【源徳大遠征】罪の剣、咎の刃【黙示録】

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月16日〜09月21日

リプレイ公開日:2009年09月27日

●オープニング

 9月、京都。
 雷王剣を手に入れた冒険者達は呼吸を殺していた。
 琵琶湖から引き上げた雷王剣が帯びていた魔力、それは風。しかし、鞘が帯びていた魔力はデビルに由来する力であった。
 共にブラン──ヒヒイロカネで造られた、汚れを知らぬ白さ。
 ともあれ、デビル魔法を帯びている者が、この京都で露見されれば、直ぐさま捕縛されるであろう。
 ましてや献上などとは‥‥。
 この八方ふさがりに思える状況を打破するには幾つかの手があった。
 まず、他人の力を当てにする方法。具体的には陰陽寮を頼る。
 ジャパン魔法の総本山とも言える、この集団ならば、高い確率──しかし、成功は保証しない──でこの雷王剣の解析をしてくれるだろう。
 一方で、情報は(限定的ではあるが)公開され源徳の献上品というブランド性に少なからぬ瑕をもたらす。
 冒険者達が初期段階で危惧していた、雷王剣による呪詛という可能性があるからだ。
 如何にそれを解消したとはいえ、献上品としてあまり的確とは言えない。

 平行して行うべき策として、大久保長安──この鞘を準備していた当人に何か、鞘について情報を知らぬか、月道で使者を往来させて確認する事かもしれない。
 長安当人の弁では、西洋にいた時に、手に入れた品だという。そこに何か打開点があるかもしれない。とはいえ、長安自身が魔法に長けているかどうかは話は別である。如何に名剣を振るにしても、そのよりどころとなる製造技術を知らなくても、問題はない、という事だ。

 一番穏当で、一番波風の立たないやり方。それは自力で雷王剣と鞘の分離を試みる、である。これは尋常ではない力量の知識に長けていなければ、意味がない。
 無論、費用と時間はそれなりにかかる。

 ひどい方法論としては、御所から村正を処分、あるいは盗み出す事か。
 これで時間稼ぎをするのは、御所に入り込む必要がある。
 前提として、非人間的なまでに穏行に長け、物理、魔法ともにだ。
 加えて、どんなシチュエーションでも、見つかった時点で確実に脱出できる様な、世界に何人いるか、あるいはいないかのような存在である。
 できれば、9月の事に関しては有耶無耶に出来るだろう。できれば‥‥で、あるが。

 選択肢は冒険者の金子と時間とで、制約される。他にも道はあるだろう。
 とはいえ、村正の献上は9月中という事。
 時間は限られてくる。
 刃を巡る冒険が始まった。

●今回の参加者

 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5985 マギー・フランシスカ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb3227 フレイ・フォーゲル(31歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb5375 フォックス・ブリッド(34歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec5084 叶 陣護(35歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec6384 フェザー・ブリッド(31歳・♀・ジプシー・エルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

「いえ、それはございませんわ、マギー殿」
 シェリル・オレアリス(eb4803)はマギー・フランシスカ(ea5985)の疑念。
『鞘』がデビルの擬態した姿──近年になって、確認された武具の姿を取るデビルのタイプではないか、というものを否定する。
 生物として最高の極みに達したシェリルのアンデッド感知(現に今も発動している)に『鞘』が引っかからない事が根拠。
 更にスクロールの使用によって、悪意は感じられない。雷王剣からは風の精霊魔法を、鞘からはデビル魔法を感じる。
 更にその上で、ニュートラルマジック、リムーヴカース、レジストデビルといった彼女に出来うる最大の防御手段を講じ、ホーリーフィールドで守りを固め、サイコキネシスで鞘から剣を抜こうとした所で、ここまでやってもデビル魔法が存在し続ける事で断念。
 また、マギーの、あらゆる魔物に関する知識は、その類のデビルが下級であり、探知を免れる様な知性と、雷王剣を押さえ込むだけの『格』が無い事を教えていた。
 デビルが昇格するには千年紀単位でもまだ足りない程の時間がかかり、去年の末に地獄から出てきた様なデビルでは相応の、魂を集める事が出来ないはず、だというのが、結論。
「魔法がかかっているなら、リムーヴカース、ニュートラルマジックという手順が必要じゃて。まあ、最大の魔法の使い手が、ここにはおる。その点は心配は必要なかろう」
 雷王剣ごと鞘を持ち出す勢いで飛び出していった結城友矩(ea2046)が、戻ってきた。
 色々とツテを頼って、魔法の専門家に分析を依頼していったのである。
「今戻った所であるが、マギー殿、拙者が行った事と意見が違う様でござる。雷王剣は認めた主以外、『抜けない』のではなく、『抜くと災いをもたらす』のでござるよ」
 千両の資金により、様々な研究施設と手を結んだ友規。
 分析をそこに委ねようという。
 シェリルも神聖力による儀式魔法を考えていたが、マジックアイテムを作るに等しい作業であり、物が物だけに月単位でも足りない。当たり前の話ではあるが、レミエラの異常さが際立つ。
「まあ、単純に錬金術の分野かもしれないですし」
 エルフにして、当代随一の錬金術師、フレイ・フォーゲル(eb3227)が断言する。錬金術の腕は最強である。
 しかし、今の環境は分析に適しているとは言えなかった。
 もちろん、友規の交渉が成功したのは、このフレイの手腕を近くで見たいという施設側の意向。有り体に言えば、目で見て盗むの実践であった。
 少なくとも鞘にデビル魔法のコアとなるような箇所はない。強いて言えば全部である。
 ゴーレムの様にコマンド待ちという訳ではない。
 フレイの感触では、以前に高尾山から抜いた時は百年以上、精霊力が放置されていたので、抜こうとした人間そのものを触媒として溜め込まれたものを解放して周囲に雷を出したのではないか、と推察した。
 もちろん、剣の主が当時に抜き手が怪我を負わなかったのは、剣が恣意的に選んだ可能性が大きいのかもしれない。
 そこで困るのは『では、剣の意識はどこにやどるのか?』という点である。
 これも明確なコアなどない。
 世の中には、因果律に割り込んで、自らの造られた理由を果たすべく、所有者を『招く』という得物もあるらしい。
「あなたが顔を繋いだ、その研究施設には工房などはありますか? 友規さん」
「もちろんでござる。ソルフの実もいくらか常備しておるので、その使用権も買って来たでござるよ」
 術者にすればソルフの実は生命線である。イギリスでしかとれないというが、最近ではジャパンでも手にはいるようだ。
「私の手腕ではブランを溶かして、再構築するには少々力不足ですので、皆さんの協力をお願いします」
 フレイは品の良い笑みを浮かべた。
 シェリルもほほえみ返し。智矩を介して、接触した服部党からは『伊織動かず』の報しか返ってこない、それを頭の中でリフレインしていた。

 叶陣護(ec5084)は冒険の初日に、矩から手紙を預かり、月道で京から江戸へ移動。江戸に戻るが早いが、馬をとばす。
 そして、八王子勢の根拠地に着く。無論戦乱の江戸を突破できただけででもひとつの冒険譚となる。
 長千代に頼み込み、同席の場で預かった手紙を読み上げ、大久保長安に問いたした。返事を貰わぬ限り京都には帰らぬ覚悟で。
「僭越ながら──雷王剣は無事回収したでござる。
 また柳生智矩も無事保護したでござる。
 ただし智矩は賊と闘った時の傷が元で記憶喪失状態でござる」
 ここで、長安も長千代も大きく動揺したのを感じる。
 陣護はそれに居住まいを正し。 
「大久保長安殿にお聞きしたい事あり。
 湖底に沈む雷王剣の位置を確定する為にリヴィールマジックを使用した際、術者が剣からは風属性を検知。
 鞘からはデビル魔法を検知したでござる。
 デビル魔法を帯びた品を献上する訳にもいかず事態が膠着したでござる。
 このブラン製の鞘は長安殿が用意されたと聞いている。鞘を入手した経緯をお聞かせ願いたい。
 以前欧州遊学中に手に入れたと説明されたらしいが果たして本当だろうか。
 そもそもブランで鞘を作るなど本来有り得ぬ事。
 この鞘一つで名剣が二三振り作れる。
 ならば雷王剣同様に強大な魔力を秘めた剣の魔力を封じる為に一揃いで作られたはず。
 それが鞘だけ存在するなど腑に落ちぬ。
 以前黒川金山よりブラン鋼を奪取しましたな。
 輸送中にマンモンに奪われてしまったが。
 あのブラン鋼を精製すればこの鞘を作る事が出来るでござる。
 拙者は長安殿がマンモンと取引して鞘を入手した可能性に思い至り戦慄を禁じえないでござる。貴殿は源徳家を潰す御積りか」
 長千代は一瞬、目を瞑り。
「長安、存念を聞こう」
 静かに訪ねる。
 長安は不敵な笑みを浮かべた。
「たしかにあの鞘はイスパニアにいる時に買った品。
 自分も白エナメル弾きの品など話の種になるだろうと、ジプシーから買ったものである。
 後に子細に見聞して、ようやくヒヒイロカネであると判った品でござるな。
 確かにデビルが関わる品を贈答品に送ったのは拙者の眼力のいたらぬ故。
 しかし、ヒヒイロカネで魔法の品を作れるのは本当に一握りの世界でも屈指の実力者のみ。
 鍛え直すにも国が傾く故、兵の編成を優先して放置した品。
 雷王剣の事があった故、活用のめどが立っただけでござる。
 ここまでこちらの弁明を聞いた以上、拙者が、この品を源徳家を傾ける為に送り込み、ましてやマンモンなどと手を結んだという根拠は? あるいは荷駄を盗んだという根拠は何処に?
 例えば、荷駄を盗ませる様、指示を出した証拠、証言なり、物証なりの、いずれかを提出していいただきたい。
 辻褄があっているというだけの状況証拠を理由に、消えたヒヒイロカネを横領して、あまつさえマンモンと手を結んだたという告発。
 それこそ、そなたが手紙を託された、結城友規こそが武勇を盾に源徳家を割ろうとしている咎人であると、告発したい所である。
 もちろん、物証は陣護殿が委ねられた手紙がそれ」
「長安、慎め」
 長千代がさらりと言ってのける。
「次は互いに物証を準備せよ」
「こちらの物証は陣護どのに託された手紙ひとつ。それだけで十分でござる」
 長千代は戦乱の中、あえて先送りにした。
 誰が悪魔と手を結んでいるか、は厄介な話である。ムーンアローなどで『マンモンと契約した相手』と指定し、仮に命中しても無意味だ。魔法による探知には証拠能力が無いばかりか、逆効果である。
 善良な者を魔女に仕立てて人の手で殺させるのは悪魔の良く使う手口でもあり、真実、誰が悪魔の味方かを確かめるのは容易なことではない。
 そして、陣護は再び決死行を行い友規の元に戻った。
「物的証拠──か」

 フェザー・ブリッド(ec6384)が空中からのぞき見して作り上げた、御所の地図を炎の精霊に命じて燃やし、村正への最短ルートを導き出そうとした。だが、あまり選択肢は絞り込めなかった。
 フェザーの魔法感知の範囲では御所から100メートル位離れた程度では様々な魔法(主に白、黒、忍、地、風、陽)が張られている。透視しても、魔法で守られた場所は視えないし、外から安全に探知できる範囲では、ほとんど何も分からない。
 サンワードで村正、伊織を調べたが太陽からは判らない、という返答が返って来る。
 フォックス・ブリッド(eb5375)は山野を探して、いくらかのマタタビを入手。
 野良猫に餌と併用して餌付けをし、フォックスから借りたインタプリンティングで会話しなるべく多くを、と狙う。
 しかし、次の月夜にあの建物──御所──に集まって皆で啼くと餌を貰えると嘯いても、猫は良く理解せず、フォックスは犬猫の調教に慣れてもいなかったので、芳しくない。
 また彼は、高台から御所を監視し、警備態勢を把握しようとしたが、昼間の猫とマタタビ集めで眠い上に、長時間、望遠等の魔法を使い続ける魔力も無い。
 およそ杜撰な計画だった。
 しかし、己の力を試して見たい。
 御所の近くに猫達を集め、決行日の夜、マタタビを撒いた。御所の前で、ちょっとした騒ぎが起こる。
 準備が出来るとフォックスは禁断の指輪で、異性へと姿を変え、月影から月影へと舞飛ぶ。
 御所に侵入し、宝物倉と思しき建物の側まで潜入したところで、その顔が曇る。倉の前には屈強な衛士たちの姿。
「‥‥」
 ここまでかと月影で飛ぶ。そこで見たものは幾重もの光であった。
 理解するまもなく、動きを封じられるフォックス。僧侶たちのコアギュレイトで金縛りに合ったのである。
 その上で、魔法の品を片端から取り外され、忍び達が魔法が切れた後も、自害できない様に体中の間接を外す。激痛が走った。
 更に陰陽師達が自分の意識を探っていく。苦痛で意識を閉ざせないまま、フォックスは全てを知られた。
 もちろん、ひとつの事項が判れば、それに伴う付加事項も調べられていく。
 自分が力試しの為に、フェザーの知識を借りて御所に入った事。依頼の内容、そして依頼主のこと。
 次から次へと溢れ出される。
 陰陽師のひとりは言った。
「こいつは莫迦だ」

 そして、バーニングマップで確かめられたフェザーの居場所から、芋づる式にフェザーが発見された。
 その晩の内に、使者は一通の書状を手渡した。無条件に今日の朝までに京の都を出る事。残れば殺害する。
 その上で数多の得物をはぎ取られたフォックスの身柄が引き渡される。
 更に残る一同全てに、御所への出入りを理由の如何を問わず禁じる旨の通達が出された。
 通達は関白、藤豊秀吉からだった。御所侵入という大罪を思えば、非常に寛大な処置である。
「‥‥物の用に立たぬ輩よ」
 朝廷工作のしくじりに、長安は満面を朱に染めた。戦時下の御所に腕試し程度で潜入を図った冒険者の浅慮をなじる。

 そして、朝焼けと共に雷王剣を抜いても問題ない。
 というより、暴走しない雷王剣はレジストマジックを無力化する程度(!)の雷しか放てない剣である、しかし剣としての格は草薙すら凌駕する、という太鼓判をおされた。
 しかし、フェザーとフォックスは皆の為、京都を出ていた。

「御所への出入りは成らぬ、か」
 友規は呟くが、シェリルはそのまなざしを複雑な表情で見ていた。
 これが魔剣を巡る冒険の新しい始まりである。