【黙示録】過ぎゆく華を惜しみ【源徳遠征】

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:15 G 20 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月29日〜04月07日

リプレイ公開日:2009年04月13日

●オープニング

 大久保長安は血の気の退く音を確かに聞いた声がした。
 様々な思惑の入り乱れる関東戦が結果として、源徳家は江戸を治める国主とは見なされなくなったのだ。
 家康の甥、安祥神皇の意向による関白藤豊秀吉の停戦命令を、無視したが故の結果である。
 府中砦で進軍の機を見計らう経津主神、級長津彦、源徳長千代の動きは、伊達軍に多摩川を渡さない事に焦点が置かれた。
 小田原への援軍を断つ。その一事。
「えらく、縮こまった策だな」
 級長津彦は軍議が萎縮しているのを笑い飛ばす。
「しかし‥京都も危うい状況にて」
 賊軍の名はこうも歴戦のつわもの共を狼狽させるのか。この先、どうなるのかと諸将は不安に怯えている。
「そんな事は、この戦を始める前より分かっていた事だ。例の黄竜騒ぎで、江戸城の風通しが良くなったものだから、独眼竜は物見遊山に出るかもしれぬな。
 こちらは千を割った軍勢であろうと江戸城を脅かす。伊達は江戸城を将棋の駒程度にしか見ていないのだろうが、我とお主達には違うはずだな」
 長安は混乱する。目の前の少年は、どこからが長千代でどこからが神なのか。
「陰陽師の意図も分からぬ──例の『月光の繭』からは『それなり』のものしか出なかった。あの魔王とやらも何を目論んでいるか。しかし、江戸の民が支配者が交代した事に馴れては困る。
 源氏の長者、源徳家の目的は一つだ。‥‥それとも、また平織と談合するか?」
 平織は内戦状態であり、遠く関東の八王子では交渉も難しい。また平織軍にはデビルの関与も噂される。
「悪魔か‥‥今の世でも神と魔が戦を引き起こす源か。昔は代価を払えば良い仕事をするゆえ、服従を求める神の御使いより重宝されたものだが」
「それでは、江戸城に圧力を加え続けるのですな? 房総に先を越される前に」
「前にあったな。『軒を貸して母屋を取る』には絶好の存在だと。そんな小悪党で、江戸の国主が勤まるとは思えん。もっとも、父君や自分が、相応しいかは──」
「長千代様、お言葉に──」
「江戸城を落とす。その下段階として厄介な地下空洞を押さえる──陰陽師達は誰が支配者でも構わない様に見える」
「主力は冒険者ギルドとなりましょうか? 力押しだけでは討てぬし、策を考えさせれば生中な武士では思いもよりませんからな」
「ただし、陽動以上に千人同心は動かさない。棚からぼた餅は期待しない事だ」
 そして、級長津彦は一呼吸して。
「作戦名は春雷」
 江戸城を巡る冒険が始まる。

●今回の参加者

 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5985 マギー・フランシスカ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb9669 高比良 左京(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 八王子勢は春、多摩川を渡ろうとした。その隙に乗じて、結城友矩(ea2046)は、江戸城下に忍び込む──。
 リベンジでござる。
 彼のその一念は強い。
「どうやら昨年江戸城より脱出する際に出会った老エルフが太田道灌であった様だ。
 かの老人を味方にすれば即ち大空洞を落とした事になるのかも知れぬ」
 華の乱のころから遭ってはいたのだが、とりあえず友矩は言及しない。
 勝手知ったる他人の城とはいえ、この迷宮はアクティブに変更がされている。大岩を転がすような仕掛けがメンテナンス(物理的、魔法的いずれにしろ)なしで、無事に動きはしない。
 潜入時に露払いに、とブロッケンシールドを用い、傀儡をしかけるが、八王子勢を動かしたことを含め、裏目に出てしまい、警備を厳重にしてしまいそうになる──。
 しかし、その様な魔法の品から、陰陽師達に発見される事を危惧していた、エルフの老怪、マギー・フランシスカ(ea5985)は魔法を使うのを避けるよう、友矩に進言する。
「そんな所で一々魔法の品を使っていては、あっという間にばれてしまうではないか? 年長者面するつもりはないが、自制してはどうか」
「まったくだ。そんな事では守りきれんぞ」
 大きな態度で、高比良左京(eb9669)が、友矩に進言する。
「頼むぜ地の精霊使いの姉さん。大空洞では、あんたが頼りだ」
 婆さんではなく、姉さんと呼ぶのは、既婚者ならではの左京の処世術といったところか。
「まあ、俺も色々と置いていかなければ‥‥いけないか」
 自嘲気味の笑みを浮かべる左京。
「天の竜、地の竜、人の竜が揃いし時か──竜といえば帝位とか王位の象徴だ。そいつがぞろ目で出揃ったって事は天意は革命か。何れにせよ今年は大荒れって事だろうぜ」
「さてのう、聞かれても──正直困る。しかし、天命という事なら、ジャパンの支配者は神皇さまではないか? その施政に天の意志が介在するかね?」
「俺もわからん。しかし、白乃彦が風で。翠蘭が火だっけか。四大精霊の残りは水と地か。太田道灌とかいう爺様も化け物じみてるから、きっと水と地どっちかを担ってるんだろうな、もうひとりていうか、もうひとつ、なんかあるはずなんだが。それが判らねぇ」
「さてね、冒険者ギルドでは水を引き受けた──という事が読めるが、自分なりの解釈がある?」
「俺は源義経辺りが怪しいと睨んでるんだが。姉さんはどう思う」
「当人に聞いてみてはどうか? それができたら苦労はしないだろうけどね」
「そりゃ、理屈だわな。まったくだ」
 猟師としての力量で、江戸城の罠を発見しようと、辛抱強く、かみ合わない会話を聞き流していたアイーダ・ノースフィールド(ea6264)であったが、屋外で猟師の動物相手に仕掛ける罠と、迷宮のからくり魔法仕掛けとでは定石がまったく違い、正直後悔していた。
 友矩と左京の知識も日々老朽化し、作り替えられていく迷宮と、戦時下の緊急体勢では正直心許ない。
 不本意だが、罠に対しての囮役を買って出る事もあった。
 というより、この面子が全員そろってはアイーダと言えど、射撃役に徹してはいられない。
「それも大事だけど、そもそも、江戸城って何なのかしら?
 源徳が来る前からあったようだけど、ここは以前僻地だったというのに、結界とか地下空洞とか不自然よね。
‥‥そういえば、フランク内戦の話で欧州では有名なマサカド・タイラって、ジャパンじゃ全然触れられないわ」
 ジャパンは2世紀近く前に、フランクと富士山をつなぐ月道が発見され、フランク内部抗争に荷担していた。酷い時など一分王国の兵力の八割が、ジャパン人で占められていた、というが、表だっては聞かない話である。
 その月道も富士山の噴火で失われ、過去のジャパンの依頼で龍脈を巡って九尾の狐と、将門の英霊とが関わった話が残されている。
 3年ほど前になるだろう。
 詳しくは冒険者ギルドを調べれば判る。
「少なくとも、ここまで根性が曲がった建築物が一朝一夕に出来るとはの」
 マギーもまともにマッピングしようとしたが、構造をマジメに健闘すると(瞬間移動などのトラップではなく)、位置関係が、発狂しそうになるを悟り、早期に諦めた。
「明言は避けさせてもらうとして、百五十年前のジャパン技術でここまで出来るとは思えない」
 角を曲がった所から老人の声が響く。
「さよう。ここは百年やそこいらでは利かぬよ」
 幾人かは聞き覚えのある声、エルフの老人、太田道灌であった。いや──。
「太田道灌殿、いやウォルター・ドルカーン殿。拙者は源徳長千代こと風神級長津彦様の代理として参ったでござる」
 友矩が気配を決して懐からキノコを丸呑みにし、舌を滑らかにする。
「江戸を黄竜から護る為、伊達を打ち払う為、何とぞ我らが源徳長千代殿に御助力くだされ」
「ことわるが、何故?」
「ウォルター殿もガーベラ殿と同じ事を聞かれるな。江戸の支配者は誰でも構わない、という事であるか?」
「伊達だろうが、源徳であろうが、代わり映えはしない。エルフに時の流れるを聞くのは無駄なこと。ちなみに彼女と違うのは、相手がデビルでも、ことわる事くらいかのう」
「あっそう、ついでだから教えて。実は江戸城はマサカド・タイラに関係する場所なのかしら‥‥」
 アイーダが漏らす言葉に、ウォルターの言葉に苦笑が混じるニュアンス。
「この大空洞は、古代魔法語が常用語だった時代より、幾重もの滅びを経て、尚かつ生き残った亡骸よ。ワシはそこに少々の細工をしただけ」
 古代魔法語が日常的に使われれていた時代。それはどれだけの昔だろうか。記紀やジーザス誕生といった古、いやアトランティスが地上にあったという時代より更に遡るのか?
「ウォルター殿、姿を見せられよ!」
 走った友矩が視線を巡らす、その鋭き視線の先にあったのはまったき空洞。
「風の精霊魔法で声を飛ばしていたか──」
 そして、江戸城では、退却した八王子勢への追撃の軍が編成される間隙を着いて、強行突破した一同であった。
「治療役、絶対必要よ」
 アイーダが宣言する。
 罠の解除には限度がある。毒や負傷に早期に対応するには僧侶やクレリックといった(別に僧兵や神聖騎士を蔑視しているわけではない)治療のエキスパートが必要である。
 今回、その手の罠に当たらなかったのは純粋な幸運であると彼女は宣告した。
 次も癒し手がいなければ、別の意味で坊主が必要になる。
 これが冒険の結末であった。