マリオネットたちへ愛をこめて

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 59 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月27日〜06月04日

リプレイ公開日:2009年06月05日

●オープニング

 江戸の冒険者街に加わったルーキー、青い髪のアルテイラの少女ガーベラ(東洋では“かぐや”と呼ばれている精霊だが、西洋出身の為、こう表記する)と、そのパートナーである古代の地属性の上位ドラゴンの骨をベースに合成された全長20メートルの規格外キマイラのプロポルティアが、この富貴汚濁に塗れた街で過ごし始めて若干の危機感を感じ始めていた。
 一部の冒険者は自分の出来る範疇で便宜を図る、と言っていたが、さすがにマンモンが竜脈を弄る材料に転化可能な、やっかいなシロモノとあっては、個人でどこまでフォロー仕切れるかはなはだ不明。
 冒険者街はさまざまなペットを抱えているが、さすがに悪目立ちする。
 マンモンと伊達と、陰陽師達のアクションが読めず、ガーベラ自身も危機を感じて、冒険者酒場の卓などで、江戸を出ていくのに、何か良い方策はないかと思案げにしているが、一朝一夕で思いつくものではない。
 当然、伊達もここまで巨大な存在が江戸の街にいるのに気づかぬほど、戯けてはおらず、エキセントリック───あるいは、お節介が揃っている冒険者街に、自分から火種を放り込み、大火事になるのを恐れているようだ。
 だが、これも冒険者街にいる間だ。
 伊織───マンモンが手出しをしないのも、時間の問題かもしれない。最近、伊織も表に姿を現してはいない。
 大山津見神───黄竜の出方も判らない。竜脈を弄れば、その出方次第で、敵にも味方にもなる鬼札。
 ウォルター・ドルカーン───和名を太田道灌が、どの程度、江戸城地下の陰陽師を掌握しているか───江戸の陰陽師達は知識を共有する為なら、ひとりがデビルに魂を捧げる事も厭わない、狂信者揃いらしい───これもまた不確定である。
 名を変え、所を変え、誰も表舞台に出ようとしない。
 確実なのは江戸の冒険者ギルドにガーベラが出した、プロポルティアの江戸からの脱出先の斡旋も含む、現実的な脱出計画を立案、実行に移せる精鋭冒険者にお呼びがかかったという事である。
 もし、真にプロポルティアが竜脈に関する重要な要素ならば、誰かが独占する事は危険である。抑止効果になる───手形を実際に切ってみるまでは。
 時代の操り人形の冒険が始まる、糸は絡まったまま。

●今回の参加者

 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb4646 ヴァンアーブル・ムージョ(63歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 eb4802 カーラ・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ec0129 アンドリー・フィルス(39歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

 江戸の冒険者ギルドの奥で、議論は静かなれど、確実に白熱していた。
 議題はプロポルティアと、アルテイラの少女、ガーベラをどこに落ち延びさせるかにあった。
 天下の大猪、結城友矩(ea2046)が主張する所は──。
「拙者の顔がきくのは八王子と高尾山でござる」
 と切りだした。
「ご存知、八王子の源徳長千代こと経津主神様と大久保長安殿とは、拙者懇意にしているでござる」
 と、具体的な人間関係の確立によって、更に言葉の種に、光と水を与えていく。
「また高尾山の大天狗殿ともご縁があるでござる、人の争いに関与したくないのであれば、高尾山がお勧めでござる」
 もちろん、知っている顔だからと言って、この様な存在を、移動させるのに縁故の誼におんぶに抱っことは考えず、話が決まりしだい愛馬を走らせる決意であり、準備も整っている。
「疲れた‥‥とりあえず茶を一杯」
 そこへ熟女シフール、ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)が申し訳なさそうに江戸城から帰還した。
 別に伊達サイドと誼を結んだのではなく、月道を使って、京都の『鉄の御所』へ、プロポティアとガーベラを引き取ってくれと、酒呑童子に直談判しに行こうとしたが、京都の治安はヴァンアーブル女史の想定以上に堅かった。ヴァンアーブル女史はテレパシーの届く距離にまで近づけなかったのである。
「どこも彼処も、エラい大義やな」
 それだけ、ヴァンアーブル女史は必死なのだ。
 とはいえ、後になって、この京都に向かう選択の準備がトラブルを引き起こす事になるのだが──。
 アイーダ・ノースフィールド(ea6264)は、ヴァンアーブル女史の言葉の端々から達成感ではなく失意を感じ取り、友矩の案に一応の賛成をする。
「確かにこの日数だと、高尾山が妥当」
 逆に言えば日数さえあれば、別の思案もあるという事だ。
 そのアイーダの最終的な目標と胸に納めているのが、沖ノ鳥島である。
 しかし、それだけの遠洋航海をこなせる人材がどこにいるのか? 少なくとも1000kmを越す距離であり、そこらの腕の立ちそうな船乗りに頼んで連れていってもらえる場所ではない。
 更に事実上の無人島であり、行っても船としても交易による収入は望めない。
 これだけの悪条件が揃っていれば、要求される金子は大枚という言葉が似つかわしいだろう。
 対して彼女の所持金は金貨1枚と少々。
 だからアイーダは口にしなかった。
「友矩さん、高尾山の場合、目立つ手段で行けばデビルや、皇虎宝団の忍者に襲ってくれと言ってるようなものよ。
 手持ちの富士の名水を全部提供していいから、月の出る夜にムージョさんやガーベラさんにムーンシャドゥを連発してもらって、高尾山まで転移してもらうのが、一番安全だと思うわ」

「デビルも大名家も醜いものですね。
 ここはひとつ何とかしてあげたいところです」
 カーラ・オレアリス(eb4802)が突き放すようにいう。
「受け入れ側との交渉もありますので、一先ずの逗留先は高尾山。
 もっとも、対話の糸口があるとして、京都を目指すならば、陸路で甲斐から駿河と行き、海路で伊勢まで渡り、再び陸路で比叡山を目指すルートはどうでしょう?
 第六天魔王のいる岐阜を避けるのと、様々な怪物や精霊に寛容な、駿河や伊勢をルートに選択しておき、今後の交渉次第での支援の余地を残しておきます」
「ホント、カーラだけではなく、冒険者はみんなお節介焼きね。
 私もその一人かしら?
 とはいえ、マンモンや伊達さんの手中に落ちて独占されるのは、いただけないから何とかしましょうか」
 その言葉を放った、シェリル・オレアリス(eb4803)は一瞬唇を噛んだ。独占されるのはいただけない──そこから、平易に予想される言葉は、否定的なニュアンスを含んでいた。
(やれやれ、困った事ね。みなを救う為に、ひとりを捨て去るなんて。敵も味方もまとめて救うのが弥勒菩薩の使徒としての道だとしても)
 曰く、アンドリー・フィルス(ec0129)──。
「先程の話から総合するに、成る程、ではあの女がマンモンと云う訳か。
 難儀なことだ。だが全力は尽くそう」
 ガーベラがアンドリーを拝み倒す。
「ほな、よろしくたのむわ、センセー」
「そう呼ばれるガラでは‥‥」

「まー新月なのはしゃーない」
 ガーベラがぼやき、決行は幾日かずらされた。
 ヴァンアーブル女史がムーンシャドゥの魔法を使用する為の、絶対条件である月光が、月末の新月を挟む事でよりずれ込んだ為である、月影を創ろうと布地を準備しているアンドリーなどもいたが、月光が無くては無意味な事であった。
 友矩は月の無い夜こそ好機──と、主張していたが、一同の団結は固く、次の日に持ち越された。
 カーラはミミクリーで、ガーベラを少年体に身繕いし(シフールでもないのに青い髪は、通常ならあり得ない)、しかし、幾ら変形させた所でプロポルティアをスモール・フォルスそっくりにした所で、倍以上体格差はあり、残念な事に偽装の役にはあまり立ってはいなかった。
 新月の中をヴァンアーブル女史の歌声も響き、銀色の淡い光に巻き込まれて、一同は闇の中に吸い込まれる。
 次々と淡い色の光に包まれれば、いらぬ関心も呼ぶ。
 ともあれヴァンアーブル女史は合間合間に魔力を快復させる貴重な品々を湯水のように使い、アンドルーは、フライで何とかプロポルティアに追尾する。
 そして朝が来る。
 一同は昼間の間、プロポルティアの巨体を如何にして隠すかを思案していなかった。
 ある時は、カーラのデビルでさえ、丸め込めそうな論法で。
 また、ある時は、アンドリーの剣技にものをいわせ。
 最終手段、ガーベラの力(銀色の光に包まれない事から、魔法ではないのだろう)で魅了し、進んだ。
 しかし、時の切れ目が冒険の切れ目。一同は高尾山に着く前に、小田原城近くで江戸へと帰還せざるを得なかった。
「残念でござるが、拙者が向かった高尾山の方でも、受け入れは拒否されでござる」
 冒険者ギルドで先行し、高尾にプロポルティアの亡命を打診するが、短期的な逗留(具体的な時間は一ヶ月、)が限度。
 確かに今、天狗の隠里では、黄竜が天井を突き破って出ていった為、大穴が空いている。
 とはいえ、女子供もいるのだ。
 大天狗の様な例を抜かせば、天狗は個々人では大抵の人間に勝利するような、戦闘力を秘めている。
 それでも、個体数は少ない。
 大天狗、大山伯耆坊はだからと言って、山伏に命をかけ、プロポルティアを守れとは言えなかった。
 一応は伊達の直接管理下からガーベラ達を出す事には成功したが、あまり良い後味とは言えなかった。
 これが冒険の顛末である。