【源徳大遠征】大地の芽ぐみ【黙示録】
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■シリーズシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:10 G 85 C
参加人数:4人
サポート参加人数:2人
冒険期間:04月23日〜04月28日
リプレイ公開日:2009年05月05日
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●オープニング
江戸──4月。江戸城が半壊し、それを取りもどさんと、復旧の槌音(あまりはかどってはいないが)が響く中、冒険者ギルドに、府中城からの使者がきた。
「江戸城外で──伊織、と謎の老人を見たという報告があった。発見者は長安様の間諜だ」
傷を押して、府中城に戻り、報告が来るのが遅れた、それが徒となって、具体的な光景をしらべようとしても、単なる一流の月精霊魔法使いでは追い切れないほど、過去の情報らしい。
水干姿の伊織(男性の官衣であり、女性が着れば、自分を同じに扱え、という空気を醸造する)と、襤褸という伊織とは、あまりに対照的な布きれを身に纏っただけの老人、名は知れないが、老いて尚、腰は伸び。膝まで白髭を伸ばす老爺、であった。
どうやらジャパン語で話してはいないようであり、その間諜はふたりの位置を迅速に伝えるべく、走りに走ったのだ。そして、言葉を伝えて亡くなっのである。
「伊織は──強欲のダークロード、マンモンではないか? という事が囁かれている。何しろ実際にマンモンが伊織に姿を変じる場面を見たものがいない。その為、デビル論争で独眼竜の揚げ足をとろうにも、却って逆効果ではないかと、源徳サイドでは情報ばかりが一人歩きしている。
だが、死せる間諜は逃亡する間際に読唇術にて読み取ったひとつの文節があった。
黄竜──と。
「マンモンもやはり──ヒヒイロカネを望むか」
報告を聞いた大久保長安はくしも『も』と語った。老人が大山津見神、黄竜だと悟ったのだ。
「黄竜、大山津見神ほどの地の大精霊なら、魔法的にも大きな価値をもたらすヒヒイロカネの位置、存じておるか──」
長安の野望がヒヒイロカネの大鎧に身を包み、腰にはヒヒイロカネの大小を履くことだと公言している。
俗物。
「そして、マンモンが富を欲するのは──最悪の場合、マンモンのバックアップを受けた黄竜が江戸城を攻めるかもしれぬ。精霊が不死の怪物に身を落とすという話は聞いたことはないが、魔王ならその『もしや』があるかもしれぬ」
先行させた次鋒の間諜は、その襤褸を着た老人が、春の声聞こえる森の中へ消えていったのを見た。
「黄竜がマンモンの走狗になる前に、手を打つべし」
続けて発した言葉は。
「今回は千人同心を動かさず、伊達にはプロポルティア殿に陽動には向いているだろう。先日、助力を願えたばかりだ。デビル相手ならばいやとは言うまい」
重ねて長安は高尾山方面に指示を出す。こちらは雷王剣関係の様だ。
その上で、冒険者ギルドへの使者は少し疑念を漏らす。長千代君と智矩の姿が最近軍議でも見ない──何かあったのだろうか?
これが江戸大乱の終演の始まりである。
●リプレイ本文
葉月も暦の上から消え、いよいよ皐月の声も遠くない日々であった。
ジャパンは江戸、その更に一角は渋谷──そこで、熟女シフールの、ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)は、幾度となく、月精霊との契約の証しである銀色の淡い光に包まれ、過去を覗き『視て』いた。
果てしないトライ・アンド・エラーの果てに、(覗き視る時刻は、八王子勢の重鎮である、『大久保長安』の手勢が教えてくれた、可能な限り──あくまで可能な限り、であるが。このジ・アースに天界の時計のような精密な時間測定装置は無く、手勢も星詠みのような技能は持ってはいない)地の大精霊『黄竜』大山津見神と、伊織───否、欲望のダークロード『七大魔王』マンモンの対峙の現場をようやく探し当てていた。半分に満たない成功率を押して、彼女の得た言葉は何もなかった。
───読唇術的に───と、ヴァンアーブル女史は楽観していたが、この読唇術は忍者や、レンジャー、もしくはパラといった、隠密術に長けているものの技である。一朝一夕に真似が出来るものではなかった。
あいにくと、忍びの者に縁故が強い、結城友矩(ea2046)の仲間たちは初日で、勤めを終え、個々の日常に戻っていった、それが契約なのだから仕方がない。
仮にこの場にいたとしても、叶陣護も、入江宗介も、ヴァンアーブル女史の過去視には追従できないのだ。
物事を現実的に捉える友矩としては、いなくなった者に不平を言うよりも、今ある手勢で成功を運ぶ事に心血を注いでいた。
ヴァンアーブル女史が『視た』過去の場面の終焉は伊織が一匹の小さな蟲と化し、この場から立ち去り。大山津見神は淡い褐色の光に包まれ、地面の中へと溶け去っていった光景である。
伊織はおそらくはデビルの権能である、変身能力。
大山津見神のそれは、地の精霊魔法『アースダイブ』であろうとの見当はついていた。
文字通り『天に消えたか、地に潜ったか』である。
そんな中、カイ・ローン(ea3054)は愛ペガサスのメイの羽ばたきも勇ましく、空からスムーズに着地した。
「どうだい? 何か見つかったか。俺はマンモンの悪虐なる行為を見て見ぬふりは出来ないが──」
「いや、頓挫しているでござる。しかし──カイ殿、悪目立ちしているのではないでござらんか? 仮にも『青き守護者』のふたつ名を持つ身で──」
「友矩よ、言いたいことは判る。そんな事がマンモン相手にカイ・ローン、ここにありと触れて回っていると同じ事は、重々承知。だが、効率よくマンモンを発見するには、やむを得ないだろう」
他にもカイは、補助的な手段としてマジックアイテムである『石の中の蝶』も用いているが、これの探知範囲は『球』である、広範囲を探すにはうってつけとは、どうにも言い辛い。
しかし、時間が経てば、マンモンも大山津見神も、この渋谷にいるとは限らない。
愛馬の背中にブラシを当てながら、カイは──。
「俺は人間なので優先順位は人間が一番。だから、神や精霊がいる世界で、たかが人間に乱され不和が生じるというのなら、所詮それまでの世界だったということ。人間が何かしなくても、いずれダメになるのは変わらない」
とてもではないが『聖なる母』から、加護を授かった人間の口から出ていい言葉ではあり得ない。
「『諦めない限り、可能性はいつだってある』と語る、その口で、人間を『たかが』と断じるでござるか───」
友矩の言葉にカイは苦笑いを浮かべた。
(大地の叫びが聞こえるねぇ? ただの被害妄想なんじゃあ‥‥そうでなくとも、始めて聞いたときから長い年月がたっているんだからどうってことはないんじゃないの? だって、そんなに悪いなら、他の精霊や神だって警告するんじゃないのかな?)
と、黄竜の行動原理を聞いて心の中では思ってしまうカイ。
「そろそろ、動いた方がいいわね」
“コールドスナイパー”アイーダ・ノースフィールド(ea6264)が、ヴァンアーブル女史の見たという、多分マンモンだろうという、伊織が移動した先を探っていた。さすがに穏形は玄人はだしである。並みの武人ならば、それと気づく前に彼女の必殺の間合いに滑り込まれてしまうだろう。
そしてアイーダの腕は長い。
「大精霊と魔王が手を組むなんて、洒落にならない話ね。
でも‥‥正直力づくでどうなる相手でもないわ。
私達の中に交渉のスペシャリストは居ないし‥‥あとは情報で先んずるくらいしかないわね───それも、遅れを取ったけど。あ、ヴァンアーブルが悪い訳ではない。それは重々承知よ。
でもね──結果が出ないと」
微妙な表情の移り変わりをアイーダは覗かせる。
「マンモンはヒヒイロカネを手に入れたいみたいだから、できればそれを横取りしたいわ───できれば‥‥だったけど、過去形で言うのは正直悔しいわね」
「やれやれ、アイーダ殿はスケールが大きい。確かにブラン───ジャパン風に言うならばヒヒイロカネなど望める最良の材料であろう、もっとも鉱石があったところで、それを打ち直す事の出来る鍛冶師がいれば───でござる話であるがな。拙者もヒヒイロカネの得物は見てみたい。───もっともそんな事を言っているとマンモンにつけ込まれてしまうかもしれん。剣呑、剣呑」
デビルと幾度となく対峙した一同はその友矩の言葉がどれだけの深みを持って発せられたか、容易に察することが出来た。
そして、決してマンモンの欲望に負けまいとする『いくさ人』の意地を感じざるを得ない。
「マンモンとの共闘を、黄竜に思いとどまってはいられない、それだけの事で、これ程の騒ぎになるのでござるか──」
「カイどのは知っておられれような、先日、黄竜殿が江戸城で大空中戦を繰り広げた異形の魔獣を。それは地竜プロポルティアの事でござる。そのプロポルティア殿はつい最近まで封印されていた。江戸城にてマンモンがその封印を解こうとしていたでござる」
「ほうほう、それは?」
カイが指輪の中の微細な振動に神経を集中させる──感あり!
「間一髪、某等がマンモンの魔手より奪い取りヴァンアーブル・ムージョ殿が解呪したでござる。
正直、マンモンの真の狙いは判らぬが。強力な地竜を配下に加えんとしたマンモンの狙いは地脈の操作でござろう。
黄竜殿、マンモンの言いなりなれば必ずや再び地脈は大きく乱れるでござろう」
カイが合掌し、瞬時に純白の極まりない、淡い光に包まれる。
服芸の上ではカイの方が格上である。洋の東西を問わず、武士、貴族の嗜みとして、様々な社交術を身につけてはいるが、武士として格落ちした友矩と、慌てて、尚かつ、『石の中の蝶』に反応して、それを一同にさりげなく伝えるカイとでは、若干の温度差があった。
不穏な空気を感じた───
一体の犬の様なデビル、ジャパン固有種らしき『邪魅』であった。全身から黒い霧に包まれた様な状態である。
狙うはアイーダ。神業とも言える、アイーダの縄ひょうの技の冴えに破魔の力を宿すべく、に桃色の淡い光と共に闘気が集中していく。扱いの難しい得物を敢えてえらぶ当たり。さすが魔物ハンターである。
しかし、刹那に呪文を発動させるだけの魔法の高速化技術を有していない彼女は、カイが愛杖から、白の神聖力を引き出して、対魔法絶対防御を為そうとするのには間に合わない。
それを窺う、ヴァンアーブル女史はタイミングを見計らい、視界を遮るべく、シャドウフィールドと行きたい所である。しかし、仲間の為が前提となるため、本末転倒に仲間も巻き込んでは洒落にならないため、タイミングを見計らっている。
呼吸の音が脈動のリズムと入り交じり、戦いがヒートアップしていくのを、彼女の詩人としての語彙では、形容できないとしか形容できないほど、ヴァンアーブル女史は感じていた。
黒い霧に包まれた邪魅、進行方向に友矩が立ちはだかる。
ここなら──気絶するやもしれん。
そう狙いを澄まし、首筋に鋭い痛撃を浴びせる。
胴田貫の峰打ちである。
「む、立ち上がるか?」
邪魅は黒い霧に包まれていた。
勝つために、限界を超えたあらがいをしようとしたのだろうが、彼我の戦力差がどの程度か、予測も付かなかったと見える。
「くくく、俺が今、聞いたことはマンモンさまに伝えられた。面白い事を聞かせてもらった──あれ、地獄に帰れない、何だよ、このまま死ぬしかないのかよ!? ファック!!」
アイーダの縄ひょうがうなり、動きを封じた所にメイの鞍上から、ゲイボルグの致死の一撃。それが最後の一線であったようだ。
六道の輪廻の辻を踏み外した哀れなデビルども。地獄で直接死ぬか、自身の秘められた力を解放するか、そして死ぬか。ふたつしか修羅の道を逃れる術はなかった。
ため息をつくアイーダ。
「自分でやっておいて、アレだけど、マンモンが伊織なら、江戸城に危険を冒して忍び込む。という手はあったのよね」
ため息をもうひとつ。
「でも、黄竜さん──何か今のまま人間が変わらないと何もかもくらい尽くしてしまいそう、カイと反対の意見だけだわさ。
あの人の其の前に変えなきゃなのだわ」
「しかし、黄竜と遭うどころか、マンモンの手下を通じて、プロポルティアが地に纏わるものだと知られてしまったのは痛恨。以前の競り合いを見て、自分と同じように強力な重力操作の技を持っているのみならず、それ以上の何かである事に気づかせてしまった。拙者が当たっていれば、マンモンは竜脈を操るのに有望そうな鍵を手に入れようとするかもしれぬ──」
拳を血の色が無くなるまで強く握りしめる友矩。
腹を召したい───士道不覚悟である。しかし、今自分が腹を斬った所で喜ぶのはマンモンだけだろう。
ヴァンアーブル女史も涙を滲ませる。
「私は黄竜さんに、現在のジャパンのことを説明して、それで私の意見を聞いて黄竜さんに選択して欲しいと思うのだわ。
デビルと手を結ぶだけしかないと思われているのが悔しいし。
イザナミさんと仲良くなりたいこと、私の友だちの二代目タケミカヅチさんのこと、タケミナカタさんが身を寄せる駿河の北条さんのこと。
人と神はまた新しい規範を作ってやる直せるかもしれないだわ。
黄竜さんも窮地の源徳さんに手を貸せば、現政権を打倒してもう少し世界に優しい人のあり方にもっていけるかも」
これは内情を知らない異国人の考えである。政治の現政権はあくまで朝廷である。武士、武力階級は家臣。幾らあがいた所で、神皇にはなれない。だから、源徳の様に、神皇に自らの血を残し、影響力を手に入れる。しかし、その源徳家の隆興も源徳家そのものが、秀吉の顔を潰し、神皇の明確な停戦を無視した。国主としての地位も、危うい。
アイーダは、なんとかして太田道灌にマンモンと黄竜の共闘を伝えておきたかった。
しかし、『なんとかして』の五文字がこれほど重く感じられたことはなかった。
江戸城の陰陽師達は太田道灌に従ってるみたいだから、マンモンが黄竜に江戸城を売った事がわかれば、対応するかもしれない。
帰りがけに府中で、大久保長安に何とか連絡がつかないか、頼んでおく。
「思案がなければ、その先は諦めた方が良い」
そして皐月が来た。
これが冒険の始まりである。