【ジャパン大戦】轟け雷王剣
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■シリーズシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:10 G 85 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月29日〜11月03日
リプレイ公開日:2009年11月10日
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●オープニング
京の御所はいくさの坩堝にあった、命は枯れず、心は滅す。
そんな精神戦の最中、神皇をのぞく農夫の家の出であり、人身として極められる高い地位を得た男が、鼻歌のひとつも歌いたげな顔立ちで桐の箱を開ける。
男の名は藤豊秀吉。
神皇とこの男の停戦の沙汰を裏切った叔父である源徳秀吉からではなく。神皇にとって同年代のいとこである源徳忠輝(長千代という幼名でギルドでは統一する事にする)から、希代の魔剣『雷王剣』を献上させる、という形で秀吉の顔は立った。
木箱の中から、絹に包まれて取り出されたのは、ブラン──ヒヒイロカネで出来た茶釜である、短い命令文を唱え、魔力を消費する事で中の液体の温度を操れるものだ。
秀吉の勝負茶器である。
大久保長安などが見たら、失笑して笑い死にしかねない代物である
もし、この茶器を用いる茶会で、雷王剣の話が破談しようものなら、秀吉は御所と、月道を閉鎖して、そのくせ者を追い詰める覚悟であった。もちろん、そんな事態にはならないという確信はある。
(さらりと茶会を開き、禁中に奏上したき儀がある故、確かに伝えたもう。忠輝どのも元服されたが、神皇様に血を同じくするものとして、それなりの位階も必要であろう。上に取りなしておくので、お楽しみにして頂こう)
と、心の中で自分の勝利絵図まで考えている次第である。それだけこの茶会の成功がジャパンの東方での帰趨を決める──板東武者や奥州武者には不本意だが──という事である。
問題は朝廷での位階など、長千代は歯牙にかけない、という事である。少なくとも自分も雲上人の一員だと言われても、秀吉の思うとおりに感謝の言葉が飛び出すとは思えない。
「ふむう、これであの伊織も、自分の立場が判るであろうな。一興。自分が敗れる様を見せてやろう。どの様な顔をするかな?」
これにより、奥州の名刀『村正』の敗北は確定していたが、茶室で最後の一礼が終わるまでは気が抜けなかった。
だが、情報が錯綜しているが、江戸城地下で太田道灌は江戸城にいる『伊織』をマンモンだと述べたという。
八王子勢の中には長千代が、様々な神格としての力を失い(それでも凡百の武将では勝てないだけの、いくさに関する嗅覚を持っていたが)今は15歳の若武者として
武蔵の国を大久保長安、源徳義仲と綱渡りしながら、江戸への詰めを行う最中であった。
秀吉は使者でも自分のメンツが立てられれば、神皇への取り直しを行うつもりである。
この場合、鍵になるのが、少年でありながら、女性の様な美貌と、衣装を好む使者の長である『柳生智矩』の意向。
そして彼を(物理的に)記憶喪失にしたマンモンの配下である忍術、デビル魔法、オーラ魔法の使い手である双角馬の双角の出方であった。
双角がその気になれば(隠れるという手間のかかる事はせず)包囲網を力任せに突破するかもしれぬ、雷王剣によって、手打ちがされるなら、強引極まりない手段も選択しかねない。
さて、京都の明日はどちらだ?
冒険の幕が上がる。
●リプレイ本文
「それでは報酬となるべき金額をお返しいただきます──確かに受け取りました」
天界人のサイクザエラ・マイ(ec4873)と神聖騎士のソペリエ・メハイエ(ec5570)は御所での依頼という大事を受けたが、周囲からの有形無形のプレッシャーにより、秀吉の茶会に参加する事を辞退した。
「やれやれ、ジャパンはやはり狭い、日本もジャパンも変わらないようだ──?」
ウンザリした風情のマイの言葉に、ソベリエが笑みを浮かべて相づちを打つ。
「人間関係で仕事を失うのはジ・アースでもアトランティスでも一緒では?
「根回しをされている以上、こちらからそれ以上に魅力的なソースを与えられなければな、その意味で『徳川』と『源徳』は違う」
マイの知っている歴史では、徳川の血が皇室に入り込まなかった。しかし、源徳は自らの血筋に連なる最高権力者を輩出し、尚かつその『孫』から、朝敵扱いされている。
血を入り込ませぬ程度の能力と、血をひかせ尚かつそこから離反する。
正直、マイの思考ではどちらが有能かは判らなかった。
「対岸の火事などと言っていられないのが、京の都の筈なのに──江戸からこれ以上飛び火は御免だ」
「ふたりだけでも、お互いの意見をすりあわせた方が、いいかもしれませんね。今後政治的な舞台が巡ってきた時に、互いに違う意見もあるかもしれませんから」
そこへ居合わせた、白銀麗(ea8147)が、ふたりを誰何する。
「そのお考え、私も知りたいです、教えていただけませんか?」
「私はいいです、サイクザエラさんは判りませんが」
「──結構です」
ほほえんだ銀麗は数珠に手を伸ばす。
一瞬にして、真言を唱え、印を切る。
そして、問う。
「今後のご予定は?」
(人を犯罪者扱いですか、少し験を担ぎに、ジーザス会の寺院にでも行こうかな──)
リシーヴ・メモリーの魔法は無制限に記憶を調べる魔法ではない。その時に何を考えているかを読み取る魔法である。
銀麗が考えていたのとは、まるで違う思想であった。
精霊魔法の盛大な使用による京都の焼き討ち、御所襲撃、要人誘拐などは欠片も出てこない、時折──。
(どうやら、自分達はよほど嫌われているらしいな)
銀麗はため息をついた。
江戸で忠輝は一通の手紙を受け取った。
アンリ・フィルス(eb4667)からのものだ。
忠輝坊へ
おおきゅうなられた
そうだな、官位を得られら時は、好きな人に褒められて頭を撫でられるかの如き喜ばしさを思い出すと良いかも知れん。
素直に感謝致せよ。
アンリ卿、自分が正気を取り戻して、まだ日にちは経っていません。
しかし、自分は伊達が城を明け渡し、大久保長安が八王子に帰り、兄君の何れが江戸城を継げば、自分で自分を厄介者になるでしょう。そこで、国のしがらみを超え、義仲大叔父様が示したような、パラディンのへの道を歩みたいと考えています。
官位は好きな人から褒美に頭を撫でられるような幸せだと仰いました。しかし、自分は人と手を取り合える立場になりたいのです。
「ふむ、大きくなられた」
アンリは大きくうなずいた。
「義仲殿でござったか」
陸堂明士郎(eb0712)は月道から来た、こめかみに白いものが混じった実年の男を見た。
源徳義仲、家康とは傍系であるが、先日にパラディンとして戻ってきた男だ。黙示録の戦いに参戦、決着がついた今、ジャパンに帰参しており、暴走しかねない大久保長安を源徳忠輝が押さえる間の名代として現れていた。
「どこの国も外戚の扱いには苦労するものだ」
義仲は今は戦場ではないため、狩衣姿である。腰にはブランのヴァジュラを差していた。これは見る人が見れば、パラディンの証である、姿を変える武具だと看破しただろう。
威風あるシャルグ・ザーン(ea0827)は内心で焦りを隠せなかった。スサノオの脅威を秀吉、ひいては御所にも警告したかった。
しかし、困った事がある。
彼はあまりジャパン語に詳しくないのだ。ゲルマン語でも怪しい。
少なくとも初歩的な文章委しか駆けない。御所出入り禁止を受けた、知り合いに代わって、この、カオスゴーレムにも匹敵すると践んだ(推測に過ぎないが──)、スサノオの脅威が、御所と、その貴人を襲撃する可能性が大きいと予測した。
ともあれ、貴族としての体面は異国でも通用する。そこで話術によるトリックで、スサノオの脅威を喧伝する。
江戸と京を往復して、忠輝に問い合わせた所「待った」の声はかからなかった「ただし、関白として、現状認識してもらいたい」という言葉である。
そして、閑静な茶室で、秀吉が念じた瞬間、紅い光を放つ、ブランの茶壺。炎が赤らかに踊り狂う。
(茶会がうまくいけば剣が争いの種になることはしばらくなさそうだ、雷王剣は一応抜いた者として責任取れたと思いたいな‥‥うっし、首尾よく済まして江戸帰ってあいつを迎えにいくぞ)
日向大輝(ea3597)は内心で、秀吉に贈った江戸製の手菓子が受け取られているのに、予想通りの反応を返す。
(芋侍の菓子など食えない、と見た)
一様に茶席に座る。
「源義経が家臣、陸堂明士郎啓郷と申します。無作法者ではございますが何卒お見知りおきの程を」
空気に大きな罅が入った、そんな崩壊感があった。
秀吉は城持ちの言葉にも動ぜず──。
「傾(かぶ)く、かと思って期待していたのだがな」
「主持ちが傾くな、言いたいですが。それ以上にここは人を見る所、芸を見る所ではございません」
「一本取られたか」
その秀吉の脇にはシャルグの言葉を陰陽師の茜屋慧が記述し、スサノオの脅威を語った所による、一連の騒動を記すものだ。
しかし、アイーダ・ノースフィールド(ea6264)は表に出ていた。
武器──有り体に言って弓矢──の持ち込みを良しとされなかったからだ。
アンリは何を考えているかを表面に出さない。
(少なくとも銀麗の言葉は信用できる、そんな相手を完全に思い通りに出来るような魔法は利かないし、怪物とかの魔力なら、銀麗の精神力なら簡単には利かない)
銀麗は中で精一杯のゴーレム戦が戦争を変える戦術の鍵になるのではないか? と、問いかけてきたが、天界人の知識は真似するには基礎技術積み重ねが必要であり、人型、あるいは様々な形のゴーレム機器はアトランティスと、ジ・アースでは精霊の反応が違う為、ジ・アースの技術体系には馴染まない。秀吉は時折合いの手を入れたりするが、今まで活用されていなかった技術が、戦術により活躍の場を得る、という形で時代の寵児になるのは、理解できるが、新技術、新戦術の両方を要求するアトランティスでの言葉にはあまり、興味を示したとは思えなかった。
ともあれ、源徳は江戸の確保までは認める。それは新たな城代として扱う事になる。
伊達家の城主が誰であろうと、源徳家への正式な挨拶のひとつもあれば許す。
源徳は誠意の証として、代償に、雷王剣を引き渡す。
無数の矢や、抵抗した魔法で傷ついた黒馬が──もっとも、角は二本あるが──御所の中央突破を図る。
様々な魔法、飛び道具、警告が飛び交っているが、幾重にも巡らされた防御系の魔法で、傷は殆ど負っていない。
そして、宙を舞う火の鳥。伊織当人である。
「降りてこい、卑怯だぞ!!」
大輝少年の声。
見張りから、魔法を解除しようと、様々な魔法が飛び交うが、炎は赤々と燃えていた。
唐突に大陰陽師の声の茶室に響いた。
(安倍晴明だ。神皇陛下の無事はこちらが保証する。存分に戦われたし)
その声を受けるまでもなく、数多の魔法や、魔法の品が起動する。
「出戦という事でよろしいか?」
秀吉が名残惜しげに茶釜を見入る。
「晴明の狐は、神皇陛下様の無事さえ安泰なれば、後は手出しをせぬ」
そう言っている内に、アイーダの弓は返却され、気力を封じようとした所で、義仲が相談を持ちかけてきた。どうせ、悪魔の類はエヴォリューションで、最初の一発以外は、同じタイプの攻撃は通用しない。ならば最初の一撃で最大ダメージを叩き出す。
どうせ、最初のオーラパワーがデビルに対しては最大のチャンスなのだから、と義仲の説明。
「一発必中ね、悪くない」
続けて飛び出したピンク色の光に収束し、指先で最初の一矢へと気力を加える。
ねらいは過たない。
双角の前足の付け根が盛大に吹っ飛んだ。押し殺したうめきが苦痛を感じさせる。
間隙を縫って、銀麗が魔法で結界を張る。ホーリーフィールドだ。
中から更に義仲が空中の伊織目がけて、闘気の塊を、天と地に、矢のように降らせ、同時にソルフの実を飲み下す。
結界内を飛び出し、アンリは戟の一打は全力で双角は地の泡を吐く。
更に銀麗が双角の魔法ひとつを解除。
オーラマックスを──が解除されたようだ。
アイーダの合わせ矢と合わせて、命を削がれる。
大きな音を立てて倒れ伏す。
そのまま、黒い霧となっていった。
「まだまだ、ヒヨっ子には負けぬ。とはいえ、鳳か」
続けて、アイーダが天空の伊織目がけて乱射、乱射。
あっという間に矢が尽きた。
「赤字は勘弁」
「矢は尽きて?」
伊織が歪んだ笑みを浮かべる。
しかし、瞬時に紅い光が、燃え上がる。
ファイヤーバードの魔法だ。
先ほどの乱打が無ければ、自分の業の方がパワー不足ではじき飛ばされ、そして地に落ち居ていただろう。
だが大輝には待っている人がいた。来年の頭に祝言を挙げようと誓った少女が。
還りたい場所がある、愛している人がいる。
絶望に負けない訳はただそれだけ。
大輝との炎はギリギリの所で燃えていた。
そして、大広間にて、正式の長千代の名代である柳生智矩と、源徳義仲が諸臣の見守る中、立派な拵えになったの雷王剣を受け取った。
神皇は三宝から得物を受け取る。
「叔父君と大叔父殿の意向は良く判った。これを以て、神剣っを神皇家の雷王剣とする。
しかし、今ではひとりたりとも、イザナミの戦いに力を決する時。
よって、江戸の情勢を安定してください。その上で、源氏の九郎判官と源徳の関係の清算。
これらを全て、乱戦を収める為の神皇としての権限の証として雷王剣を『貸与』下賜する』。
日向大輝、雷王剣をもちて、東の戦を鎮めよ。恩賞はこの騒動を終えてから新たに発布する」
広間は水を打ったように静まりかえった。
「陛下の臣として最善を尽くします」
その声をもちて、神皇は去っていった。
後は歴史の荒れ野を冒険者達が切り開く事になった。
これが最終章である。