●リプレイ本文
(『怪盗』ではなく『怪盗を自称する者』の捕縛。
‥‥所謂怪盗3世とは別の人物が犯人のようですわね。
これまでの話とはあまりにも違う手口です、やはり別人と見てよいでしょう)。
その思いを胸に抱きつつ、パリの教会を回ったクリミナ・ロッソ(ea1999)であったが、単純に“天使”と名の冠された品々はあまりに多く、パリ市内に限っても絞りきれなかった。
しかし、ひとつの噂を耳に挟んだ。ノルマン占領当時、占領側と非占領側の教会関係者で、9つの天使の位階を記された品々の争奪戦が繰り広げられていたらしいのだ。しかもそれらは全てアメジストで飾られていたという。品々の出所ははっきりしないが、全て、1度は教皇庁を通っているらしい。
「悪なる者には力を、善なる者には権威を、そして只人には何の価値もないという」
「ジャパンの禅問答の様なものですね。とんと見当がつきません」
そこでクリミナははたと考えにつまづいた。
では、ホーリーライトの意味は何?
(怪盗参上と書かれたカードが現場に有るにも関らず、怪盗を自称する者の捕縛が目的の一つで有る事。前の話を聞く限り怪盗と言い切っても良いのに。
さらに、相手を自称怪盗、つまり前の怪盗とは別に考えると天使の道具を三つ揃えられなければ行けない場所に行け、と言うのがおかしいね。まるで怪盗くんが接触する事が判っているみたいだ。騎士団が出した依頼書とは到底思えないね。ふむ、聞いた通りだと怪盗が出した依頼に思えるけど、考えが飛躍し過ぎかな?)
と、アルヴィス・スヴィバル(ea2804)は思索に余念がないのであった。
(さてさて、何やら面白そうな匂いがするね。
ふふ、首を突っ込まなきゃ損だね、これは──ニタリ)
そんな事を考えている彼とは別に、ラーゼル・クレイツ(ea6164)とセシリア・カータ(ea1643)のふたりがアルフリーデの所属していた騎士団を訪れていた。
ラーゼルが聞き込みしたことをまとめると──。
被害者アルフリーデは135才(外見年齢45才)であり、45才つまりは90年前からこの騎士団に勤めていた事実上創立当初からのメンバーである。
叙勲したのは60才(20)才の頃だが。
最近ではブランシェ騎士団の台頭に伴い、騎士団は武力としての意義よりも精神性に重点が置かれ、メンバーは各地にある自分の荘園などに戻っている。
彼女は年長の指導者としての役目上、かなり親交が篤い相手もいたが、ローマ占領時にデミヒューマンの扱いを巡って、半ば孤立した状態になっていた。
犯人と黙される『怪盗』はこれまで故意に人を傷つけた事はなく、その為、予告状を出しても成功率は3割前後。卓越した体術で相手の攻撃をよけきり、スクロール(主にムーンシャドゥ)での逃走が常套手段。この10年はなりを潜めていたが、夏くらいから行動を再開したという。どうやら、関係者らしい怪盗3世の出没もそれに絡んでいるのだろう。
「ところで──こういう人物だが?」
とラーゼルが手紙を持ってきた騎士団員の顔を教えると、会わせてくれたが、依頼を出してない、との返事だった。
「怪盗か!」
ラーゼルは叫んだ。
「この事件は俺は怪盗はシロだと思う。
今まで3世の方にしか関わっていない俺だが、いきなりこんな事件を起こすとは思えない。
盗むのはともかく誰かを亡き者にするということはないだろう」
セシリアは彼等の装備品に目をつけた。
「ああ、これは当騎士団の神聖騎士が身につける特別製のクルスダガーです。普通より細いでしょう──あ、これはアンソニー様、お早いお越しで」
中年の騎士が現れる。腰には同じく細身のクルスダガー。
「シフール通信がそんなに早く着きましたか? それにしてもお早い」
「いや、冬の品々を用立てようとパリに来ただけだ。今、そこで聞いたのだが、アルフリーデ様がお亡くなりになったと。不幸が続くものだ、彼女から託された“天使の涙”は『怪盗』に盗まれてしまうし」
セシリアが悲しみに打ち震える風のアンソニーに問う。
「あのう、お知り合いでしたら、何か怪盗に関する事をお聞かせ願えないでしょうか? あんな殺し方をするなんて許せません」
「そうだな。遂に怪盗も地に落ちたという所だな」
「ところでこんな噂を聞いたのですけれど『《十月八日。2人の天使と共に教会に本物の座天使の宴を頂きに参上する──怪盗》と殺害現場に新たに届いたらしい』って」
「何だと? では、アルフリーデ様は無駄死にだったというのか」
アンソニーは血相を変えた。
それは人を見る目のあるふたりの心に警鐘を打ち鳴らすのであった。
「成る程、フードをすっぽり被ったふたり組が来て、アルフリーデは人払いをした、と──怪しさ大爆発ですね」
サラサ・フローライト(ea3026)と薊 鬼十郎(ea4004)は主人を失った館の侍従、侍女に聞き込みをして回ったが、あまりにも怪しげなこの行動はパリの内部では出来なかっただろう。
パリの郊外に位置し、直接、官憲が手を下さない館の為、捜査も芳しくないらしい。
(『私は誓約という檻から逃げる事は出来なかった』この言葉が気になる…彼女が誓約を反故しようとして事件に?)
名前に相応しからぬ手弱女の鬼十郎が先入観を廃して思考に耽っている間に、サラサが苔の一念で魔法を使い続けた結果が出た。
来訪は2度に渡って行われた事が判った。
最初の来訪で飲んだワインに一服盛った後で去り、次にその時に留め金を外しておいた窓から侵入。
動けない彼女を更にロープで戒め、細身のダガーで滅多刺しにする。
指輪を指ごと切り取る場面では途中で吐き気を催してきたが、サラサは耐えた。
そこへ怪盗が現れ──という所で彼女の術の限界が来る。
膝から崩れ落ちる彼女を支える鬼十郎。
「あまり、無理をなさってはいけません」
「だが、肝心な事が見えた──怪盗はシロだ」
しかし、と鬼十郎は宣言する。
「だが、花嫁事件で利用された事‥‥怨みは無いが、騙された儘では歴代、薊 鬼十郎の沽券にも関る‥‥いずれ決着は付ける」
一方、監獄ではブルー・フォーレス(ea3233)は尚も、取り調べを受けていた。
ジィ・ジ(ea3484)の様に運良く、ギルドで連続で仕事を請け負っていれば拘束されることもなかったのだが。あの年で良く冒険心が尽きないと思わせるパワフルぶりを羨ましく思っていたが、ジィ老はジィ老で色々と企てていたのだ。
怪盗の反応を知るため、真犯人は近くに居るはずと踏み。
情報を得やすい立場── 官憲に顔が利く── だと思うので、ラテン語のみでまくし立て、教会関係者を呼ばせたのだ。
わめく内容は、事件発生時のアリバイのギルドへの問い合せ要求。
やって来た通訳の人柄を観察。残念だが、教会関係者ではなく、単なる通訳であった。
「すみませぬ。興奮するとラテン語しか話せなくなる癖が」
と苦笑を浮かべるのみのジィ老。
(ふうむ、教会関係者以外にも通訳という手がありましたか、これは手抜かり)。
ともあれ、ジィ老は拘留から外され、対照的にサーラ・カトレア(ea4078)は
「私はやっていません。
なんでそんなことをしなくてはいけないのか。興味ないのに」
ブルーと同様、自分の無実を訴えるしかなかった。
ブルーも──
「アルフリーデさんから聞いた話だと『座天使の宴』が教会から守るように手渡された品だとか、教会関係者が怪しいんじゃないですか?」
と、裏から捜査を誘導していく。
一方クリス・ハザード(ea3188)も真っ向から──
「私は殺していません、絶対に無実です」
と答えるのみ。
一方、アルル・ベルティーノ(ea4470)は取り調べに素直に応じ、確かに彼女自身が関わっているのは異様だという印象を与えるに至った。
くノ一、城戸 烽火(ea5601)と我羅 斑鮫(ea4266)は己等の隠密要員としての真価を自ら問わざるを得なくなった。
そんじょそこいらの鍵と違って、詰め所の鍵は頑丈に出来ている。烽火の技を以てしても、開けることは敵わなかった。無理に開けようとすれば、衛兵を呼び寄せる結果になる。それが全員の印象を悪化させるだけだと判っていた。
「ふむ、結局は確認になってしまったが、盗られたのは指輪のみか」
「我羅様すいません、あたしが不甲斐ないばかりに拘束されるんですね、彼女が死んでしまうなんて‥‥使用人に暇を出す案がこの様な形であたし達に影響をおよぼすとは思いませんでした」
当然の事ながら、拘束時、身につけた武器や怪しい道具──特に鍵開け用具なども取り上げられているので、ふたりが出来ることは拘束期間が過ぎるのを待つ事だけとなってしまった。
(アルフリーデさん、ごめんね‥‥私じゃ力になれなかったよ。
でもね、あの怪盗さんはシロだと思う。だって、アルフリーデさんはいったよね
『昔、愛した男』だって‥‥だから、私はその言葉信じるよ)
チャミリエル・ファウボーラ(ea5950)は取り調べに対しても、真っ向から──
「も〜私のような身体でアルフリーデさんみたいな人をつるせるわけないでしょ!!」
「共犯にはなれる、煙突から潜り込んで窓を内側から開けておくとかな」
「動機とか、私達にはないよ! あったのだってこの前の依頼が初めてなんだから‥‥」
「指輪に目が眩んだ、と」
「私たちを犯人っていうんならアリバイ以外の証拠もあるんでしょうね! ねぇ!!」
「冒険者の多様な技能を活用すれば、アリバイ隠しを含めて、大抵の事はやってのけられる。特にシフールなら人払いした時に家に潜り込むチャンスは幾らでもあったはずだ。ナイフで滅多刺しにしたのは腕力がない証拠だとも言える」
「ひどい、それならシフールの面子が居る冒険者なら誰だってパーティー組めば出来る事じゃないの?」
「で、関係者としてはどう思う?」
「私は無罪、フン!」
と、そっぽを向く。
だが、アルルが素直な態度を見せた事で、冒険者達は犯人扱いから参考人へと、重要度のレベルは落ちたらしい。
「アルルありがとう‥‥」
ジィ老と同様、依頼に関わってアリバイがあるノア・キャラット(ea4340)は受付嬢の話を聞き、ラーゼル達と合流した。
そして、拘束から解放された面々で、騎士団員のリストを聞いた花嫁事件に関わった者はひっくり返った。あの、ロムローデがメンバーにいる。
呻くジィ老。
「あのお方が‥‥これは少なくとも、あのアンソニーという御仁とロムローデは関係者という事でございますか」
クリミナは不安げに呟いた。
「後は三つの“天使”を待つばかりでしょうか。天使を従えるのは一体誰でしょうか‥‥?」
「で、ちょっと引っかけをやったんだけど」
とアルヴィスが漆黒の瞳を煌めかせて告げた。
「さあ、行こう! 最高のショーが見られるよ」
アルフリーデの館。
血痕もまだ生々しい絨毯の上にロムローデとアンソニーのふたりは訪れていた。
そして対峙する様に『怪盗』が月影から現れる。
「さあ、残りのふたつの天使を渡してもらおう」
アンソニーが『怪盗』を挑発する。怪盗がアメジストの輝きを持ったふたつの品とスクロールを持っているのが見える。
「これは絶体絶命の大ピンチというべきですかな」
「如何に体術が優れていようと、聖なる母の裁きからは天使ほどの聖人でもなければ、確実に体力を殺ぐぞ、その老いさばらえた身ではな」
そこへ潜んでいたアルヴィスが術を一瞬で組み立て、氷嵐をぶちまける。
「悪い人はゆっるさないんだから」
とチャミリエルが闘気の塊をロムローデに叩きつける。
既に武具にも己にも闘気を纏わせたセシリアがアンソニーと斬り結ぶ。ノルド流の剛柔併せ持つ剣技が冴えた。
「アルフリーデさんを無残に殺されて腹はたたないんですか?」
ブルーが『怪盗』を挑発する。
「残念だが、人を害する術は持っていないのだ。手持ちのスクロールにも何もね」
そこへ飛び込む鞭の叫び声。ジィ老がアンソニー目がけて放ったのだ。
しかし、半身になってかわすアンソニー。懐から紫色の輝きがこぼれ落ちる。
「ほほぅ、なぜそこに座天使の宴が?」
「貴女が背負っていたもの‥‥私はそれが知りたい」
「アルフリーデさんが10年間待ってたって‥‥一体、これを集めることとその場所に持って行くことになんの意味があるの? 貴方が怪盗をしなきゃいけない理由ってなに? 教えて、私たちにも‥‥」
「それを集めると‥‥いや、それは君たちで知り給え。私が怪盗をやっていたのは神聖ローマのやり口が気にくわなかったのと、虚栄心が半分半分といったところだな──おっと」
居合いを怪盗に寸手の差でかわされた事に、鬼十郎は歯がみする。
「傀儡にされた痛み、返して差し上げます」
「アルフリーデが背負っていたもの、それは素晴らしいものだよ。そして、私にも孫にも手出しは出来無い。だから、君たちを集めた、ホーリーライトで天使の名を冠された物品を照らし給え、地図が浮き上がるはずだ、そこに『彼』は在る。魔法を解除できる魔法の使い手を連れてそこに行けばいい。魔法を解く魔法は精霊魔法ではないのでね、スクロールにはできない」
言った直後、鬼十郎の返す一撃を甘んじて受けると、怪盗は月光で出来た闇の中へとスクロールから魔法を発動。彼方へと消えていく。
その間隙に乗じて斑鮫はアンソニーの背後へと一瞬煙に包まれた後、完全な静寂を保ち、後方へと回り込むと、当て身で気絶させる。
ノアがファイヤーボムの呪文を唱えようとしたが、この空間内では味方も巻き込むと自粛。
次の瞬間には印を結び終えた烽火が周囲を巻き込む春花の術でロムローデを眠りに落とす。
「これで犯人は確保したでございますな。後は──」
「私の出番ですね」
クリミナがホーリーライトの加護を聖なる母に願う。ともし出された光は3つの天使の名を冠した器物のアメジストに乱反射させ、何かの図を壁に描こうとしている。
意味のある像を結んだ瞬間、斑鮫はそれを記録しようとし、筆記用具をアルヴィスが貸し、出来るだけ克明に記録をする。
「何か文字が書いてあるが、ゲルマン語ではないようだ」
クリミナがそのラテン語を読んでぞっとする。
そこには──魔王の糧とあったのだ。
ともあれ、パリから3日ほど歩きで行った山の中の洞窟らしい。
行くべきかの決断は、後日冒険者に委ねられた。