僕より幸せなやつはやな奴だ、特に男【参】
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■シリーズシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:4
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月09日〜01月14日
リプレイ公開日:2009年01月16日
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●オープニング
正月、ジーザス教のお助け小屋で、日銭を稼いで年末を過ごしたメイからの来訪者、杣柳人少年。近頃は軍役関係で色々と制約が厳しい。
とりあえず、そばかすの女顔に眼鏡をかけ、家の中では踵まである栗色の髪を三つ編みにまとめ、かわりにどてらを羽織っている。足のスパッツが寒々しかった。
「まあファーストキスも出来たし──青春ダイアリーの一環かな?」
クリスマスでの出来事を思い起こし、にんまりとする柳人少年。ぷるぷるぷると次の瞬間には頭を振る。
「三が日は特に何も無かったけど‥‥やっぱりここは日本人らしく初詣に行って願をかけよう! モテモテになるようにと」
ジーザス教の施設に寝泊まりしている身としては、大胆発言である。
「明治神宮はまだ──だよね、じゃあ浅草? 微妙だな‥‥行ったら無いとショックが大きいし。たしか川崎大師ってあったよね? よし、歩きで行ってみよう、自転車があれば良かったな」
さすがに馬という発想はない。
「じゃあ、冒険者街の人たちに声をかけてみるか。戦争もしているというし、ひとりじゃ心細いよね」
柳人少年はそういうとハーフブーツに細い足を突っ込んだ。そして髪の編み紐を解く、拘束を解かれた髪が蝶のように広がった。
元旦の喜劇が始まる。
「でも、一体今って何時代なんだろう?」
それは言わない約束である。
●リプレイ本文
サン・プル(ec2159)は川崎大師に先行する。
「漢はひとり行くものさ〜♪」
馬に跨りながら、多摩川を越える彼は場所取りをするつもりだ。
「さて、若い衆はどうしているかな?」
その頃、お助け小屋で身支度を調え終わっていた、杣柳人少年はジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)から、彼の『妹』を紹介される。
エリザベート・ロッズ(eb3350)である。まず、上から下まで柳人少年を舐めるように見る。値踏み──なのだろうか?
まず、中性的というより、そばかすと眼鏡に修飾された女の子顔の容姿。それを縁取る栗色の波打った髪が、ほっそりとした踵まで伸びている。胸は軽装の革鎧で覆われ、背中にロングソードを頼りなげに差している。腰から膝まではスパッツ──ジ・アースではまだ開発する事さえ誰も考えていない化学繊維である──に包まれ、そのままハーフブーツへと吸い込まれていった。
そんな柳人少年を50センチ近い身長差で見下ろすエリザベートは煌めく銀髪に雪の様な白さの肌、緑色の瞳の持ち主である。
「どうかな? リズ」
46歳のジェシュファ少年が、妹である40歳のエリザベートに問いかける。
ウソではない。『エルフ』のジェシュファ少年が外見年齢15歳なだけで、『ハーフエルフ』のエリザベートが外見年齢20歳なだけである。
「ちんちくりんはあなた一人で十分よ」
「ひどいな〜。で、柳人君はどうかな?」
「このちんちくりん2号は具体的にロッズ家の為にどんな事が出来るの?」
「それは当人に聞いた方がいいんじゃないかな」
「そうね。で、柳人? あなたはロシアで、ロッズ家の為に何が出来るの?」
「天界の技術、思考法の伝播、という事じゃ駄目かな? でも、とりあえずロシアは春になるまで行きたくないな」
「根性なし。確かにキエフは寒いけど、太陽だって出るのよ。でも、天界関係はちんちくりんが喉から手が出るほど欲しがっている技術だから、否定は出来ないわね。エルフの3倍のスピードで人間はニュキニュキ成長するものだし。春になっても気が変わらなかったら、その時は、ちんちくりん2号から解放してあげる」
では、とジェシュファから、柳人少年は愛馬『ボーリェ』を貸される、ジェシュファ少年自身も徒歩で行くのは最初から考えておらず、ケンブリッジで鳴らしたフライングブルームに跨り上空の人となる。魔力の容量も一流のウィザードであるジェシュファ少年ならふんだんにある。
ルーフォン・エンフィールド(eb4249)もボーリェに相乗りする。
「今回は火薬作る必要なさそうだぜ」
とりあえず爆発するものが出来ればいいような、ファイヤーパウンダーモンガーな言葉である。
そして川崎大師に到着。この戦時下だというのに人でごった返している。伊達の衛兵もこのベクトルが騒乱に向かわないように、慎重に警備をしているようだ。
「どうやら、途中で追い抜かされたようです」
サンが後から来た3人に、六郷橋付近でジェシュファ少年に追い抜かされた旨を告げる。魔法は時として、現実的な手段を上回るのだ。
「あ〜押さないでよ〜」
年始の川崎大師の人混みは伊達ではない。ジェシュファ少年は位置どりしても、つい人混みの圧力に負けそうになる。エルフという種族が体力に自信がないのだから仕方がない。
「わー、人で一杯だ」
ルーフォン少年も和式な参拝は初めてな為、香港よりも人が集中するこの混み合いには驚いていた。
「ニュースとかでも日本人は並ぶのが好きだと聞いてたけど、本当じゃん。
ここで去年の厄をはらうんだ、随分と混み合っているね」
銀髪が辛うじて覗けるジェシュファ少年目がけて一同は合流を試みる。
「ジェシュファくん、頭が見えないぜ」
ルーフォン少年の言葉に、ジェシュファ少年は手を振って精一杯のアピール。
「ここだよ〜」
「だよ〜」
ジェシュファ少年のペットである、少年エレメンタラーフェアリーのボーチヴァも空に浮かんだまま一緒に手を振る。
「ちんちくりん、無茶して──ジャパンではレディファーストという言葉をご存じないのかしら? 全く」
エリザベートは裾を優雅にさばきながらジェシュファと合流した。それほど優雅ではないが、男性陣も合流。賽銭箱に金子を投げ入れ、それぞれの神に新年の誓いを立てた。
「背が伸びますように、モテますように」
思いっきり口に出しているのは柳人少年である。馴れない馬でも何とか滑り落ちずに来た身である。
「世界が平和になりますように」
ジェシュファ少年もシンプルながら大いなる父に祈った。
同じエリザベートも大いなる父に祈念する。
「無病息災」
(目的は己が手で成し遂げるモノ。どうか、この決意だけで後は見守って下さい。助力は不要。黒の使徒ならばこそ試練を自力を越えて見せます)
信仰する神は違えども、サンは神聖騎士らしく聖なる母に祈る──。
「世界が平和になってルシファーが滅ぼされるように」
皆がサンが席取りをしていた厄払いを受け終わると、ジェシュファ少年がルーフォン少年に尋ねる。
「ねぇ、ルーフォンさんだけ願いを言ってなかったけど、何を祈ったの?」
「ナイショ」
その背後でサンは全力で遊びに耽っている。輪投げだろうと、型抜きであろうと、サンの遊びにかける情熱には負ける。
「ところでバレンタインのチョコのもらえそうかな? あ、ジ・アースでもアトランティスでも材料が‥‥無いよね?」
ルーフォン少年が来たるべき2月に向けて話題を切りだす。
「ヴァレンタインって聖者でしょ? チョコって何、プレゼントの一種かな〜、ひょっとして天界のもの」
「うん、特に柳人君の生まれた国では大きな行事で、義理とか本命とか色々な想いが錯綜するんだ。まあ、チョコの原料はまだ発見されていない国で、見つかったものだからジ・アースでは知られていないと思うよ」
好奇心に目を輝かせるジェシュファ少年。
「まずは女の子の意識改革をはっきりさせないとね」
ルーフォン少年の言葉に柳人少年がうなずいて同調する。
「さて、みなさん帰りましょ? 柳人、背が私より高くなった時にでも来たらどう?」
「それだったら成長ホルモンが──」
ルーフォン少年が天界の知識を口に出す。
それを聞き逃さないジェシュファ少年にルーフォンが亀の子を書いて説明し始める。
「まったく男は、いくつになってもコドモ」
その言葉にサンは苦笑した。
5人が無事、江戸に帰り着いた事は言うまでもない。
これが最後の初詣の一幕であった。