●リプレイ本文
甲府への出立前、八王子にて結城友矩(ea2046)は内心で───。
(長千代君にも困ったものでござる。もう少し上級武士としての自覚を持って頂きたいものでござる。まあ外見は大人でも中身は童、年相応といえば言えるが。あの力量は子ども扱い出来ず、まったく困ったものでござる)
と、気もそぞろであったが、長千代君と合流する。仙千代君の居所を探索するという大目的からは一点たりとも気をそらしていなかった。
そこで、八王子代官の大久保長安から情報収集を始める。
「長安殿、お尋ねしたい事がござる」
「何かな? 結城殿」
「武田方の忍者の束を御教え頂きたい。蛇の道は蛇と申しますからな。貴殿なら御存知の筈」
「いや。存ぜぬが」
「それは異な事を聞いたでござるな」
「この自分が異国に渡って居た事は知っておろう。その時に自分の意のままになる情報網の必要性を痛感したので、源徳家に仕えて成功した際に、新規に江戸表でヒトを集めたまで。よって、武田時代には忍者とは縁がなかった。そういう事だ」
「なるほど。なに、忍者繋がりで手掛りになるかと思うただけでござる」
これが済んだら甲府へ出立。待ち伏せを警戒して2班に分けて潜入する。
結城の班は結城の他に───。
トラブルメーカーの異名を持つ、シフールのイフェリア・アイランズ(ea2890)がいた。
「まいど〜よろしゅうな〜♪ みっちーの分まで気張ってくで。
んでもって、うちは結城はんと一緒なんかいな。ま、しふしふやから邪魔にはならへんわいな〜。
たまに辺りの状況を調べに飛び回らんとあかんわなぁ。
うちに出来るんはこんくらいやし、逆にこれがうちの十八番なとこやさかい、きっちりやったるで!
気付かれへん位置から、隠れて五感をフルに使いまくって、こっちはバラさんと敵さんは丸裸にしたるで♪」
乱雪華(eb5818)はそれに対して沈痛な面持ちで。
「最悪、今後武田軍と接触する必要が出てくるかもしれませんね」
「うち良くしらんけど、ジャパンの忍者って、接触すれば情報をもらえるんか〜?」
「覚悟のつもりで言ったのですが───長安殿? 甲府の地図はやはり貸していただけないのですか」
「そんな隠し持っている所を見つかっただけで、間諜確定な品を渡す訳にはいかない」
「ダウジングペンジュラムを使おうと思ったのですが」
「前回やって何も反応がなかった品だと聞くが? エチゴヤの宣伝文句を鵜呑みにしすぎではないか? 必要なら現地で調達してくれ」
ドワーフのバル・メナクス(eb5988)は一連のやりとりを異邦ならではのものと受け止めていた。
(ジャパンと言う国は、デビルの動きが少ない珍しい地域と聞いていたが、初の依頼でデビルの名を聞くとは、驚きだ。
しかもジーザス会の名を騙るとは、パリでは考えられない事だ。
災いの目を早めに潰す為、救出を必ず成功させねばな。
それにしても親族を思う気持ちは、尊い事。
些か軽率に思えるが、先に向った長千代殿の気持ちに応える為、死力を尽さねば)
口に出しては───。
「赤子を利用するとは、腐った連中だぜ」
ジャイアントのグレン・アドミラル(eb9112)は怒りを露わにし───。
「人質を取り、国を動かそうとは、赦せぬ。
仙千代様を救い、悪しき者を撃つ。
だが、事はシンプルじゃないな。残された猶予がどれくらいか、時間を掛ける訳にはいかんな。相手の拠点探しもそうだが、此方の拠点が先にばれぬ様にせぬとな」
───といった面々を配し、冒険者として戦乱で行方不明になった赤子の探索という名目で動く。
もう片方の班は───。
ルーラス・エルミナス(ea0282)が意気を上げるべく雄弁に───。
「いよいよ仙千代様を捜索です。
何も知らない赤子の命を失わせる訳には行きません。
必ず救い出す」
日向大輝(ea3597)としては───。
「こっちの班の調査対象は宣教師だな。
ジャパンへ来た外国人から見て欲しいものの調査や、外国の地でジーザス教関連のことで依頼人が知りたいことが出来たらしいから詳しい人に聞きたいって言う名目で、ジーザス教を布教していた人物や外国人が出入りしている場所がないかを探すぞ」
「いや」
と待ったをかける長安。
「こちらの忍者を信頼するならば、ジーザス会は、甲府で布教活動は行っていないとの事だな。少なくとも表には出ていない様だ」
「じゃあ、裏をほじくるさ」
アイーダ・ノースフィールド(ea6264)はそれに対して───。
「ダウジングペンジュラムがあてにならないなら、地道に調べるしかないかと思ったけど、その手がかりも難しそうね。
手がかりは‥‥やっぱり仙千代様を攫ったとされるジーザス会の宣教師だったわよね。
パーストで見えたなら、普段から宣教師に偽装している可能性が高いもの。
でもね───。
デビルが聖職者に化けるのはよくある事だけど、やっぱりジーザス教徒を疑わなくちゃいけないのは気持ちが悪いわね」
ブレイズ・アドミラル(eb9090)は長安の言葉に驚きつつも───。
(相手がデビルで、ジーザス様の教えを利用し勢力を広げているなら、許す訳には行かない。
母国を愛する者として、連中の企みをぶち壊し、若を助け出す)
───を配し、商人に扮して探索を行う。
ブレイズを商人、残りはその護衛として、道中や関所を抜ける際に装備を怪しまれない様にした。
極力怪しまれない様にする為、槍等の、目立つ品は、竹筒やケースに入れる等、輸入品や、竿の様にした後、馬の荷物として、隠します。
日本刀と同程度の武器は、布などで包み懐に入れる等で、怪しまれない様に極力隠し、関所を通過します。
旅の目的は、日本のお札や着物、木彫り細工等、珍しい品を買い付ける為に来たと偽り───。
「最近、乱によって物騒な為、護衛をしています」
と、ルーラスは言い抜けの文句を考えたが、懐に得物をしまうなど、怪しさ大爆発である。
そこでブレイズが逆転の発想を持ちだしてきた。
「武具も全部売り物という事で。値段はエチゴヤのオークション値段なら、間違いなく相場。いきなり買いに出る様なお大尽はいないはず───多分‥‥」
一方、先行する、桐乃森心(eb3897)は尼僧に扮して、甲州街道をひた歩いていた。
如何にも清楚な尼僧を装ってはいるが、身長五尺足らず、やや細身な肉体はいかにも未成熟。童顔で女顔という無敵なコンボが心少年を男性と看破させなかった。
「全く、長安様も難しい人だな。ご配下を判断できる割符か、合言葉があれば、教えて頂ければ有難いと訪ねただけなのに、冒険者ギルドから優待枠で入ったというだけで、まずは善福寺にたどり着け、話はそこからだ、なんて‥‥そりゃあ、僕はペットを持っていないから、皆の様に素早く動けないけどね」
商人班は大輝少年のフォローもあって、難なく進んでいったが、冒険者ギルドからの依頼を受けたと称する班は───。
「あかん、こりゃ、包囲されとるで」
街道で人気が絶えた時を狙い、日本最強と謳われるイフェリアがその鋭敏な五感にも関わらず、包囲を許したというだけで、相手がただ者でない事を察する一同。
雪華は道化めいた衣装に包まれながらも気を高ぶらせる。
「ちょうど良い拷問にかけてやる」
バルもセクエンスの銀の柄を握りしめた。
グレン・ドミラルもストームレインを抜き放ち───。
そこで甘い芳香が立ち込める。
スクロールを広げたまま大地に落ちていくイフェリア。
包囲網の春花の術を高速詠唱で紡いだのである。
闘気を源にするこの魔法はシフールには相性が悪い。
その気配めがけて友矩が鬼剣『斬鉄』を両手持ちにし斬り込む。
「でぇいやぁー!」
斬鉄の重みを十分に乗せた一撃は受け止めた忍者刀を叩き折る兜割りの妙技へと変じ血風で初秋の一角を染め上げた。
しかし、全体の傾向として待ちからのカウンターを得意とする面々は、誰かひとりが突出すれば、そこに手裏剣の攻撃を浴びせ。何もしなければ散発的に手裏剣攻撃を浴びせる。
最初の一斉攻撃は友矩に深手を負わせられた仲間へのとどめであった。
それも無言、ひたすら無言の攻撃である。
友矩が癒せるのは自分の傷止まり。
いざ危うし───と思われた時、心少年が通りがかり、人気のないという条件下で行われた襲撃は幕を閉じた。
心少年はけがを負った一同をポーションで傷を癒す。
それから襲撃もなく、一同は善福寺で合流する。
「あなたが左門さんですか? 伺っていたとおり、きれいな人ですね」
巫女服に身を包み、歩き巫女の体をした心少年が柳生左門の如何にもな振り袖姿を見て、思わず女性と思ってほおを染める。
「誉められたと思っておきます」
そして、左門は艶やかに笑う。
「それより、厄介な知らせがある」
褐色の肌にしなやかな肢体を持つ源徳長千代は皆が来るまでに一通り甲府を調べていた───主にオーラテレパスで、仙千代の気配が存在するかを───少なくとも甲府には反応がなかったと。
「ひとつ、仙千代の存在は特殊な方法───例えば魔法的な結界によって甲府では隠されている。ふたつ、仙千代は甲府にはいない。みっつ、既に仙千代は命を奪われている」
みっつ目をあげる時、長千代は例えようもないほど、悲痛な顔をした。
「しかし、現に友矩さんらは所属不明の忍者集団に襲われている。これが秘密を探るものへの抹殺指令だとすれば───いや、政争のカードとして、仙千代君が無くなっている事を隠す、という考えもありますか───」
ルーラスは辛そうに告げた。
結論のでないまま、雪華が長安配下の忍者から借り受けた地図を元に探っても、何ら結果は出なかった。
一同は実際に歩いて確かめたが、ジーザス会───いや、ジーザス教の布教なども行われている様子はない。一同は改めて自分たちを見るに悪目立ちしている。
商人達から話を聞くに、ジーザス会の宣教師は、京都や江戸といった大都市を中心に布教しており、そこでも色々とトラブルを起こしている為、甲府の様な地方都市にまで教化の手は及んでいないとの事。
と、なるとジーザス会の居てもおかしくない場所に移動したというのが、仙千代の奪還にしろ、仇討ちにしても、出発点となる。
甲府で好き勝手して自分なりに決着がついたのか、長千代も左門を携えて、大人しく長安の元に戻ると宣言し、関所は自分たちの手管を使ったのか、いったん離れてから再び合流してきた。
大久保長安はこの復路のもたらすものは忍者を通じて知っており、悲痛そうな表情で出迎えた。
これが冒険の顛末である。