【経】振り返らない昨日を、諦めない明日を

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:21 G 72 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月14日〜09月29日

リプレイ公開日:2008年09月26日

●オープニング

「むう、ヒヒイロカネが届かぬとは‥‥途中で襲撃を受けていたか」
 八王子千人同心が虎視眈々と江戸を狙う八王子屋敷。
 屋敷の長である八王子代官『大久保長安(おおくぼちょうあん)』が、荷物の到着が遅いのを憂慮して派遣した忍者の報告に、うめき声を上げる。
 大月に近い道筋で、黒川金山襲撃で得た荷を運んでいたはずの腕利きの八王子同心たちが打刀が刃こぼれした状態で倒れ伏し、かぎ爪や牙で抉られていた。夏の暑気のせいではや屍体は痛み、死因は断言出来ないが、襲われた事は間違いない。
 尋常で無かったのは、ヒヒイロカネの原石を運んでいた荷駄の馬までが、殺されていた事だろう。馬は高価な物だし、馬に罪もない。逃がすなり連れ帰るなりすれば良いものを、トドメを刺してから、鞍袋を外していた痕跡があるという。

「どうした長安。なにやら浮かぬ顔をしているではないか?」
 報告の直後の会食の席で八王子軍の首座に位置する『源徳長千代(げんとく・ながちよ)』こと『経津主神』が長安に切り出した。
「この長安、一世の采配の誤謬です。ヒヒイロカネと言えば、同じ目方の黄金の百倍に値する、希少な物。それを送るのに八王子全同心を以て当たるべきでした」
「過ぎた事をぐだぐだ言うな長安。同心をこれ以上八王子から削れば、独眼竜に踏み潰される───やはり冒険者に頼むか、まだ香取神宮の方からの参陣には時間がある」
「それが経津主神さまのご意向とあらば、この長安申すことは御座いません」
 目的は甲斐に潜入し、奪われたヒヒイロカネの再奪取。
 初秋を彩る冒険が始まる。

●今回の参加者

 ea0282 ルーラス・エルミナス(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea8619 零式 改(35歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

アヴァロン・アダマンタイト(eb8221

●リプレイ本文

「窪みは深い───荷物を移したのか、それにしては足跡に変化が無いでござるな。大型の、四つ足か‥‥」
 零式改(ea8619)は地面に落ちる『敵』の痕跡を探る。既に日数が経っている事もあり、地面に両手をついた赤髪の忍びは確信の持てない表情を見せた。
「重い四つ足? 馬か牛みたいな?」
「分からぬでござる。おそらく獣は二体。拙者には計り知れぬ魔獣の類でござるかも。不可解でござるよ。武田の兵や忍びが左様な手を使うとは考え難いでござるが‥‥」
 狼や熊を手懐けた鬼や山賊の類か。或いは魔獣を使う冒険者という事もあり得るか。想像を挙げれば切りもないが、零式の目に真実は見えない。
「襲撃した本人の口から聞くか、倒して身元の手掛りになる物を探るほかは無いでござろう」
「はぁ? 使えないわねぇ、それじゃ何もわからないのと同じじゃない」
 愛馬に跨り弓に矢を番えて警戒していたアイーダ・ノースフィールド(ea6264)が腹立たしげに声を荒げた。結城の眼には足跡の違いも
「面目次第も無い」
「まあまあ。零式殿が分からぬというなら、仕方ござるまい。拙者達にはこの場から襲撃の現場を想像することも難儀でござるからな」
 結城友矩(ea2046)はアイーダを押しとどめる。人通りのある場所だから、既に死体などは片づけられている。結城は目ぼしい足跡から襲撃の様子を頭の中に描いてみたが、零式と同じで良く分からない。彼の知識が不足しているのか、知恵が足りないのか‥‥武田兵の襲撃とは違うと、零式同様に感じている。
「ふぅ。とりあえず、モンスターが関わっている事は間違いなさそうかしら。被害者は爪や牙で抉られていたって云うし、四足の跡もあるなら疑う余地は無いわね。まあ、犯人に変身能力があったりしたら、前提から意味が無いんだけどね。空飛ぶモンスターを連れていても、足跡は残らないし」
 空を見上げたアイーダは舌打ちしてから、同行する少年に顔を向ける。
「という訳で、残念ながら手がかりが乏しいわ。姿だけでも知りたいけど、魔法で茜屋さんに協力してもらうことも無理かしら?」
 アイーダに話を振られた、パラの少年陰陽師『茜屋慧』は、残念そうな表情を湛えたまま首を横に振る。
「残念ですが、過去見の魔法は使えません。それに使えたとしても、いつ襲撃されたか正確な時間が分からないとなると。闇雲に使っても、見つかる可能性は低いです‥‥未来見のフォーノリッジなら使えますが?」
「少しでも可能性があるなら、お願いします」
 ルーラス・エルミナス(ea0282)に促されて、パラは頷く。
 では、と慧少年が馬上で、片手の結印、呪文を詠唱すると淡い金色の光に身を包む。しばしの沈黙の後───。
「ヒヒイロカネで指定して未来を見た結果は、『みなさんが長安さまに平身低頭して謝っている図』でした。この未来を識った事で、この結果を回避する事も容易になりました」
 慧少年の言葉に、苦笑するルーラス。頬を引き攣らせるアイーダ。
「‥‥回避できると思えば、まあいいですか。ここで見失えば、ヒヒイロカネは私達と交差しないという事になるのでしょうね。全力で奪還に当たらなければ‥‥条件は厳しいですが、あきらめる訳にはいかない」
 冒険者達は零式を中心に足跡の追跡に全力をかけた。全員で地面に両手をつき、現場周辺を犬のように這いまわる。腰が痛いと早々に根をあげたアイーダは馬に戻ったが、ルーラス・友矩・改は汗と泥にまみれても唯一の手掛かりに神経を集中する。

 そして半日を費やした追跡行、改を労う暇も無く、風が血のにおいを運んでくる。
「まさか‥‥?」
「被害者の血は、とうに乾いてるわよね?」
 前方に位置するのは廃寺。罠かと思ったが、冒険者達は各々武器を構えた。
 目が利くものは前方にふたりの少年を、鼻が利くものは血の匂いを感じ取った。
 京風仕立てな、鮮やかな色の品良い狩衣に身を包んだ少年ふたりであった。
 青玉を埋め込んだような、目に青い狩衣を着込んだ、落ち着き達観した雰囲気の少年。しかし、鼻から下、胸の辺りまで血潮で彩られ、レミエラと思しき輝きが点っていた。
 対照的に紅玉を埋め込んだような目に、赤い狩衣を着込んだ少女めいた美少年は鉤爪のように指を折り曲げ、肘まで狩衣より尚赤い血で染め上げられていた。
 こちらも同じくレミエラらしき輝きが点る。
 何れも徒手空拳。
「───?」
 ルーラスが貴族としての嗜みで相手の感情を見破ろうとするが、まるで読み取れない。
 忍ぶアイーダと改はさりげなく戦列から外れて、奇襲の隙を窺う。
「もしもし、こちらは旅の者ですが‥‥」
 続けてルーラスは言葉の応酬から糸口を掴もうとするが、返答はない。というより呼吸をしている雰囲気すらないのが不気味である。
(人間?)
 ならば、と友矩が全身の闘気を活性化させる。桃色の淡い光に包まれ、最後通牒とする。
 とたんにふたりの体は輪郭をぼやけさせ、まるでそこに予め準備されて居たかのように四本脚の巨大な獣の姿を現した───全身を黄金に輝かせた3メートルの狛犬であった。相違は紅と青の眼のみが異なるのみ。
 重々しい音を立てて、それぞれがルーラスと、友矩に急接近する。
「荷を返して貰います」
 馬上から宣告するルーラス。
 黄金狛犬に槍を突き込んだが、まるで鉄塊を突いたかの如く、手応えが感じられない
「こいつらまるで金属の固まりだ、友矩さん、あなたも新陰流でいきましょう。自分もバーストアタックで粉砕します」
 会話の間に、逆撃で太ももを狙われるが、避けきれず爪で太ももから出血してしまう。
「流石にオーガではなさそうね」
 その苦戦を見かねてかアイーダから矢が打ち込まれた。
「赤字覚悟の出血大サービス、これで落ちるか!」
 真鉄の雨とばかりの勢いでルーラスの背後から回り込んで赤目の後方へと入り込む。

 改も友矩のフォローに入る。
(忍の刃は、陰の剣。腕が良いだけでは防げぬでござる。正面からの殴り合いは、忍びの流儀に反するでござろう───とはいえ『闇神楽・零式』では)
 転がっていた忍者たちの刃が運ばれしていたのもむべなるかな。
「嫌がらせでもしてやるか」

 青目が友矩に接近する。
「柳生の太刀に斬れぬものなし───」
 引きつけた脇構えから、一呼吸で青目を斬り刻むような勢い。一瞬の剣戟の後、青目は斬られた裂け目から金無垢の内部を露呈する。
「身元は洗えそうにないが、多少の役得が‥‥」
 そこへ寺の中から一塊の黒い炎が飛び出してきた。
 右腕にに熱い炎を感じる友矩。
「敵───だと? 距離を詰めろ」
 続けて黒い炎が改を打ち据えた。
 闇の中から現れる黒いローブに黒いフードの体格の良い男性と思しき姿。
 胸に輝く五つの光。
 顔は見えない。
「斬る!」
 友矩はレミエラに魔力を込め、風を切るがごとく刃を放出した。
 しかし、途中で射角がなぜかズレ、黒ローブ姿を捕らえるには至らなかった。
「残念だが、ブランは皇虎宝団のものが運び去った───親の総取りだよ。ちなみに君たちの目的も存じている」
「何者だ!」
「応えてしまっては興が削がれるだろう───」
「貴様はこちらに何をさせる積もりでしょうか? ブランという言葉を当たり前に使う当たり、西洋系なのでしょうが」
 ルーラスの言葉に男は哄笑をあげ。
「私は安直でね、ブランの方がヒヒイロカネより短いフレーズですむ。!”#$%&’〜=〜|」
「口上が長い」
 アイーダも矢を連射しようとするが目標の喪失。
 青目も赤目も一目散に逃げていく。
 一瞬のうちに術を完成させた黒いフード男がアイーダに向けて打ち放つ。彼女は黒い炎に巻き込まれる。
「黄金狛犬達に逃げろと命令したんだ。一応数百年ものなのでね。私も気に入っている、何しろ金なのでね」
 そこへアイーダの矢が降り注ぐが一瞬のうちに詠唱と結印を終え、全身を黒い煙に包まれると、まるで無傷の男の姿があった。
「どうやら諸君では私を傷つけるに至らないようだね、それだけ罪深ければ当然か」
「皇虎宝団の名前が出てきた以上、私も長居するのは危険そうだ」
 言って瞬時に姿を消す。
「逃げるか!?」
 言って彼らは大きくため息をついた。

 そして八王子に戻り、経緯を確認すると───。
「判った。貴殿らが最良を尽くした事は疑いない」
 と、源徳長千代こと経津主神。
「ところで表では、香取神社から武芸者が集まり、にぎやかでしたね」
 慧少年が端的な感想を漏らす。
「皇虎宝団───必ず決着をつけてみせる」
 アイーダは誓いを新たにするのであった。
 これが初秋の冒険の顛末であった。