかった方が幸せかもしれませんね‥‥お互いの為に」
途中から歯切れが悪くなり、自分でも聞かない方が良かったというムードが吹き出る光であった。
「そうそう、後は浄化してからでも人生設計は幾らでも考考えられるわよん☆」
エリーが、場の淀んだ空気を吹き飛ばす様に、明るく笑い飛ばす。しかし、それでも払いのけられない程空気は重かった。
「一旦、うちへ戻りましょう。立ち話も何ですし」
ラシュディアが記紀関係の資料を返却したので、若干出立時よりは明るい印象の慧少年の部屋に、一同が立ち戻ると。
「どうやら、大山伯耆坊さまの力が弱っているのが、高尾山が荒れている原因の大きなものの様です。具体的な取り戻し方は判りませんが──十郎坊さんの言によると、本来有り得ない事の様です。天狗が衰弱するのは」
ふむん、と顎を撫で、クルディアは──。
「どうやら、前にその天狗達と会った時に、そこいら辺を突っ込んでいた奴がいたが‥‥どうやら、その辺りに鍵がありそうだな」
それを受けて慧少年も。
「後、皇虎宝団──以前に高尾に忍者を放ったらしい一団ですが、その辺りも話をややこしくしている一因らしいです」
十郎坊の説明には何でも高尾の風の精霊力溜まりは、昔は陰陽師に渡す式神として扱われるエレメンタルビーストの養成に使っていたという、もちろんその陰陽師は“風神”長津彦縁の家系に限られるが。
単純に魔力の源泉としての価値もあるのだろう。
しかし、単純なそれであればある程、構太刀の戦うべき相手が見えてこない。
「困ったものですね」
光が茶を啜りながら呟いた。
そして、お白州。
構太刀達の凶行を申し出た慧少年が、十郎坊と冒険者を証人に、事の顛末を述べる一幕である。
無論、この凶行で、慧少年の陰陽師としての資格は取り消されるだろう。当然、京都の陰陽寮にも報せは届けられる。
しかし、江戸の事でもあり、事実の確認に時間がかかる事もあり、江戸から出る事を許されないという事で済んだ。
一部では茜屋家代々の凶行の責任を取るべきだとして、慧少年に重い処罰を──という意見もあったが、親の凶行を子が報いる義理も法もないとして、その訴えは退けられた。
ただし、資料の管理を徹底する事が義務づけられた。
だが、十郎坊が天狗の霊山の事故、と──構太刀達の出生を公式には有耶無耶にし、肝心の封じられている“存在”に対しても、言及を拒んだ為、話は捻れそうになったが、そもそも人間でない、ものがお白州の場に立つ事事態が異例であり、霊山信奉の事もあったが、何より、『不死鳥教典』なる、白虎と同じく、江戸を守護しているとされている鳳凰の氏子団体を貶めようと、色々な画策を行っているらしい皇虎宝団の影が露骨に見え隠れしている所から、高尾の緊急な調査を行う事で毛を吹いて傷を求める事になりかねないと、慎重な調査が求められる事となった。
「──やれやれ、堅苦しいのねん」
正座して、お裁きを待っていたエリーが脳天気な態度で、自分をしゃれのめす。
「ねえ、十郎坊君? 構太刀ってぇ、天狗くんみたいなぁ、この国の国津神ってぇかんじなのぉ? 私はぁ、聖なる母様以外ってよく知らないんだよぇん」
「はっはっはっは。ジャパンでは神は八百万いるとされますから、その内の一柱と思っていただければ、間違いはないでしょう。神と言っても、社も建てられない様な下っ端ですが」
「ふうん、神様っていうより天使みたいなものかしらん?」
「天使にあった事はないので、何とも言えませんが──」
「天使と天狗、一文字違いで偉く変わるものねん」
ともあれ、慧少年は江戸から出るのは唯一、高尾山に天狗関係の話し合いに行く時のみ。与力立ち会いの下で──。
という事に話は落ち着いたが、百人も与力が居ない、奉行所では日々の事件にも対応仕切れない為、冒険者ギルドを雇う事になるだろうという話であった。
無論、正確な報告書が要求される。
それでも数十人に及ぶ殺害が行われたにしては破格に軽い待遇であった。
これが大山伯耆坊最期に関わる冒険の第二幕である。