木簡の迷宮、石造りの扉【黙示録】

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:13 G 32 C

参加人数:6人

サポート参加人数:4人

冒険期間:03月19日〜04月03日

リプレイ公開日:2009年03月29日

●オープニング

「江戸は大変ですよ。江戸城の天守閣が半分無くなって──で、翻訳の方は進んでいますか?」
 江戸冒険者ギルドの受付嬢が、山伏姿の少年に化けた鴉天狗『十郎坊』に茶を勧める。
「どうにも──ですね。漫然と凄い話を期待するより、具体的な目標を見極めて、それを突き詰めた方がいいかもしれませんね──『ガ=ザ』というキーワードで行き詰まっているようですし」
「そう言えば、見つかった石の扉、そちらの方は進行が進みましたか?」
「瓦礫で開けられませんでした。アースダイブを試みた山伏もいましたけど、やはり魔法的な防御も施されていて、いきなり飛び込むのは無理そうです。無理と言えば──捕まえた忍者の方々、傷が癒える一方で、いつ逃げだそうとしても可笑しくありません。生き返らせたなら、相応の処遇も考えて欲しいですね。江戸にいる方に封印してもらう積もりのようでしたが──」
 高尾山から江戸まで届くような魔法の使い手は存在しない。
 強力な忍者を証言させようとして、連れて帰るには相応のリスクを覚悟する必要があるだろう。
 十郎坊は茶飲み話にしか聞こえない打合せを終えると、内容を書き終えた受付嬢は契約書を十郎坊に回す。
 こうして契約は成立し、高尾山に太田道灌(ウォルター・ドルカーンが本名らしい、という噂が江戸城近辺から流れてきている)、平将門の残した古代魔法語の書物の山の解析。
 恐らく半分以上埋もれている、高さ5メートル(?)の、石造りの扉を開ける事が依頼となった。
 果たして鬼が出るか、蛇が出るか。

「では──例の品を回収して参ります、マンモン様」
「今は動けぬ我に代わり、いけ、葡萄月の双角」
 何処ともしれぬ闇から交わされる会話──そして蹄の音が響いた。

 高尾を巡る冒険が始まる。

●今回の参加者

 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb4646 ヴァンアーブル・ムージョ(63歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb5540 大沼 一成(63歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec0129 アンドリー・フィルス(39歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ec2493 清原 静馬(26歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

フレイ・フォーゲル(eb3227)/ アレーナ・オレアリス(eb3532)/ 鳳 令明(eb3759)/ アンリ・フィルス(eb4667

●リプレイ本文

 八王子──高尾山、その奥に捕えられていた皇虎宝団の幻十二人衆が決起した。
 ロープで戒められ、死ぬほどの重傷を負っても、熟達の忍びを拘束するには不十分なのか。
「これで良いのだわ」
 シフールのヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)はスリープで全員を眠らせて安心していた。が、記憶を探る作業に没頭した彼女を、突然跳ね起きた忍者が襲う。
「言わぬ事ではない」
 刹那、ジャイアントパラディンのアンドリー・フィルス(ec0129)は光速で跳んでいた。ヴァンアーブルを守り、忍者を迎え撃つアンドリーは、一人を瞬く間に切り倒す。
「ちっ」
 返り血をあびるアンドリーは舌を鳴らす。敵を打ち倒す術は十全な彼も、複数の忍者相手では後手に回る。
「気をつけろっ」
 斬って捨てるのは簡単。ただ、この場でアンドリーの敏捷さは子供にも劣る。抜群の怪力といいジャイアントとしての特性を極めたと───そう言えば、聞こえは良いかもしれないが、要するに残りの忍者は仲間が殺される間にアンドリーの視界から消えていた。
「危ない所でしたわね」
 牢屋に入ってきたシェリル・オレアリス(eb4803)が溜息をつく。
「シェリル殿!」
 出口に殺到した忍者がシェリルに襲いかかるが、目に見えない障壁に跳ね返された。
「ムージョさん、尋問ならコアギュレイトを使ってからにと」
「そんな話してただわ?」
 熟女シフールは首をかしげる。さては忘れていたか。
 のどかな会話が交わされるが、その場の誰にも余裕はない。忍者の一人が炎を吹き出すが、シェリルの結界は壊れない。
「動くな!」
 忍者の一人がヴァンアーブルを掴んで叫ぶ。アンドリーが振り返った時には、シフールの首にどこから持ち込んだものか、細い刃が突き立てられていた。
「この俺が悪魔信者を逃すとでも思ったか!」
「ならば斬れ」
 アンドリーとシェリルは動けない。例え殺されてもシェリルの奇跡で復活させれば、と思わぬではない。だが絶対はない。蘇らないこともある。

 日向大輝(ea3597)と大沼一成(eb5540)が駆け付けた時、見たものは得物を奪われて立ち尽くすアンドリーと、気絶したヴァンアーブルを介抱するシェリルの姿であった。
 すぐさま追手を差し向ける。その過程で打ち捨てられていたアンドリーの得物は回収したが、皇虎宝団の忍者達は発見できなかった。
「石の扉はこの通り、無事です」
 清原静馬(ec2493)は騒ぎの間、動かずに石扉を防御していた。彼がいなければ、或いは悪魔の襲撃があったかもしれない。

「しかし、ガ=ザとは古い名が出てきたものだわ」
 羽を痛め、治療を受けながらヴァンアーブルは彼女の知る伝承に想いを馳せる。
 ガ=ザは古代フランクで名を馳せた──しかし、年代出身地不明の魔匠と呼ばれた、稀代の職人。ガ=ザは優れたセージやウィザードだったかもしれないし、ひょっとしたら人でなく精霊や天使だったかもしれない。あるいは“魔”のふたつ名の通りの魔性の存在か。
「何も分からないのか?」
「ガ=ザの作品があるのだわ」
 職人が現代に名を残すのは作品によってである。
 ガ=ザの作品と言われる中に、雷王剣と呼ばれた一振りがある。
「雷王剣? どこかで聞いた覚えが‥‥」
 抜けば相手を焼き尽くすとまで謳われた逸品である。
「他に何本かあって、五魔剣というのだわ。キエフでも冥王剣らしい情報が出てきたのだわ!」
 ヴァンアーブルの語りにも力が入る。伝説伝承を生業とするバードにとって、これほど胸躍る材料もざらには無い。
「キナ臭い話なのだわ」
「‥何がだ?」
 聞いた事が無いか、とシフールは無意識に声を潜めた。
「デビルが『冠』という凄い何かを探しているという話なのだわ」
「それが雷王剣だと?」
「ふうむ、興味深い話じゃ。さすがは一世紀を超す、マエストロ。ともあれ、扉の深層には黄竜の様な危険な存在が封じられているやも知れぬのじゃ」
「喜んでばかりもいられない。わざわざ『ふらんく』から持ち帰ったものなんだから、やっぱり、普通の品ってことはないよな」
 大輝少年は一成の言葉に釘を刺す。
「俺も、興味が無いといえばウソになる。黄竜を鎮めるのに活用できるか試してみたいけど、大きすぎる力は争いの元だ。封じちゃうのも考えとかないとな」
「ほう、分別のある事を申すものじゃな」
 若者を見守る先達の気分で一成は大輝を見つめる。大輝の方が冒険者としては先輩であり、ベテランではあるが。
「異存はない。眠っておるのは災禍か希望か、いずれにしても、翻訳が終わるまで開けないのが良かろう」
 冒険者達は語り合いながら、掘り返された石扉の前にやってくる。アンドリーが“跳ぶ”ためのランタンや、静馬の座所であるテントが整然と並べられている。
「誰だ?」
 静馬が鋭く誰何する。
 一同はよどみなく答える。できなければ、顔見知りでも敵と見なす。それが今の静馬の最善手と知るが故であった。
「謎は解けましたか? 大沼さん」
「古代魔法語を多少知っていても、基礎教養がないと判らぬものだ。これからの一生を通して学ぶことばかり」
「道理です。それはそれとして、結論は?」
「地に『雷』即ち風では心許ないが──あえて、フランクから持ち帰った品、何かの意義がある」
 改めて露出した扉を見やる。しばらく太陽を見ていない一成の目には何もかもが眩く映っていた。
「汝に守るべきものあらば、四大精霊の名に於いて我を求めよ。されど、守るものなきものは、力の奴隷と化すであろう。三神の力に連なるものは、既に三神の奴隷なり。されど、求めるなら、唱えよ我が名を──」
 そこまで古代魔法語を読み上げて、一成は小さく唱えた。
「三神とは弥勒、天、阿修羅の事じゃろう。わし、シェリル、アンドリーには資格無し、という事か? しかし、力の探求者として唱えよう、汝の名は──」
 沈黙が落ちた。その中で一成の年老いて尚、張りのある声が殷々と響く。
「──雷王剣」
 まるで最初からそこには何もなかったかのように、石扉は音もなく消えうせた。
 奥に向かって、短い通路が延びている。
 冒険者達は、皆、無言で通路に入った。
 中は十メートルほど進んだ所で、広場となっている。差し渡しは100メートルほどもあろう。その中央の白い石にしっかりと白い抜き身の刃の剣が刺さっている。
 西洋風にはブラン、東洋風ならヒヒイロカネか。大久保長安が見れば、全身からよだれを垂らすかもしれない。
 剣の前に人影。
 十を超えた程度の少年に見えた。印象は中性的、いや無性的というべきか。
「雷王剣の選定人、いえ精霊のジニールです。平将門の手により、フランクから参りました。名は語りません」
 西洋風にはジニー、東洋風には風神と言われるエレメンタルビーストは、京などで名を馳せた鵺には劣るものの、上位精霊と呼ばれるだけの力は持っている。
「自分で使えそうにないけどこの剣は良きもの?」
 あえて、ヴァンアーブルが訪ねる。
「『力』は中立です。しかし、柄を握っていなければ自分が斬られるかもしれません。おどしではありません。この刃は鞘に収まっていても、尚人を害します」
「鞘?」
 静馬は周囲を改めて見渡した。恐らく雷王剣は抜き身のまま突き刺さっている。
「自分は精霊と誼のあるものに、この剣を委ねるよう依頼を受けているだけです」
 そういって、大輝少年と瞳を会わせる。
「無くしたくないものがあるようですね」
「自分に誓ったんだ、決して泣かせはしない。その為に強くなるってね」
 ジニールは微笑んだ。
「僕は自分が台無しにしたものを取り戻したい。守るべきものとは違いますが」
 機先を制する静馬。
「長千代くんを元に戻したい。その為に手段は選べません」
 越えられない一線はある、静馬の瞳は雄弁に物語っていた。
「おふたりには、雷王剣の持ち主の資格があるかもしれません」
 名もない精霊がそう宣した。
「こころが決まったらお抜きなさい。それまで扉は再び閉ざします。時間をあげます」
 そして扉は再び閉ざされた。
「やっぱり、この力は誰にも判らないよう、扉を埋めた方がいいかもしれないな」
 思い人の体温を思い出しながら、大輝少年は呟いた。
 誰が剣の主になるか──それが問われようとしてる。
 これが冒険の顛末であった。