●リプレイ本文
「そうですか、ラシュディアさん‥‥居ませんか」
沖田光(ea0029)は、依頼主の茜屋慧にそう聞かされると、差し入れに持ってきた精の付く新鮮な山海の珍味を袋ごと取り落とした。
しかし、気を取り直し、荷物を持ち直して、にっこりと微笑むと。
「じゃあ、ラシュディアさんが今までに書き残してるメモなどをまとめて、暗号解読の手掛かりを探しましょう。
彼がいない以上、地味でも情報はまとめ直さないと、今までの調べ物が無駄になってしまう気がしまいますしね」
そして、慧少年に解読を手伝ってもらうよう、頼むと。
「僕は、古代魔法語を読む事は出来ませんが、今まで調べて貰っててわかった言葉から、既にわかっている物を消去していく事は出来るんじゃないかとおもったんです。せっかく調べて貰っていた事を、無駄にするわけにも行かないですし‥‥それにしても、この間知り合ったご老人から、古代魔法語の『真名』、『霊的守護』、『構太刀』、『龍脈』、『風等精霊6種』、『光』、『闇』、『標的』、『血』等、魔術的暗殺業者さんなら使ってそうな単語を書いて貰っておけばよかったですね──。
まあ、暗号だって話でしたから、そのまま書いてあるとは思えないんですが、ラシュディアさんが読み解いてくれた規則性と照らし合わせたら、少しは何か見えてこないかなぁと‥‥例えば欧州系の魔法語を、わざと日本的文法に置き換えるとか。でも、その前に食事をして、元気をつけましょう」
それに対して、菊川響(ea0639)は──。
「前回ラシュディア殿が解いた『構太刀』と『茜屋』、『竜』についてはワード、もしくは解法がわかって慧殿に報告されているかと思う。
俺は古代魔法語はもちろん読めないので、あくまで絵や記号を見るような感じで暗号パターンの洗い出しや、アイディア出しといった方向性から攻める」
一呼吸置いて響は。
「真名に関する記述がされた書簡の絞込みを試みようと考えている。
書簡や竹簡は年代順に整理されているだろうか?」
「多分違うと思います」
慧少年の言葉に頷いて言葉を響は続ける。
「茜屋家は代々式神を使役しているというし、もし慧殿の父上だけでなく昔からの書簡があり、その中に真名の記述があるとするなら、最初に長津彦から茜屋家に渡ったときだろうか。
筆跡の変わる、もしくは書簡の作り方の変わる時期のものを探って、構太刀を使役した最初の人の書簡を当たってみるとか。
その為には、風の記述の多いものを探る
構太刀は『風』の精霊。『風』神長津彦、高尾の『風』の勢力溜まり‥‥といい、暗号化するにもこの関連の記述はどうしても増えるんじゃないだろうか。
既に構太刀が解かれているから、光が聞いてきてくれた『風』の語彙から似た記述が見つからないかな」
「すいません、聞いていません。どちらにしろ暗号化されてるような」
「ならば、暗号化の法則予測だ。
多用されている記号の洗い出し。慧殿の父上が古代魔法語でない文章を残していれば、そもそもの文章のつくりの癖との比較、といった線からも洗い出せるような」
「それは少ないけれどあります。覚え書きのようなものでしたら──」
慧少年の言葉に響は頷く。
「よし、それから見せてもらおう」
「ならば拙者は古代魔法語の達者を、冒険者ギルドを通じて集められないか、依頼してみよう」
結城友矩(ea2046)が編み笠を被り尚しながら、慧少年に告げる。
「そんな──お金なんて」
「拙者が自腹を切る」
彗少年に家にある財物を売り払い、あるいは遺産を使って、構太刀の浄化費用を出しているのを知ったクルディア・アジ・ダカーハ(eb2001)は。
総額150両と加えて月道チケット2枚の供与を慧少年に申し出た。
「ただでやるとは言わねぇよ。これは証文書いてだ、来年の今頃までに
お前が地力で稼いで返してくれや。
まっ、駄目なら駄目でそん時にでも換金予定だった物か、先祖の遺産から
返してくれりゃ良い。
武具なら引き取りでも良いしな。
あー。どの道闘技場で稼いだアブク銭だ。気にすんな」
「でも、命を賭けてのお金でしょう?」
「強い奴と戦ったら、金が勝手についてきた。それだけだ。
今回の件を追っていけば、強い奴と戦えるだろ?
俺は金や名誉より戦いを望む。
ま、俺の分を回して次回以降も依頼を出してくれる事が一番嬉しいからな」
「ありがたく受け取っておきます」
「ま、それなりに気にしといてくれや」
一方、カイ・ローン(ea3054)は江戸城に通されたが、行き着く先は地下の空洞であった。大火にあって避難した人々が今だ暮らしている。
「うーむ。慧の紹介所ではこの程度が限界か──しかし、諦めない限り、いつだって可能性はある」
構太刀たちに関して、資料を解読して答えを見つけ出すのも、いつになるのか分からない。こうなったら答えを知っている人を探して見つけ方が早いかも? という事で、太田道灌の墓から、芋づる式に、回答者を洗い出そうとしたが、無名に等しい、茜屋家の紹介所では、数日たらい回しにされた挙げ句、答えがこれであった。
地下には、最近発見された月道もあった。そもそもこんなものを直下に置いた城作りをした太田道灌という人物は相当の難物である。
仕方なく、障りの無い所を歩き回って聞き出して、太田道灌縁の者が、源徳家の家臣として、今だ存命であるが、江戸にはいない事を確認すると、カイは慧少年の所に戻った。
「しかし、太田道灌が築城した、江戸城に月道が隠されている事が源徳家にも密事になっていた事からすると、四神相応に関しても縁者が知識を持っているかは、正直の所、博打になるな」
カイはそう付け加えた。
「し、しまった。
そういう着眼点も在ったとは。とはいえ、自分には、することが見当たらないですね──古代魔法語ですか‥‥知り合いにいないんですよね」
護衛の任を務めていた山本建一(ea3891)がぼやく。
ゲレイ・メージ(ea6177)も──。
「むむ、ついに難事件に出会えたというのに‥‥我ながら情けない事だ‥‥」
と、己の技量と依頼内容の相性の悪さを嘆く。
(倭の守護者か。それ程の高みに達した者が、穢れを纏うとは、人の事を言える職では無いが、何が──茜屋家をその行いに走らせたのだろうな)
そう思索に耽りながら、マグナ・アドミラル(ea4868)は、ようやく江戸に居を構えたキャプテン・ファーブルことシャルル・ファーブルと接触にこぎ着けた。
ゲレイも同行している。
「失礼。今回もおたくへの客人をつれてきた。日本最強のファイターの噂も名高い、マグナだ」
彼の紹介を受けて、マグナがキャプテン・ファーブルに切り出す。
「ファーブル氏には先日の翠蘭の件では世話になったそうだ。今回もひとつ厄介な事を──」
赤毛のインセクト学者は白い歯をきらりと光らせると、鷹揚に頷いた。
「キャプテン・ファーブルと呼んでくれたまえ。で、どんなインセクトが発見されたのかね?」
「おたく、インセクトしか興味ないの?」
「もちろん!」
ゲレイの問いに断言するキャプテン・ファーブル。
「ともあれ、インセクト捕獲の折には、必ずご助力する事を誓おう。倭の守護者と呼ばれる、重要な存在を癒す為に、古代魔法語の文献を、解き明かさねばならない」
「それがインセクトとどういう関係が?」
「いや、全然ないって」
ゲレイがツッコミ返すと、キャプテン・ファーブルは肩を竦めて。
「無理無理。古代魔法語なんてインセクトと関係が無いから、囓ってすらいない」
「しかし、キャプテン程の博識なれば、古代魔法語にも精通していると期待したのだが──」
「人間、限界ってものがあるしね。モンスター全般を修めて、更に、基礎教養としてのラテン語と、移動の為の船舶に秀でれば、他に手を出す余裕なんてないって。特に古代魔法語なんて敷居高過ぎ」
「‥‥──では、少し前のノルマンにおける、デビルの暗躍と、この地の状況が似た部分が有る事から。デビルが首謀者では無いが、好機に付け込む可能性を考え。デビルの暗躍の経緯について、キャプテンに、意見を伺いたいのだが」
「さあ? デビルの陰謀なんて、100年、1000年を単位で進んでいても驚きはしないよ。寿命がない存在の打った、未来への布石なんて、想定できないって。例えて言うなら、ノルマンでの“破滅の魔法陣”事変なんて当事者以外の誰が予想できた?」
「高尾山を狙う者も、長きの間に歪みし者なのかも知れんな。まあ、そう言われてしまうと、それで終わりだが──」
「大体デビル関係の事件には関わりたくないしね。デビルのせいでノルマンを追い出されたわけだから、デビル関係は勘弁プリーズ」
という事でマグナはキャプテン・ファーブルからの援助を受ける事は出来なかった。
一方、友矩も依頼が人数が足りず、成立せず、流れてしまい、仲介料を払っただけとなってしまう。
頭を抱えつつ──。
「茜屋の先祖は何故、情報漏洩を警戒したのか。古代魔法語を更に暗号化するなどやりすぎだ。だが逆に先祖が敵視した何者かは古代魔法語の読解能力があると考えられる。この風習は先代当主も実行している。惰性で続けていたのか。それとも今も敵対関係は続いているのか。後者だとしたら厄介な相手かもしれぬ。
特にデビルだとすれば合点が行く」
「竜‥‥か。推測は色々できるんだが、今回はどうにも確かめるのが難しそうだな。敵の背後にデビルがいるなら、友矩の考え通り、さらに高位のデビルという線が濃いとは思うが、それなら何かしらの伝承なりが周辺に伝わっていてもおかしくないのだがな‥‥」
語る天城烈閃(ea0629)が若いロック鳥2羽を引き連れての、高尾山からの帰りだが、行きも帰りも平坦ではなかった。
冒険者街においているならともかく、江戸を離れ、郊外に連れ出せば歴としたモンスターである。
彼の愛鳥の屠龍も、驚羽も良く躾けられている。だが、それを道中の人間が理解するかは話が別であった。
羽ばたく先々でホラ貝が鳴り渡り、鏑矢が唸りを上げ、弓兵達が民人を守ろうと、必死に弓に矢を番える。
旅籠に泊まろうとすれば、徒の兵がおっとり刀で包囲し、一時として心の安まる時は無かった。
高尾山につき、ひとり離れて聞き込みをしても──。
「高尾山についての伝説や、近隣での昔話でもいい。何か変わった話があれば聞かせてもらえないだろうか?」
高尾山に住む大天狗や、それに従う鴉天狗を筆頭とした小天狗のイタズラ。役行者が訪れたり、空海上人が奇跡を現したという話は聞いたが、具体的な話は聞けなかった。
「今のままでは時間も金もかかりすぎるからな。何か、少しでも良い方法を見つけることができれば‥‥」
烈閃は寺社周りのついでに、構太刀の穢れを祓うために使えそうな清水の湧き出る場所、神聖な空気の流れる場所など、精霊のためによさそうな環境の場所を人々に訊ねて探してみるが、一般人が精霊の事に詳しくもなく。これも空振りに終わった。
しかし、山には清々しく風の精霊力が満ちているのが、風の志士たる烈閃には感じ取れる。
尚、山頂には寺社が立っていた。上から見るまでもない。
そこへ12、3才ばかりの剃髪した修験者姿の少年が現れる。
少年は『十郎坊』と名乗り──。
「何かお探しですか?」
「穢れに塗れた者を癒すための何かを探している。心当たりはないか?」
「六大の精霊の理に、浄化の法はありませんし。修験者達の目指す道である『天』の法では汚れを雪げません。このジャパンに於いては『菩薩』の法のみが汚れを癒せます」
「随分と賢しい事を言う。つまり、この霊山である高尾山では、汚れを雪ぐ方法はないのか?」
「有り体に言えば、そうなりますね。単純に人を騒がせただけです。今度もあの怪鳥を連れてくるなら、人心を騒がす意図があると見て排除します。鳥だけが空を駆けるとは思わないでくださいね」
「風を持ち帰る術はない──か。十郎坊、一介の修験者ではないな。一体何者だ?」
「お山を司る大天狗、大山伯耆坊の代理人です」
「──と、まあこういう事があった」
烈閃は一同に告げる。
「結局は得る所は何も無かった訳だが」
エリー・エル(ea5970)はその言葉に──。
「大丈夫なのねん☆ ファイトね」
と背伸びして肩を叩き。
慧少年に向かって。
「陰陽師ってぇ、五行ってのがあるんだよねぇん。それでぇ龍ってぇ、確か青龍と黄龍がいてぇ、青龍が木と西、黄龍が土と中央だったけぇん? でぇ、カマイタチは、たぶんこれと同じだからぁ、木だよねぇん。五行で云うとぉ、青龍の眷属ってことになるのぉ?」
と陰陽道的なことを尋ねる。
「いいえ、青龍の司るのは東の方位ですよ。西は白虎です」
「やっぱり生兵法は怪我の元ねん」
彼女の半可通な知識ではリュウという単語のニュアンスは特定出来なかった。
そして、江戸城、高尾山の五行的な位置関係より、構太刀が何の影響があるか。東の青龍(木行)で中央(江戸城)の黄龍を撃破できるのか、と考えようとしたが、高尾山の位置する西は白虎なので、思考を修正。
慧少年から聞いた話では、土は金を生む、という関係にあるそうだ。
土は金を生み、金は水を生み、水は木を生む。そして、木は火を生む。
火は水に負け、水は土に負け、土は木に負け、木は金に負け、金は火に負ける。
五行は流転して止まず、全てが絡み合っている。
とはいえ、慧少年からエリーに更なるツッコミが。
「あの陰陽師が使うのはイギリス渡りの精霊魔法で、華国渡りの魔法じゃありませんよ」
そこへクルディアが来る。信頼出来る筋から紹介された僧侶も一緒だ。
「待たせたな」
「今日でお勤めも終わりです」
僧侶が言って合掌する。
「長かったのねん」
構太刀達が封じられている部屋に通される。
そして白い淡い光に包まれてリムーブカース、ピュリファイ、メンタルリカバーの法力が施されていく。
血の汚れから構太刀達は解放された。
「はぁい、元気してたぁん? 今日こそ何か思いだせたか聞きにきたよぉん」
エリーが声をかける。
正気に戻った一姫が。
「何の用?」
そこへクルディアが──。
「ガラじゃあねえがな。
契約を解放すると、3匹の力や知恵が失われる事。
今後は、暗殺稼業には以後一切関らず、無闇な殺しはしない。
出来れば、以降は人の護衛とかな。世の為、精霊の為になるような仕事を生業と為す。この条件で契約しねえか? お前らの能力を容易く使わない事等が条件だ」
そう言ってクルディアは彗と構太刀との契約更新を願い出る。
「彗。お前も3匹が何らかの使命を持つなら、お前が3匹を補助して3匹が目的を達せられる様に己を高めろ」
「一姫、丹太郎、沙茄子。もう何も強要しないから、高尾にお帰り、そして『倭の守護者』として生きて」
そのクルディアの声に応じ、慧少年が優しく語りかけるが、構太刀達は無反応──否、冷笑的。
沙茄子が呟く。
「今まで狂気に身を染めて戦ってきた我らにか? 『倭の守護者』? 笑わせる」
「高尾に帰った所で、新たな主の元に送られるのが関の山だろうよ」
囁く丹太郎。
マグナが叫ぶ!
「風が押さえ込むのは、水の精霊力。水の大神、オオナムチ公の封印では無いか? そして汝等は、三種の神器に準えた、3つの封印では無いのか!」
「知るか!」
と、一姫は叫ぶ!
「一度は我らを式神に降そうとした、輩の言う事など、信じられるか!?」
そう、慧少年は最初に式神にと、構太刀3姉弟をしようとしていたのだ。
その混乱の中、光は──。
「皆さんの血の汚れを払おうとした、その努力は──」
「真名を知らないから、契約で丸め込もうという方便だろう。そうはいかんぞ」
沙茄子が決めつける。
「そう、決めつけては話は進まないでござろう。まずは話し合いから──」
必死に友矩が取りなそうとする。
しかし、交渉は決裂した。
構太刀は物理的に逃走を封じられているので、そちらの心配はない。
とはいえ、交渉の為の手札があまりにも少なすぎた。
猫のムーンを膝に乗せながらゲレイは呟く。
「構太刀にとって『倭の守護者』という言葉は余程、嫌なキーワードなのか? 契約を交わすにしても、問題がありそうだし──‥‥」
神聖魔法をかけ終わった僧侶はとりあえず、役目を終えた、という事で浄財をもらい、クルディアの護衛の元、帰路についた。
カイはやはり、真名の究明が最優先ではないか、と思ったが、相手を呪的に束縛するのは、聖なる母の信徒としてはしっくりこないものがある。
己の半身の血は、それも良しとするが‥‥‥‥。
「ともあれ、肝心の真名をつけた大山伯耆坊も身動きが取れない、となると取れる手段も自ずと限られてくるか」
友矩が不本意そうに言葉を紡ぐ。
「古代魔法語の達人で物量作戦をこなすのは無理があると判ったのは、皮肉な事に収穫でござったが、いかんせん、初心者の茜屋だけでは心許なさ過ぎる」
それに対し、烈閃は──。
「いや『倭の守護者』という肩書きが具体的に何を指すのかが不明瞭なのも、混乱の一因だろう。高尾の大天狗、大山伯耆坊と正対する必要があるのではないか?」
「確かに冒険者ギルドのどの報告書を見る限りでも、大山伯耆坊と顔を突き合わせて喋った者はいないようだ」
ゲレイが補足を入れる。続けて──。
「しかし、老齢故動けない者の所へ無理体に押し入るのか?」
と、常識論を述べる。
健一はあっさりと。
「古代魔法語を読める人がいれば──」
と意見する。
「まあ、それはそうなのねん☆ でも、その要員がね──一姫もあそこまで強硬に出るとは思っていなかったのねん」
エリーは自分の予想外の事に少々混乱していた。一姫のあの態度では、穢れに満ちていた時の方が理性的ではないか、と思えるくらいに。
「やっぱり、真名で縛られたり、契約で人に仕えるのってそんなに嫌な事なのかしらん?」
「多分、ぼくが彼らを圧倒できるような力量を持っていないからだと思うんだ」
力なげに呟く慧少年。
そこに僧侶を送り届けて、戻ってくるクルディア。
「ただいま、っと。どうしたんだみんな、葬式帰りみたいな面して?」
色々と意見の分かれる皆の意見を、改めて頭から聞いたクルディアは──。
「で、結局の所、どうしたいんだい? 途中から聞き直してあれだが、肝心の方針が決まらないと、ツッコミのしようもない」
「ツッコむかどうかはおいとくしよう、クルディア殿」
響がまず、言葉を切り出した。
「そもそも、事の始まりは、風神長津彦がどんな意図があって、構太刀を茜屋家の一族に渡したのか、そもそもそれが判らん。俺としてもこの事件、ツッコミどころは沢山あるような気がするが、事態を一番、音便に収拾できそうな手段である真名の束縛にしても、書簡、竹簡から、肝心の真名が判らなくては、どうしようもない。
それに、マグナ殿の読み通り、デビル絡みだとすると、何時の時代から、因縁が入り組んでいるのかが判らない。しかし、これだけ名前だけでも大物揃いの事件がジャパンの正史に載せられていないからには、とてつもなく昔の事が背景にあるのではないか? もしくは歴史に載せることを憚られる何かがあったか、だ」
「そうなると、基本として古代魔法語の解明要員の確保が急務か? 『倭の守護者』の因縁を探るにも、構太刀達の真名を調べるにしろ、どちらにしてもだ。まあ、天狗の方を直接、当たる手があるが、残念ながら慧はつれていけんな」
言ってクルディアが結論づける。
「じゃあ、まずは屋敷の掃除から始めないとねん☆ 後、一姫達を拘束から解き放つかどうかも、話し合いの上では結構重要そうねん」
エリーが明るく宣言する。
ともあれ、慧少年は構太刀の管理不行き届きで江戸から出られないのだ。
とどのつまり、現状の面子では八方ふさがり、それを認識しただけの話合いとなってしまったようだ。
これが構太刀を巡る冒険の終章の顛末である。