●リプレイ本文
不死鳥経典の根拠地たる伊織の屋敷にて──。
「鳳凰を奉る教団。封じられてた鳳凰。デビルとか言うモンスターの暗躍か‥‥こういう敵が表に出てこない依頼はやりにくいったら無いぜ。にしても奉行所も早々に手を回したもんだな、まあ、鳳凰なんて代物の封印が解けたんだから警戒するのは当然だろうが、翠蘭は聞けば話のわかる相手な様だし、下手に刺激はして欲しく無いもんだがね」
最近、仲間に加わった龍深城我斬(ea0031)は話の外枠を纏めていく内に、途中から半ばぼやきに変わっていった。
「伊織の潔白‥‥翠蘭さまのことを考えると何とかしないと厳しいですね。
伊織に面会できるといいのですが‥‥。
変な疑いをもたれて証拠なしにやられると厄介ですし」
とりあえず、情報を集めて潔白だということを用意するしかないですね」
山本建一(ea3891)は頭を掻く。
健一の言葉に対し、デュラン・ハイアット(ea0042)は──。
「そうだな。伊織が前回の渡航に我々を同行させたのもこの様な事態も想定し、翠蘭の安全性を名のある冒険者に証明させようとするのが主目的であった筈だ。
まあ、教団が如何なろうと私の知ったことでは無いが‥‥伊織の為だ、協力してやる。奉行所に真実を伝えるのが大事だが、ただ我々が行ったところで話は聞いて貰えまい」
と傲岸不遜に言い放つ。
イグニス・ヴァリアント(ea4202)は首を捻りつつ。
「むぅ‥‥伊織は奉行所に連行されてしまったか‥‥。
このことが俺達に‥‥江戸の町に何をもたらすのか。
まぁ、可能な限り穏便に済むようしたいよな。その為に俺たちは動くわけだ。
まずは、奉行所が伊織を連行した理由・罪状か‥‥? の詳細を確認すべきだな」
と意見を求めるが、立ち上がっては──。
「ならば、俺は奉行所の近くに住んでいる者に聞き込みをして、伊織が連行される前後で奉行所が何か変わった様子を調べる事としよう
つまり、伊織から直接話を訊くのは皆に任せて、俺は別方面からの情報収集をやるという事だ‥・・」
ヴィグ・カノス(ea0294)はそそくさとその場を立ち去る。
続けてクリス・ウェルロッド(ea5708)は、不死鳥経典の六郎からスクロールの貸し出しを受けて(報酬の前借りというやつである)奉行所に向かう。
「さて、私は誰が情報を洩らしたのかを探るとしますかね‥‥」
華のような、かんばせを揺らしながら、奉行所近くに向かっていく。
「伊織殿を助け、教団の汚名を晴らさねば、翠蘭様に申し訳が立たぬ、必ずや無実を晴らしてくれようぞ。
翠蘭様の復活が為され、事が漏れた以上、奉行所には、若干の事実を話す事を相談をいたす。
沖ノ鳥島の場所と、翠蘭様の事を明かす事を提案いたす」
マグナ・アドミラル(ea4868)の言葉に、不死鳥経典と残った冒険者達の間に波紋が広がる。
その言葉に、真っ向から受けて立つは南天輝(ea2557)。
「丁度、六兵衛に残りの者が翠蘭にこの状況を伝えるのを止めるように頼む所だった。知らねば翠欄が結界壊して江戸に来る事はないからな。
敵が事を起こすのであれば、結界壊しに伊織の事を伝えに島に向うだろう。翠蘭も心乱れれば敵の罠にはまる。俺は友を無くしたくない、だから、断る」
「しかし、知らせねば──奉行所の信頼は得られぬ」
「生憎と浪人者の俺は、そこまで奉行所を信頼していないんでね。六郎、頼んだ」
六郎はしばし、腕を組んで悩んだ後。
「いや、教団としては、真実以上の武器は無いと思われます。ここは奉行所に真実を明かしましょう」
「ああ、そうかい。だが、俺は俺で翠蘭のダチとして、やるべき事をやらせてもらう」
言って輝は、伊織の居る奉行所に向う。
日頃は礼儀など嫌いだが、伊織を取り返す為に一張羅の礼服を着込む。
カイザード・フォーリア(ea3693)はデュランと共に、氷雨絃也(ea4481)を伴って、女牢を目指す。
カイザードは手慣れた印象で口入れ屋に賄賂の相場を聞くと、伊織のいる奉行所に、着替えを届けに参りましたと尋ねる。
まずはデュランが門番に伊織を担当している与力の名前を尋ね──。
「私どもの話だけでも聞いて頂きたいと思いまして」
と、軽く1両握らせる。やましい事など無いのだから謝礼のつもりで渡すのがデュランのポイント。
「ああ、矢部さまだな。あ、矢部さま、丁度お帰りで?」
と、筋骨逞しい武士が出てくるのにデュランは目敏く──。
「矢部様ですね。不死鳥教典の件で大事な情報があるのですが」
雰囲気を出す為に人気の無い所へ。小料理屋に。。
「実はこの度の不死鳥教典の取調べにおいて、我々、島に同行した冒険者を参考人としてお呼び下さい」
ここは、デュランが30両包み、袖の下として渡す。
別に伊織を即解放しろなどと無茶を言っているわけではなく。
「無論、我々にやましいところなど御座いません。何卒、御奉行様にでも直接話を聞いて頂ける機会をお与え下さい」
「良かろう。どちらにしろ、伊織の申し立てで部外者として同席したそなた達も呼ぶ予定はあった。そちらから来てくれるなら手間は省けるというもの」
「そうですか、それは結構で御座いました」
一方、カイザードは、輝と絃也を引き連れ、女牢の前で──。
「つまらない物ですが皆様で」
お世話になっているので是非と、菓子折りを着替えと共に渡す。
この冬、万単位で餓死者が出た現状の江戸では、甘物は貴重な品。更にカイザードは贈答向けの上物を選んでいたのだ。
「失礼する、俺は教典と共に鳳凰に会ってきた者だ。伊織だけを拘束するのも変だろう? 俺も付き合おう聞く対象が多いほうがいいだろ、伊織に怪我をさせるなよ。気に入ってるんだからな」
「いや、お武家さまは直接の関係ある身でなし、宗派を作らぬうろんさ故、町方奉行の扱いになっていますが、お武家さまの担当はまた違う故。決して同じ牢には入れませんぞ。それに男と女を同じ牢に入れる訳がないのは道理としても判るでしょう」
「無理が通れば、道理が引っ込む──と言いたい所だが、そこまで傾(かぶ)いて門前払いを払うのもカイザードの面子を潰す。だが‥‥何かあれば見ていろよ」
等と会話を交わしつつも、通された伊織の牢は座敷牢の様であった。有象無象といっしょくたにされている訳ではない。
「息災の様だな──伊織」
絃也が声をかける。
若干窶れてはいるものの、拷問などを受けた様子はなかった。
「幾つか訪ねたい事がある」
切り出す絃也。
「まずは虎の所在地についての情報だ」
「我らと同じように、城など構えず、状況状況毎に仕事をやるものを雇用するというシステムかもしれません。噂だけですが」
「そうか。では、本体はさほどの大集団ではなかろう、という事か? では、縛についてからの尋問などで特に何を聞かれたか?」
「主に金の流れと、情報の流れですね。特に皆さんの様な、凄腕の冒険者を破格の待遇で雇った金はどこから出たのか。四神相応に挑むなどという大それた展望は誰から吹き込まれたのか、などと」
「まあ、確かに気にする情報だろうな‥‥縛中に小耳にはさんだ情報は何かないか?」
「一度、変わった事がありまして。岡っ引きらしい者がひとり面通しを行って、本当にこの女が鳳凰を復活させて、江戸の転覆を企んだ、というのか? と与力の方が、その岡っ引きらしい方に確認をして──まあ、私が翠蘭さま復活の行為を行ったの顛末を話し終えた後、その岡っ引きが私の事を与力に申し出た筈だが、そんな話はしていない。話はおかしいではないか? しかし、私の言っている事も、その岡っ引きが先に言っている事と矛盾していない──」
「まて、伊織。それはこの事件そのものが、デビルが忍者の仕業ではないか? デビルは良く人に化け、人心を惑わし。忍者は人遁の術を用いて、欺道を良くするという。それに気づけば‥‥やはり、虎か──」
言って絃也は伊織に視線を合わせ──‥‥。
「お前さんの無実を証明するため皆が動いている。なんせお前さんは──失う訳にはいかん、大切な女子だからな」
と語っていた。
その頃、ヴィグとクリスは、隠れて放った己のムーンアローに手傷を負っていた。
単純に言えば、クリスは対象が多すぎ(近くに居たシクル・ザーン(ea2350)なども悪魔と戦った事があり、十分に関わったと言える。伊織もペットとして飼っていた犬が実はデビルという事で十分に関わる範疇に入っている)。ヴィグの方が放ったムーンアローは、デビルまたデビルに通じるものという条件を満たした存在が無し、あるいは複数居た事を示すだけである。 結局は魔力の無駄遣いという結果に終わったようだ。
「と、いうより自分がそこまでメジャーかどうか、というのが不思議な点ではあったりするわけだ」
ゲレイ・メージ(ea6177)が伝手を辿って探し当てた最も高名な専門家は、というとノルマン出身の赤毛の巨大昆虫学者キャプテン・ファーブルこと『シャルル・ファーブル』であった。
ノルマンの破滅の魔法陣関係でシクル少年も旧知の、この変人‥‥もとい巨大昆虫学者は、夏頃また江戸で何かをやらかす予定らしい。
もっとも、ジャパン語でのコミュニケーション能力に於いては、ゲレイの方が二枚も三枚も上手を取っているが。
「まあ、フェニックスに関しては、まんざら知らない訳ではないけれど。数百年に1度、炎の中で転生する位しか変わった生態を持たない──十分に変わっていると言えば、言えるけど──クリーチャーだからね。性格、まあ、人と会ったらまずコミュニケーションか逃走だね。もっとも、それを許さない様な、厳しい態度で刺激すれば激しい戦いにはなったりするだろうね」
ゲレイは確認の為に、自説を披露する。
「鳳凰は、大火の時に出たダンディドッグを上回る強力なモンスターですが、あの翠蘭という名の鳳凰は、伊織とは友好的で 大人しくしております。こちらから攻撃でもしない限り、危険はないでしょう──という所で発表したいものだが、不審な点がありますか?」
「まあ、ダンディドッグね、懐かしい名前を聞く。和名は『妖犬』ではないかね? まあ、そんな些末事は除けておいて、伊織女史との関係は自分は実際に見たわけではないから、断言は出来ないが、一般的に高位のクリーチャー程人とは一線を隠したがる傾向にあるからね。伊織との関係以外は見た通りだよ」
「それは証言できますね? お白州でも」
ゲレイが確認を取り、がっちり握手してキャプテン・ファーブルはそれに応えた。
「さて、高尾山で何かやっているらしき『皇虎宝団』と、太田道灌がなぜ鳳凰を封じたのかについて、詳しく調べるとするか」
「そういえば、不死鳥教典とデビルとの関わりを怪しむばかり、『皇虎宝団』の事を忘れてました。
あちらは不死鳥教典と違って天狗や修験者相手に実力行使をした者達。
疑うべきはむしろ皇虎宝団の方だったかも知れません。
『皇虎宝団』は忍者を使ったと聞きます。
ジャパンは群雄割拠の時代。
どこかの勢力が江戸に災厄をもたらすために四神相応を乱すため、あるいは『皇虎宝団』を支援して、白虎を解放しようとし、あるいは不死鳥教典を邪魔して、江戸に大火を再び、などと考えていても不思議ではないですね」
「実に鋭い推理だよシクル君。四神相応ね。
太田道灌という所で、私の探究は突き当たってしまうんだよ。
100年前に江戸を守護すべく立てられた、四神相応の朱雀の見立てとして鳳凰を置いた訳か。
しかし、守護すべき都市の四方に、陰陽五行に相応したクリーチャー、あるいはそれに見立てた地形を置けば発展するとは、また変わった崇拝だな。
しかし、私の知識では到底理解出来ないクリーチャーか、それに釣り合う何かを4体も置いたのだから、太田道灌というのは大した力の持ち主だ」
ひとりゲレイはうなずく。
そこへ絃也が現れ──。
「また、懐かしい顔を‥‥キャプテン?」
「おっと、懐古は後にした方がいいのではないかね? どうやら、皇虎宝団に関して、シクル少年が何かインスピレーションを抱いたようだよ」
キャプテン・ファーブルは掌を突き出して絃也の言を封じる。
「皇虎宝団は西の方らしい、伊織はそう言っていた。来るか? シクル、ゲレイ」
「とは言っても、知識の探求とは違って、これだけの人数でいくのも危険でしょう」
ゲレイが慎重に切り出す。
「とりあえず、高尾近辺の情報の洗い直しが先決でしょう──お白州に間に合うかは別として」
「そうだな」
「では、私は失礼するとするよ。何かお役に立てそうな事があったら呼んでくれたまえ。もちろん、鳳凰の事に関しては証言させてもらったりするよ」
キャプテン・ファーブルは言って立ち去っていった。
我斬は、伊織達の事を町の人はどう見てたか聞き込んでみたが、教団としての活動内容等は伏せておいてである。
評価としては、上方から来た、何をやっているか良く判らない集団で一括りされてしまった。
「うーむ、そういうものか」
一方、ヴィグは言動が一致しなかったという岡っ引きに会って、彼が伊織について上に申告した当時どこにいるかの在所確認に動いていた。
「予想通りだ。情報の出所やその入り方によっては、陥れる為の罠である可能性も高い。それもここまで不自然とはな」
そして、在所確認が成立した段階で奉行所に、その岡っ引きを証人として呼ぶよう、正面から奉行所に切り出した。
行商人から得た、シクルの情報では、やはり不死鳥教典と同様、何を考えているか判らない集団として、皇虎宝団は見られているようであった。
ミミクリーを使っての侵入も、体格の問題よりなにより、相手がどこで何をしているか、判らないという、小さな集団という事で江戸から動く暇もなく終わってしまう。
鬼灯も港で情報収集に当たっていたが、船の方から情報が漏れたという話は聞かなかった。もっとも、船員が噂しなくても、外洋に出られる様な大きな船が動けば、相応の物資は動く。そこから逆算されたのかも知れなかった。
つまり、相手は太田道灌、あるいは四神相応に関して相応の知識を持っている事になる。
健一も、とりあえず、情報を集めて潔白だということを用意するしかないと市井を走り回った。
絃也は夜毎に情報の確認に集まる皆を捕まえては──鳳凰の秘匿に関しては、確証が無かった為、という説で貫けないか、と妥協策を見当していた。カイザードはあくまで手違い、陰謀説を貫こうとしていたが、嘘をついていた場合、不利になるのは不死鳥教典側であり、引いては自分たちにも繋がるという事で納得せざるを得なかった。
何しろ実際に、火気が収まったという確信は何も得られていないのだから。
そして、お白州に伊織が引き出される日。
一同と、不死鳥教典の面々は、証人として召喚された。もちろん情報を提供した事になっている岡っ引きも、キャプテン・ファーブルもである。
伊織の罪状は火気を乱して、江戸市街の転覆を企てた罪である。
まず、それに対し、岡っ引きは自分は、伊織などという女は会うまでも知らなかったし、顔も見た事もない、と証言する。
キャプテン・ファーブルはゲレイが翠蘭の安全性を保証するのに、口添えし、少なくともいきなり江戸市中に火を放つほど凶悪なモンスターで無い事を確認。
精霊力の乱れに関しては、ダンディドッグのそれの方が距離的にも、純粋なエレメンタルビーストという特質からも影響は大きかったのではないかと証言。
ゲレイ曰く──。
「鳳凰は、江戸の大火の時に出たダンディドッグを上回る強力なモンスターですが、あの翠蘭という名の鳳凰は、伊織とは友好的で 大人しくおります。こちらから攻撃でもしない限り、危険はないでしょう」
──と締める。
「‥‥それと、私は大火を巻き起こした火の精霊‥‥ダンディドッグと会った事があります。鳳凰との関連性は無い。少なくとも、江戸での大火と鳳凰は直接は関係していないという事。‥‥これが有利な情報になればいいのだが‥‥」
クリスは続けて訴える。
マグナは内心舌打ちする。言わなければ翠蘭様まで話は飛び火しなかったものを──。
一方で、口からは──。翠蘭様は、温厚な炎の化身である教団の祭る神として説明し、翠蘭様の苦境を知り、助ける為、島へ向ったと奉行所に説明致す。
秘密にした理由は、本当に火気が収まるかの確証が無かった事と、翠蘭様を苦境に陥らせた者の仲間を警戒していた為として、島の場所まで案内すると申し出た。
絃也は翠蘭と伊織の縁の深き事を訴え、実際に火気が収まる確証は無かったが、伝承以上に資料の無いほど、稀少かつ強力な存在をその心の支え無しに放置しておく事の危険性を不器用に語った。
イグニスは改めて、不死鳥教典や自分達の一連の行動が天下転覆などの悪意ある行動ではない事。実際にデビルの介入があり、翠蘭や島の事を公にする事が憚られる状況であった事を改めて主張・証言する。
「正直な話、俺達は当初鳳凰経典の目的・行動に疑念を持っていた。
だから、あえて彼らと同伴し、その行動理念が世に仇なすものならば例え依頼主であっても全力で阻止するつもりでいた。
だが、俺達が見てきた限りそういったものは見られなかった。‥‥確かに不透明な部分はあるが‥‥彼らは信用に足る者達だと思っている」
翠蘭と伊織の関係というか絆? を話すのはあまり得策ではないが、絃也が先に語った以上言及せざるを得なかった。か。
下手に説明の仕方を誤ると鳳凰の力を盾に脅しているとも取られかねないが。
そこは、丁寧に説明する事で、クリアーしていった‥‥筈だ。
(‥‥というか、そもそも、何故翠蘭はあれほど伊織を気に入っているんだろうな? 機会があれば聞いてみたい気もする)。
と退きつつも、イグニスは考える。
「かかる大事をお上にも隠した事、誠申し訳ありませんでした。
大火にも狐らの影があると聞き、四神相応を乱そうとする輩の耳に入れては為らず、また四神相応なるものが、どれほどの価値を持つか判らずが故との判断でした」
としおらしげにカイザードは弁明する。
続けて、此方が連絡しなかった非を丁寧に詫び。
不死鳥教典の封印解除には、江戸の火気を静める為であり、私心無き事を述べ、彼の弁明は終了した。
輝は真っ正面から──。
「あの岡っ引きが話をしたのでなければ、誰から俺達の行動を聞いたんだ? 話が纏まれば聞かねばな。それがスジだろ?
いいか、鳳凰の翠蘭は怪我を負わされ、封印された。それも人の身勝手でな。俺達はそれを解放して助けた事で、信用を得ている。
その上、結界の事も伝え、留まる事も承諾してくれた、知らぬ者が島に入って怪我させたら、もう人を信用しなくなる。勝手に赴くなよ。
結界が壊れたら、その者の責任で伊織達に責任はない。結界が壊れて確認に伺いたいのであれば伊織達や俺達と共に向うんだな。
注意しておくが何度も渡れば、魔物に付け込まれるぞ。狐以外にもズル賢いのが居るんだ、それが原因で翠蘭と伊織に何かあれば、俺はお前達でも牙をむくぞ」
と輝はどう猛な笑みを浮かべた。
カイザードが裾を引っ張るが、そんなものは無視。浪人である、お上に飼われた犬ではないのだ。
シクルは主に岡っ引きの証言が、そもそも怪しいとし、この白州そのものの有意性に疑問を投げかけた上で、皇虎宝団という、修験者達や、その守護者である天狗にも牙剥く、お上を恐れぬやからに対して言及し、この一連の伊織の逮捕は、最終的に繋がるだろう、江戸を守護する四神相応の崩壊へのほんの一幕に過ぎないと言及した。
ヴィグは──伊織の翠蘭との関係における有用性、私心無き江戸の太平の為に立った事。翠蘭は暴走しようがなく、改めて語る事は少ない、とした上で。
「伊織‥・・いや、伊織らの行動は本当にこの江戸の為との想いからきているものだ。俺も最初は疑惑の目で見ていたが、実際の行動を見せてもらって信用した」
デュランと我斬が続けて話をしようとした所で、奉行の待ったが入った。
「話はそれぞれ最もなれど──肝心の翠蘭を、置いて話を進める訳には行かぬ」
という事で話は飛び、月末にでも伊織を伴って、地位ある立場の人間も同行させ、確認させる事と相成った。
「ちなみに同行するのは神皇様の従兄弟君に当たる」
どうやら、もう町奉行の手を離れた様だ。
こうして、伊織は江戸から離れない事を条件に、座敷牢から出され、不死鳥教典の元へと戻っていたのである。
これが冒険の顛末である。