●リプレイ本文
「もう沖ノ鳥島か」
ゲレイ・メージ(ea6177)がパイプを加えつつ、水平線の彼方にせり上がってきた小島を見やる。
「退屈な船旅だった。しかし、むさい男どもと居るよりは美人と話しでもしている方が良い。伊織と茶でも飲めて良かった。愛猫も伊織が可愛がってくれて良かった。女性と話すときは便利なのだよ」
と、デュラン・ハイアット(ea0042)のあけすけな言葉に伊織の護衛役の山本建一(ea3891)の緊張も緩む。
「それはどうも」
と返す伊織。
「さて、ひとつ聞いておきたい。他に道灌が封じたものは何処にあるかご存知か?」
「冒険者ギルドの話だと西は高尾山らしいというのが見当がつく程度ですな」
「そうか──現物を見ておきたかったのだが」
仮眠を取っていたヴィグ・カノス(ea0294)は船内の悪魔探索を前回同様に行ったが、成果なし。
しかし、むっくりと起きあがり。
「前回はどうもなかったからと言っても、警戒は最後までしっかりやらねばな」
と、島に着く前に最後の確認を行う。
(さて‥‥それにしても今回ばかりは何が起きるか予測もつけられませんね。
結局デビルの動きも狙いも掴む事はできませんでしたし。
鳳凰、デビル、あるいは伊織さん達。
何と戦う事になろうと動じない心構えだけはしておきましょう)
決意を固めるシクル・ザーン(ea2350)。
(特に養子はいない──か)
南天輝(ea2557)は代替わりしたメンバーの中で、養子などの外部の思想を持って入れそうな人物がいないか? 伊織、六郎を中心としたメンバーから聞いていたが、特筆すべき人物がいない事を確認できたのみであった。
「京の地で誤解されないよう同志を募られたのは、さぞ大変だったでしょう」
一方、ジィ・ジ(ea3484)は不死鳥経典の方々(蜂助含む)と前祝の酒を交わしつつ歓談。
彼らと同様、火の精霊魔法を使う者の一人の興味として経典発足や各人の参加の経緯を訪ねる。
全体の傾向としては、瑞獣である鳳凰を京の都に安置して、神皇の万歳を祈願するというものであったが、それが鳳凰が四神相応に巻き込まれた事でそれを解放しようという団体になった事と(少なくとも表面上は)聞かされた。
経典の教義(翠蘭に渡された巻物)と内容や祀りの儀式についても踏み込む。
「あの巻物に記された教義を御覧になって、御参加なされたので?」
「いや、あの巻物は伊織様の家に伝わる秘伝。多分、何かの秘法が示されているかと?」 と十二人衆のひとり、宝丸。
まだ、十代の若さだ。
「そうですか、感謝の極みでございます」
イグニス・ヴァリアント(ea4202)は下船準備を整える伊織に対して問いかける。
「依然翠蘭に渡した秘伝書のことなんだが。内容はどういったものなんだ? 細々した規則があったりするのか」
「秘伝です故、教えられませぬ」
「まあ、そういう返答もあるかと考えていた」
会話が一区切りついた所で、マグナ・アドミラル(ea4868)は──。
「翠蘭様が、温厚な方で良かった、我らの都合で島に封じられたのに、あのように穏やかに対応されるとは、感謝してもし切れぬな」
「全くです。いかなる怒りを受けても、仕方ない所を──」
「とはいえデビルめの動きが気になる、最後まで全身全霊を持って依頼に望もうぞ。
不利になる仔細は伏せるが、島と教団、翠蘭様の安全性については、責任を持って証言致す」
「多分、その様な事にはならぬでしょうがね」
船が沖ノ鳥島に着くと、クリス・ウェルロッド(ea5708)の視界内から、慌てた様に一つ眼巨人達が逃げ出していく。
後ろを向くと、マグナが斬馬刀を片手で構え、翳していた。
クリスもその迫力に。
「どうやら、恐怖というものを覚えたようですね?」
そして、中空から無傷の鳳凰──翠蘭──が出迎えに訪れる。
一晩休んで魔力を回復させれば、傷を治す事など造作もない、と伊織が解説する。
ジィ自身は個人的には伊織たちより先に翠蘭に会い、前回渡された巻物の内容を尋ねるのが目的であったが、向こうから出迎えに来てはタイミングを逸してしまった。
仕方なく、後ろでこっそりとテレパシーのスクロールを取り出し、銀色の淡い光に包まれながら、魔法を発動させる。
(失礼ながら、お尋ねしたい。あの伊織殿より、受け取りし巻物の内容は?)
(精霊力の有り様について書いてあったが?)
(チャームの力などは封じられていなかったでしょうか?)
(我は精霊牌言語は読めぬ。それより──)
翠蘭は伊織を捜し求める。
「伊織、伊織はおらぬか?」
「ここにおります、翠蘭様!」
「待っておったぞ、一日千秋の想いでな」
氷雨絃也(ea4481)曰く。
「偉く惚れられたものだな」
苦笑いするカイザード・フォーリア(ea3693)。
「だが、女同士だ。異種族だし、害はないだろう」
シグルか翠蘭の無事な姿を見て──。
「私の初級ニュートラルマジックで通じる自信はなかったのですが、解呪できてしまいましたね。
太田道灌という陰陽師には志士の知り合いがおらず、初級スクロールで石化したということでしょうか」
と、呟く。
おそらく正解なのだろう。
デュランが空中から偵察。変わった点は翠蘭が居なくなった山頂のみ。
先住者との邂逅が果たされた後、船から宴の道具が運び出され、輝が差し掛けた日よけ傘の下、伊織は下船する。
不死鳥経典の皆も、それぞれに礼装していた。
宴もたけなわの時。カイザードは宴の席で解説を始める。
以前、大火が起きて旱神やダンディドッグが現れた事。
江戸城地下に居たイフリーテ。しかも、そこには月道があった事。
九尾の狐が竜脈を乱そうとしており、富士山周辺のヤマタノオロチとの関りがあった話。
「九尾の狐とは物騒な‥‥」
伊織が言葉を漏らせば──翠蘭が応える。
「伊織、伊織が恐れる事はない、いざとなればこの身を火の鳥と変えてでも、戦いに赴こうぞ」
咳払いするカイザード。
彼はそういう話のみではなく、手にしたレインボーリボンを見つつ、欧州での平和な依頼の話等や、彼の聞いた噂話から考察できる範囲の政治話等も交える。
「人から得られる情報と、貴女の様な精霊が要する情報が同じとは思えない。‥‥他の精霊の方達を御知りならば、情報交換に赴かれる事をお勧めする」
いや、それは困るとアドミラル。
「長きの封印により、ここら一体の土地は、翠蘭様のお力で、地脈が安定しております、今翠蘭様が離れれば、ここら一体の土地のバランスが崩れ、関係の無い人だけで無く、動植物まで影響を受けます。
何卒この地に留まり下さい」
「困ったのう」
デュランがそこに問いかける。
「伊織にも聞いたが、他に道灌が封じたものは何処にあるかご存知か?」
いや、存ぜぬ、と翠蘭。
と、ヴィグは島を調べる許可を得る。
「まあ、色々と調べてみるとしようか‥‥一つ眼巨人達には逃げられたが」
苦笑を浮かべるヴィグ。
「俺は南天輝だ、一つ聞いていいか? 人と感覚は違うかもしれないが俺と友達にならないか? 封印した者と違うだろうと言った器の大きさが気に入ったんだ。抜けた羽でもいいが貰えるかな俺の宝にしてライツにも鳳凰の力を与えたい。
とりあえず現在を知って貰うのに未熟だが音を楽しんで貰うか、西洋と和楽をな」
輝がリュートベイルを取り出し、絃を爪弾く。
「友となるは構わぬが、お主等のいう通り、霊力を左右する力が我が持つとすれば、その力をみだりに与える訳にはいかぬな」
「じゃあ、そういう事で。力に拘泥していては大成は出来ないさ」
デュランの観察の報告で、山肌に刻まれた精霊牌文字以外に特別魔法的なものは判らず。また、翠蘭自身も石化されてからこの沖ノ鳥島に連れてこられたらしく、島と本土の位置関係は判然とはしていなかった。
それでも翠蘭を土地神として祀り上げる為の儀礼は続く。
最後に大樽から酒が一尺の大杯に満たされ、翠蘭が飲み干す事で、不死鳥経典を氏子とする儀礼となる。
そこでジィが待ったをかける。
最後の確認としてムーンアローの使用を申し出たのだ。
「魔法で翠蘭様がお怒りになる内容を、翠蘭様に思い込ませようととしている者」
銀色の淡い光に包まれ、光の矢が迷走した挙げ句、己を突き刺す。
もっとも防具で無傷に終わったが。
「祀りの場を汚してしまい、恐悦でございます」
翠蘭はちびちびと酒を飲み、契りは固められた。別に魔法的な意味合いはないが、儀礼的な意味でのつながりは出来たのだ。
島から帰って絃也は伊織に忠告する。
「ふむ、どうにも腑に落ちん。デビルの件と皇虎宝団が繋がっているとは考えたくないが、かの団の羨望が嫉妬へとなり動く可能性も否定できん、警戒して損はなかろう。あと道は踏み外すなよ」
「我が道は翠蘭様と行く道、我らが踏み誤っても翠蘭様が善導してくださるでしょう」
しかし、帰ると南町奉行所から、召喚状が来ていた。あやかしの災いを企てた容疑によって話し合いをしたいと。
「その様な事はないと証立てて来ましょう、万が一の時は翠蘭様によしなに」
伊織はそう言って、引っ立てられていった。
「絃也殿。これで我が道が人道に外れているか、否か、確かめられるでしょう」
不死鳥経典としても、事を荒立てるつもりはないが、この対応には参ったようであった。
これが不死鳥を巡る冒険の江戸での顛末である。