【経】どんな敵でも味方でも構わない
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■シリーズシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:21 G 72 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月12日〜06月27日
リプレイ公開日:2008年06月23日
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●オープニング
水無月、電光石火の進撃で府中城を占拠した八王子軍一千強は、伊達の軍勢、おおよそ二千騎強を目の当たりにしていた。驟雨の中、定かではないが、攻城道具を持ち合わせている様だ───故に動きは鈍い。
落とした平城に包囲された八王子軍の元に、伊達軍は江戸城救援に引き返しており、府中の包囲は見せかけとの情報が入る。
「江戸城の救援とは?」
「里見が江戸を攻めた由にございます」
それが真実とすれば、好機である。危険であるが更に武蔵中部へ攻め入るも良し、ここは一端八王子に退くも、小田原の救援に向かうも可能である。当然、下手に動かない事も選択肢の一つ。
「どうなさいますか───経津主神様?」
兜を脱ぎ、烏帽子を頭に乗せた、八王子代官大久保長安(おおくぼ・ちょうあん)は軍神『経津主神(ふつぬし)』との軍議に先立ち、内心を問い質す。
「房総がどうなっているか、それが判らぬとな───」
この頃には房総戦はひとまずの決着を見ていたが、云わば敵地の府中では詳細な情報を知る事は出来ない。各藩の忍びの者も暗躍し、流言飛語が飛び交っている。義経が動いたという話も、どうなった事やら。
諜報の点では、八王子軍単体ではまだ伊達や各藩には及ばない。源徳家の服部党等は平織への対応に忙しいと聞く。
「情報は欲しいが、待てない。戦い続けることが我らの証しだ。
十番隊の兵百を以て、この城に我らが籠城していると見せかけて、残り九百で包囲を破る。囲みが見せかけなら、この機に武蔵を切り取ってみせよう」
先日の様に手短に勝負がつく戦いではない。伊達の同盟者である上州の新田や、甲斐の武田が背後から八王子軍を脅かす危険もある。各藩の行動を全て予想するなど不可能であり、現時点で答えなど無い。だから長千代の決断が正しいか誤りかも今は判断できる時では無い。
江戸の後方を扼するのは、伊達の伝令を分断し、江戸城を丸裸にする為───その為には手練れの忍びの兵の外での戦いが生死を分けるだろう。
それが誰の生死か、将か───兵か?
状況は平地での戦い。しかし、梅雨は容赦なく大地を啄んでいく。
●リプレイ本文
───払暁。
「拙者が血路を開く。皆の者ついて来い!!」
伊達の布陣に対し、獅子吼する結城友矩(ea2046)は愛馬『左門』に跨りざまに、ヴェニー・ブリッド(eb5868)が指示した熱反応の最も少ない地点目がけて猛禽を思わせる剽悍ぶりで、一騎がけの華を咲かせる。
それでも指揮官はいた。
「何者だ!? 我は伊達家家臣、衣良幹三なり」
「名乗られて問わぬはおこがましいが、拙者は天下の大猪、結城友矩、己を天下一の猪武者と号しているでござる。拙者の名前を引導代わりと知るでござる」
追い打ちの様に鉄風が幹三を襲う友矩の胴田貫。
避けきれぬと知って受け止めた所までが友矩の読み通り、刀を砕き落とし、幹三に肉薄する。
馬上の友矩に、まだまだとばかり開いた左足を軸に蹴りを放つ幹三。しかし、防具と魔力の壁に阻まれれる。
「素手で破れる程、拙者の防御は甘くないでござる」
囲みを一呼吸で噛み破った友矩に呼応するが如く、府中城から進発するは、アンリ・フィルス(eb4667)と兵300であった。
千人同心の内、萩原家、上窪田家、上窪田別家を率いるが、アンリの指揮に軍勢は思う様に動かない。アンリが如何に卓越した戦闘能力を誇っていても、他人に下知し、集団を統制する能力はまた別である。士気統制は武士や騎士の十八番だが、アンリはこの方面は明るくない。優れた武芸者が優れた指揮官足り得ない事を、アンリは肝に銘じるのであった。
初歩をかじった身に、数百名の指揮は荷が勝ちすぎた様である。
アンリは兵300の指揮権をそれぞれの部隊に返上し、自分は鬼神の如く荒れ狂った。
オーラエリベイションを付与して突撃する。近頃アンリは各地の戦場を連戦し、その勇猛は鳴り響いている。雑兵は彼の姿を見て逃げ、また飛び道具が降り注いだ。敵の攻撃は回避せず、急所を避けつつも受け止めるのだが、死角からの攻撃は反応出来ないし、戦場で怖いのはまぐれの一撃である。アンリの体力は底なしだが、それでも累積すれば身体への負担は相当なものになる。
鋼鉄の嵐が乱れ飛ぶ中、魔力の温存の為、取っておいたオーラシールドを展開。これ以上の流血を避ける。戦場では巨竜も屠る勇者があっさり落命する事もある。激戦を転戦したアンリも些か思う所はあったが、それで生き方を変えるかと言えばまた別だろう。
そんな中、友矩は府中城にとって返し。
「敵陣はもぬけのからでござった。欺瞞でござる」
と、報告し───。
「我らを甘く見た酬いは、奴らの血潮であがなっていただこう」
───更にそう続けた。
経津主神───源徳長千代?───出陣すると号を上げ、出いくさに沸き立つ府中城の中で、黒崎流(eb0833)は経津主神の許しを得て府中に残る。
前線基地を固め、敵がこの地の奪回に動くなら本隊と共同して出血を強いる心積もりであった。
「ただ待つだけでは面白くないから、城の改修なども出来る範囲で取り組もうかと。
堀があるならより深く掘り直し、その土で土塁を盛って板塀を埋め込む。
人手さえあれば比較的安上がりで外郭強化出来る」
後方、八王子との連絡や補給線も今の内に強化出来れば。
これ以上戦線が延びた時に後方が心許ない。
カラット・カーバンクル(eb2390)は主水のパートナーとして、間者避けに『リヴィールエネミー』を試みて、魔力は枯渇気味であった。
人足や後方の支援を広く集めた結果も二律背反であった、いざという時の火消し用に『プットアウト』の為の魔力もキープする必要があり、飯番にと名乗りを上げたが、ひとりの人間に出来る事には限度があった。
ようやく息を抜いて、主水と共に府中の街をそぞろ歩く。平服で平穏な日々を暮らす人々を見て歩くが、伊達軍が重用した民兵が、府中城の守りに立てられた結果、源徳の兵に討たれたり。疫病の様に人々を熱狂させた、源義経による若い層の枯渇などあちこちに歪みが出ている。
「やはり───いくさは何も生み出さない‥‥‥」
カラットは、主水の背中にこつんと額を当ててそう呟いた。
一方、前線では経津主神が百人斬りを行い、伊達の戦線を崩壊させた。
甲州街道にて高比良 左京(eb9669)は些か鬱屈した心情で───。
(「こういうのは本来忍びの仕事だろう。仕官したてだ。しょうがない。此度は裏へまわるか」)
些か時間は遡り、敵陣突破の前日、府中城からの使者を装い、府中城より馬で八王子方面へ馬首を巡らせる。八王子近くまで付いたらば大きく府中城を迂回するルートで伊達軍の背後へまわる。伊達本陣と江戸城を結ぶ街道上に陣取り伝令を待ち伏せるのだ。
敵の伝令に見つからぬ様、物陰に隠れ息を潜める。けたたましい伝令の気配を感じると街道へ飛び出し斬りつける。
しかし、穏行の業に長けても居ない為、そうはうまく行かない、相手に警戒をさせてしまう。
「悪いな。これも仕事だ。命乞いは無駄だぜ。そういう指示だ」
返り血を浴びないよう計算するが、左京は頭脳労働者ではないし、特別体術に優れてもいない。よって、返り血を少なからず浴びてしまう。全力で斬りつけた一撃とはいえ、隙が大きくなり、重傷を負わせ引き倒すまでにはいかなくなる。伝令は法螺貝を吹き鳴らし、後続と周囲への注意を喚起する。そこへ突き立つ無数の矢。
アイーダ・ノースフィールド(ea6264)であった。
江戸城攻略戦に参加したものの、残念ながら本丸を落とせず、府中に行きがけの最中に出くわしたのであった。
「助かった」
「そう───よかったわね」
私の今回やるべき事は、伝令狩り・忍者狩り。
「まったく、江戸城の時にも伝令を潰しておけばね。府中から軍を返した伊達の逆襲は間に合わなかったはず。
同じ失敗は繰り返さないわ」
里見勢の冒険者達は府中の伊達軍は八王子と睨み合って簡単に動けないとたかをくくっていた。府中と連絡も取らずにそう判断したのは甘かったとアイーダは反省している。
左京は頷きながら、伝令の頚動脈を切り裂き確実に止めをさす。刃を鼻先に当て曇らぬこと見て、息を引き取ったと確認してから懐を漁り密書を奪おうとするが、どうやら口頭での連絡らしかった。
「これでは、まるで悪役だな。辻斬りにでもなった気分だ」
後程、敵の囲みを破った本隊と合流し大久保長安へ報告する。
「今後、伝令はなるべく活かして捕らえよ───活かしてこそ使い道がある事もある。軍資金も無限という訳ではないのでな。これは全軍に徹底させよう、ともあれ、ご苦労であった」
ふたりに労いの酒を一献傾ける長安であった。
こうして府中というのど元に槍の穂先は擬されたまま、長月を迎える事になる。
アンリの提案した、経津主神への氏子に関する檄は、今の結果は判らない───勝ち続ける事。それが本当に神の証明たり得る事になるのであろうか?