●リプレイ本文
「やはり、冒険者などやっておりますと、多少の旅路は運動にもなりませんな」
ジィ・ジ(ea3484)が山の中腹にぽっかりと空いている洞窟を見て一同に宣する。 風向きによっては、まるで咆哮の様に、腐臭がその洞窟から漂ってくる。
村人からはあの山に行くのはやめておけととめられたが、真実を知りたいという欲求が一同を突き動かす。
もっとも、浪人の五十嵐ふう(ea6128)などは多彩な色合いから不吉さを感じさせる虹色の瞳で──洞窟をにらみ。
「う〜、臭っせぇなあ‥‥。この山の持ち主、掃除でもしとけっつーの!」
と、言っているのだが、グレープジュースを染み込ませた布を口に宛(あてが)っている故、明瞭に周囲には聞こえない。
それもないでしょう、とゼルス・ウィンディ(ea1661)が解説と言うより、自己の論旨を述べる。
「生きて帰った者のいない地ですか‥‥。こういう場所は財宝よりも、外部に漏らしたくない史実などが隠されている場合が多いのですが、さて、今回はどうでしょうね‥‥」
「臭い」
「ああ、そうすね。全く」
パリからここの山まで時折立ち止まっては追跡者を懸念してブレスセンサーを行使していたゼルスだったが、今まで一同の範囲100メートル以内に人らしい反応はあまりなく、街道筋でも人々は通りすがって行くだけ。
もっとも怪盗が変装の名人ならば、あまり意味の無いことかもしれない。
山に入ってからは自然と取れるレベルの反応しかない。
要はこんなに大量に人間がいれば、普通は動物も逃げ出すだろう。
「ふ‥‥胃が痛いな、ゼルスもだろう?」
ロックハート・トキワ(ea2389)にしても、道々立ち止まってはゼルスがいきなり立ち止まって全身を緑色の淡い光に包ませるのを見れば、追跡を懸念する身としては、“彼”の謎を加わって胃も痛くなる。
「やっぱり、狩りは駄目ですか?」
とブルー・フォーレス(ea3233)が一同に訴える様な目で見るが、コトセット・メヌーマ(ea4473)などが糧食を十分に準備できず、ここに来るまでに保存食を食べきった為、一同が保存食を供出し合う事態になっていた。これ以上のタイムロスは避けたい所である。
一部で懸念されている、なんらかの勢力の妨害があった場合、ブルーが単独行動すれば良い的になる。
──もっとも、相手が敵対行動を見せたら、逆にブルーの矢でハリネズミになる事は間違いないが。
やはり、一同が離れていくのは望ましくない、と争論がまとまった。
それでも、とブルーは野営時に森の中へ出ると『893』と木々に掘って回った。
クリス・ハザード(ea3188)は懸命に山岳知識を振り絞っているが、ブルーは彼女の未熟な知識の斜め上を行く男であり、少々、クリスは焦りを感じた。
だが、火の周りの始末などは知恵を出している。
(まだ始めたばかりなのだから、これから精進していけばいい)
「ところで、ゼルス殿は何故『怪盗』がこちらに来られると考えで」
「それにしても、『彼』とは誰なんだろうかと考えましてね──かつての怪盗さん達の仲間のなれの果て‥‥なんて可能性もありそうですが‥‥」
「それはないかと存じますが。ゼルス様は先の冒険で地図を見たのが、そういえば、私たち冒険者だけという事を知りませんでしたな」
「もし、彼のこの場所を知っていれば、名義は何でもいいのですから、魔法を解除できる面子を集めればいいのでは? つまり、怪盗は何かの鍵があるのだと推定はしましたが、その謎がどこに置かれているかは知らないと思うのですが、如何でしょう?」
「後から来た俺は殆ど何も言えない。古株の皆にまかせるさ」
「いえいえ、もはや正式な依頼ではありませんが、アルフリーデ様が信仰にかけて守護を誓わされ、怪盗様が求める(?)“彼”の「真実」を最後まで見届ける所存です」
ロックハードはこの口論にはあまり耳を傾けず、周囲に気を配っている。
「彼、とは一体なんなのでしょう? 私は人ではないかと、それも長寿を誇るエルフでしょうか。絶大な知識と魔力を誇り、占領者に力を貸して暗部として封印されたのではないでしょうか? とりあえず、戦闘になるのは抑えて、ローマに奪われないように保護したいと思います。狼は私達、天使は封印されし物」
城戸 烽火(ea5601)が真摯に自分の意見を述べる。
「魔王の糧とは、強力なデビルを召喚するときに、それ相応の知性あるものを用いると伝承でいいますからな。案外、デビル関係ではないかと。まあ、これも伝承ですが」
と、ジィが蘊蓄を披露していると。
「怪盗が求めた物、魔王の糧、権力、力‥‥そして“彼”って何なのかしら?
天使さまの名を冠した装飾品が導くものが人を不幸にするものだとは考えたくないのですが。しかし力は人の意思に関係なく振るわれる事があります。山の中で見出すものもそうなのかもしれません。
昔に多くの人達が追っていたのならば、今でも手に入れようとする者がいるでしょう。
私達や怪盗以外に‥‥いえ、私達の後を追って‥‥そのとき、前後の敵と戦う事になる可能性があります」
「地図を見たのは私たちだけですし、今回参加しなかった皆さんも口は堅いかと」
とマリーのフォローするジィ。
だが、気もそぞろなロックハードに声がかかる。
「イギリス風に言えば『Not even justice.I want to get truth』
って所かな?」
とスモールシールドを持った我羅 斑鮫(ea4266)が少年の背後に立つ。
「意味は判らないがそれでも俺は‥‥‥‥探し求める‥‥‥‥」
とにかく、洞窟に潜入するしかあるまい、ゼルスの魔法でも一同以上の反応はなかったのだし。
松明に照らされた洞窟は最初こそ狭かったものの、奥にゆくに従い、その広さを増していった。
「アイスチャクラムをお渡しします、使ってください」
と、嫌な雰囲気を感じたクリスが淡い青い光と共に生成したインドゥーラ産より一回り大きな氷のチャクラムをロックハートに渡す。
ベガ・カルブアラクラブ(ea5215)の分を作っている内に壁の一部とも見えたガーゴイルが、そして、奥底からは異形の怪物が出てきた。
コトセットが叫ぶ。
「あれはグリフォンのズゥンビ。魔法はオーラ魔法の付与を主体にしろ。下手なドラゴンより強敵だぞ、後はガーゴイルが2体居る、これも厄介じゃ頑丈じゃぞ。どちらも通常攻撃は有効だ。ただガーゴイルは頑丈だぞ」
言いながらコトセットは呪文に入る。
「ははは‥‥これは凄いのが来ましたね‥‥」
レイ・コルレオーネ(ea4442)がたぎりにたぎる。
「見せてあげるよ! 連携攻撃は、10秒間のエクスタシー !」
コトセットが赤く淡い光に包まれると、ベガの構えた鏃に火の精霊力が宿る。
「お前達の親玉のところへ、逃げていきな!」
ひいふうと放たれた矢がグリフォンズゥンビを直撃する。
「ズゥンビの類は避けない。当てられる最大の技で行け!」
「敵を足止めします。出てきたところを攻撃してください──火の精霊たちよ。煙と成りてこの場に集まり敵を取り囲め! スモークフィールド!」
ノア・キャラット(ea4340)が魔法の煙を発生させ、相手がゆるりと飛び出すのを待つのみ。
「よっしゃあ! 待ってました! ブッた斬ってやるぜ!!」
と、ふうが抜刀しざまに、奇妙な異国の踊りの様な戦いぶりを見せる。
だが、空中からニードロップを噛ますガーゴイルに腹部が轟沈。
「ぐっ‥‥! あははは!! 痛ぇな、畜生! いい一撃をぶちこんできやがる!!」
だが、続いての一撃でふうの反骨精神もへし折られた。
その背後に渾身のゼルスのウインドスラッシュが直撃する。
背中に裂傷を負って空中に逃げるガーゴイル。そこへロックハートのバーニングソードが付与されたダーツが命中! だが、弾き返される。
「ベガさん、お使い下さい」
クリスもチャクラムを生成し終わり、氷のチャクラムが渡される。少年は淀みない動作でアイスチャクラムを受け取り、投擲しては命中させ、帰る一撃を受け止める、の一連の動作を行う。
だが、動きは僅かに鈍りこそすれ、止まる気配はない。
「そこへこれでございます」
と冷たいチャクラムにバーニングソードを付与するジィ。
その隙をつこうとする無傷のガーゴイルに飛びかかる薊鬼十郎(ea4004)。
(『誓約という檻』‥‥アルフリーデの事がこんなに気になるのは私も六代目薊鬼十郎という名の檻から逃げる事は出来ないからか‥‥誓約という檻の中、彼女は何を背負い生きたのか
魔王の糧に行けばその答はあるのだろうか?)
と、思いに耽りつつも鬼十郎の一刀はガーゴイルの重い一撃を辛うじて受け止める。
一方、セシリア・カータ(ea1643)は少しでも相手の体力を削るべく、オーラパワーを皆に付与するのに専念していた。
その間にも──。
「大気に眠り精霊たちよ! 炎と成りて我に力を与えよ! 火玉と化し敵を破壊せよ! ファイヤーボム」
ノア・キャラットが直径15mの爆風を周囲にぶちまけるが、周囲は頑丈、仲間はまだ接触していないので、ノープロブレム。
「いやぁ、これだけ火のウィザードがいると、私の出番無くなっちゃいそうかな」
ファイヤーボムの連打音にレイがバーニングソードをオーラパワーの付与された武具にプラスαしていく。
ニコニコしながら呪文を唱える彼だが、後方でクレリックのマリー・アマリリス(ea4526)とインド生まれのソニアといった、ジィの手助けで宗教談義仲間になった友達達が力を合わせピュリファイでズゥンビを浄化していく。
相手の抵抗力も無に等しく、次々と体が消滅されていく。
「すみません、あとの事を考えてここは」
「ならば、その分まで!」
そこへ割って入るオーラパワーが付与された一団である。
北道が圧倒的な格の違いでガーゴイルを牽制し。援護の無くなった所へ手の空いた数多の武具(一部は素手)は回避という思考がないグリフォンズゥンビを引き裂いていく。
それでも素手で戦うのは多少無理があった。レイが若干の損害を受けるが、物量勝負、オーラパワーはアンデッドには絶大である。
そして、セシリアの絶叫。
「私の剣をうけてみよ」
どうという彼女の剣戟と共にグリフォンズゥンビは倒れ伏した。
最後に反撃とばかりに飛びかかるガーゴイルだったが、重傷者が出るが、一同のチームワークで水も漏らさぬ包囲網を敷き、最後はブルーの矢でキメ。
「とうとうやったね。ハン、まだ震えがとまらないよ」
と、ベガは己を抱きかかえる。
そして、洞窟は再び狭まったかと思うと、100メートルばかり進んだ先に空間が広がっている。明らかに加工された“部屋”だ。
そこにあったのは何かに怯えている少年像であった。10才といった所だろうか? 台座があり、そこには『未来の者に告げる。ここにあるは魔王召喚の鍵となり、贄として祭壇に捧げられるものである。力を付けたのだから、それはお前のものだ。私が悪魔崇拝に目覚めたのが些か遅すぎたようだ。世界を混沌と地獄に染めよ。資格はお前達のものだ』
とゼルスはあちこちに書かれた文章をゼルスが読むと、一同は一種即発の雰囲気に飲まれた
「ふーん、不思議な事もあるものです」
とブルー。
「でも、大きすぎる力は破滅をもたらします。こんなものは使われないほうが世のため人のためです」
「でも、怯えています。彼が聖でも魔でも‥‥皆に危害を与えないなら友好的に対処しましょう」
と鬼十郎。
刀を構え、ブルーと間合いを取り、象を背後に庇うが、相手の視線も鋭い。
一歩、引いた所で見えない壁に突き当たった。
「穴?」
「そこへブルーが鬼十郎の脇を掠める様に一矢を放つ」
だが、見えない壁に阻まれ、床に落ちてしまった。
その矢の行方を見ていたゼルスは鬼十郎の足下の床にひとつの発見をする。
ちょうど、ギルドから預かった形となっていた3つの天使の装飾品に丁度合う凹みがあったのだ。
「では、893の謎を解きましょう。
おそらく8は大天使の位階ですから、これが8」
言って大天使の錫杖をはめ込む。
「9は天使、3は座天使」
ジィは次々とはめ込んでいく。
フッという音がして周囲の空気が変わった。鬼十郎も壁が無くなった事で一瞬バランスを崩す。
「やめろ!」
ブルーが矢を射れば、当然、かわせない鬼十郎はその矢を落とそうとするが、弾けなかった。突き立つ矢に剣客としての矜持から顔色ひとつ変えない鬼十郎。だが、ためらい無く次の矢を番えるブルー。そこへ最後の座天使の宴がはめ込まれた時、何かがはじける音がした。
だが、その後ろでソニアが呪文を唱え終わり、ニュートラルマジックを発動させ、象にかかっているに違いないだろうストーンの呪文を消去した。
いきなりのバランス感覚のずれに地面に尻を突く少年。
だが、そのまま立ち上がり、鬼十郎にジャパン語で──。
『今、治しますね』
ブルーが矢を番える間に右手に十字架を持った少年は白く淡い光に包まれて、鬼十郎が癒されていく。
「ところで、皆さんどなたでしょう? いや‥‥僕は誰でしょう‥‥確かノエルでしたけれど、それ以上は何も覚えていません」
そのノエル少年は鮮やかな金髪の肩口で切りそろえた髪。やや、少女めいた、おっとりした表情にきらきらした茶色の瞳を持っていた。尚、服装は黒地に黄色で両肩口の鏃をよっつ集めた様な十字のシンボルと同じく全ての裾が黄色い黄色のライン付の僧衣である。ちろん十字架も首から下げている
「とにかく、助けていただいた様で有り難うございます。でも、これから何をすればいいんでしょうか?」
とりあえずは、ギルドで手伝いをしてもらう事になった
一同は山を下りる。
こうして新たな謎を呼んだまま893の冒険は終わるのであった。