戦う時は今、今こそ戦う時【迷宮】
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■シリーズシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:16 G 29 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月17日〜12月27日
リプレイ公開日:2009年12月26日
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●オープニング
先月に号のあった『家康墜つ!』の声は、江戸界隈で大きな谺を響かせた。
そして、鎌倉では次期頭首たるは誰か? という動きが出ている。
八王子勢の代表者としては、八王子代官大久保長安が出ていた。
声はある「家康が一子である忠輝(冒険者ギルドの表記では幼名の長千代で統一するが、菩提を弔う云々を於いて動くべきではないか?」
、と。
もちろん、この声が一番大きいのは鎌倉で政治的な折衝に当たる、大久保長安である。
長千代にしてみれば、秋の与一公騒動で、自分の旗幟は明らかにしている。今更何を? という事であろう。
そして、困った事に、インドゥーラ帰りのパラディン『源徳義仲』も自分は老人故(彼は家康の叔父に当たるが、血の上からも嫡流とは言い難い)、裁定を頼まれれば、独断(と、自分で主張する)を行うのもひとつの道ではあるが「まずは論議を尽くせ」と、謎の赤毛の少年『役行者』と、江戸市中に広がる、巨大迷宮を踏破に踏み出した。義仲はパラディン魔法は覚えず、オーラ魔法を極めているものの、オーラで自分の傷を治せても、他人の傷を回復させるのは限度があった。正直リカバーポーションとどっこいである。一方で、小角は地水火風陽月に加えてオーラ魔法を覚えているという、非常識な能力を持ってはいた。
しかし、このふたり隠密能力に根本的に欠けており、ワナらしいモノがあったら、全力で吹き飛ばす、という、旧来の冒険者とやっている事はまるで変わらない、という側面もあった。
尚、ふたりはロバにソルフの実を山ほど積み込んで、突入している。
12月の上旬も終わる頃に冒険者ギルドに顔を出した、この凸凹コンビはダンジョン突破の依頼をしてきた。
ふたりとも衣装は汚れきっている。何をしていたのか、怖くてギルドの受付は聞けなかった。
「まず、伊達勢が接触したという天狗、そしてウォルター・ドルカーンとの接触」
小角が落雁をかじりながら、途方もない事をさらりと言う。
「いい加減、百年も復讐で動いていて、それを実現したなら、精神的な間隙につけいる事もできるんじゃないかな、って?」
一応、公式の記録書には神聖暦701年に歴史から姿を消した者の言葉である。あちこちの記録を総合すると、マザコンだったらしいが、とりあえずツッコミはさておく。
「自分が気になるのは、やまと、という言葉なんだよね?」
やまと、大和、倭、大和、ヤマト色々な形でジャパンの過去に関わっていた品。
「天にあっては『破壊の刃』地にあっては『竜王の逆鱗』、水にあっては『霧、露と乾坤の網』、火にあっては『不死の大山』、風にあっては『草薙』というのが自分の昔聞いた伝承。まあ、300年より前だからどこか自分に都合の良い、伝承の歪みがあっただろうし。自分にしてみれば、志士という形で、精霊の力を武器にする武士というのは、理解しづらいけどね」
「で、発見して──何を?」
義仲は言った。
「武士ならば支配の道具としようが、パラディンの身としては、現状を変更できる品。たとえば、自分が予想しているのは強大な精霊力の制御システムかと思える。現状を変更できぬ様に封印する。維持する以上に霊的な何かを持っていれば破壊する」
やまと(仮名)の在りかは、スサノオを起動した階層より更に下。踏み込んでいない以上、トラップの予想は困難。また、一度で探索しきれる可能性は非常に低い。
「ジャパンの霊的守護の名において、更にはそれを歪ませようと、様々な血が流れた。最早ジャパンは理解できない古代の叡智ではなく、理性によって治められるべきだ。正直『神軍』には納得は行かない。故に加勢はしなかった。
とはいえ、自分が為すべき事、新たな世代に新たな世界を渡すのが、老人の役目だろう」
故に頼む「やまと」を停止してくれ、と。
冒険の幕が上がる。
●リプレイ本文
「何と無くだが級長津彦様が絡んでおるような予感がするでござる。確かめずにはおられぬでござる」
「何となくとは?」
「いや、聞かれても困るが、いくさ人のひらめき、とでも申そうか‥‥」
源徳義仲の言葉に、結城友矩(ea2046)は端的に応える。
級長津彦の力は精霊界に戻った──らしい。
マギー・フランシスカ(ea5985)の荷物──何しろマギーはエルフで体力に大きな不安があるのだ──をも背負い、以前であった黄金の狛犬たちを両断しながら、前進する一同、
アイーダ・ノースフィールド(ea6264)の目がいかに鋭くとも、叶陣護(ec5084)の五感がいかに鍛え上げられようと、役小角の魔力による探知がなければ、罠を探知する事はあたわず、また神聖魔法の使い手がいない現状では、あまたの呪いや、魔力的なトラップ(マギーが一応、理性的に作った、地図に描かれた今までのそれとは違う、込み入ったものらしい、らしいですむのは罠があったら、この少年は手早く回避の手法に出るからである)。
アイーダと友規の鉄を絶つ一撃は、通常ならばハンマーでもなければ砕けぬ黄金の獅子を粉砕し、粉砕した端からちりあくたに変えていった。
基本的な防御はそれが主体である。
大抵童子姿で出てくるが、小角の陽魔法により解析された、ゴーレムとしての機能は速やかに情報となり、刀と矢が破壊する。
文字通り徹底的な破壊であった。
友規の中に修羅が潜んでいるのかもしれない。
少なくともトラップごとまとめて破壊するような、探求楽な手法はとらなくなった。
それが幸いかどうかは置いておく。
「しかし、やまととは一体?」
何度目になるかもう覚えていない問いを友規は繰り返す。
やまと、大和、倭、大和、ヤマト色々な形でジャパンの過去に関わっていた品であるらしい。
冒険者ギルドでの言葉を改めて思い出す──天にあっては『破壊の刃』
地にあっては『竜王の逆鱗』。
水にあっては『霧、露と乾坤の網』。
火にあっては『不死の大山』。
風にあっては『草薙』というのが自分の昔聞いた伝承。
「ふぉふぉふぉふぉ。この中で最も古い時代の知識に触れた小角坊でも判らんとはな。しかし、あの──」
「モノケロスとガーベラね」
何も面白い事はないかのように、アイーダはつぶやく。
彼らが幸せかどうかを知るよすがはない。
「ヴァンアーブルお婆さんの知識があれば、いろいろと解析できたでしょうけどね」
「すまんのう。わしはモンスターの知識に集中していていて。伝承などに詳しいわけではないからのう。まあ、隣にいた子供でも判った事が、自分では判らぬとは──人生、まだ楽しめるかもしれぬのう、
とまれじゃ、ウォルター・ドルカーンの証言によれば、この地下迷宮はマサカドよりはるかに昔の物らしいじゃて、『やまと』も超古代。地下迷宮が作られた時代の物と推測できるのう。
小角坊の言葉を総合すると、月道がまだ開かれなかった時代らしいが、月道が人の手によって開かれたとすると、少なくとも、限定的とはいえ、何千里も果ての地と道を結ぶのは、今の我々には真似の出来ぬ技術、神々の時代かもしれぬ、憶測に過ぎぬのじゃがのう」
単に今は、月の精霊力の活性化で常時月道が開いているという、作った当事者たちがどう思うかは判らない、世界レベルでの大きな交流が為されている。
「ただ、それそのものが判らぬが、『やまと』を守るためだけなら、この地下迷宮はいくらなんでも深過ぎじゃよ。この深さそのものに、意味があるのかもしれん」
「たとえば、地の底に繋がる──?」
陣護の言葉に驚いたかのように、アイーダはにんまり笑う。
「ふうむ、そういう考えもある。地の底と言えば、地脈かもしれぬ。黃竜は竜脈が自ら教えていった技術により、大地が乱れた事に絶望したかもしれぬ。『地』である、竜脈に『火』である焔法天狗が干渉しているかもしれぬ。制御が暴走かは判らぬが
ところで気になったんだけど、『やまと』の破壊って、この地下迷宮ごと破壊する事にならないかしら?」
アイーダの言葉に一同の血が引く。
この悪夢のような迷宮を破壊できる手段があるとは、流石に誰も知らない。
できれば、部品の回収ですめば、とは皆考えていたが。
痛いところを突かれた形となった。
「今度は人の気配だね。かなり強力な水の力を感じる」
「──水でござるか、先日の黃竜との攻防戦では、ウォルターどのは水の力を宿し、蒼龍に見立てられた、と聞く。ならば──という訳か」
その言葉に一同の内に緊張が走る。
「鍵はかかっていない」
陣護が手短かつ密やかに一同に伝える。
「拙者、結城友規、ウォルター・ドルカーンどのに失礼いたす」
友規はあえて大音声を発した。
「やまとに関して些かご教授願いに参上した」
「──入れ」
広いが簡素な部屋。ウォルターはいましにも息が絶えないばかりの風情であった。150年の月日の復習、そしてその成就は、あまりにも激しい消耗を、エルフであるとはいえ、彼の身にもたらしたのだろう」
「拙者、上方へ赴きイザナミ殿と対面しスサノオに関してお聞きしたでござる。
されどサッパリ話がかみ合わぬ。
イザナミ殿が語るは血肉を備えし神でござった。
そなたが蘇らせしあれは、確かにあれは特別なゴーレムでござる。
されど何ゆえスサノオと呼ぶでござる」
「力ある者の名を借りる、あるいは譲り受ける、日本武尊のようにな。日本では珍しくない呪的な儀式らしいが? 残念であるが、上方に行った事はないので、あちらの事を語られても正直困る」
「では、これは──!」
一本の刀身から六つの枝状の突起物がある、神のみ使いを滅ぼし、あらゆる防御を無効化する刀である。
「この剣がスサノオの傍で異様に唸ったでござる。何か心当たりはござらぬか」
「ふむ、伊織、いやくだくだしく語っても意味はないが、マンモンから、この陰陽寮から何か、適当な魔法の品が無いか、と聞かれて渡した品だが、スサノオがらみか。おそらくはレミエラで修復がされるまで、その七支刀は力を発揮しなかったのだろうな?」
「マンモンが──? これはくじ引きで引いた品でござる」
「適当に射幸心をあおる品を、と言われて、マンモンの下っ端に渡した」
「では、拙者に当たったのは偶然か?」
「──その通り!」
深い声が響いた。
伊織の姿をとった、上級デビルのマンモンである。
周囲には数個の直径1メートルほどの水球がたわたわと浮かんでいた。
「よもや、天下の大猪に当たるとは驚きだ。だから、世の中面白い」
言いながら、空中に複雑な印を描いている。二つの頭がなせる、特殊な魔法詠唱である」
小角と義仲は互いにピンク色の光に覆われて、闘気を高めていく。陣護は腰だめに獲物を構え、突撃の姿勢。油断のないアイーダはすでに矢筈を手にしている。
水塊は巨大な水の本流と化して、ウォルターに躍りかかる。オーラショットの気塊が弾いていくが、それでも次の瞬間にはウォルターを包み込む。
刹那、水は凍り付いた。水塊の一部がマンモンの手に触れており、その手は氷片に包まれている。
「さすが、怪物。ウォーターコントロール、クーリングハンドを一瞬の内に成功させるか──」
苦悶の表情を浮かべた、ウォルターは氷の中で命を落とした。残念だがこの一行では生き返らせるすべはない。
「純粋に大量の水につけて、その大量の水を一気に氷結させて窒息させる。アイスコフィンなら温度と時間でどうにかできるが、文字通りの氷漬けとは容赦がない」
マギーの言葉に、マンモンも悪意に満ちた笑みで返す。
「──その通り。だが、私もそこまで強力な水の使い手ではなかった。このやまとの産物、水の『霧露乾坤網』があってこその事。
しかし、痛い」
マンモンの腹部は半ばまでちぎれ、絶っているのが不思議なほどであった。
「デビルは本気を出す、あるいは地獄に居続けるなどといった自分の判断ミスでなければ命を落とさない。
そして私は何億年かかろうと、この世の富の全てをかき集める。
そのためには、本気を出して、命を落とす、という恐ろしい行為よりも、負けて逃げる恥辱をこそ選ぶよ。次はやまとの震央部、夢の戦場で出あおう。
そこを君たちが、どうこうできなければ、天の鎌が、大地の弓を切り裂く」
「天──最初から出てくる天とは何だ! 答えよマンモン!」
「おまえたちは仏教を知らないのかね? 我らデビルがかつて仕えていたタロン神を、こちら風の言い方をしたものだよ。ジーザス教では大いなる父。仏教では後継者を求める者──『天』だよ。そして、天の聖なる武具のひとつに、ブランにして青く、力の剣、破壊の剣と呼ばれた至高の剣がある。やまとはそこまで極めた獲物を作り出す。すなわち神々に挑もうとする『人間』の反旗の象徴なのだよ──おっとしゃべりすぎた」
これ以上は料金を出せ、という事らしい。
次の瞬間、水塊もろとも姿を消した。
アイーダの判断ではしばらくはやってこない筈である。
「天狗には会えなかったわね」
アイーダが残念そうにつぶやいた。
陣護が黙って部屋の中を調べ、何かの宝石のようなものをみつけた。
その透明な中には、何かの立体的な絵図面が描かれている。
「なるほど、これがやまとへ通じる道のオリジナル、ということかねぇ?」
マギーはまじめに目で追うと、発狂しそうな地図を目をすがめつつ、見やる。古代魔法語が細かく書き込まれていて、良くわからない。
「ふむ、天狗の位置は判らんな」
江戸城を中心に漏斗の陽に発展している。そして、中央に位置する、最奥部までいくと良くわからない。
とりあえず、一行は獲物と回復アイテムの補充のために、上部に戻る事にした。
「──拙者は帰ってくる。必ず、な」
名残惜しげに友規はつぶやいて、きびすを返した。
四公と源徳勢の決戦は来年になるだろう。
これが冒険の顛末である。
そして、最後の年のはじまりであった。