【黙示録】雷帝の下界の都

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:15 G 20 C

参加人数:5人

サポート参加人数:5人

冒険期間:03月01日〜03月10日

リプレイ公開日:2009年03月11日

●オープニング

 重傷が癒えた十郎坊が、戦乱の江戸に降り立ったのは、如月も終わりの声を聞く頃であった。
 高尾山(の廃墟)から何やら文章が出たので、その解読を頼みたいとの事。
 しかし、十郎坊が争点としたのは、その古代魔法文字で記された文書よりも、添えられた古風な花押、一対の並んでいるそれであった。
 太田道灌。そして平将門。
 大天狗の大山伯耆坊の記憶が正しければ、フランクの月道が閉鎖された、富士の大噴火に先立ち、江戸の四神相応による守護を行うべく、高尾山に訪れた事があるという。白虎の白乃彦の扱いが争点であったようだが、別に高尾山から白乃彦を移したり、改めて白虎を置くという事もなかったので、現状放置の状態で手打ちとなったようである。実際問題大山伯耆坊にとってはどうでも良かった──今は解放された大山津見神、黄竜の封印さえ維持されていれば──事である。
 その際に結界を堅固にすれべく『何か』の所在が記されていた──大山伯耆坊は、将門が何かを置いていったのではないか? 会見の内容は、結局の所、得るもの失うもの、何も無しなので、現状維持であった程度しか覚えていない。
「平将門とは?」
「知らぬか。百何十年か前に、この地におった男だ。たしか都と争って、敗れたのだったか」
「今でいえば源徳家康や平織虎長のような存在と言えましょう。異国に兵を出したのがまずかったですな」
 天狗達の会話に、人間達は首をかしげる。
 余談だが、百五十年ほど前のフランクの戦争に、ジャパンの有力武将マサカド・タイラが軍勢を差し向けた記録が欧州には残っている。だが、ジャパンの正史には将門の名前は無い。
 歴史から抹殺された武将。
「そう言えば、高尾山には魔法の武具は無い、という話じゃなかったのでは?」
 十郎坊の言葉に、確認を入れる江戸冒険者ギルドの受付。
「多分、どうでも良い話だったので、何かを置いていったという事も、考えていなかったのでは、と思いますけどね」
「ずいぶんいい加減ですね」
「その書物でさえ、大山津見神様が高尾山の封印を振り切って、周囲を破壊した時の瓦礫をかたづける時まで、忘れられていたのですから。天狗は結構ずぼらだったのですよ」
「で、依頼は? その書物の解読だけですか」
「現状ではそうなります。次以降の依頼として、その何かの探索。見つけた後はその復活、あるいは破壊に、という流れになります。何しろ何があるのか判りませんので」
 古代魔法語の技能、必須。と受付は、依頼文に注釈を入れた。
 その他の危険要因は? と問えば。
「白乃彦さまの深傷と、大山津見神さまの復活で、高尾山の魔法的なバランスが崩壊しました。この精霊力の暴走を狙う曲者がいるかもしれません。これは考えすぎですが」
 白虎を欲すると言われていた『皇虎宝団』も白乃彦に一太刀浴びせるだけで、殺害にまでは至らなかった。魔法的バランスの崩壊による黄竜復活だけが目当てだったのであろうか?
「大山津見神様はどうやらアースダイブで地脈を潜って移動しているようです。魔力の余裕があるのと、時間の制約があまりない大精霊ならではので事でしょうけど」
 なるほど、と。受付は念を押した。
 直接的な外部からの介入は考えにくい、と。
 十郎坊もそれを肯定した。
 ならば、と冒険者ギルドに掲示がされた。
 太田道灌と平将門の直筆を見るチャンスあり、と。
 これが冒険の始まりである。

●今回の参加者

 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb3532 アレーナ・オレアリス(35歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb5540 大沼 一成(63歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec2493 清原 静馬(26歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

結城 友矩(ea2046)/ ガユス・アマンシール(ea2563)/ フィーネ・オレアリス(eb3529)/ ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)/ シーナ・オレアリス(eb7143

●リプレイ本文

 風の精霊力乱れる、高尾山。その山中で、アレーナ・オレアリス(eb3532)はシェリル・オレアリス(eb4803)に宣言する。
「将門公のお宝探しと、シェリル殿のお身柄は私に任せてもらう、という事だ。江戸も大変そうだが、向こうが陽動で、こちらが本命──という事も、考えに入れての事だ」
 そろそろ人間同士の争いには終止符をうてないものかしら? と、シェリル。
「将門公が隠したものなら、マンモンか例の皇虎宝団の生き残りが、狙ってくるかもしれないってことね」
 アレーナは、大きな胸を揺らしながら、まだ気は若い、老僧の大沼一成(eb5540)に向き合う。
「大沼さんが古文書の解読をしてくれるという話だから、それを元に大山伯耆坊さんに該当しそうな場所がないか伺ってみよう」
「私はこういう平和な依頼が好きなんじゃ。以前の様に死にそうになるのはコリゴリじゃよ」
 と、感慨深げに一成。
「ざっと見て、解読には一年はかかるじゃろう」
 木簡の山を見て、絶望的な数字をさらりと口に出す。
「むろん、それは無計画に全部翻訳した場合じゃ。何を調べるかの優先順位を絞り込めれば、自ずと訳すべき部分も絞り込まれて来るじゃろう」

 日向大輝(ea3597)は提案する。
「じゃあ、その絞り込む為の鍵として、古代魔法語で『太田道灌』と『平将門』にあたる部分を教えてくれよ。まあ、山みたいな量だから──あれ、もう書いているの?」
 木簡に向かい合う一成であったが、程なくして大輝少年に一般人には意味のない単語の羅列を木簡に写して取っている。
「はやっ!」
「それがウリじゃからな。言っとくが古代魔法語に漢字は無い。ここに書いたのは古代魔法語を声に出して読んだ場合に近い音になるだけなんじゃ」
 とはいえ、言われてすぐに結果を出せるのは大変な知識量である、それでも一年と明言される。古代魔法語と言えば、大輝少年は構太刀事件を思い出すが、古代魔法語には色々と縁があるらしい。
「必ずしも、この文字列が大田道灌と平将門を意味するか不明じゃ」
「ともあれ、調べ始めるよ」
 と語り終えると、大山伯耆坊さんに折り目正しく挨拶をする。
 そこで、一先ず高尾山を復興してみては? と提案するが、一先ずと言われても、難色を示される。
「そうだな一先ず復興などと言葉は、無能でも出来る事だ。復興の道筋や、具体的なヴィジョンを示さなければ意味がない事だ」
 そこで、シェリルは提案する。
「ならば、霊山として修行の地として復活させては如何でしょうか?」
「確かな方法論だが、今までと変わらぬ。復活というには風の精霊力をどうこうしなければならんだろうな」
「道のりは遠そうですわね」
 愛馬のペガサスと、エスポワールと協力して瓦礫をどかしていくアレーナとシェリル。将門公の隠した宝の場所の手掛かりにでも辿り着ける事だけを願って。
 一方、シェリルはアレーナがあくまで江戸にいる事を失念して、皇虎宝団の刺客達を頭部再生の後、蘇生させてもアイスコフィンで封印できない事を歯がゆく思っていた。
 なお、思考を探っても前回と同じ返答しか返ってこない。そもそも、死体を復活させた所で、どうやって運んでいくか、その構想も立っていない。
 ともあれ、彼女に考え得るだけの探知魔法を発動させ、万が一に備える。
 無論、皇虎宝団の面々からは殺意を感じ続けていたのは周知の事。
 半ばまで斬り込まれた白虎、白乃彦の首の傷口に聖なる母の癒しの力を以て、癒し続ける。
「大分楽になった、ありがとう」
 そんな白乃彦の警備に当たる清原静馬(ec2493)は、大沼以外の仲間と相談して3交代で白虎に張り付く事を提案するが、それぞれに意図があり難しそうであった。。
 ともあれ、白乃彦へ皇虎宝団に関しての推理を一方的に語る。
「皇虎宝団とは関東の大大名が、共同で運用する汚れ仕事専門の忍者集団だと僕は思っています」
「‥‥」
「常識的には一つの忍者集団は一つの大名に仕えるものです」
「いや、そう言われても判らんが」
「──だがそれだと忍者本来の汚れ仕事が行えない場合が出てきました」
「独り言にしては声が大きい」
「つまり有名な忍者集団が悪行を行うと背後の大名の評判に傷がつく」
「‥‥」
「故に大名と繋がらない忍者集団の必要性がでてきたのでしょう」
 白乃彦は沈黙に倦んでいる。
「多くの大名を顧客に持つ、それは別の見方をすれば一つの大名と専属契約を結んでいない忍者集団という訳です」
「ふむ」
 ようやく白乃彦は食いついてきた。長い前振りである。
「それが皇虎宝団の正体だと思うのです」
「以前生け捕りにした忍者が全て違う大名の名を挙げたのはその所為だと思うのです」
「というと?」
「そうです、自分の営業担当の大名の名を語ったのです」
「ならば大久保長安の名が出たのは?」
「判りません。とはいえ、伊達政宗はデビルとつるんでいる訳ではない気がします」
「推測じゃな」
「かもしれません、とはいえ──伊達家の葉や枝にデビルが紛れているだけで幹である伊達政宗は無関係だと思うのです」
「では、お前自身は皇虎宝団をどうしたいのか?」
 白乃彦に問われて静馬は沈黙をしてしまった。

 シェリル、アレーナと一緒に瓦礫を片付け、今までの資料以外にまた何か関係物が出てくるかもしれないし、と大輝少年は黙々と働く。
 作業は見回りも兼ねて登山道周りと天狗の住処の滝の洞窟周辺から始めて、廃墟の中の品を書物、武具、その他に分けていく。
 最優先で用があるのは書物。
 一成に書いてもらった古代魔法語での『平将門』と『太田道灌』ニ単語の書付で、このふたつを覚えて、書物の中から他に二人のことが記されているものがないかを探す。
 見つけた武具とかは当然、天狗たちの持ち物だから、自分がどうこうできるわけじゃないけど、もし忘れていたものがあったらこの機会に、ちゃんと一覧資料にまとめておいたほうがいいのではないか?
 それを念頭において、次に高尾山の詳細な地図作りだ、
『何か』の所在は不明だけど、置いていったのなら探索の時にあって困ることは無いだろう──という事で、白乃彦に高尾山内で風の精霊力の暴走が、不自然に強いところか弱いところが無いかを質問する大輝少年。
「黄竜の封印を堅固にするためにおいていかれたのならその周囲は精霊力の流れに影響が出ているんじゃないかと思ってさ」
「もっともな考えじゃ。ふむ幾つかあるが──3箇所といった所か?」
「とりあえず、地図に印しをしていって」
 白乃彦が肉球で拇印をする。地図自体は不完全なものであり縮尺も怪しい。
 ともあれ、大輝少年は手近な所を起点に、瓦礫の調査を、白乃彦に聞いた地点方向に広げていくようにしていく。
 途中、落雷や大竜巻を遠目にしながら、いくつかの地点が大地に埋もれているのが確認。
 中でも石壁に古代魔法語で何かを彫り込まれた箇所はかなり怪しく思えた。というよりここだろう、そうでなければ不自然すぎる。
「竜巻や落雷が頻繁って中じゃあ修験者だってあまりいなさそうだし、その中でうろつく行商とか参拝者がいたら怪しいかな──さすがにいないけど」
 と、オレアリス家の一門と瓦礫の除去にいそしむ合間に、高尾山の天狗の隠れ里にひそむ少女おのと、雛あられを休憩の時につまむ、大輝少年。
「大丈夫──って大輝を心配するより、自分でどうにかする何かの力を身につけたい──」
「おのは心配症だな。大丈夫だよ、この前の忍者だって無事だったろう? それにしては殺風景だな、桃の花の一挿でもあればいいんだけどこの天気じゃ難しいか‥‥」
「背が伸びても、甘いものが好きなのは変わらないもんね」
「そういえば、そうだな」
 ほほえみを交わすふたりを余所に一成は壁に突き当たっていた。
「ふむ。この『ガ=ザ』という単語が分からん。固有名詞か? 将門公が太田道灌少年と共に江戸の四神を固める為に持ち帰ったものらしいが、判らん──『魔匠』というふたつ名からして多分人名だろうと考えるが──雷を鍛えし───判らんそこから先が判らん。暗号と言うより、知っていて当然の事だから記述していないだけに思えるが、判らない事が恐ろしいと思ったのは初めてじゃ」
 そして、期限は来た。一成は進展をまとめ、静馬に轡を取られて、高尾山から去っていく。馬術に長けていない一成は静馬のフォローなしでは満足に騎乗する事ができない。もちろん、一般的な動作は可能だが、そこを越えると怪しくなる。
 そして、泥まみれになった、シェリルとアレーナと大輝少年は次は当座怪しく思えた場所の石壁の完全開通を目指す事で意見が一致した。
「ガ=ザとは何なのだろう?」
 一成が疑問を漏らすが、時間は無情に去っていった。
 これが冒険の顛末である。