●リプレイ本文
村へ向かう馬車の中──。
エグゼ・クエーサー(ea7191)は現状を聞いて意気を挙げる。
「さすがにオーガたち見逃してはおけないよな。
たとえ、我が身を削ることになっても‥‥だ。 正義なんて気取るつもりはないけど、村人たちから『日常』を奪い去った罪は大きい、容赦など微塵もしない」
「その意気や良し、勇者とはあなたのよな者をさすのかもしれない」
おだてるつもりはない、コトセット・メヌーマ(ea4473)の一言であった。
「だが、命を落とす事なかれ、勇者はそう居るものではない」
彼の豊富なモンスター知識からオーグラの戦闘力を鑑みて、村人の脱出に重きを置き、戦闘そのものを囮とする作戦となった。
まず、オーグラについてコトセットは仲間に説明。自分でも気分が悪くなるが、それ以上に皆の顔色が忽ち悪くなるのが分かった。
オーグラにとって村人は人質ではなく、食料そのものなのだ。既に何人喰われているか。
そして特出した戦闘能力。今回の参加者で対等に渡り合えるものが何人いるか。
肉を斬らせて骨を断つではなく、骨を砕かせて肉を削ぐといった感じ。
逆に言えば、己の武の見せ所でもあるか。
それに応えるエグゼの声。
「俺は死ぬつもりはないし、仲間も村人も、誰一人死なせるつもりはない。 だからこそ“死ぬ気”でやらせてもらうよ」
「これは見当違いだったかな──単に死を恐れぬだけでは勇者とは呼べぬからな」
「俺は絶対に死なん! なぜなら、俺は『明るい皆のお兄ちゃん』だからだ!! お喋りが過ぎたようだ‥‥」
「『明るい皆のお兄ちゃん』とは、それはいい! 生半可な勇者を気取るよりは遥かに険しい道程ですな。ま、どちらにしても命は大事にする事だ。いざという時になれば、教会という道もある事だし」
「教会だぁ?」
やり取りを聞いた。レティシア・ヴェリルレット(ea4739)が如何にも見下したような物言いに一同は驚いた。
「行く用意なんざ、さらさらねぇぜ。その金がありゃ矢ぁ買いにいくに決まってんだろ。
持てない程の矢は地面に置いて順次矢筒を取り替える、これ最強」
まあ、別に定点固定型のスナイパーとしては驚くに値する戦術ではない。
「教会のお世話になりたくねぇなぁ」
とポリポリと左目の傷痕を掻きながらルビー・バルボア(ea1908)も賛同する。
「今回の依頼は‥‥村人の救出だしな、俺は遠距離攻撃で援護射撃を行なうとしよう」
「パクリかい?」
レティシアの軽口にルビーは笑って。
「レティシアさんは定点固定、俺は遊撃。ジャンル違いじゃスコア争いにはならないぜ」
「じゃ、互いに健闘を願うぜ‥‥祈んねぇのは、俺が神サマ信者じゃないから〜♪」
クオン・レイウイング(ea0714)は一言尋ねた。
「死んだ後、どこに埋葬してもらう積もりだ?」
「さあ、どうせロクデモない死に方しかしないから、死体残るかどうかも怪しぃし」
セーラを信仰していない。この一言はレティシアの周囲からルビーも含めた人を退かせる事になった。
「あーあ、頭固いな、お前ら」
レティシアの軽口とは裏腹に真摯な祈りの声。
「神よ我らを守りたまえ‥‥‥‥汝は我らを強く造りたもう。我らに更なる力を与えたまえ」
そんなエセ神学論がぶち上げられた中でも、、英雄を目指し、数多の栄光に溢れた騎士道物語に憧れ、彼らのようになりたいと思っている少女、ヴィーヴィル・アイゼン(ea4582)の声であった。
それでも、実戦、特に命をかける場所ともなれば、震えることもしばしばであった。
だが、今は立つしかない。たとえ、足が震えようとも、大地は己の足で踏みしめなけばならないのだ。
「やるしかない、か‥‥」
そんな怯える彼女を可愛いと思いながら、大ガマ使いの夜 黒妖(ea0351)が自分たちを迎えてくれる村へと、視線を凝らす。
凄惨な血と、楽しき殺戮に塗れるであろう村へ。
「そうだよ、やるしかない──ふう、骨の折れそうな依頼だ、比喩じゃなくね。まあこんな依頼に勇んで入るんだから、あたしも相当命知らずだ。比喩じゃなくね♪」
パトリアンナ・ケイジ(ea0353)はウキウキしながらつい同調してしまう。
一方、ムーンリーズ・ノインレーヴェ(ea1241)は口説くべき女性が目の前ではないので、素直に感情を吐露する。
「今回の事件に関しては、正直怒っています、しかし救う方が残っているのなら、救い出したいと思っています」
ギルツ・ペルグリン(ea1754)がそう年下の少女に確認を取る。
「そうだな。で、ちとせ。俺たちの行動手順は、救出班として、囮がオーガたちをひきつけている間に、囚われている村人たちを救い出す。
子供は親御さんに任せ、自分は逃げるためにはハンデを負った老人やけが人の搬出補助。あくまで補助だな。全体としてちとせと一緒に‥‥。
1.村人の警護。
2.敵への警戒。
3.殿を勤める。
という線でいいのだな?」
「ええ、どれほど強大な敵が相手でも、人々の命を守り、悪しきを挫くのが士たる者のつとめ‥‥出し得る力の限りを持って、参ります‥‥と、言いたい所ですが、夜 黒妖団長が主催する化物殲滅戦闘集団『Anareta』の一員──通称『戦乙女』としては、村人の無事を確保しなければ、夜団長に笑われてしまいますわ」
相馬 ちとせ(ea2448)はギルツの言葉に真摯極まりない表情で答えを返す。まさしく『思い込んだら命懸け』である。
戦意を抑えるように左目尻の黒子をいじりながら、言葉を選ぶ。
「オーガどもは殲滅したい所ですが、それは囮班が直面すべき事態でしょう。救出班としては確実、安全に村人を連れ出すのが目標ですから」
彼女は、この揺れる馬車の中でも、背筋をピンと伸ばし、年にそぐわない幼児体型を隠そうとしない。
「ところで、この揺れ、どうにかならないか?」
岬 芳紀(ea2022)が揺れる馬車の中、短刀を片手にぼやく。
別に猟奇趣味があって、短刀を馬車の中まで振り回してる訳ではなく、逆茂木を作ろうとして、地道に木を削っているのだ。
斧も無く、猟師セットを大量に持っている訳でもない、彼としては苦渋の選択だったろう。
「一刻も刻を争うのだ。やむを得まい」
と、止める様、諭すコトセット。
そう、柵や逆茂木を準備できたとて、相手の追撃コースも判らないのだ。置くスペースも無い。
冒険者で満杯の馬車で移動するところが問題となり、あっさりと芳紀は諦めた。元々、物事に執着しないタチなのだ。
同様に馬車に木の板を打ち付けて強化しようというプランも出したが、急ぎの仕事なので、改造に必要な時間と、それにより馬車の移動速度が落ちる事を計算に入れると、呆気なくそのアイディアを放棄したのであった。
「やれやれ、逆茂木も諦めるか、撤退コースすら判っていないし、そんな工作は遠距離でやっても意味はないし、近距離ならばオーガに見透かされる。時間もない事だ」
そこへシフールのララ・ガルボ(ea3770)が戻ってきた、首尾を皆は問う。
彼女は答えにくそうに、シフールは羽音をさせないで飛ぶわけにはいかないので、忍び飛び(?)は出来ない。それ以前にオーラエレベイションを使った段階で、淡い桃色の光が発生したので警戒の対象となり、オークの見張りが持つショートボウの餌食に成りかかり、その前に発動させておいた気合が仇となって矢に追われ、何とか逃げ帰ってきたと言った。
当たらなかったのは単純に幸運である。回避の基礎も学んでいない彼女だが、漸くに弓の扱いを覚えたばかりのオークとではいい勝負である。ここでオーラエレベイションが功を奏したのは皮肉だろう。
「私、莫迦が嫌いだけど、自分が嫌いになりそう」
そんなララの声を聞き流して、芳紀は呟いた。
「模擬戦が終ったばかりかと思えば、『今度は戦争だ』とか?」
一方で彼女を慰める声。
「まあ、魔法は一日にして成らずといいますから、ララさん、あなたも気を落とさずに」
カレン・シュタット(ea4426)が言って慰める。
「ありがと、カレン」
そのやり取りにバルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)は欠伸をひとつ漏らすと、呟いた。
「相手が酒盛りや眠ったりか何かで、動きが鈍った所へ、襲撃をかける。俺はゴブリン程度の柔な連中で打ち破れない程度の技と鎧を持っているから、雑魚は引き受ける。
皆はその横をすり抜けて行け。
これで戦いに専念できるだろう?」
「一番の激戦区になりますよ?」
カレンが駄目押しするかの様に尋ねる。
「行くまでにもう、移動と準備の類で日にちも経っているのだから、酒が残っているとは思いにくいのです」
「ならば素面の連中を相手にすればいい。まさか、これだけ力量をギルドに認められた中で、ゴブリンが怖い、なんて奴はいないだろうな?」
パトリアンナが同調する。
「ゴブリン程度にびびっていちゃ、後から来るバグベアだのなんだのとは互角に戦えやしない。もう、ララでこちらが戦う意欲を持っているって、向こうには判っている。ならば、囮班はより派手に暴れて、救出班はいっそう密やかに行動するしかないだろう」
そして馬車は村の前、約1キロの地点に到着した。
カノンが音を殺して、オークやゴブリンの警戒網をかいくぐり、村の概略図を作る。
人質の位置、人数まで確かめたかったが、それには建物の警備を行うゴブリンがどうしても邪魔となり、作業は難航したが、撃のポイントを決める方はスムーズに事は進んだ。
何しろ盆地なのだ。打ち下ろしの地点には不自由しない。
黒妖と、彼女を師団長と慕うサーガインと、ララの友人であるティルフェリス、そしてレティシアが潜入しようとするが、中途半端な力量の一同より早く、カノンが脱出して、地図を無事に囮班へと届ける役目を担う事になった。
「ギュー顕現!」
一方、不本意な開戦となったものの、ホーリーフィールドの内部で黒妖が印を結び、全身を煙に包ませると、大ガマのコンストラクトが現れた。彼女はいつもこの大ガマをギューと呼んでいるが、同一の個体でも、連続した記憶を持っているわけではない。
ゴブリンの群れに突っ込んでいくが、舌での攻撃も当たるかどうかが怪しいものがあった。
だが、さすがに黒妖の力量に見合った回避能力を受け継いでいるだけあって、オークの矢も、ゴブリンの斧も掠らせはしない。
「当たらなければどうという事は無いね♪」
だが、熊の体に猪の頭を持ち甲冑に身を包むモンスター、バグベア闘士が2匹出てくると、見事な乱打が荒れ狂い、ギューは破壊されてしまった。
だが、レティシアが我流の弓術で三矢ばかりバグベア闘士に報いる。
「甲冑ばかりに頼っているから、さ。でも1匹位死んでくれよ〜」
だが、その隙に4人は逃げ出していた。
本来なら村に潜伏するつもりだったが、オークだらけでは、特に高位のオークが存在すると、命に関るという事が判り──ギューの能力は彼女のそれに等しい──それに対する対抗策がない為、冷静に一旦後方に下がる判断をしたのだ。
そして、囮班が乱入する。前に立つロックフェラー・シュターゼンと、後ろで呪文を詠唱するムーンリーズ。雷が指先から伸び、オークの一体を直撃する。
「我は雷神の系譜に繋がる者、我が天雷を喰らいなさい‥‥実際に此処が一番正念場ですね‥‥私達しだいでこの依頼の成否に繋がる──責任重大です」
一方でルビーが己も身を伏せ、相手のオークも魔法の詠唱にただならぬ事と遮蔽物に身を隠しあっているため、かなり低レベルの争いとなっている。
だが、少なくとも弓兵の鳴りはやんでいる。
「さてはて始まったな‥‥ったく、魔法を恐れて何が弓兵か!?」
「ならば、私の魔法を受けてください──全力でいきます」
ロックフェラーのぼやきにカレンもライトニングサンダーボルトを撃つが、算を乱したゴブリンたちには全体として大きな戦果を得る事は出来なかった。
「アイゼンシュタイン家のヴィーヴィル、征きます!」
ヴィーヴィルがコトセットに付与された士気向上と、焔の精霊力を宿したノーマルソードを手に突き進んでいく。
まだ子供とももう大人ともとれる14歳の身空で何が彼女をそこまで駆り立てるのだろうか? だが、問うものがあれば、鋼の返答がある事だろう。
混乱しているゴブリンたち目掛けて斬りかかっていく。魔力を帯びたノーマルソードの破壊力を以って、全力を込めて振り回した薙ぎ払いがゴブリンを一刀両断する。
斬! 断!
「さあ、私にかかろうという、ゴブリンはいないのか?」
だが、ゴブリンたちは開き直ったのか、それとも彼女が一振り以上、刃を振るう事の無いと見縊られたのだ。
ゴブリンが一斉に押し寄せてくる。一打は楯でいなすが、次は鎧を最大限に活かしてしのぐ。
だが、次の一打はかすり傷ですまず、浅手を受けるが、その傷を負った痛みが心身の自由を奪い、次の攻撃が避けきれなくなり、攻撃が延々と続くという悪循環に彼女は追いやられた。
(「こういう時、英雄ならどうするんだろう、きっと己を愛する人の為に立ち上がろうとするんだろうけど。でも、でも」)
そこへ見るに見かねたエルリックが飛び込んできて魔法の詠唱の隙を狙われ自分が傷つくのも厭わず、リカバーを施した。
「大丈夫?」
「すまない」
ふたりは肩を組みながらゴブリンの群れから撤収した。
一方で一番村人の人数が多いと目された村の倉庫にギルツがジャイアントソードとダガーの距離感を完全に惑わせる連打で見張りのオークを叩きのめし、ちとせがかんぬきをバーストアタックの一刀の元に小太刀で刃毀れなく斬って落とす。
ギルツが中の人々に呼びかけた。
「皆の安全は俺たちが守る。全員が無事に逃げられるよう、協力してくれるか?」
すると村民がざわめき出す。
「どなたか知りませんが、ありがとうございます」
「きっと冒険者ギルドの人だよ。オーガから助けに来てくれたんでしょ」
「さあ、早く逃げましょう」
と村人は納得する。
「俺にも生還しないといけない理由があるんだ」
「そりゃ、死んでしまいたい理由なんてあるわけないでしょう?」
との村民の疑問形の言葉にギルツは疑問形で返す。
「そうかな?」
「行くぞ、みんな目的を忘れるなよ?」
カノンの弓と、バルバロッサの乱入によってレティシアにより予め毒矢を射込まれていたバグベア闘士が1匹死に掛かる。このシューティングポイントアタックの効果の差は自分だけしか相談相手がいない我流と、長年の蓄積を蓄えたアルスターを収めたものの差だろう。更にバルバロッサの自分の命を賭けたカウンターアタックがバグベアを甲冑ごと斬り伏せる。
「死にたくなくば、そこをどけい!」
言いながらもバグベアの口の中をカノンの一矢が貫き通す。
エグゼがそこへ突撃しての日本刀の大振りから叩き伏せるが、武器の重さという問題から致命傷に至らない。日本刀の特色は重量の割りに威力があるという点にあるのだ。スマッシュとは少々相性が悪いかもしれない。
「来たぞ!」
清十郎の声が響く。
だが、カノンの必中の一矢をかわすと、残りのバグベア闘士も退き、巨影が現れた。長大なロッドを持ったオーグラである。
「狙いすぎたか‥‥バグベアを撃ち損じた」
『がうっオーグラ!」』
と言っているらしい。
「ヤバそうな奴だぜ、こいつは‥‥」
バルバロッサも激しい戦いの予感に思わず舌なめずりする。
完全に守りの姿勢に入ったバルバロッサだが、そこへ遊撃していたルビーがオークとの戦いに見切りをつけ、戦いに参戦。自分の弓の間合いから、オーグラの動きを止めようと射撃に入る。
オークの叫びに、オーク語が判らないまでも視線が行った者は、オークがふたりの子供の首根っこを押さえて連れて来ているのを見て取った。
人質である。
喉笛にあてがった短刀をそのまま横に滑らせる。
赤い血が大量に地面に滴り落ち、オークは短刀についた血をぺロリと舐める。
こうして、子供のひとりが短い一生を終えた。
その場に居た冒険者一同は血が沸騰するのを感じた。
『こちらの子も同じ事をする、退けオーク』
言いたい事はオーガ語故、良くわからないが、つまりは駆け引き交渉などはしないという意志表示である。
だが、響き渡る歌声。
銀色の淡い光に包まれて、オレノウが一同の士気を鼓舞すべく、メロディーを奏でたのだが、悲しいかな前衛の大半は精神系魔法の効果は別の精霊魔法でキャンセルされており、オーガ達の方が士気を奮い立たせるという現状を見て、オレノウは術を即座に打ち切った。
だが、歌に気を取られたオークへ、クオンが射程ギリギリの所から矢を放つという荒業を見せる。矢を番えるタイムラグを考えると、一撃で撃ち殺さなければ、ふたり目の子供も同じ道を歩むだろう。
(この一矢こそが全てを切り拓く──外れたら子供の方に当たる、ままよ)
矢尻の切っ先に気合が集中していく。
乾坤一擲。
放たれたクオンの矢が見事オークの耳から脳へと貫通した。オークはどうっと音を立てて倒れ、子供は遠くへと逃げていく。
クオンはどこへ逃げる場所の場所や方向の指示を出したかった。しかし、今の状態、返り血と知り合いが死んだ恐怖で子供はパニックに陥っているので、おそらく何を言っても言葉は届かないだろう。
だが、それでも叫ばずには居られなかった。
しかし、矢羽根の風切音が聞こえた瞬間、オーグラもバルバロッサと干戈を交える。
激しく打ち据えるロッド。いっそ叩きつける様に組み合うシールド。
壮絶な駆け引きの末、オーグラのスマッシュがバルバロッサの攻撃を制する形となった。バグベア闘士が彼に止めの一撃を浴びせる。辛うじて急所は防ぐバルバロッサ。
「後、一歩だったのによ」
それでも、主戦場──オーグラの所在がここに移っている今、人質の解放は比較的速やかに行われた。
次の一打が振り下ろされようとした所で衝撃波がふたりの間を駆け抜けていく。
清十郎のモーニングスターの一撃である。
それを受けきれず一歩下がるオーグラだが、戦況を見切った上で、バルバロッサは目的は犠牲を出したものの果たしたとして、撤退に移るバ。
「アバヨ、オーグラ。今度会ったらてめえの首、剣の先にぶら下げてやる」
途端に巻き起こる爆風。
リーンの魔法であった。
退くと決めて殿を務めると決めたフランクやちとせ、それにギルツ等が、バルバロッサに向けて行ったせめてもの援護であり、合図である。
単に今まで撃たなかったのはふたりの戦いがそれだけ目まぐるしく位置を変えるものだからであって、別に他意はない。
15メートルの爆風でうかつに位置取りすると、ものすごい状況になるのは目に見えている事だからだ。
一方で、後ろから相手が逃げると思ってゴブリンが勢いづいて襲ってくるが、セルフィーが放った凍気の嵐の前に蹈鞴を踏む。
そこへ空中からララが突入し、オーラアルファを散々にばらまいていく。
先日の意趣返しであり、明日への布石であった。
「囮班に魔法をかけられるだけ、かけておいて正解だったな」
コトセットがケイの神聖魔法おかげで事実上魔力が倍になったも同然の状況となり、各員に十分な魔法を付与できたと判断し、戦場から下がって遠方から分析する。他にもソルフの実のカンパ(?)などもあり、今回は強力な魔法を使っても魔力は足りなくなるという事もなかった。
とりあえず、近くの里に落ち着くと、アンジェリーヌやイルダーナフといった癒し手達がまず、村人たちからリカバーを開始する。
可能な限りの村人を救出した。村とパリの間の距離を思えば、それまでのオーガの災厄は不可抗力である。
リカバーの使い手は冒険者の面々には悪いが、これで魔力が尽きたら、神聖魔法で仲間に魔力を供給できるケイ諸共に休息に入り、冒険者の治療は魔力が回復してからという事と判断した。
しかし、そうはならない。『傷物』の人間は優先的に『処分』されていったからだ。
むしろ、衰弱の方が激しい。そこで、料理人であるエグゼが、近くの教会に頼み込んで、村へ慈悲を請うという形で安く食材で買って来た。プロとしてはいささか状況に不本意ながら料理の腕を振るい、とりあえず暖かい夕餉を一同食べさせる。
だが、その前にひと時の黙祷。不本意ながら散っていった者達への哀悼を表する、文字通りの儀式であった。
レティシアはこの場にはいない
そして、筋張っていて旨そうではないという理由で生きながらえた村長は冒険者に依頼した。
「どうか、村を取り返してください」