【黙示録】勇気も約束も不要【源徳遠征】

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:15 G 20 C

参加人数:14人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月17日〜12月26日

リプレイ公開日:2008年12月28日

●オープニング

──師走、八王子勢の英雄的な一騎打ちにより、当面の逆境を打破した──しかし、源徳長千代(であり、経津主神であり級長津彦)は、この局面を勝機の場と読んだ。
 西では源徳と反源徳連合(あまりにおおざっぱなくくりである)が、小田原に兵を集め、何千という単位での大合戦が起ころうとしている。凡百な将ならば、この歴史の転換点に自らの名を刻もうとするだろう。
「伊達が退いた今が好機、落ちた猫は叩く」
 どん欲なまでに伊達の動きを封じる──否、滅す。それが長千代の出した解であった。
「しかし、それまでは源徳の一子として」
 戦陣にあって尚派手やかな大久保長安が常識論で長千代を制しようとする。
 むろん言われる長千代とて、小田原決戦で八王子勢の千を越す兵が少なからぬ意味合いを持つ事は周知の事実。
 源徳側の様子を見て、己の兵を勝ちそうな所に持ち込もうとする連中のいくさで如何に多い事か。
 そんな心配をおいてきたかの表情で長千代は語る。
「それはない、断言できる。父君は臣従しなければ滅すという方向性を明確に徹底し、そして実行している。いくさの結果を見て、高値で自軍を売りつける側を判じようなどと、考えている者はとっくに併呑している筈だ──」
 長安は何かを言いたそうな顔をしている。それを長千代は制して。
「と、まあここまでは孝行息子らしい言葉だ、本音は違う。ここで反転して、独眼竜に尻を噛まれるのは好みではない。それを防ぐ為に、中途半端な兵力を重しに据えて、中途半端な兵力をさし向けて、中途半端な槍働き等、兵力分散が過ぎて、本末転倒が過ぎるというものだ。
 ならば、伊達勢の士気の衰えている今、叩き潰し、江戸城の掃除をする──丁度師走だしな。少なくとも、『筈』とか『らしい』は除外できる──証拠が無く、只の非難中傷にとられても『マモン』がいる事を忘れるな」
 雷の如き長千代の言。
 マモン、欲望を司る七大魔王が一柱、鴉の双頭を持つ上級デビル。個人的な力量だけ言っても、人知を極めた魔法の二連撃を食らっても尚、行動できるタフさはさすが魔王としか言いようがない。
『大鴉』の変名を使うのは正体を隠したい、という方向だろうが、伊達側についた理由は不明。
 政治的カードとして、伊達をデビルが組んだと告発しようにも、他人に示せる証拠はない。客観性を得づらい『自分だけ』が判る魔法で見たという証言だけで良いなら、どんな悪行もねつ造できる。その為、証言としての価値は少ない。言った所で良い所政治的パフォーマンスか? 何れにしてもうわさの域を出ない。
「しかし、恐れてばかりでは、いくさは進まない、それもまた事実だ」
 実際に江戸城を攻略すると言っても、江戸の冒険者ギルドきってのドリームチームと呼び名も高い面々が、しくじっているという先事もある。
 江戸城まで攻める──これは伊達側の中途半端な反撃を防ぐ為の長千代の手であった。シンプルではあるが、実行するには兵、将ともに高い水準が要求されるだろう。
 文字通り言うは易く行うは難し──。
 伊達政宗をして、江戸の統治を捨てて、逃げ出す方が有利と思わせるだけの兵力を、江戸城までに維持している事が勝利条件であった。
 過去に百に足りぬ、少数でさえ落とせなかった江戸城は、過日の数十倍のおよそ千単位規模の防御陣。それらを集中運用させず、マモンをも打ち払う。
 千五十の歩兵戦力でこの一戦を意図通りに持ち込めれば、その冒険者は『万夫不当の英雄』であろう。
「待っていろ独眼竜──そして、マモン」
 江戸の大いくさが始まる。

●今回の参加者

 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea8619 零式 改(35歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb1513 鷲落 大光(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb3532 アレーナ・オレアリス(35歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4646 ヴァンアーブル・ムージョ(63歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5757 エセ・アンリィ(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb5868 ヴェニー・ブリッド(33歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb8542 エル・カルデア(28歳・♂・ウィザード・エルフ・メイの国)
 eb9669 高比良 左京(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb9943 ロッド・エルメロイ(23歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec1272 尾上 楓(32歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 アイーダ・ノースフィールド(ea6264)の策は、長安に却下された。
「橋を落とせば伊達の血脈を断ったも同じよ」
「我々は侵略者ではない。貴殿もナイトなれば、上に立つ者として、どれほどの労役の末に橋が造られたか判っているだろう? 甲斐の時とは違う。あの時は我々は略奪者だった。今は新たに法と秩序を取り戻す立場なのだ」
「そう」
 アイーダは吐息をつく。
「お侍は色々と大変ね。まずは勝つ事じゃないかしら」

「江戸冒険者ギルドきってのドリームチーム?
 笑わせてくれる。拙者が参加しておらんのに何がドリームチームでござる。
 此度は前回とは違う結末を迎えるでござろう」
 激痛の深淵の畔から結城友矩(ea2046)は意識を取り戻した。
 意識が混濁している。痛みを覚えつつ、必死に記憶を手繰り寄せた。その最後の領域にあるのは──。
「確か拙者は、以前“ウォルター・ドルカーン”などと申す、エルフが使っていた江戸城の大空洞から逆潜入しようとして──」
 音無しの異名をとる練達の忍び、零式改(ea8619)の焦った声であった。
「罠でござる──!」
 問い返した記憶が無い。その暇もなく、結城の全身を四肢を引き裂かんばかりの激痛が走った‥‥いや、実際に引き裂かれたのかもしれぬ。
 命は費えていた。
「待ち伏せです! 逃げろ、早く地上へっ」
 ロッド・エルメロイ(eb9943)が素早く印を結び、地底に火柱をあげた。改は落下した巨石に潰されてぐずぐずになった結城の体を背負って走る。
 そして、間一髪の差で蘇生された場所がこの場所、八王子勢の江戸陣屋。

「江戸城地下に伊達軍の一隊が潜んでおりました。我らは待ち伏せに遭い、結城友矩討ち死!」
 シェリル・オレアリス(eb4803)が生き残りの兵から報告を受けるのを聞き、覚醒しつつある友矩は現状を把握した。
 ──つまり、結城達の江戸城地下大空洞への突入作戦は失敗した。伊達軍は敵軍の侵入を考慮して、用意周到に待ち構えていたのである。
「高比良殿は?」
 覚醒した結城ははっとして身を起こす。
 彼の横に、友矩に同道して障害物の破壊に従事した高比良左京(eb9669)の亡骸が寝かされていた。
「し、しずかに‥‥」
 シェリルは左京の遺体に向き直り、ソルフの実を上品そうな顔立ちとは似合わぬせっかちさで飲み込む。魔力が体に満ちるのを感じ、呪文を紡いだ。金髪を全身からあふれ出す白い淡い光に煌めかせ、猛虎の命を再び灯さんと弥勒に祈願する。
 祈りは聞き遂げられ、左京の心臓は再び脈打つ。
「うっ、俺の嫁さんよりよっぽどのベッピンだな」
 左京のその強がりにシェリルは儚げに微笑む。
「残念私もダンナがいるの。所帯持ちはお互い様‥‥」
「そうだな。ともかく助かった。恩に着るぜ」
「そう。それなら私よりも、ここにいる皆と御仏に感謝することね」
 シェリルは確かに蘇生の奇跡を使うが、どんな死体でも復活させられる訳では無い。例えば、遺体の損傷が激しいものは無理だ。大久保長安は彼女の類稀な法力を惜しみ、今回、八王子軍では数少ないクローニングの使える僧侶を彼女に付けていた。無論のこと、助かったのは死体を運んできた者がいたからこそだ。
「地下からの侵入は難しいの?」
「ああ。千の兵でも突破は至難でござる。拙者らは虎口に引き寄せられたも同然でござった。見誤った‥‥あれでは、地上を攻めた方が守りが薄い」
 地上との出入り口の多くは封鎖され、魔法や金槌を使っても通過は困難だった。数少ない出入り口は厳重に守られ、さながら地下要塞の様相である。
 広大な地下空洞を完全に要塞化したとは考えにくいが、穴を見つけるには何度も突入を試さねばならず、城攻めと変わらない。
 結城達と一緒に地下に下りた数十名の歩兵は大部分が未帰還となった。

「聞け勇者よ!
 我らは今日この日この時の為に生まれ生きてきたのだ!
 戦え!
 我らの江戸を奪還するのだ!」
 エセ・アンリィ(eb5757)の獅子吼がこの陣屋まで響く。更に魔法の直撃音らしい爆裂音も轟く。
 地上では今も戦いが続いていた。
 八王子軍は小田原の開戦に呼応して江戸まで進出したが、伊達軍は江戸城に籠り、討って出る気配が無い。ひとまず江戸城北西の武家屋敷に本陣を置いた八王子軍は、エセの率いる前衛部隊がしきりに江戸城に挑発を繰り返している。
 城内から指揮官のエセに向けて攻撃魔法が飛んだが、シェリルが施したレジストマジックが、それを打ち消した。
「その様なまじないなど無用‥‥出て来い、憶したか!」
 続く返答は、無数の風切り音が一個の轟音に聞こえるほどの矢雨。鉄弓から放たれた矢は驚くべき正確さでエセを狙撃した。
「むぅ‥‥」
 たまらず膝をついたエセを、大きな影が覆う。
「結城殿か?」
「面目ない。死に損なってござるよ」
 矢盾を手にした結城が矢雨からエセの体を守る。と、結城の表情が強張った。エセの体が小刻みに震えて、目の焦点が合わない。
「まさか‥‥ご丁寧な歓迎ぶりでござるな」
 矢を一つ手に取る。おそらくは強力な毒か。友矩は懐を探り解毒剤を取り出すが、仲間が既に事切れたのを見て、エセの巨体を抱きかかえた。
「命の借りは命で返す──エセ程の武人であれば、その値体重に等しいブランを積んでも値せぬ。それにしても死ぬというのは何度味わっても──」
 そこまで言って友矩は沈黙した。

「薄刃を渡るというか無茶ぶりというか、でも負けてあげませんから」
 前衛部隊からの伝令を受け取る尾上楓(ec1272)は、そう宣言した。内心の動揺を隠しつつ。
「前衛部隊のエセ殿戦死‥もとい、負傷して後退なされました」
 エセは有能な指揮官だが、敵が出てこない状況では打つ手が無い。
 八王子軍は野戦決戦を目論見、基本方針は短期決着だった。
「兵力に差があるのに、伊達政宗はどうして出てこないのでしょう‥‥?」
 覚悟を決めて江戸に出てきただけに、膠着状態での士気の低下が心配だった。
「地下の事もエセさんの事も、それだけ敵が本気ということでしょう」
 八王子軍の要が冒険者である事は伊達にも知られている。冒険者達は目立つ上に、主に最前線にいるから、狙われやすくはあった。
(シェリルさんが対マモンの要だって事はもう知られてますからね‥‥四六時中隙を見せないのも無理だから、守らないといけません)
 そこまで考えて、シェリルが眠る暇も惜しみ、それこそ全ての魔力と回復媒体を駆使して、兵たちの治療に勤しんでいる様を思い起こし、不謹慎ながら笑みを漏らす。
 今、この間にもエセの命が再び燃え上がり再起の時を待っているのを楓は知っている。
「決着を急がず‥‥動かざる事山の如し、です。政宗を江戸城から出さなければ、小田原の合戦への布石になる筈です。いいえ、絶対なります」
 そう、無理に城を攻める事はない。
 楓は伝令に、前衛の仲間達への伝言を頼むのだが。

 深夜、メグレズ・ファウンテン(eb5451)は江戸城近くに移動していた。
「誓約拝命、逆徒討滅──過日に落とせなかった江戸城、今度こそ落としましょう」
 彼女の後ろには、八王子軍の騎馬隊数十名が従っている。
 エセ、メグレズ、ヴェニー、エル、それに結城らの前衛部隊は、敵が城を出てこないからと、指を咥えて江戸城を眺めるつもりは無かった。
「突撃!」
 メグレズの騎馬隊は、エル・カルデア(eb8542)の超越魔法が搦め手の城門を叩くのを合図に火の出るような突撃を敢行した。同時にエセの前衛隊も正門を攻めたてる。
「私は里見家客将が一人、メグレズ・ファウンテン!
 今日の晴れがましき戦にあって、伊達の御大将と是非とも勝負をつかまつる!」
 最前列に立ち、大声で呼ばわるメグレズへの返礼は激しい矢と魔法の集中砲火。
 無理は承知である。しかし、彼女は約束は何としても守る人間だ。メグレズが倒れる間にも、敵味方に多くの死傷者が出ていた。
 搦め手の城兵を恐怖させたのはエルのローリング・グラビティだった。騎馬隊と戦った城兵は片っ端から宙に放りあげられて地面に激突する。この威力で一時、騎馬隊は城門を一つ落として城内に侵入を果たしたが、そこが限界だった。あまりに強力すぎたエルに城内の魔法使いの攻撃が集中した。魔法戦は防御陣地を持つ方が有利だ。メグレズとエルを失った騎馬隊は瞬く間に崩壊する。
 エル以上に伊達兵を震え上がらせたのは、江戸城上空に立つフランクの魔女ヴェニー・ブリッド(eb5868)だった。
 寒風吹きすさぶ江戸の空に、銀色のコートをはためかせたヴェニーは戦いが始まると、眼下の城兵に超越ストームを叩きつけた。城門の上から落下する伊達兵が続出した。慌てて城内の陰陽師達は雷や光の矢を上空に飛ばしたが、ヴェニーの黒球がそれら全てを吸収した。
 更にロッドの超越火球が城兵に炸裂し、多くの犠牲を払いつつも序盤は八王子軍有利で進んだ。

「混乱の最中、冷静に振舞っている奴が頭だ。そいつから倒せ」
 鷲落大光(eb1513)は、長安子飼いの忍者5人と不正規兵を借り受けて江戸の街に潜入していたが、江戸城で戦闘が始まると、行動を開始した。
 しかし、街で騒ぎを起こした鷲落と忍者を追い詰めたのは、伊達兵でなく、江戸の冒険者だった。
「てめぇら、江戸の街で何をしやがる」
「待て、誤解するな。拙者らの仕事は伊達退治だ。おぬし達と争う気はない」
 鷲落は冒険者らを説得しようとしたが、無駄と分かると諦めた。冒険者の反応は江戸城の戦に加わる者、町を守る者、見物する者等と様々だ。が、街で騒ぎを起こす者は袋叩きにしてやろうという輩が多い。
「退け──‥‥負け戦に忍びは似合わん」

 降り始めた雪の中、アレーナ・オレアリス(eb3532)は焦っていた。
 目の前の人物が、フード付きローブを着込んだ華奢な、多分エルフか女性を、到底斬れるとは思えない。
 ローブの人物は、黄金の刀を携えていた。
 一見して、並の力量ではないと分かる。だが、仮にも世界最強と揶揄される事すらある神聖騎士が、恐れを抱くなどあるものか。
 しかし、現実問題として既に何度も試した彼女の技巧の限りを尽くした攻撃は、相手にかすりすらしなかった。
(おかしい‥‥)
 当たると確信した攻撃が、文字通り何かの魔力のように、逸らされていく。
「くくく、奢れる太刀筋では私は倒せない」
 深深と降る雪は地上の何もかもを隠すように視界を白く染めていく。
「なめるな!」
 押し込む勢いの剛打、デュランダルに体重を乗せた一打は博打ではない、自殺行為。
 刹那、アレーナのあばらの隙間を縫うように黄金の刀が吸い込まれていった。
 返す刀でアレーナの首級が落とされた──かに見えた瞬間、シフールのヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)の放った、銀色の矢がその人物に突き立った。高い防御力に弾き返されて光矢は雲散霧消したが、ローブの人物はヴァンアーブルを見据えた。
「ひとつ聞いていいのかだわ‥‥」
 ゴゴゴゴと底冷えのする視線をヴァンアーブルは受け止めた。
「なぜ、“マモンに当たれ”と指示したムーンアローがあなたに当たったのか、だわ」
「私のレミエラの副作用だよ──ふっ」
 フードの下に視線は感じられない。
 そこへ天空から轟雷が降り注いだ。この時を待っていた上空のヴェニーが放つ超越天雷である。
「期待はずれだな」
 ヘブンリィライトニングに打ち抜かれてなお、ローブの人物は悠然と微笑――したように思えた。
「この程度で、私を待っていたのか?」
 雪が逆巻いて吹雪となる。
「そう‥‥待っていた。政宗は影武者が数えただけでも三人いて、よく分からない。だけど、あなたの様な妙な剣を持った者は居なかった。
 あなたがマモンだとすれば、その頭の悪そうな得物も理解できるから」
「──‥‥」
 ローブ姿の者は不意に視界から消失した。
 この直後、ヴェニーは達人級の魔法攻撃を受けて後退する。
 最前線の冒険者達を酷使する八王子軍は徐々に勢いを失い、瓦解する寸前に後退を始め、本陣を引き払って江戸を脱出した。
 その時にも伊達軍は追撃に出てこなかった。

──顛末を見届けたアイーダは一人戦場を離れ、小田原で源徳家康に拝謁した。
「独眼竜は江戸を動かず」
 ‥‥と。
 
 これが江戸の戦陣の一幕である。