【級】冒険者、暴力はいいぞ
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■シリーズシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:18 G 46 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月29日〜11月10日
リプレイ公開日:2008年11月07日
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●オープニング
神無月はまもなく終わろうとしている───その空気の中、八王子勢を束ねる公称『経津主神』こと源徳長千代は東に全軍、千五百を以て進発を決定した。
八王子から東と言えば、府中砦がある。以前はひともみにしたものだが、今回はそう簡単には行くまい。伊達政宗とて十分に警戒してこちらの動向を監視し、一事が起きればたちまち付近の兵を糾合して対応するに相違ない、仮に府中砦を無視したとしても後方を扼され、前方の江戸城──天下の名城と誉れも高い──を落とすには、決定力に欠如する。よしんば政宗を江戸城に封じた所で、政宗は攻城戦の勝利条件である援軍の到来を待てる。一年半で武蔵の大半を手中にした伊達軍の総兵力はどう低めに見ても五千は下るまい。武田や新田の救援もあり得る。
「ならば───刺客、などと短絡するな」
八王子勢の中心勢力『八王子千人同心』の責任者、大久保長安が軽挙妄動を戒める。
「当代随一の冒険者を用いた里見ですら、政宗の首代を得られなかった。よしんば暗殺に成功するとも、江戸城の主など蹴鞠の球の如く。江戸城の主を巡る謀は、常に城の外で行われている」
政宗は奥州藤原氏の長ではない。云うなれば、関東方面司令官に過ぎない。
そこまで言った所で、経津主神──正体は風神、級長津彦であるが、非人間的なまでの事情通でなければ、その事実を知るものは居ない──が、式正鎧に身を包んだ威風堂々とした格好で進発前の軍勢の前に姿を現す。
「西では父君が一軍を挙げ、江戸城奪回を目指している。もちろん、子として親の大願に合力するのは道であろう。異存のあるものはいぬな。
されど、実子なれどまだ非力若輩の身。軍を興すに当たって、皆の尽力なくして何も出来ぬ。今回は軍を二手に分ける。一軍を以て、江戸城を脅かし、もう一軍により府中城の足止めとする。大まかな策としては、この程度に止め。詳細は偵察による実勢を以て決定する」
機動性に長けているのは、経津主神を祀る香取神宮からの神人(神社の奉仕人の事、別に神と人の間の血をひいている訳ではない)だが、旧来の八王子勢と、新参の神人のどちらに先陣の誉れを与えるかは悩み所であった。
「また、この機に、初陣を勤める柳生左門を元服させ、私の知っている最強に見える新陰流の剣士から一文字、字を借り、柳生智矩と名乗らせる。柳生智矩、前へ──」
名を呼ばれて、大鎧に身を包んだ、男装の麗人に見える少年───柳生左門いや柳生智矩が進み出て、長千代に軍配を捧げ渡す。
長千代は軍配を取る直前、一瞬の結印と、詠唱により淡い緑色の光に包まれる。
次の瞬間、持った軍配に天空の暗雲より、雷霆が降り注ぐ。
「行こうみんな、裏切りの連鎖に終止符を打とう」
そう言った
神無き時代は終わり、嵐の時代きたれり。
●リプレイ本文
八王子で軍議が進む、その中で凄腕で知られる冒険者の意見は、総大将の“経津主神”源徳長千代や、八王子代官の大久保長安といった面々でも無視できるはずはなかった。と、いうよりその為に呼んだのであるが。
その軍議も収束を迎える。
(ふ、これではまるで私が───援軍がいれば、江戸城を落とせたような‥‥らしくない)
アイーダ・ノースフィールド(ea6264)が江戸城と府中の進路を封鎖して、密偵と忍者を狩り、互いに分断する事で、かつての里見で侵した愚を繰り返さない為の兵法の常道を進言する。
問題としては、別に府中から江戸城までは一本の回廊で、行き来がされている訳ではなく、少し頭の切れる密使なら、迂回するのは容易であろう事。
「その為にも密使の類を見つけたなら、確実に身柄を確保して。確実に。捕まえられなければ確実に討って」
冷たく言い放った彼女に代わって結城友矩(ea2046)が進み出る。
「では、アイーダ殿は周知の筈であるが、情報の共有の為、改めて。まずは私事ながら、配下と知己の不始末は、拙者の刀で濯ぎまする───さて、拙者の策は、まず騎馬隊五百騎を、四百の本隊と百騎の別働隊に分けるで事でござる。更に百騎の別働隊を二十騎ずつ五隊に分けました所で、一隊を千人同心隊と同道させ、伝令をするでござる」
そこで視線をm、初陣という事もあって、緊張しがちな柳生智矩に向け、さりげなく落ち着かせ。
「残る四隊は物見として野に放ちまする。物見隊には、府中周辺にいるはずの伏兵の探索と忍び狩りを命じまする。
騎馬本隊は物見の報告を受け伏兵に対し攻撃を仕掛けるでござる。物見と伝令の人選には香取五百神人の帯刀殿に御助力をお願いしたい」
「心得た」
と、帯刀が返答を返す。
軍議が一段落した所で、それぞれ別の國で生まれ育った、ジャイアントの兄弟、エセ・アンリィ(eb5757)と、ニセ・アンリィ(eb5758)が、経津主神に耳打ちする。
内容は、彦之尊達を呼んで、八王子の守護役に当てられないか、その一事。
「今更、兵を置いた所で無意味だ。むしろ最前線に回したい所だ。昔通りなら隠れ里の居場所は判っているが。ひとりで一帥に値する、エセ殿の戦力も惜しい」
「───ならば試練を、そして戦いを。
疾く情報を知ることが重要だ。弟よ我らの奥義を見せる前に、砦を落とすなよ?」
「アニキ、ナニ、ドウナルカ分らないガ付き合おッテヤッテクレ」
兄弟の間でやりとりがされると、エセは軍馬に跨って、飛び出していった。
天より降りしきる雨が馬を無情に打ち据える。
(母ちゃん、ここは一発、手柄を立てるぜ)
と、小太りで馬上で偉そうに見える、高比良左京(eb9669)は、八王子から府中を、日野、立川、国分寺、小金井と北にぐるっと迂回しながら、敵の伏兵を探索する。
百人ばかりの、敵の伏兵を見つけると、はやり立つ配下を押さえる術を知らず、左京は自分の力量で最小限の戦闘で離脱しようとする。
「退け、今は叩く時じゃねぇ。本隊と合流して伏兵の存在を知らせるのが任務だ」
しかし、血の恐惶は兵法の基本しか知らない左京の押さえきれるものではない。
泥濘の中、血飛沫と剣戟が場を支配する。
その上空で緑色の光が集まり、胸に点りしレミエラの光によってコーン状に形を変えたライトニングサンダーボルトが伊達軍を打ち据える。
一瞬の閃光の後に後方を一掃するは、ヴェニー・ブリッド(eb5868)が手並み。彼女で無くば、為し得なかったであろう一撃であった。
ヴェニー自身も戦いの狂乱で、目を赤く輝かせ、髪の毛を逆立たせ、ハーフエルフの逃れ得ぬ定め狂化であった。
左京が礼を言おうとするのを手で制して。
「こうなると腐れ縁よね───」
伊達勢が退くのに合わせて漸く左京が、友軍の主導権を握る。ヴェニーは自ら呼んだ雨雲を見やりつつ。
「ペリグリンじゃ、手紙は送れないわね、狩りのサポートが精一杯ね。
それにしても思った通り───神人さんは初陣なので、最初はなるべく遊軍的に少数の敵を倒していくことで経験値を積むのがいいんじゃないかしら───と言うべきだったかもしれなかったわね。
勿論、本格的な運用は専門家にお任せだけど」
“専門家”左京はさりげなく視線を逸らす。
左京の手勢は、予め打ち合わせた、府中近辺で本隊と合流し伏兵の存在を報告する。
「さて、物見も分散されすぎで、どうやら裏目に出た様子‥‥ならば打って出るのみ」
友矩が、未結集の香取五百神人の内、分散した六十人分が未帰還であることを口の端にものぼせなかった。
「万一───という事があったのね」
ヴェニーが遭遇点と思しき地点から、回収してきた太鼓を前に呟く。
しかし、ヴェニーが同行して、香取の神人が東へと進んでいく所へ、じれた府中砦からの手勢が出てくるのを遠目に見ていた。
エセ曰く、府中砦を欺瞞するならば、旗指物を何倍も用意してごくごく少数の兵を以て主力が集結したように見せかけその間に、集結をしてくる敵兵を撃破していけばいい。
欺瞞を見破られたのならば、砦を出てきた兵に横槍を入れるようにして打撃を与え、粉砕。ニセはその理論の忠実な実践者であった。続けて怒号を───。
「天下の大猪がまかりこした。我と思わん者は掛かって来い!!」
「討って名を挙げよ!」
友矩は左門を全速力で走らせ、擦違う敵兵に頭上から凶刃を振るう。兜割りの太刀で武器ごと鎧ごと敵兵を斬り裂く。
伏兵を蹴散らした後は江戸へ続く街道に展開し陣を敷き、援軍を牽制する。
「来るなら来い。ただし通り賃は、命で払ってもらうでござる」
鬼神もこれを避ける勢いで再び府中砦で一番槍を獲る。
「これから逆襲だ」
左京もそれに遅れをとらじと───。
「此処で会ったが百年目、手前らタタッ斬ってやる」
兵力300の府中砦はしばしの抵抗の後、陥落した。
意気が上がる中、東───江戸城の方角からヴェニーが戻ってくる。香取勢壊滅、との敗軍を引き連れて。
江戸市中に入ると、伊達は千を越す騎馬の大戦力を以て、挟撃。地の利もない香取神人は壊滅に陥った。ヴェルニーはレインコントロール下で、ヘブンリィライトニングに、ライトニングサンダーボルトといった攻撃手段では、大軍相手には抗せざるがなく。
ヘブンリィライトニング以外の魔法では、飛び道具の射程内に入らざるを得ず、一撃一殺のヘブンリィライトニングでは集団に対して無力すぎた。
ヴェニーは恐怖した。これでも江戸は全力を出してはない。
そんな中、町人やら農民の混成集団100人ほどが府中砦に到着した。
ニセが呼んできた、人に化ける狐狸妖怪の類である。ほとんどが狐と狸により占められ、人間に“化けて”居られる時間はそう長くはない。
そんな中に凛と立つ、彦之尊が狩衣姿のまま、長千代の前に膝をついて───。
「招集にお応えしました“級長津彦”さま」
と、厳かに語った。
神人の残りはそれを聞いて、憤慨にも等しい表情を浮かべた。
これが江戸攻略の再びである。