星と夜明けを待ちながら【3】

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:12〜18lv

難易度:難しい

成功報酬:8 G 88 C

参加人数:12人

サポート参加人数:10人

冒険期間:07月09日〜07月24日

リプレイ公開日:2006年07月17日

●オープニング

 パラの少年陰陽師、茜屋慧は危地に立たされていた。
 彼の一族が風神長津彦の縁という事で借り受けていた、強大なるカマイタチ『構太刀3姉弟』が代々、暗殺に使われている内に血の汚れで心は殺人癖に染まり、彼らを支配している『真名』を知らずして、慧少年が使役しようとした所、暴走し、江戸の郊外を血で染めた。
 勇敢な冒険者の一団により、その凶行は食い止められた。
 高徳の僧の法力を以てして、血の汚れを取り除かれた構太刀に、慧少年と冒険者は茜屋家に残る『真名』の記されているはずの、暗号化された、古代魔法語で記された資料を読み解く術無く、真名が判らないまま契約に望むが、誰も古代魔法語が判らないという状況のままでは、構太刀たちは契約に応じない。
 一度、契約を交わしたら、その命には逆らえない。彼らはそれを知っているのだ。
 高尾山までロック鳥で行き、騒がしたものの為、高尾山の天狗達も強硬になり、合力を得そうな雰囲気にはなっていない。
 全てが八方手詰まり、更には冒険者のひとりに借金を作ってまで、茜屋少年は『古代魔法語』の解読が出来る知恵者と。高尾山を騒がした事で、皇虎宝団の襲撃があり得(もっとも、肝心なのは構太刀との契約の際の護衛なのだが)、それから身を守る為、剛の者の冒険者を雇うのであった。
「僕は構太刀を野に帰してあげたいだけなんです。彼らが“倭の守護者”なんて号が要らなければ、それでもいい。そうしたら僕が“倭の守護者”に相応しい『仁智勇』を兼ね備えた人を見つけ出して見せます」
 慧少年はそういって江戸の冒険者ギルドを後にした。
 仁と智を求められる冒険の幕が上がる。

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3693 カイザード・フォーリア(37歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea5708 クリス・ウェルロッド(31歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea5970 エリー・エル(44歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6177 ゲレイ・メージ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb2001 クルディア・アジ・ダカーハ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

ゼルス・ウィンディ(ea1661)/ 以心 伝助(ea4744)/ 黒畑 緑朗(ea6426)/ レリーナ・ライト(ea8019)/ 神楽 香(ea8104)/ ファルネーゼ・フォーリア(eb1210)/ ジークリンデ・ケリン(eb3225)/ 磯城弥 魁厳(eb5249)/ スギノヒコ(eb5303)/ 黒淵 緑丸(eb5304

●リプレイ本文

「1日目はいつもより大所帯になりますし、まかないに気合い入れないと」
 などと、沖田光(ea0029)がいつもの5割り増しの天然っぷりを発揮している茜屋宅にて、何人もの一時雇いの者が古代魔法語を更に暗号化された、茜屋家の連綿と伝わるジャパンの暗部に肉薄しようとしている。
「精霊魔法を賜った時の教本に、何か無かったかな‥‥四精霊に関わりが深いなら、これは陰陽師より、僕達志士の領分、のはずなんだけどなぁ」
 ともあれ、単なる契約して精霊力を魔法として引き出すという通常の四大精霊の術式ではなく、更に踏み込んだエレメンタルビーストを使役する学問となると志士の範疇ではない。
 悩む光。
 かたや、エリー・エル(ea5970)は──。
「この前はいい勉強になったねぇん。今回もがんばるよぉん!」
──と周りの雰囲気を明るくする。
 山本建一(ea3891)はどう頑張っても、古代魔法語は読み書きできないと割り切り、護衛に専念している。
 クリス・ウェルロッド(ea5708)は忙しい中、過去にこの一件に関わった者から、話を聞きながら、事のややこしさに匙を投げ、冒険者ギルドへと向かい、昔の記録を漁る事にした。
 そんな人々の出入りが激しい中、魔法──リードセンテンスを使ったところで、最大限に休息を取る事で魔力を回復しつつ、スクロールを行使したとしても、解読できるのは24単語が限度である。
 もちろん、暗号の意味が判る訳ではなく、暗号化された古代魔法語がジャパン語に翻訳されただけの、意味不明の言葉の羅列に過ぎない。
 その渦中である宅の主である茜屋慧に、青き守護者のふたつ名を持つ、カイ・ローン(ea3054)は江戸中を駆け回り、報告がてらに慧少年と正対すると──。
「知識での解読が無理なら魔法でならどうだ」
「でも、冒険者ギルドでもその話題が出て、人が集まらなかったんでしょう? なら、根本的にリードセンテンスの要員をかき集めるのは無理ではないかと?」
「むむむ、茜屋さんの知人にリードセンテンスの使い手や、そのスクロールを所持している人がいないかな? 知っていたら、まずその人を雇ってみるか」
「残念な事にいませんね、すいません。でも、京都の陰陽寮にいけば、確実にいると思いますけど」
「まあ、それはひとつの手段だな。しかし、今回も解読が進まないようなら、茜屋さん、古代魔法語の達者なの者を知っているけど、ギルドの制限に引っかかって入れないみたいなんだ。一度、戦闘に関する実力を問わず、解読専門の依頼を出したらどうかな?」
「それは前の募集の時なら、首を縦に振れたのですが──」
「 ん? 何かできない訳があるのか?」
「はい。皆さん方の理由で」
「具体的に言ってくれ」
「天城さんが起こした騒動のせいで、ここもおそらく、皇虎宝団に目をつけられるでしょう。実力を問わない依頼というのは、刃傷沙汰が予想される場合、ギルド側が一切受け付けてくれないものでして、皇虎宝団の繰り出す刺客などのターゲットになってしまった以上、ギルドでは戦闘力の下限がどうなるか、保証できない依頼は受け付けてくれないでしょうね──」
 慧少年の言うところの、天城さんの起こした騒動とは、先日、天城烈閃(ea0629)が2羽のロック鳥に乗って、高尾山まで移動した事である。
 おかげで、天狗側との関係もこじれてしまった。その為、高尾山へと向かうメンバーもデリケートに事を運ばざるを得なくなる。
 当の烈閃は──。
「少しばかり目立ち過ぎてしまったようだ。すまないが高尾山の者達への謝罪、よろしく頼む」
 ほとぼりが冷めるまで顔を出すのを控え、今回は江戸に残ることにし──。
「冒険者だけでなく、飼い慣らされた巨大な魔鳥が二羽。あれだけの騒ぎになったんだ。これで何の危機感も覚えないとすれば、皇虎宝団は底なしの馬鹿の集まりか、よほどの天才の集まりだ。必ず動くさ。‥‥さて、迎えの準備をしなくてはな」
 確実に皇虎宝団の手の者の接近、襲撃があると見て動くが、その行動は全身を襤褸布に身を包み、貧民のフリをするというものだが、皇虎宝団の襲撃に備えて、差し渡し2メートルの弓と矢を持ち歩くなど、相変わらず自分の都合しか考えておらず、早速に近所の人々に通報され、奉行所の厄介になった。
 無論、烈閃が逃げることはその卓越した体術を以てすれは、容易いことであるが、警戒が無闇やたらに厳しくなり、周囲に再び迷惑をかける事をはばかっての行為である。
 そこでも完全に落ち着き払える、烈閃の特技が功を奏し、自分が怪しい人物ではなく、神皇家に仕える志士であることを弁舌爽やかに証し立て、無罪放免とはなったものの、騒動で、烈閃の隠密性は初日にして失われてしまった。
 何しろ名声はジャパン中に鳴り響いている様な噂である。
 いくら風体を変えた所で、物陰に隠れたようが、愛弓は隠しようもなく、皇虎宝団への即応性を捨てるか、得物を隠しやすいものにするなどの工夫が無ければ、またついた味噌へのリカバリーは如何ともし難いだろう。
 一方──。
(歯がゆいな。古代魔法語の達人級の要員がおらぬでは真名の事も、構太刀の事も話が一向に先に進まぬ。もしやラシュディア殿は皇虎宝団にかどわかされたのだろうか?)
 結城友矩(ea2046)は手が空いた時は酒を片手にぶらりと構太刀の所ですごそうと、彼らの下を訪れた。そこで、問わず語りで自分の推理を構太刀に語ってみる。
「邪魔するぜ」
 燭台に火を灯すと、適当に床の上に腰を下ろす。袖口から愛用の猪口を取り出し手酌で酒を舐める様に味わい始める。
「拙者が思うに貴殿等、構太刀は『倭の守護者』と持ち上げられておるが、実態は使い捨ての捨て駒なのではないか?」
 返答は返ってこない。だが、友矩は構わず、酒を進める。
「茜屋が貴殿等を長らく暗殺の道具としてきたのもそれならば合点がゆく。何れ使い捨てるのであればどのように扱おうが構うものかとな──違うか?」
「かも知れん」
 沙那須が唸るように答えた。酒を味わう舌を止め、友矩は──。
「貴殿等は決して弱くはないが強大と言うほど強くはない。何せ直接刃を交わした拙者だ。そなた等の実力は良くわかっているつもりだ」
 と、続け、一姫に向かって──。
「お陰で剣の腕が上達した程だ。改めて礼を言おう」
 確かに彼の新陰流の腕前は一皮剥けて、格がひとつあがった。
「だが貴殿等は本来、何に対抗する為に茜屋に下げ渡されたのであろうな」
「長津彦に聞け。奴なら知っているだろう」
 風神の事を呼び捨てにする丹太郎。
「ふむ──では、貴殿等を使い捨てにしてでも倒すべき相手とは何だ?」
「大天狗の大山伯耆坊か、白乃彦に聞くんだな。実際に何かを封じているんだから知っているだろう」
「それは高尾山から帰ってきた面々に聞こう。いやはや、謎が多すぎて拙者には良く判らん」
 そこへエリーが──。
「はぁい、今日も来たよぉん」
──と一姫に何時も通り明るく接して。
「ねぇ、こんな言葉から連想されることって何かあるぅん?」
 と、これまで分かった文字などを教えて尋ねるものの、返る言葉は──。
「知らん」
 ──の一言。
 エリーは頬を膨らませて。
「つれないのねん」
「何故、自分を戒めている輩に馴れ合う必要がある? 大体、字など判らん」
 光も茶菓子片手に根気よく訪れ──。
(倭の守護者を前面に出しすぎたから一姫さん怒ってしまったのかな? 都合のいい、過度の期待ですもんね‥‥その辺りの気持ちも聞いて貰えたらいいんですが)
 願いを胸に、訥々と語り出す。
「守護者というのは、僕にはあまり重大な事じゃないんです‥‥本来、国を護るって、自発的な想いじゃないですか? そこに住む者達が自分の護りたいもの為に行う‥‥‥‥だから、ほんとはその役目とか、僕達自身の力でやらなくちゃいけないって。あっ、つまらない話ですいません。衝突しなければ、それぞれが、それぞれの望む未来を‥‥理想、何だけどなぁ」
「ならば、お前が守護者になれ。そんな肩書きいらん、姉弟みなそう思っている」
「ですよね。でも、その為には何をすればいいのか──」
 そこまで言われた所でエリーは矛先を竹簡に埋もれている慧少年に向ける。
「あっ、慧くんお父さんって友達いたぁん?」
 と、慧少年の父親に知り合いがいなかったかを尋ねる。
「多分、いると思いますけど、夜に尋ねてくるような人達ばかりでしたから」
「子供はもう眠っている時間なのねぇん?」
「葬式の時の記帳されない方々でしたから」
「八方ふさがりねぇん?」
 一方、年を感じさせず、精力的に動き回るマグナ・アドミラル(ea4868)は、古代語魔法語の書簡、竹簡巻物は、単語単位での解読になる故、解読された単語と同じ文字を探し、その箇所を、別紙に記載し、邪魔にならない様に整理し、保管しようとしていたが、判った単語の語彙の少なさに腹を立てていた。
 ともあれ、整理は、判明した単語の含まれ具合と、どの文章の箇所か、資料として記載した用紙を挟み、次の解読に役立てる事にしようとするが、根本的な問題として、全部の資料に目を通す必要性があるため、その作業も難航していた。
 結局、同じ形をした文字を探すのに、大幅に時間を取られる。
 しかし、マグナは諦めなかった。
 ともあれ、有る程度、解る単語が増えたら、おおまかで有るが、解読の予想を立てたいと考えているのだ。
 だが、古代魔法語の達人の少なさと、暗号化までしたという偏執が、あまりにも嶮しく。解読へ至る道のりはあまりに遠くなりすぎて、いつになるかはマグナにはとんと見当はつかなかったが。
「オオナムチ公は、果たしてこの一件に絡んでいるのだろうか? 高尾山の秘密は、これからの行方を決める重要な指針になりそうだ。
 又、デビルの干渉がどれくらいなのかが、気になるな。判らぬ。判らぬ事が怖ろしい」
 一方、エリーは、リードセンテンスによって。古代魔法語から読み取れた文字を解析して、デビルとの関連性と『竜』とさっき分かった文字から風に関する事象を考えてみる。
「精霊魔法だとぉ、風の反対は水だからぁ、竜に関していることだからぁ、やっぱり青龍になるのかなぁ?」
 等とと考えてみるのものの、別に風は水の反対という訳ではなく、風は水の優位にある力関係に過ぎないという初歩的な事の理解の欠如と、『竜』と『龍』を都合良く混同している辺り、まともな結論は出そうになかった。
 まあ、エリー自身が、自国以外の異文化を排斥し、精霊魔法に疎い神聖ローマの出身故仕方がない事もあるが‥‥。
 などとやっている頃、高尾山では──。
 左目を眼帯で隠したクルディア・アジ・ダカーハ(eb2001)が、烏天狗の十郎坊と相見えていた。
「此方の配慮が足らず、お山周辺を騒がす事になってしまい大変申し訳ねぇ」
「というより、あなた方でなければ、完全に無視する所でしたよ」
「失礼。初めてお目に掛かる、ビザンツの騎士カイザードと申します。以降よしなに。皆、謝罪中の質問は控えよう。質問に来たのだか、謝罪にきたのか判らなくなるからな」
 同じく片眼を隠した浪人姿のカイザード・フォーリア(ea3693)が皆に注意を喚起する。
 クルディアが口火を切って──。
「天城本人が直接謝罪に来れなかったのは、宿場町でも顔を見られて派手な騒動をやらかしたから。向ってくれば、徒歩であっても周辺を騒がしかねないとの配慮から。直接赴き謝罪をしたいと願ってたが、それによりお山に迷惑を掛けてはしょうがないからな。沈静化した頃に是非、会って謝罪をしたいと言ってたぜ」
 何の捻りもない西洋装束のままであるゲレイ・メージ(ea6177)曰く。
「いや、申し訳ない。
 これ以上のトラブルにならないよう、本人は来させなかったが、彼に悪気は全くなかった事だけは、判って欲しい」
 その言葉に十郎坊は頭を抱えて
「いえ、結構です。もう、これ以上事態をややこしくしないでください」
 カイザードはそこに言葉を挟む。
「こちらの雇い主である茜屋が来れないのは、構太刀との再契約の為。それと、高尾まで来るには大勢の護衛が必要になり、騒がせてしまうだろうとの懸念から、以上だ」
 後は構太刀の凶行で、江戸から出る事はまかり成らない、という事情もあるのだが、カイザードはそこまで把握はしていなかったようだ。
「そちらに皇虎宝団関係が飛び火しないようにしていたのが、先日の件で、おじゃんになったのですから、当人の事の重大性を弁えないのを『悪意がないから』の一言で済まされる訳がないでしょう。とにかく、彼には八王子近辺には2度と来ないように伝えておいてください。ともあれ、あの騒ぎのせいで皇虎宝団が茜屋関係に気づいてしまったので、最悪の状況として、向こうが構太刀の真名を把握して、式神に降す可能性が出てきましたよ」
 日向大輝(ea3597)はそこまで話を聞いて──。
「事態はそこまで悪くなっているのか?
 うーん。預けてもらっているものの管理ができずに泣きつくというのは情けない話だけどここしか頼れる場所がない。
 構太刀の力の制御ができていない現状は危険すぎる、そんな皇虎宝団みたいな悪意ある輩につけこまれる前に解決するためにどうか助力願いたい。
 それで、現状を何とかするには、慧と構太刀で真名を使わない契約を交わすか、契約以外の方法で制御するか、悪用されないどこかへ放つかしかないと考えている。
 そのような契約や制御の方法、放てる場所があるのか?」
 と、大輝少年は茜屋の使者に相応しく、格式を保って喋ろうとした。
「構太刀の頭の巡りが良ければ、互いに交渉しあって、取引を行う事で、式神にする事もできたのですが──」
「無理か‥‥じゃあ、構太刀を放てる場所は?」
「ジャパンを広く探せばあるかもしれませんけれど、どこでも絶対の保証などありはしませんよ。向こうの意志がその場所をよしとするとは限りませんし」
「じゃあ、次に構太刀が『倭の守護者』であるという話や、預かる際に言われたという備えるべき“来るべき時”これは何を示しているのか? 今回の件でその時が来た時に問題が起きたりしないのか?」
「倭の守護者ですか‥‥‥‥言えません」
「じゃあ、来るべき時は?」
「多分、最良でも江戸が滅びる時になるでしょう。それを一刻でも遠くに引き延ばしたいのですが、その時に備えての倭の守護者ですから──万が一、皇虎宝団にでも、構太刀を奪われたら、板東武者が全員立ち上がっても、人の子の造り出したものは無に帰すでしょう」
「じゃあ、それって無茶苦茶危ないじゃないか!?」
「だから、怪鳥を連れて、こちらに接触するような迂闊な真似は避けて欲しかったのです」
 感情が溢れそうになる大輝少年をカイザードが肩に手を置いて鎮める。
「すまないが、こちらからも質問はある。大田道灌と白虎殿とは関係があるのか?」
「詳しい経緯は判りませんが、四神の件ですね? この江戸から西の高尾山に白虎がいて、それで動けない状況にあると知ると、それで放置していったようですが?」
「つまり、動けない。位置関係が狂わない、という事が四神相応では大切なのか?」
「さあ、精霊魔法に関しては何とも、白乃彦様に聞いても‥‥どうでしょう?」
「では白虎殿は、以前からこの地に居たのか否か? 以前、江戸で鳳凰に関った依頼を請けてたのだが、その時とは随分白虎が置かれている状況が違う気がするので」
「風神長津彦様がこの地の精霊力溜まりの安定のため、封じたと聞きます」
「ふむ、鳳凰に関わっていた際には小物のデビルが一匹だけ現れたがね。
 皇虎宝団にデビルが与してると言うには、何か裏付けとなる理由でも?」
「過去の歴史です」
「あ、鬼面党と戦ったとき、噂に聞くデビルっぽいのと戦った事がある。多分、親玉」
 大輝少年が合いの手を入れる。
「急に姿を消すし、多分そうじゃないかな?」
 彼らがあまり実のない話をして、高尾から帰ろうとすると、背中を向けた十郎坊に大輝少年は──。
「おののことと言い、今回の事と言い、世話になるな。
 おのにも会っていきたいけど使いとしてきてる以上そうもいかないんだ。あいつの事、もうしばらくよろしく頼む。
 俺じゃ力不足かもしれないけど必要ならすぐに駆けつけるから何かあったらすぐに呼んでくれよ」
「おのさんを迎えに来るのは祝言を挙げる時ですか?」
 と剽げた言葉を返すと、烏天狗の本性を露わにした十郎坊は翼を広げて、空へと駆けていった。

 その晩、茜屋宅では、屋根の上にいたクリスのスクロールが遠距離からの狙撃で、大穴を空けられた。
 クリスは即座にムーンアローのスクロールの残骸を捨てると、声をあげながら、ライトロングボウに持ち替える。
 即座に飛び出す友矩とマグナ。
 エリーは掃除の手を休めて、腰に差したワスプレイピアを抜き放つ。
 烈閃は自分が忍者の真似事が出来る事に慢心し、本物の忍者の脅威を甘く見ていた。
 風下に立たされた彼は甘い香りに意識を失い、背中に忍者刀を突き立てられる。
 既に屋根の上の遠距離の包囲網と、路地を縫うように走る、地上の包囲網が完成していた。
 光は淡い褐色の光に包まれながら、大地から一振りの水晶の剣を引き抜くが、春花の術の前に意識を失った。慧少年も倒れ伏すのが視界の隅に見える。
 カイは爆音と同時に零距離の間合いに飛び込んできた黒装束に、不意を打たれる。
 咄嗟に合掌して、聖なる母に祈りを捧げ、黒装束の動きを封じようとするが、術が完成する前に拳がたたき込まれる。
 苦痛に耐えながらも、白い淡い光に包まれかかるが、祈り空しく光は四散した。しかし、そこへクリスが矢を打ち下ろす。
 倒れる黒装束。
「大丈夫ですか?」
「サンクス」
 咄嗟にカイは槍を取って、構えに入る。
「──青き守護者カイ・ローン参る」

『暗殺剣士』マグナはふたつ名に恥じない、常人の想像できる域を遙かに超えた戦いぶりで、黒装束達を斬り伏せていた。
 ターゲットは慧少年だろう、と宅の中を静かなる暴風と化して、走り抜ける。
「峰打ちだ」
 しかし、遠距離からの攻撃が矢ぶすまとマグナを化さんと迫り来る。クリスを数の暴力で沈黙させた、そのまま、余勢を駆って、超人的な剣士であるマグナの動きを封じに入る。
 捌ききれる数には限度がある。
 如何にジャパン最強のファイターと呼ばれるような身と言えども限度があった。
 矢ぶすまとなり倒れ伏す身にカイが己の身を投げ打って、癒しに入る。彼は医者でもあるのだ。
 とはいえ、癒しの技には限度があり、マジックアイテムに頼らざるを得なくなる。
「起きろ光! 茜屋!」
 カイの声に目を覚ます光。
 光は目を覚ますと同時にクリスタルソードを投げ捨てて、詠唱に入る。
 瞬時に練り上げられたそれは、淡い赤い光に身を包ませ、光を炎の鳥へと変じさせた。
 周囲を縫うように駆け抜けていく炎の鳥。火の精霊魔法最大の大技ファイヤーバードである。
 光自身も深手を負いながらも、駿馬に等しい、高速で黒装束達を掃討していった。
 この派手な魔法に周囲も感づいたのか、人の騒ぎが激しくなる。
 黒装束達は機を失い、倒れ伏した数人を置いて退散した。
 とはいうものの、尋問は不調に終わった。
 意識を取り戻した黒装束達は全員、その場で舌を噛み切り、命を絶ったのである。
 死の手に捕られられし者を救い出す術をカイは持ち合わせていなかった。
 ともあれ、慧少年も無事であり、構太刀達に何か介入するヒマはさすがに無かったようである。
 しかし、標的は確実に絞り込まれ、高尾山から帰った一行からもたらされた情報にも明るいものはなかったのだ。
 カイの癒しにより、冒険者一同で後に残る傷を負った者は居ないものの、、結局は古代魔法語に卓越した者がいない限り、この襲撃は続くだろう。おそらくは最終的に構太刀達を奪われるという形で。
 黒装束も資料保全の為に火は用いないだろうが、それは決して明るい情報とは言えない。
 これが仁と智を求められた冒険の顛末である。