星と夜明けを待ちながら【4】

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜17lv

難易度:難しい

成功報酬:8 G 32 C

参加人数:13人

サポート参加人数:7人

冒険期間:07月26日〜08月10日

リプレイ公開日:2006年08月03日

●オープニング

「暗号化された古代魔法語なんて大変ですね、茜屋さん」
 いい加減江戸の冒険者ギルドの受付に顔を覚えられたパラの少年陰陽師、茜屋慧は浮かない顔で。
「はい、それと闘気に自信のある方をお願いします。忍者らしい一団が、襲撃してきましたので、その対処が出来る方でないと」
「定石通りですね。では、護衛要員として、忍者に対処できる面子を、と」
 サラサラと木の板に木炭で要求事項を書き足していくギルドの受付。
「後、細かいことですが、ギルドに残っている資料を自分で読んで吟味できる方をお願いします。他人に聞かれて回っても、その分、作業効率が減りますから」
「承りました──その他には?」
「出来れば、構太刀達に代わって──倭の守護者たらんと、名声や噂だけではなく、精神的にそう志せる方をお願いします」
「承りました。それと冒険者ギルドを通じて、話があったのですが──八王子代官の大久保長安が以前の八王子での事件に関して、子細を聞きたい旨、承っています。今は江戸市内の屋敷に逗留している故、話を聞かれたら逢いに来て欲しいそうです」
「──判りました、近日中に伺うとお伝え下さい」
 慧少年はそう応え、仲介料を渡すと冒険者ギルドを後にした。
 新たな黒子が登場しての冒険が始まる。

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0548 闇目 幻十郎(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4107 ラシュディア・バルトン(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea5970 エリー・エル(44歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6177 ゲレイ・メージ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea7209 ロゼッタ・デ・ヴェルザーヌ(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 eb0939 レヴィン・グリーン(32歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 eb3532 アレーナ・オレアリス(35歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

紅林 三太夫(ea4630)/ 黒畑 緑朗(ea6426)/ 火乃瀬 紅葉(ea8917)/ 李 麟(eb3143)/ 日向 陽照(eb3619)/ スギノヒコ(eb5303)/ 黒淵 緑丸(eb5304

●リプレイ本文

「待ちに待っていた時が来た! 古代魔法語の英知を再び振るう為に、今までの遅れを取り戻すために、茜屋家よ俺は帰ってきた!」
 ラシュディア・バルトン(ea4107)が感慨深げに通りの真ん中で腕組みをしながら風に吹かれていると、沖田光(ea0029)が全力で走り寄ってきて──。、
「よかったー、戻ってきてくれたんですね」
──そのまま、光はラシュディアの手を全力で、万力の如く、ガシッと握りしめる。
「もう逃がしませんよ」
 そのまま光の座った目で宣告される。
「ラシュディアさんがいないのは、皇虎宝団に誘拐されたんじゃないかって説まで飛び出して大変だったんですから。この事件は──」
「いや、細かい顛末はレヴィンと一緒に冒険者ギルドの報告書を読んだ。これは俺の戦い‥‥か」
 と、ラシュディアはレヴィン・グリーン(eb0939)の名前を出す。
「ならば、戦場へとご案内します。必要な本があれば取りますからね、位置ならもう家主よりも詳しい自信があります、中身はからっきしですが‥‥あっ、後で家に入ってから渡しますが、が今まで調べたのをまとめた物もあります。ラシュディアさんがいなかったので、成果らしい成果は上がっていませんが。今はロゼッタさんが解読に当たっていますが、その‥‥ラシュディアさんの様には行かず」
 さすがにエルフであるとはいえ、外見は15才の少女、ロゼッタ・デ・ヴェルザーヌ(ea7209)には些か荷が勝ちすぎたようだ。
「まとめてあるのか? それは危険だ。解読に当たっては、読み解いたものが奪われる危険性を考えてなるべく紙に記録せず頭に叩き込むことにするんだ。紙には記憶の助けになるくらいの最低限の断片的な情報し書き込まない。こうすれば敵は俺やロゼッタを拉致監禁して拷問でもしない限り情報を得ることはできない。早急に処分すべきではないか?」
「──とははいえ、敵に忍者が混じっているならば、自分が役に立つでしょう」
 ふたりが通りの真ん中で押し問答していると静寂の中から押し殺した声が響く。
 闇目幻十郎(ea0548)である。
「幻十郎さん? 仕掛けの方はいいんですか?」
「──この仕事では初の顔合わせだな」
 その声が放たれた方角に顔を向けて、光とラシュディアが言葉を投げかける。
「初歩的な罠を仕掛けている方々がいましたので、後ほど、それを利用しようかと──熱意はありますものの、技術的には未熟な方々故、囮になっていただきます。以前に罠を仕掛けた方々は一々罠を除去していきましたようですので。
──ともあれ、相手が忍びの技に通じるなら、此方はそのさらに裏を行くだけです」
 一方、茜屋宅内では、大宗院鳴(ea1569)が、エリー・エル(ea5970)に向かってにっこりと──。
「大宗院鳴です。はじめましてですね。一緒にがんばりましょう」
──何の嫌味もなく無垢な表情で挨拶する。
「鳴くん、私のことはぁ、お姉ちゃんって呼んでねぇん」
「はて、何でです?」
「‥‥何でも良いのねん、じゃあ構太刀たちの所にいくの☆」
 エリーはそう言うと、鳴を案内がてら構太刀に会いに行き──。
「一姫たち、また、遊びに来たよぉん。どぉ、調子はいいん? あっ、彼女は鳴くんでぇす」
──と構太刀達と世間話を行い、その会話から世の中の常識とかを自分の広く浅い知識から世の中の常識として、何が悪く、何がよいかを知ってもらいたい、というの彼女の意図を理解させるのは難しい事であった。
 宗教、文化に排他的な神聖ローマの出身というだけで十二分に大きな垣根となる上、ましてやエリーはそこの神聖騎士である。
 聖なる母を崇めているものが異教の、それもエレメンタルビーストの構太刀達を、異国の倭の守護者にできないか考える。
 十二分に背徳的な行為であった。
 鳴は鳴で巫女として構太刀達に──
「誰にもそれぞれ役割があり、皆さんにもきっと役割があるんだと思いますよ」
 と、個人的に応援しようとするが──。
 一姫はばっさりと──。
「ならば勝手に思え」
 ──斬り捨てる。
「少なくとも倭の守護者などという役割ではない」
「倭の守護者は天照大神様ではないのですか? 実際に戦うのは建御雷之男神様かもしれませんけど‥‥。
 という事はわたくしは倭の守護者のお手伝いをしていることになりますね」
 と勝手に解釈して納得してしまう。
 と言うように、自分で納得されては、エリーも突っ込みようがない。流石に神聖ローマの流儀を振りかざして──。
『この異教徒が!』
 などとやるのは彼女のスタイルではない。そんなふたりに──。
「どうですか?」
──と家の主、茜屋慧が近づいてくる。
「ねぇ、倭の守護者って何するのぉん? 神様のことじゃないのぉん?」
 エリーは尋ねてみるが、慧少年は首を横に振りながら──。
「知っていれば、当然皆さんにお伝えしていますよ。まさか、家の秘事だから飽かさなかった‥‥なんてオチを期待していた訳ではありませんよね?」
「倭の守護者って天照大神様ですよね?」
 持論を鳴も展開するが、これには慧少年は慎重に沈黙を保った。
「ここにいたでござるか慧殿。さあ、出立の準備は整った。大久保屋敷に囮と先触れを兼ねて参りますので、向こうで落ち合いましょう」
 結城友矩(ea2046)が、カイ・ローン(ea3054)と一緒に近づいてくる。
 カイは普段の青き守護者の異名とは異なった地味な格好をしていた。
「俺は正規の護衛としてついていく。大久保屋敷には──」
「私がフライングブルームでおたくを連れて行く」
 ゲレイ・メージ(ea6177)がパイプを片手に現れた。
「だそうだ。ついでに言えば、倭の守護者は、半分はこの地の血が流れているので、内容次第でなってもいいかな?」
「さあ? 血筋で選ばれているなら、血のない構太刀がそう称されているのは納得が行きませんが‥‥」
「まあ、俺はそういう選択も出来る。そういう決断をした事だけは覚えておいてくれ。『青き守護者』カイ・ローンは約束は必ず守る男だ‥‥」
 庭の方から悲鳴が聞こえてくる。
「いかん、ペットのパイソンに動くものを攻撃するよう指示を出したのだが、トラップを仕掛けた連中にも襲いかかったか!?」
 カイがうろたえる中、小柄な影──パラの忍者、三太夫──を従え、友矩は慧少年に一礼すると、愛馬の鞍前に三太夫を乗せ、自らの言った事を実現すべく、大久保長安の屋敷目がけて茜屋宅を飛びだしていく。
「さて、少し時間を置いていくか──少し命令に忠実すぎるパイソンに指示を出し直してくるから少し待っていてくれ」
 と、カイがその場を辞した時、アレーナ・オレアリス(eb3532)が、付け毛をして、みずらに髪を結った日向大輝(ea3597)を伴って現れる。
「皆さんごきげんよう! 聖母の白薔薇のアレーナ・オレアリスだ。故あってご助勢いたします。どうぞ、よろしく!」
 と、アレーナが勇ましげに挨拶をすれば、大輝少年は──。
「まあ、人相はともかく──背格好は似て居るんだ。しばらくの間、身代わりを務めさせてもらう」
──と、提案する。受諾する慧少年。
 大輝少年と慧少年、両者共に未成熟な印象を与える互いにやや細身の身体つきであり、大輝少年の自尊心が打ち砕かれずにすんだのは、自身の身の丈の方がやや慧少年より勝っていた事であった。
 とはいえ──。
(それにしても年下、しかもパラの狩衣がぴったりか‥‥)
──等と微妙なポイントに拘るのはお年頃だからであろう。
 慧少年自身も、大輝少年の愛刀である小太刀をのぞき、衣装を取り替え、髪型を首の後ろで結っただけのシンプルなものに変える。
「では、行くとするか──」
 ゲレイがフライングブルームの後ろに慧少年に乗るように促す。
「待て、俺はどうすればいいんだ──やっぱり、大凧か?」
 カイが自己矛盾をケース・バイ・ケースで解決すると、ゲレイが慎重に飛び出す。
 しかし、フライングブルームはふたり乗りではなく、バランスをあっという間に崩す。「ふむ、無理そうだな? これでは別の意味でカイの──おっと、ふたつ名を隠している以上、この言葉も口にしない方が良さそうだな──お世話になりそうだ」
「地道に行こう。どうせ、先行している友矩達が露払いをしてくれるだろうし」
「では、留守番を受け持ちで。どういう戦法をとるかは、冒険者ギルドに置いてきた備忘帖に書いたきりで覚えていませんが──」
 と、山本建一(ea3891)は一同を見送る。
 アレーナは慧少年とグレイが八王子代官の大久保長安殿の屋敷に行かれるという事と聞き及び。
 グレイには悪魔が近づくと反応する魔法の指輪『石の中の蝶』を預ける。そして、慧少年には『呼子笛』を渡して──。
「万が一君の身に危険が迫ったのならば笛を吹いて知らせてくれ」
──と約束して渡す。
 しかし、同時にアレーナは大久保屋敷に突入して、慧少年を救出にフライングブルームで突入という作戦が見込みが甘い事を思い知らされた。
 ラシュディアは全力で風の精霊魔法を行使し、緑色の淡い光に包まれて、広範囲の呼吸する存在の位置を手に取るように把握する。
「しまった、広範囲過ぎて、怪しげな存在がいても伝える術がない──」
 動かない成年男性らしきものを確認しようとしても、この夏の暑さである。単に涼んでいるという可能性や、家屋の中にいるという可能性も捨てきれないのだ。
「だから、ジャパンの夏は──」
 意識を凝らし続けるラシュディア。フォローし続けるのが彼の役目であった。
 一方、しばらくして、後衛の慧少年達一行と、友矩らは豪勢な屋敷の前で合流した。
 大久保邸である。
 金はかかっているが、嫌みではなく。
 重々しいが、圧迫感を感じさせず。
 古式を無視しているが、流行に流されてはいない。
「やはり、家は人柄を現しているのでしょうか?」
 慧少年の問いかけに誰も応えられず、門番に誰何される。
「失礼だが、風体の怪しさ故、この場より立ち去っていただきたい」
「拙者は結城友矩と申す、見ての通りの冒険者でござる。此度は、この様な格好でお会いするご無礼をお許しください。先日茜屋宅が忍者集団に襲われたばかりで襲撃を警戒しての事でござる。大久保殿の召喚に応えた次第にて、お取り次ぎを願いたい」
「僕は陰陽師の茜屋慧です。長安様のお声掛かりでここに参りました。どうか門をお開け頂きたい」
「──しばし、待たれよ」
 6分程待たされると、門扉の向こうから声がする。
「今より“すくろーる”にて試させて頂く。むーんあろーを茜屋慧に対象として、撃ち放つ故、本物ならば抵抗なり、逃走して頂きたい。偽物なら相応の覚悟をされたし」
 門扉の向こうから淡い銀色の光が漏れると、門を貫通して一本の光の矢が飛んできた。 突き刺さるものの、耐える慧少年。
「大丈夫だ。傷は浅いぞ」
 傷ついた者を目の当たりにして、医者としての自分自身が、カイをして聖なる母に祈りを捧げさせる。白く淡い光に包まれたカイの力が慧少年の傷を癒す。
 無論、十字架を手に巻き付けただけで術の成就がされる訳ではない。カイは十字架をしっかりと握り締める。
「失礼──本物でござったか。では、門を開けて、僧侶を‥‥」
 扉が開いていくが、ゲレイがリカバーは無用と、断りを入れる。
「おたくら何考えているの? 相手は子供でパラだっていうのに、体力ないって?」
「これまで5人の『茜屋慧』が長安様に面会に来た。それを踏まえての事だ。お許しあれ」
「何と、そこまで──」
 友矩が息を吐き出す。

 そして、奥へと通される一同。友矩も仮面を外すよう、要求されて、それに応じる。
 通された広間はノルマン風の意匠が凝らされていた。
 10人ばかりの洋装の美女を侍らせて、畏怖堂々たるロマンスグレイの壮年の男が皆を出迎えた。
 今までの所、ゲレイの借りている“石の蝶”には反応はない。
「呼び立ててすまない。俺が大久保長安だ。皆の者、下がれい」
 手を打つと、それまで侍っていた美女達が一斉に下がっていく。
「初めまして、拙者は結城友矩と申す、見ての通りの冒険者でござる。此度は、この様な格好でお会いするご無礼をお許しください。先日茜屋宅が忍者集団に襲われたばかりで襲撃を警戒しての事でござる」
「冒険者というより“あるるかん”だな?」
「あるるかん?」
「ゲルマン語で道化という意味だな?」
 ゲレイがさらりと蘊蓄を垂れる。
 それに大久保は笑って。
「ジャパン人が異国人を装い、異国人がジャパン人を装っているのだ滑稽としか言い様がないではないか。では、茜屋殿。これより八王子での出来事に関して、幾つか問いただしたい事がある」
「知る限りの事はお答え致しますが、構太刀に絡んだ件に関しては、ただいま調査中故、お答えできる範囲も限られます。どうかご寛恕を」
「そなたは構太刀をどうする気だ?」
「願わくば、人と関わり合いに成らぬ地に、契約を解いて、放ちとうございます」
「大山伯耆坊と白虎が何を封じておるか、知っているか?」
「天狗達に縁のある者を通じても確たる返事は返ってきません。板東武者と冒険者を総動員しても太刀打ちできぬ“何か”であるとしか──」
「で、その何かに相対する『倭の守護者』は見いだせたか?」
「構太刀達がその任に充てられるようでしたが、彼らが拒否した故、その地位は空白のままで‥‥」
 その慧の言葉を受けてカイは立ち上がり。
「俺がその任に就きたい、と申し出たが、判らぬ故、と繰り延べされた──」
「そうか、出ておらぬか」
 長安はこめかみを揉んだ。
「八王子に怪鳥を乗り付けた事は不問に伏そう──ともあれ、天狗達の本当の意図は判っていないのだな。そうか、大儀であった」
 宣する長安に対し、友矩は──。
「不躾ですが大久保殿、八王子近辺で暗躍する皇虎宝団なる集団について御存知だろうか? 高尾山の天狗の話では、背後でデビルの影がチラつく怪しい集団でござる。先程も少しお話ししましたが、先日茜屋宅が皇虎宝団配下と見られる忍者集団に襲われたばかりでござる」
「皇虎宝団か? あれはデビル達の結社だ」
「何と?」
 一同は半歩前に出る。
「デビル達が、人生の裏街道を歩む者達を、その場その場で雇って、動かしているにすぎん。少なくとも私はそう確信している。故に下っ端は無尽蔵に現れ、動かす上の者も末端の連絡員程度しか知らぬのであろう」
「その様な危険な集団を野放しにして良いのでござるか」
 友矩が更に前に出る。
「いや、情報を集めようと、冒険者ギルドに斡旋を依頼したが、人が集まらず、危険故と断られた」
「ううむ、では、この事件、見かけ以上に奥が深い。是非とも、大久保殿のご助力をお願いしたい」
 おとがいに手を当てて、友矩が唸る。その言葉に対し、長安は──。
「何を望む? ともあれ、大天狗とは手を切った方が良い。あれも皇虎宝団に囚われている」
──一層の波紋を投げかける。
「では、何を信じろ、と?」
 慧少年の言葉に長安は笑いながら──。
「いきなり、唐突な話をした私を信じろとは言わん。しかし、天狗は皇虎宝団に弱みを握られている──何故なら、大山伯耆坊は転生の贄を彼らに奪われているのだからな」
「さっぱり、話が見えないけど、おたく何言っているの?」
 ゲレイの言葉を押し返すように、長安は掌を向けると切り出す。
「天狗、事に俗に十大天狗と呼ばれるような大天狗に限って言えば、ジャパンにしかいない異形のオーガだ。
 ただし、男しかいない。
 女の大天狗の話を聞いた事があるか? すくなくとも私にはない。
 しかし、それでも大天狗は何百年という寿命を持っている。とはいえ、寿命とは尽きる物、無限大ではない。
 並のオーガが生きる畜生道とは違う、天狗道に生きる彼らが次世代を如何にして育むか、それは自らの分身を創り出し、それに己自身の人格を転移させる。
 その分身を創るにはどうするか? 山を降りて、女を抱き精を注ぐ事で成立するのだよ。そして、十月十日を経て産みおとされた子供は天狗の新たな肉体となる為、だけの生を送る。
 そして、器が成人すると、その目前で天狗は自ら命を絶ち、己の全てを──記憶、経験、魔力、それらを文字通り全てだ──自らの子供に注ぎ込む。その子供の人格を全否定する事によってのみ、己の存在を絶やさぬのだよ。
 今、私の手元にある情報では、大山伯耆坊の息子というべきか、次の人格の器は皇虎宝団側が握っているという。
 今度、小天狗にあったら、この話の真偽を聞いてみたまえ。その時の反応で、事の真偽が判る筈だ。
 今、大山伯耆坊は転生すべき時に入っている。にも関わらず、次の肉体は手元にない。
 故に年老いすぎて、構太刀の真名を思い出せぬ上。封印のサポートに入っている白乃彦まで動けないという、イレギュラーな事態に陥っている
 そこでこちらが出せる助力に関しては生憎だが、冒険者ギルドや酒場で散見する様な、古代魔法語の達者を望む、という要求には応じられない。居ればそちらの方に送っている。
 しかし、私には多少の金とコネとがある。また、八王子代官として、八王子ならば武力を振るう事も出来よう。だが、いかなる形の助力を与えるかは、そこまでは押しつけはしない。もちろん、皇虎宝団の本拠や、次に襲ってくる忍者の対策などは判らないがね」

 そして、夜の中、一同は茜屋宅から放たれる数条の雷と、の上を舞う、一筋の流れ星、いや火の鳥を目にする。
「あれは光さん?」
 周囲を包囲されているが、新手と見るや、人影は散開していく。
「あの雷撃はラシュディア殿か?」
 友矩が呻くが、慧少年らの合流により完全に攻撃の手は絶え、光も地上に降りたらしい。
 幻十郎のトラップと、張り巡らされた糸と鈴による結界の為、敵の侵入は早期に感知でき、数では押されたものの敵忍者の侵入は許しはしなかった。
 しかし、逃げに特化し、情報を掴ませない事を旨としている忍者は捕まえがたい。引き際を心得ており、深手を負って、捕まりそうな仲間には情け容赦なく、毒手裏剣を浴びせるような外道な輩である。
 解毒の術を持ったカイが居れば、いくらかの情報を得られたかも知れないが、奉行所に引き渡されるのは忍者の死骸のみ。
 無論、身元や所属の判る様なものは所持していない。
 遠距離から敵を制していたラシュディアも気がつくと、ソルフの実をふたつも囓っていた。
 忍者に紛れてデビルも居たかもしれないが、それを確認できる術を持っていたエリーが常にデビルに備えると称して、彼女の神聖魔法の力量では10秒しか持たないデティクトアンデットを乱射しまくり、戦いになる以前に魔力の切れていたので、デビルの有無を知る術がなかった。
「失敗、失敗なのねん」
「お姉さん、それで事をすませますか?」
 と鳴が尋ねたところで、彼女の腹が鳴り──。
「あっ、緊張が解けたらお腹がすいてしまいました」
 と笑顔になる。
 ともあれ、次の襲撃に備えて大輝少年の主導のもと、参照されない資料は纏めて櫃に修められ、手近な岩で重しとして、そう簡単に忍者と言えども持ち出せない様にし、手元に残った幾部かの資料を基に、ラシュディアとロゼッタが解読に励む。鳴が解読された暗号を読み解こうとするが、冠婚葬祭では如何ともし難く、逆に自分の持っている雑学を再確認する事になった。
 鳴が確認できた情報は数字である。年代は書物を見れば判りそうなものだが、これで単なる記録──おそらくは請け負った殺人の年月日と報酬などが記されているのだろう──が判別でき、判別はよりスムーズになった。
 更にラシュディアにより、ようやく六大精霊全ての語彙が判明し、そこから芋づる式に風神、長津彦の名前も引き摺り出された。
「長津彦──2の──力? 神格? 無理矢理? 強引? 力任せ? 風の力。叛逆の? 荒ぶる? 怒れる──竜──封じる? 押さえる? 閉じこめる? 倭の守護者──鍛える? 造りあげる? 練り上げる?──3なる──。
 ここで終わり?
 もう少しで迫れそうだというのに!? 肝心の真名に関しては触れられていない、まだ別の竹簡にあるというのか?」
 ゲレイがようやく迫れたというのに、依頼期間はタイムアップである。
「さぁ、次もがんばろうぉん!」
 とエリーがタイムアップ際に皆を励ますが、星と夜明けを待っていたのはここまでである。
──続く話は『夜明け前の冷たい星』の段で語られるだろう。
 まだ、黒子は姿を見せない。
 これが冒険の顛末である。