【黙示録】指名手配だ百と八匹

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 42 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月21日〜12月24日

リプレイ公開日:2008年12月31日

●オープニング

「大丈夫あの人はやってきてくれる──」
 浅黒い肌の少女『おの』はひたすら祈る。神仏でなく、心を任せられるひとりのひとを───。
 そんな中、まるで眠っている熊が身を震わせる如く、高尾山は震えていた。
 十五ばかりの修験者、十郎坊は前回の冒険の依頼者を送り届けた段階で、冒険者ギルドに急ぎの依頼を行った。
 西の高尾山からアンデッド、デビルといったものが地の底から、天使の群れを撃破し、高尾山の祠を破壊し、そこに封じられている黄竜──地の大精霊『大山津見神』──を復活させる、という解釈を行った者が居る。
 更には級長津彦が目覚めた事で、間接的に封印が力を失っていたという。
 それだけの情報解説を行って十郎坊──、彼も人に化けられる鴉天狗であり、これだけの情報が解釈として、降されたこの事を重視して、江戸ギルドに冒険者を依頼しに来たのだという。
「事態は一刻を争うかもしれません」
 そこで十郎坊は手短に、冒険者一団をとりまとめ、高尾山に戻った。もちろん、江戸城の主が変わるような激しいいくさであり、互いの包囲網を突破できるように、それだけでひとつの冒険であった。
 そして、修験者たちが、霜も降りてきそうな空の下、切り伏せられている死体となって倒れるていたのを見いだす。
 敵の巨漢は百人を越えている、岩から削りだしたような筋骨は逞しく、褐色の肌に斬馬刀を振り回す。
 ──同道していた神聖騎士のデッドコマンドで判った情報はそれだけであった──。
 訳知りの冒険者が天狗の隠里を目指す。ようやく見えた光景は修験者の魂が語ったと同じ男たちであった。物知りはあれは『ジャパン』に巣くう『羅刹』という下級デビルだと語り出す。概算、すると数は百八匹。その訳知り顔の冒険者もジャパン全土集めてもこんなに、同一種がいるものか──到底言葉を無くした。このデビルは刀術に長けており、悪魔魔法も幾つか使いこなすらしい。
 殴って良し。唱えて良しを地でいく連中らしい。策謀と暴力を使いこなし結構、行動に幅のある連中だが、数を頼みにした強攻策などは神話の時代を除けば聞いた事が無い。
 地獄の底から蘇る、悪魔の化身、毒の華──
 ここいらでも各地で噂の何の地獄に通じる異世界への道が開いたか──あるいは他の地点で出現して、何かに化けてここまで移動したのか、今の時点では、判らない。しかし、ここは冒険者を既に連れてきているというメリットは最大に活かすべきであった。
「みなさん、準備は良いですか? 魔法は木陰に隠れてから──」
 十郎坊が指示を飛ばす中、羅刹たちは滝の奥へと向かおうとする。
 そこへ不自然な鳥の鳴き声がした。
 目端の利く者が小柄を抜き放つ、そこには柿色の着衣に身を包んだ忍者の死骸があった。
「見破られたか、正面突破だ」
 羅刹たちが一声上げると全身から霧のような物を吹き出す。デビル魔法だろう。
 黄竜の封印を賭ける冒険が始まる。

●今回の参加者

 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6202 武藤 蒼威(36歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 eb5288 アシュレイ・クルースニク(32歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec0261 虚 空牙(30歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec2493 清原 静馬(26歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

──師走の山の中、木立の中を影が走る。
(ここを抜かれると、高尾の山から竜が出るってか? 江戸を滅ぼすとは穏やかなハナシじゃないねぇ──デビルには負けないし、竜に大暴れもさせねえ)
 巨躯を屈ませた武藤蒼威(ea6202)が、膂力に物を言わせ、眼下に見える羅刹の群れ目がけて、石を放った。
 乾いた音が響く。
 滝の中の隠れ里に向いていた軍勢──そう呼ぶに相応しい、夥しい数である──の注意をひいた。
「来い」
 無愛想に蒼威が顎をしゃくる。年相応に見えない、非常に円熟した顔立ちである。
「私たちに神の加護がありますように♪」
 戦闘の緊張からか、アシュレイ・クルースニク(eb5288)が歌を歌い出す。
「♪♪♪〜、日向さん、エレベイションお願いできますか?」
「歌うのはいいけど、舌噛むなよ」
 日向大輝(ea3597)はその声に笑みを浮かべて、印を組み、短く詠唱すると、淡い赤い光に包まれる。
 炎の精霊力が努力と根性を誘発させ、アシュレイのモラルを上げる。
「来た! 来た! 来たた♪」
 アシュレイは銀色の髪を淡い白き光に包ませながら謳う──まるで下界の事など目に入っていないかのように。
 それでも唱える言葉は天上の栄光。
「灰は灰に♪ 塵は塵に♪ 邪まなるデビルたちよ。この地上にお前達の居場所は存在しません♪」
 言いながら戦友たちに魔法を付与していく、虚空牙(ec0261)は、自分の身が神の加護にある事を確信した。
「随分とまた、楽しい状況だな。百と八匹の悪魔か。
 倒す相手には不自由しなくて済みそうだ」
 
 常識で考えれば、勝てる訳がない──空牙は冷静に考える。冷静に考える事が出来る時点で、もう常識を遙かに離脱した思考である。
 空牙は笑い続けた。ハーフエルフの性、狂化であった。
「次の戦いの為に、次の次の戦いの為に! くっくっくっく」
 羅刹達はその狂気が伝染したのか、次々と呪文を唱えながら、空中に禍々しい印を描くと、黒い霧状の物に覆われていき、完成した魔法はおよそ五十発ほどの黒い炎の固まり。飛びくるそれは。鉄を砕く。その無数とも言える乱打を直撃されても、空牙は笑いを止めない。
「温い──かすり傷にもならん、相手が悪かったな──今度は俺の番だぜ」
 空牙は駆け下りながら、戦闘の一体を切り伏せる。聖剣クロスソードの破邪の力と、剣自身の重みも加えた一打だ。乱戦にもつれこまれる。しかし、返す刀で、次々と屠り、返せないほどの飽和攻撃は絶妙な足裁きで躱していく。攻防ともに完成された、まさしく軍神とでも呼ぶべき戦いっぷりであった。
 冷たい風の中が吹き下ろす中、、昇ってきて分断を狙う羅刹と交戦している清原静馬(ec2493)と大輝少年。静馬が目の前の羅刹に一撃を浴びせる。受けようとしたが、刀の重みに抗しきれず羅刹は膝を屈する。
(僕は僕の罪から逃げない、全てと向き合おう。神を探すと決めたその瞬間から僕の運命は回り始めたのかもしれない。だから戦う! それが僕の生きる証、刀をとり立ち続ける!!)
 必殺の自身を以て放った三連撃であったが、仕留めきれない、傷をおして立ち上がる羅刹。
「エボリューション? しまった同じ得物では──仕留めきれませんか」
「静馬、三歩右にファイヤートラップがある!」
 静馬とっさに大輝少年の指示に従い、ステップを踏む。続けて動いた羅刹が爆炎に包まれるファイヤートラップの罠だ。予めしかけておいたそれに引っかかった羅刹は苦痛の表情を浮かべる。重ねてアシュレイが白い光に包まれながら、時はなった法力により呪縛。そこへ飛び込んだ満を持して大輝少年更に両手持ちにした一撃、新当流の一撃ある。続けて動けなくなった所へアシュレイがホーリーメイスで打ち付けてダメージが累積。ようやく地に倒れる。
 そんな3対1でようやく戦っている中、蒼威は鴉天狗の十郎坊少年と背を会わせながら戦っていた。微妙な息抜きの間に十郎坊少年は蒼威のアルマスにオーラパワーを付与する。
「なんだ戦えたのか? ずいぶんとボロボロになったな」
「僕も魔法や銀の武器で無ければ傷つかない体質でして」
 デビルの攻撃を凌ぎきれず数度直撃を受けているはずなのに不死身に思える十郎坊に蒼威は声をかける。
「まあ、いい。背中を預けられる奴がいるのは気分がいいものだ」
 そして5分もしない内に半数以上が切り崩された、次々と姿を消す羅刹達、アシュレイ
は予め唱えておいたデティクトアンデッドによって、羅刹達の進行方向を予期し、皆に指示を飛ばす。
 その指示に十郎坊は翼をはためかせ、密集地帯で闘気を破裂させた。十体程度は巻き込んだようだ。
「どうやら、探知圏内からは全部逃げたな」
 アシュレイの報告に一同は胸をなで下ろし、十郎坊が淡い桃色の光に包まれると、隠れ里の中の結界が外された。
「最初から十郎坊がオーラパワーを使えると知っていたら、羅刹はくびり殺したんだがな」
 空牙はおよそ四十体の羅刹を斬り倒しまくった、その余韻に浸っている。
 静馬が十三体、大輝少年は十二体、アシュレイは十体屠った。十郎坊が屠ったのは九体。やく二十匹の羅刹が逃げ出した。
 
 初めて会う大天狗大山伯耆坊に物怖じもせず、アシュレイは先日の夢の話題を切りだした。
「天使が敗れるなどという、物騒な預言が出ているようですが、その預言の解釈にはいささか疑問が残ります。
 その元になった預言と、現在の状況を照らし合わせて、もう一度解釈を行う必要がありそうです」
 改めて大山伯耆坊は夢の説明をする。
「とりあえず、試案をまとめますので少々お待ち下さい、ロシアでの依頼に整理がついた時に。どこも大変なので」
「事情は判った。だが、急いでくれ、黄竜の封印に、地獄から漏れ出した気が干渉しているのかもしれない。それに──」
 言葉尻を濁す大山伯耆坊。
 静馬がはっきりと口を開く。
「長千代君の、覚醒とも関係があるかもしれないのですね? 不肖の身ですが命をかけましょう。それがどんな冒険でも逃げはしません」
 一方、天狗の隠里の一隅、大輝少年は思い人の『おの』と再開する。
──絶対に破れない約束、守り通してみせる。
 おのを救い、自身が無傷な事で。決しておのをなかせない。
 大輝少年は決意を新たにする。
「背、伸びたんだね──」
 おのが大輝少年に向かう。涙を溜めた目。
「成長期だからな。おのも髪を伸ばしたんだ‥‥似合っている、よ」
「ありがとう、前に貰ったかんざしが似合う様にって」
 無言で大輝少年はおのの手をとった。
 互いの頬が紅潮する。

 これがデビル百八匹と対峙した冒険者の伝説である。