【経】大切なもの連れ去ってく【胡蝶と竜】

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:15 G 20 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月18日〜04月27日

リプレイ公開日:2008年04月23日

●オープニング

 伊達政宗支配下にある江戸で、ジーザス教の医療施設で看護士見習いとして働く、源徳長千代と柳生左門。
 一方で、八王子の千人同心を長千代の部下として動かそうとする、自分では動かない大久保長安は焦りを隠せない。
「非常の手段もやむをえない。源徳家存亡の際に、細かい事は言っていられない。最悪、ジーザス教の建物に火でもかけて、後で風評を用いて、それが伊達家の差し金だったとでも言い放てば、長千代君も義憤に駆られて出兵に賛同すれだろう」
 と、長安は八王子屋敷でこそりと言い放つ。
「それでヒトが動きますかね?」
 江戸の冒険者ギルドへの使者を申しつけれらた長安子飼いの密偵が呟く。
「意地でも動いてもらう。理に訴えるのが駄目なら、情に訴える。おお、何ならデビルか、皇虎宝団といった丁度いい悪役が居たな、とにかく長千代君には八王子に戻ってもらわねばなるまい───目覚め、いや‥‥源徳武士の面子を立てるためにな」
 長安の駒が動く。

●今回の参加者

 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea7865 ジルベルト・ヴィンダウ(35歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 eb0340 夕弦 蒼(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3897 桐乃森 心(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb9669 高比良 左京(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 高比良左京(eb9669)は我が眼を疑った。
「源徳の若君が供連れとはいえ単独行動とは信じられない」
 しかし、ジーザス会の紋章が描かれた掘っ立て小屋の外でけが人達の手当をしているその若者は、冒険者ギルドの情報を根底から否定しない限り、源徳長千代に間違いなかった。
 壁もなく、門も無いこの空間で、左京は何処を警戒したものかと思案したが、仲間が安心して長千代君と交渉できるよう、出入りする者達を監視するという立場に身を置く。このボランティアの警備員を、信者達はとくに訝しむ事もなく受け入れた。ここの施設は助けあいで成り立っているし、異教徒への世間の風当たりはまだまだ強い。感謝される事もあった。
 そこへ少女めいた容姿の桐乃森心(eb3897)が半袴を翻しつつ、長千代の元へと歩み寄っていく、
「こんにちは〜」
 心少年は半年ぶり程に会った長千代に、このような場所でどのように接したら良いか寸毫悩んだが、面倒くさいので砕いた口調で話しかける。場所柄もあり、年下の長千代に丁寧な口調も変だが、正体を知っているだけに気安く話しかけるのは少々ドギマギした。
「長安様に言われてお使いで来ましたけど、やっぱ戻るの嫌っすか?」
「うん」
 直球ストレートな返答。心少年は慌てず、落ち着いて。
「まぁ、それはそうと。
 お団子買ってきたので八重桜でも、花見でもしながら一緒にたべるっすよ。‥‥にはは♪」
「いや、動けない人もいるし、急な患者が来たりすると困るので、動くのは控えたい」
「そうっすか。さて‥‥面倒くさいけど聞くっす。
 個人の見解ですが、源徳様方が黙っていても、今でさえ血は流れ続けて居ます。
 源徳に義理を立てた皆様は苦境に立たされており‥‥那須などは───酷い有様とも聞いております。確かに伊達は今のところ、江戸で無法を行ってはいないと聞いておりますが、それは彼の者自身が己の行いを恥じ、世論の心象に怯える証拠。
 華の乱の際、江戸の民を人質に脅す様な真似をしたのは僕は忘れておりませぬ。咽喉もと過ぎれば江戸にどのような災厄を招くか分からない男でございます。大名などとは名ばかりで、志なければ唯の人殺し、盗賊と何ら変わり無いモノで御座いましょう」
 このような場所で話す内容ではない。心はしまったと思ったが話し出すと止まらない。聞く者がいれば、源徳家ゆかりの者達だと気づく。さすがに源徳長千代とは思わないだろうが。
「餅とももだんごを持ってきたの。お一ついかが?」
 ジルベルト・ヴィンダウ(ea7865)は、持参した餅と団子を患者達に配りながら、多少でも気を散らそうと努めた。
「勝手な話だな。大名達はそう言って相手を非難する理屈をつけてはいくさをしたがる。なぜ戦をやめることを目的に考えようとしない? 忠義を立てた上の為に泣かされる民の方が哀れだ。上が変わったって、民人はどうでも良い事だ。奪った土地で善政を行った者は珍しくない。伊達がそうでないと何故言える」
「かもしれませんけど、江戸をここまでにしたのは誰っすか。奪われた者の想いはどうすればいいんすか。民だってまだ源徳が必要っす。領主さまは立派な人であれば嬉いっすよ」
「そんな事を言っているのは武士だけだろう。おまえは勝手に民を語るが、江戸の人々にとってはどうであろうと戦が無いことが一番ではないのか? 戦火を承知で伊達を追い出してほしいと頼んできたか?
 上など民は必要としない。立派というが、一番力持ちで、一番声の大きいだけの先祖を持っていただけの話だ。戦争に志もなにもない。抜いた時点、受けた瞬間から志という言葉を口にする権利はなくなる」
 いつのまにそんな平和主義者の弁を覚えたのか。心は内心地団駄を踏んでいた。存外に、長千代の戦争嫌いは頑なである。
「‥‥駄目でござる。こうればぶっちゃけるです。
 ずばり、長千代様には逃げるよりも戦って頂きたいと思いまする〜。
 あー、別に長安様の思い通りに動く必要も無いですし。長安様には秘密っすけど、腹案らしき物もありまする。
 信康様と義経様を仲直りさせてしまおうとか‥‥でも今のところ後ろ盾が無くて困ってるっすよ。戦は嫌いというのは分かりましたけど、このまま戦が終わるなんてぶっちゃけ有り得ないですよ。一波乱二波乱当たり前っす。どうせやるなら好きな方につきたいっす。
 長千代様は力を手に出来るお立場ですし協力して頂けないっすかね?
 戦争が嫌ならそれを止める為に努力して欲しいっす‥‥にんにん」
 ぶっちゃけた。近くで聞いていたジルベルトの腰が砕けそうになるくらいぶっちゃけた。平和主義者から見れば、それは単に「戦争が好きさ」と言っているようなものだ。
「嫌だ」
「嫌って言うなら今食べた団子かえせー♪ だってばよ、じゃなくて、にんにん。んじゃまー、代金分の交渉はしたので昼寝します」
 無造作に短刀を差した夕弦蒼(eb0340)が心少年と入れ違いに───。
「子供なりに、考える所は考えてるってこったね。大人はいっつもそれを無視しがちだけど。結局正しいもんは正しい。それでいい時もある」
 と、そこまで言って照れたのか『それが今だと思うなあ』という言葉は胸の中でだけ漏らした。
「各地でデビルが現れ始め、国内では異変が相次いでいる。君らが戦おうとしている相手はそのひとつだよ」
「だから、戦ってないって───」
「まあ、肝はそこじゃないって。そして最近では神々も騒ぎ出している。何か大きな‥‥‥人同士の争いではない、何かが起ころうとしている。
 義経って子も、その犠牲者のひとりだと思うよ。戦うべき相手は彼じゃない。彼もまた無辜の人々の平和を願っているのだからね。
 そういう、大人には理解できない子供の気持ちもある筈なんだ」
 そこで蒼は、甲斐甲斐しく働いている柳生左門にもアイサインを送り。
「だからこそ『ふたり』には八王子に戻ってもらいたい。『ふたり』を『三人』にするために。
 恐らくその時に本当の敵はやってくる。仲良くされては困るだろうからね。そしてその敵は生きる者全ての敵。それを倒すためにも力は必要になる。魔物を倒す力がね‥‥‥だから、ここで逃げ回ってる場合じゃない。そいつは勇気じゃない」
「お前も変な事を云うなあ。それこそ冒険者ギルドの出番じゃないかな? 少なくとも血筋がどうのこうのの話じゃないぞ。そんな訳の分からない事を理由にして俺に旗頭になって人を冥府に送れというのか? そんなのただの馬鹿じゃないか、まっぴら御免だ。それを勇気というなら、俺は勇気なんて要らない」
 魔の者の暗躍に対抗するために立ってくれ、というのは冒険者に都合のいい話だ。話し方を間違ったかと考えていると逆に質問された。
「お前、本当の敵と言ったな。デビル、魔物とは、戦争を広げて民を沢山殺しても倒さなければならないものなのか?」
「ん? 全てとは言わないが、最近の異変の原因は魔物だろう。だから敵を倒せば混乱は下火になると思うけど」
「おめでたい考え方だな。争いは争いを生む。それは魔物相手でも変わらないんじゃないのか?」
 冒険者の生き方を否定するような発言。夕弦はどう答えるべきか迷った。
 傍らにジルベルトを従えた、結城友矩(ea2046)が───。
「長千代君、大久保殿の周囲が何かと騒がしいでござる」
「だろうね、八王子で狼煙を上げようっていうんだから」
「判っておられる様でござるな。何故なら大久保殿は、一向に御曹司がお戻りにならぬゆえ焦っておられる」
「こういう台詞は申し上げにくいのだが───御曹司が、この場に留まり続けると不幸な事態になりそうな按配でござる」
「短気を起こす、というのか?」
 友矩は派手な顔立ちの表情を眉一筋動かさず。
「千人同心を率いる件はさておき、一度八王子にお戻りくだされ。でなければ、この場にいる皆さんに多大な迷惑をおかけする事になるでござる」
 ‥‥蕩々と述べる。卑怯な意見だが、効果的ではある。いざとなれば医療所を潰すくらいは八王子には訳ない事だ。
「それは御曹司の本意ではないでござろう」
 そこで長千代はすくっと立って。
「判った。ここを離れてどこぞの山奥で過ごす。いや、いっそジャパンを出ても良いな」
「そ、それは! ここはひとつ拙者の顔を立てると思い、我慢していただけないでござろうか」
「友矩殿には、昔からずいぶんと世話になったが、無関係な人々に殺し会いを強要できる面子なんてものはないよ。自分の都合で無関係な者同志を殺し合わせる、それが武士というものなら、武士など滅んでしまえばいい」
「長千代様!」
 左門が悲痛な声を上げる。
 ジルベルトが長千代と視線を合わせて、問う。
「本気ですね。ならばもう一度だけ、本当に最後の翻心の機会を与えて下さい。これまでの枠を越えた返答を考える時間を与える為に。その為なら長安さまにも猶予を頂きます。しかし、無断ならすっぱりとあきらめます」
 彼女はそう宣言した。
 これが長千代を巡る冒険の顛末のひとつである。