【胡蝶と竜】八王子評定

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月15日〜08月20日

リプレイ公開日:2007年08月24日

●オープニング

 この春に伊達氏により江戸城を追われ、大久保長安が睨みを利かす、八王子にとどまった源徳家ゆかりの面々がいた。江戸の冒険者がその面々に関わって三河を訪れ、更に家康直系の孫、未だ赤子の仙千代がさらわれる事件が出立した事より物語は流れていく。
 過去を見た陰陽師宿奈芳純の見立てでは、犯人はジーザス会の衣装を纏った男。それ以上は判らない。
 そして容疑者として挙がったのは悪魔崇拝者の疑いがある結社、皇虎宝団。
 皇虎宝団の忍者と戦った彼らはその死体から、密書を得る。それによれば、仙千代は甲府に囚われており、八王子を明け渡さなければ、しかるべき事が行われるとの事。
 甲府は源徳家と敵対する武田信玄の領内。
 源徳家の棟梁、源徳家康はいまだ三河にあり動けず、八王子を預かる長安は冒険者一同に隠密裏の仙千代救出を依頼するのだった───。

「大事な甥を見殺しにはできまい」
 他にも14、15に見えるが現在9才の仙千代の叔父、源徳長千代が甲府に行く気満々である。止めれば厄介な事になるだろう。
 そして、彼が行けば付き従うは振り袖の美少女に見えるが、実際は長千代付きの側小姓である少年、柳生左門。
 共に新陰流とオーラの使い手である。
 甲府に潜入して見事仙千代を救い出すか、それとも長安を説得して、八王子を明け渡すかは冒険者の胸ひとつにゆだねられた。
 仙千代を巡る冒険が始まる。

●今回の参加者

 ea0282 ルーラス・エルミナス(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2741 西中島 導仁(31歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb9090 ブレイズ・アドミラル(34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb9112 グレン・アドミラル(34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

紅林 三太夫(ea4630)/ レイ・マグナス(eb9571

●リプレイ本文

 ここは江戸の西、八王子。
 治めるは大久保長安である。その館で今、渋面を張り付けた長安は集まった冒険者達と対峙していた。
 正体不明の敵が源徳家康の孫、未だ赤子の仙千代を盾に取り、八王子開城を要求してきた、らしい───らしいというのは、その要求を書いた書状を発見したのは、討ち取った忍者の懐からであり、その時にはその忍者は死亡していたからである───。
 派手な顔立ちの大久保長安は冒険者から存念を聞いた。

 ルーラス・エルミナス(ea0282)曰く。
「恐れながら、八王子の明け渡しには反対です。
 正式な交渉でも無いのに、八王子を明け渡せば、同じ様な事が起きるばかりか、仙千代様が無事に戻られるかどうかも危うい。
 まして憑依、変化はデビルの得意技。謀に利用する可能性から、ここは救出しか無いでしょう」
 デビルの侵攻を受ける事ではジャパンよりも一日の長がある西洋人の言、軽くはない。近年ジャパンでも悪魔の影が濃くなり、デビル侵攻を危惧する冒険者の声が強くなってきている。
 続いて結城友矩(ea2046)が発言する。
「拙者の意見も反対でござる。八王子は江戸奪還を本願とする源徳方の関東における一大拠点でござる。これを失う道などありえませぬ。
 確かに、直系が一つ絶えるのは痛手でござる。されど源徳家血筋はまだ幾筋もあり、赤子一人死んでも大勢に影響はござらん。皇虎宝団からの一方的な要求を呑む理由は無いと存ずる。
 無論、救出を行うか否かは別問題でござる。武田方とは事実上交戦状態。拙者、命を惜しむ気は毛頭ござらん。
 人質が甲府にいるかどうかは正直、雲を掴むような話でござるが。待つだけでは事態は動かん。
 例え必殺の罠が大口開けて待ち構えていようとも罠を食い破る覚悟で進むのみでござる」
 仙千代の命を大勢に影響なしと言い切ったのは心憎いばかりだが、長安は聞き流した。この場は立場に関わらず己の論を披露する場であり、またそうでなければ長安が冒険者と話す理由はない。
 西中島導仁(ea2741)は───。
「俺の存念も同じだ、今の武蔵にあっては得難い八王子、そう簡単に明け渡す訳にはいかん。とすれば、取る策は一つ、甲府に侵入して竹千代様をお救い致すのみ。
 となれば、善は急げ‥‥だが、より救出作戦を成功しやすくさせるため、大久保殿に偽装した八王子明け渡し交渉をしてもらい、時間稼ぎと、敵の正体や真の狙いを調べてもらいたいと思うが如何か?」
 最年少の日向大輝(ea3597)が導仁の言に頷き、一歩前に出た。
「甲府へ行くにしても何もなしに突っ込んでも仕方がないし、まずは情報集めだ」
 確かに、信玄の本拠地である甲府は容易く攻められる所ではない。八王子からは馬を飛ばせば一日もかからないが、とは言え直ぐの救出作戦は無茶だろう。
「うむ。だが情報を集めると言っても、甲府に行けばおそらく敵が待っている。それに忍者が動いておる以上、生半可な情報収集では返って敵の策におちる危険があるな」
「そうだね。で、今どのくらい甲府の事が分かっているか長安さんに聞きたい所なんだけど」
 今の状況を見るなら、敵の目的が甲府を攻めさせる悪魔的罠である公算も低くは無い。分かっていても一刻を争う事態というものはあるから始末が悪いのだが。
「あとで甲府に詳しい者をここへ呼ぶ。先にお主たちの言を聞いておきたい」
「じゃあ、そういう事だな」
 長安に促されて、次はアイーダ・ノースフィールド(ea6264)が心情を話した。
「本当に甲府に若様が居るのかしら。
 皇虎宝団が絡んでるとなると、かなり怪しいと私は思うわ。
 幸い、今回は捜索に便利なアイテムを持ってる人が居るみたいだから、ある程度場所を特定してから動いた方がいいわね。
 あ、開城には反対」
 その後に宿奈芳純(eb5475)は───。
「冒険者の総意‥‥と申すは浅慮なれど、方々の意見は皆同じでありましょう。私めも八王子の明け渡しには反対でございます。
 理由として密書には───『明け渡さなければしかるべきことが行われる』と書かれておりますが、仙千代様を引き渡すとはどこにも書かれておりません。
 つまり八王子を明け渡したところで、仙千代様が解放される保証はございません。
 ならば仙千代様を見つけ出し、救出する可能性にかけてみたいと愚考いたします」
 と言った後に、芳純は相手との交渉は仙千代が実際に救出されるまで、可能な限り引き伸ばして欲しいと長安に頼み込んだ。
 最後に発言したのはブレイズ・アドミラル(eb9090)とグレン・アドミラル(eb9112)の兄弟。この二人、滅多に冒険に顔を出さないが、腕前は保証付きだ。それぞれ江戸、キャメロットの武闘大会では名の知れた猛者である。
「そもそも本気で交渉する気があるとは思えません。
 八王子を明け渡せという事ですが、その相手は明記されていない。誰に明け渡すのかは、判り切った事の様にも思えますが、本当に繋がりが有るかどうか。
 状況を混乱させる罠、そして相手はこちらが来るのを待っていると考えます。とまれ現状では、こちらも相手と接触することが一番と考えます。八王子の明け渡しには応じる理由がありません」
「赤子を人質にされ八王子を明け渡したのでは、天下の物笑いでしょう。私達も御一同と同じく、甲府へ行くことが肝要と考えます。付け加えるなら、この際に甲府に拠点を作ってみては如何かと。城や砦は無理でしょうが、後々の為に、連絡所のようなものがあると便利でしょうな」
 グレンは拠点作りについて、寺社・仏閣に、教義に仇名す異郷の魔に対する拠点として、一角を借りたいと願い出る策はどうかと長安に相談した。
「武田の手前、兵は動かせぬぞ」
「ならば忍びの者をお借りしたい」
「図々しいのう。良いか、子飼いの忍びは領主にとって耳目手足も同然、無限でもなければ簡単に貸せるものでもないのだぞ。ためにぬしらが居るのであろうが‥‥」

 冒険者達は長安に頼んで、あちこちのめぼしい地方の地図───特に甲府を───を集め、その地図の上にダウジングペンデュラムを垂らし、『源徳仙千代』を指定して、反応があるかを確認した。
 反応はなかった。
「おやおや、これは困ったでおじゃる」
 さらに地図を増やしたが、結果は同じだった。
「まさか仙千代は既に亡き者に‥‥!」
「今日は調子が悪いみたいです」
 ダウジングベンデュラムは商人が使う占い道具で、魔力も消費せず効果も安定しないので探知魔法として広く認可されたものではない。偶然にしては良く当てると言われるので、陽月の精霊が何らかの関与をしているという論文もあるが‥‥。
「かくなる上は甲府に斬り込むか───」
 友矩は鬼と会えば、鬼を斬り。仏と会えば、仏を滅すの心境である。
 一方、導仁は落ち着き払って。
「今回は作戦に割ける時間が少ない。ただし、時間がないからこそ敵に見付からないように細心の注意と大胆な行動が必要になるな。
 または、より成功率を上げるために、今回は甲府に確固たる橋頭堡を築く事を目標にして、来るべき救出作戦に備えるのが上策かもしれないな」
 ブレイズとグレンの意見であった出島案が採用され、『善福寺』という寺院に根拠地を得た。
 その過程に大輝の進言で、急に育児用品を買い集めた人物などを当たったが目立った人物は聞き出せなかった。
 代わりに、大久保長安の手の者で、芳純の進言によって甲府に向かった一団が焼死体になって街道から離れた場所に埋められているのが魔法による捜索で判明した。
 こうして事態が迷走している内に、長千代と左門は置き手紙を残して、姿を消した。
 置き手紙には一言『善福寺』で待つ、とあった。
 これが冒険の顛末である